ネイチャースナップのすすめ|ピーク過ぎの紅葉を楽しむ

小林義明
ネイチャースナップのすすめ|ピーク過ぎの紅葉を楽しむ

はじめに

秋の自然イベントといえば紅葉がもっとも注目されるものですが、最近の安定しない天候などから紅葉がピークのときにタイミングよく撮影に行けるかというとなかなか難しいですよね。
ただ、紅葉がピークのタイミングだと定番の風景としてはきれいですが、ワンパターンになってしまうことも多く、作品をまとめていくうえでは違うバリエーションも欲しくなってきます。

今回はあえて紅葉のピークから10日ほど過ぎた現場などで、私がどんなところを見ながら撮影しているかを解説してみたいと思います。

地面一面に敷き詰められた落ち葉に光が差し込んでいた。落ち葉はまだかろうじて赤い色を残していて、鮮やかな秋は終わり冬がやってくることを告げていた。光の当たっているところを強調できるよう、マイナス補正で撮影した。
■撮影機材:CANON EOS R5 Mark II + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:F11 1/60秒 -2EV補正 ISO400 WB太陽光
紅葉の色づきの変化を左から順に見てみよう。一番左が色づき始めだ。そして一週間後に見に行ってみると、おおまかに全体で色がついていた。その3日後、全体的に色づいてバランスよくなっている。その2日後には中央のカエデの赤は鮮やかになったが、右側のカツラの黄色が落葉し始めている。さらに2日後ではカツラがだいぶなくなっていた。そして、一週間後には全体が落葉してしまった。ピークの前後一週間で定番撮影は楽しめると思うが、そこにタイミングを合わせるのが難しいことも多いだろう。

視点を変えよう

絶景の紅葉を撮るぞ!といった気持ちで盛りあがっている時に現地の様子がイメージ通りではなかったりすると、撮るものがないと感じられてなかなか被写体も見えてこなくなってしまいます。
自然の状態は理想のものになることの方が少ないですから、ここは気持ちを切り替えて、今の状態を冷静に見つめ、その様子を切り取る視点を持つようにしましょう。

紅葉の景色の場合は、赤や黄色の葉が一面に広がる景色といった先入観があると思いますから、理想の状態ではなかったら、今の景色に合わせて視点を変えます。
紅葉のピーク過ぎであれば、色に注目して残っている紅葉を探していくという感じです。今回撮影したところではほとんど落葉していたので、視点を足元に向けていくようにしました。地面一面に広がっている落ち葉をメインに、気になったところを撮影していくのです。こういった風景も季節の移り変わりを表現するうえでは大切な要素になりますので、じっくり見ていきましょう。

紅葉のピークに近いとき(左)と、ほとんど落葉したときの晩秋の雰囲気(右)。同じ場所でも撮影するタイミングによってずいぶん違う景色に見える。わずかに残っている葉をみすぼらしいと考えず、貴重な秋の名残として探してみよう。
画面の中にちょっと秋らしい色合いを入れることで季節感を表現することができる。お気に入りの場所があれば、ピークだけを撮るのではなく、季節ごとに違う表情を狙っていくようにしたい。もちろん定点観察のような同じ構図だけでなく、そのときごとに適切な構図でも撮影しよう。
■撮影機材:CANON EOS R5 Mark II + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:F9 1/250秒 -0.7EV補正 ISO1600 WB太陽光
現場に着いたときはほとんど紅葉が見られず、ちょっとがっかりしながら歩き出すと、足元に赤い落ち葉1枚を見つけた。アップにするとこの赤い葉しか見えなくなるので、周りの色褪せた落ち葉がほとんどであることも見せながら、木の根の形に注意して、赤い落ち葉に視点が向くようにフレーミングした。
■撮影機材:CANON EOS R5 Mark II + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:F11 1/80秒 -1EV補正 ISO800 WB太陽光
大きな木の根元に落ちていた赤い落ち葉。画面の中に小さく入れても(左)、大きく見せても(右)、それなりに存在を主張できている。パッと見たときに紅葉を見つけられなくても、じっくり歩いてみるとこんな小さな秋の名残を見つけられるかもしれない。
一面に落ち葉が広がっていた。その中で色や形にバリエーションのある場所をじっくりと探して切り取っている。こんな雰囲気なら、街中の街路樹の根元を探しても見つけることができるだろう。色褪せるのは早いので、また今度ではなく見つけたときにきちんと撮っておこう。
■撮影機材:CANON EOS R5 Mark II + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:F10 1/80秒 ISO1600 WB太陽光
山の斜面もほとんどの木が落葉して、残された紅葉が際立って見えてくる時期になった。撮影時は雲が流れていて光が刻々と変わっていったので、スポットライトが入ってきた瞬間を狙って撮影した。周りが暗く見えることで紅葉の色も際立って見えてきた。晩秋ならではの景色だ。
■撮影機材:PENTAX K-3 Mark III + HD PENTAX-D FA 150-450mmF4.5-5.6ED DC AW
■撮影環境:F11 1/250秒 -1.3EV補正 ISO1250 WB太陽光
ほとんどの落ち葉が色を失ってしまっているが、わずかに赤みを残していて、枯葉とも言い難い色をしていた。落ち葉だけではつまらないので、面白い形をしていた木の根を組み合わせて画面構成した。よくみるとまだ色の残っている葉もあるので、大伸ばしして見せると映える写真だ。
■撮影機材:CANON EOS R5 Mark II + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:F13 1/60秒 -0.7EV補正 ISO500 WB太陽光
風が強く吹く湖畔を歩いていると、風で散ったばかりの落ち葉が波に打ち寄せられていた。まだ黄色が残っているので秋らしさも感じられる。森が丸坊主になっていても、探してみるとこんなシーンに出会えるかもしれない。
■撮影機材:PENTAX K-3 Mark III + HD PENTAX-DA★16-50mm F2.8ED PLM AW
■撮影環境:F10 1/40秒 -0.3EV補正 ISO320 WB太陽光

晩秋の雰囲気を探していく

晩秋というとどんなイメージがあるでしょうか。完全に落葉して落ち葉の色も褪せてしまったら、冬のように見えてしまいますが、画面の中に秋っぽい色を入れながら画面構成していくことで晩秋らしさを表現できると思います。そんな景色を探していきます。

例えば、落ち葉でもまだ赤や黄色の残っているところを選んで撮影していきます。傷んでしまった葉があった時には、そのものを見せるのではなくて、背景に小さく入れることで季節感を表現できますから、脇役にするのもいい方法です。画面の中に小さく秋の色を入れるだけで十分です。
ただ、完全に枯れた茶色はボケていてもはっきりわかるので、そのあたりはうまく選びながらきれいなイメージを作っていきましょう。

どちらも葉が散ってしまったカエデなのだが、どの程度残っている葉を見せるかで雰囲気も違ってくる。このようなシーンに出会ったら、どちらが良いではなく両方を撮影しておくようにすると、後で作品をまとめるときに組み合わせやすくなる。構図に悩んだときは、全て撮っておくことをお勧めする。
今回は晩秋の雰囲気を伝えることがテーマなので、画面の中には残っているカエデの葉が少なくなる構図の方を採用した。まだ赤くきれいな葉が視点を集めるが、他の葉はちょっと傷んで色褪せているので、色の変化なども伝えられるだろう。
■撮影機材:CANON EOS R5 Mark II + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:F8 1/250秒 -1EV補正 ISO800 WB太陽光
流れの対岸にはまだ色の残っている紅葉が残っていた(左)。近づけないので、すぐ近くにあった草の種にピントを合わせ、紅葉は背景として利用することにした(右)。このような色があれば、秋の雰囲気は十分に伝わる。
紅葉の赤や黄色といった色合いは秋ならではのものなので、画面に入っているだけで秋らしさを伝えることができる。ボケていても色は見せられるので、あえて背景として脇役にして季節感を伝えるようにすると、作品のバリエーションを広げられる。草の種ができていることも含めて、秋の終わりという感じが伝わるだろう。
■撮影機材:CANON EOS R5 Mark II + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:F9 1/125秒 -0.7EV補正 ISO1600 WB太陽光
倒木の上にたくさんの落ち葉がのっていて、秋の終わりが近いことを告げていた。奥にはまだ色づいている葉も見えていて、季節の移り変わりを感じられる1枚となった。同じ構図であっても撮影するタイミングでいろいろな季節感を見せることができるはずだ。
■撮影機材:CANON EOS R5 Mark II + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:F11 1/8秒 -1EV補正 ISO200 WB太陽光
雲が流れていたのでふと空を見上げると、虫食いの葉がわずかばかりの姿を残していた。葉の形が分かりやすいように雲の白い部分と重ねてシルエット気味の露出で撮影した。右側には冬芽の出ている枝もちょっと入れて、冬間近というイメージでまとめてみた。
■撮影機材:PENTAX K-3 Mark III + HD PENTAX-DA★16-50mmF2.8ED PLM AW
■撮影環境:F8 1/250秒 +1EV補正 ISO200 WB太陽光
マイナス6℃となった朝、地面には霜がびっしりと降りていた。落ち葉の溜まっているところで、色の残っている葉がある場所を選んで秋らしさも感じられるようにした。色がなくなってしまうと、もう冬のイメージだ。
■撮影機材:PENTAX K-3 Mark III + smc PENTAX-D FA MACRO 50mmF2.8
■撮影環境:F9 1/100秒 ISO1600 WB太陽光

色を目立たせよう

色を見つけたら、うまく引き立てられるように撮影していきます。画面の中で見せたい色が目立つようにフレーミングや背景、光などを選んでいくのです。
遠景などはざっくりフレーミングを決めることも多いと思いますが、切り取りの風景ではちょっとした違いで作品の印象が大きく変わってきます。中でもメインの被写体となる色を目立たせることは重要ですから、ネイチャースナップとはいえワンカットごとに丁寧に構図を決め、光を読んで撮影しています。

色をきれいに見せるうえでは、前回の記事で紹介したC-PLフィルターを使うことも有効なので、ぜひ活用してください。

まだ黄色が残っていたので何気なく撮影したら、川の流れの白いところが重なって黄色の葉が目立たなくなってしまった(左)。そこでカメラポジションを左下に移動して、流れの黒く見える部分と黄色い葉を重ねることで目立つようにした(右)。
赤や黄色は目立つ色だが、同じような色合いが重なると目立ちにくくなる。このシーンでは、わずかに残っていた黄色い葉がしっかり存在感を出せるように、背景に流れの黒っぽく見える部分が重なるようにして撮影している。見せたい被写体と背景のコントラストが強くなるようにすると効果的だ。
■撮影機材:CANON EOS R5 Mark II + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:F13 1/60秒 ISO1600 WB太陽光
同じ葉を順光(左)と逆光(右)で撮影している。順光だと葉が乾いてカサカサした感じに見えてしまうし、色もイマイチ冴えない感じに見えてしまう。しかし逆光になると透過光となって葉の色も鮮やかに見えてくる。この違いを理解して光を選ぶようにしよう。
紅葉の色をきれいに見せたいときは、逆光を選んで透過光にすると効果的だ。傷んでしまったような葉も、意外ときれいに見せることができるようになる。曇天のようなときでもよくみれば透過光になっている部分があるので、そのような葉を選ぶことで魅力的に見せることもできる。
■撮影機材:CANON EOS R5 Mark II + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:F8 1/250秒 ISO200 WB太陽光
水面に浮かぶ落ち葉を撮影。C-PLフィルターを使っていて、左側が効果なし、右に行くに従ってだんだん効果を強くしている。水面の反射がとれるに従って雰囲気が変わっていくので、どのくらいが自分のイメージに合うのか考えながら使う必要がある。
赤い落ち葉が目立つよう水面を暗くしながら、反射も残して波紋の様子も伝わるようになったカットを採用した。撮影中は微妙な違いを把握するのが難しいこともあるので、C-PLフィルターを使うときには効果を変えながら撮影しておくといい。慣れれば好みの効かせ具合もわかってくる。
■撮影機材:CANON EOS R5 Mark II + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:F10 1/250秒 -0.7EV補正 ISO1600 WB太陽光
逆光気味の光線を選ぶと、どうしてもゴーストなどが発生しやすくなってしまう。このように画角が広く太陽が画面ギリギリとなる時に起こりやすい(左)。左のカットでは画面中央上にゴーストが出ているのがわかる。そこで、太陽の右側にある幹が太陽と重なるようにカメラポジションをわずかに右に移動して撮影すると、ゴーストを防ぐことができた(右)。
渓谷沿いで最後の紅葉を残している木があったので、ちょっと落ち葉などを見せながら、水面に反射が起きているところもアクセントとして構図を決めた。主役の葉が残っている部分の背景は暗い色となるようにした。逆光気味になっていたのでゴーストを隠すためにカメラポジションの制約があったが、なんとかまとめることができた。
■撮影機材:CANON EOS R5 Mark II + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:F13 1/60秒 -0.7EV補正 ISO1250 WB太陽光
周りはほとんど落葉した森で、紅葉したツタが残っているのを見つけた。この赤い色を引き立てるために、なるべく青空が画面に入るよう、ローアングルから撮影した。赤と青は相性のいい組み合わせなので、ちょっと青空が入るだけで赤が引き立てられる。
■撮影機材:CANON EOS R5 Mark II + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:F10 1/80秒 ISO320 WB太陽光
まだ赤くなりきっていないカエデの木があった。曇天気味の空で、肉眼で見ても黄色が暗く見えてしまうのだが、こんなときも適切に露出補正すれば色を鮮やかに見せることができる。ここではプラス2.7EVと大幅な補正をして色を引き出している。
■撮影機材:CANON EOS R5 Mark II + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:F10 1/60秒 +2.7EV補正 ISO1600 WB太陽光

紅葉以外のものも見ていこう

紅葉がきれいなときは、どうしても紅葉にばかり目がいってしまって、他のものが見えなくなってしまいますが、これはまさに今がチャンスなのでいいと思います。でも、紅葉が終盤となってくるとだんだん他のものが目に入ってくるようになってくるはずです。

今回も紅葉をメインに歩いているときにはあえて避けていた緑も落ち葉の中では鮮やかに見えてきて、いい被写体になりました。紅葉がいっぱいで鮮やかに見えていた木も、枝ぶりが目立つようになって違う魅力を感じられるようになりました。何か興味を引くものがないか探してみて、いいと思えるものがあれば、積極的に撮影しましょう。

紅葉が終わりになってくると、今まではまだ緑なのかと思っていたのが、緑も新鮮に感じられるようになった。落ち葉の枯葉の色よりも鮮やかなのだから当然かもしれないが、落ち葉の赤い色との組み合わせが緑を引き立てていてくれたからかもしれない。気になったところがあれば、どんどん撮影しておこう。
■撮影機材:CANON EOS R5 Mark II + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:F11 1/125秒 -0.3EV補正 ISO1600 WB太陽光
葉が茂っていた時にはあまり見えなかったヤドリギの丸い形が目立つようになってきた。ヤドリギだけでは上手く絵にできなかったが、2つを一緒にフレーミングしたら、なんとなく顔のように見えてきたのでシャッターを押した。こんな一枚も紅葉のピーク時には見えてこなかったものだ。
■撮影機材:PENTAX K-3 Mark III + HD PENTAX-DA★16-50mmF2.8ED PLM AW
■撮影環境:F10 1/60秒 +3EV補正 ISO2500 WB太陽光
倒木の上に生えていたシダが枯れてきてハートの形を作っていた。小さなものなので、紅葉がピークだったら気づかなかっただろう。定番ではなく目立つものがないからこそ見えてくるものがあるので、そういう場所をゆっくり歩いてみると面白い。
■撮影機材:CANON EOS R5 Mark II + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:F7.1 1/160秒 -0.7EV補正 ISO640 WB太陽光
足元で見つけた小さなサルノコシカケ。その後ろにはまだ黄色が残っている落ち葉があり、晩秋の雰囲気に相応しいと思いシャッターを押した。葉が落ちた森では足元にも自然と視点が向くので、こういった被写体を見つけることもできるようになる。
■撮影機材:CANON EOS R5 Mark II + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:F11 1/125秒 +0.7EV補正 ISO640 WB太陽光
紅葉がきれいなときに何度か足を運んだ場所だったが、流れの中に落ちた枝には目も向けなかった。しかし、紅葉が終わってみると、気になって目に入ってきたので撮影した一枚。季節感はないのだが、紅葉が終わっていたおかげで撮れた写真だ。
■撮影機材:CANON EOS R5 Mark II + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:F14 1/6秒 +0.3EV補正 ISO400 WB太陽光

まとめ

紅葉に限らず、毎年同じ風景ばかり撮っているなと感じている人は、あえてタイミングをずらして撮影することをお勧めします。
同じ構図でもタイミングが違えば季節感も変わってきますし、いつもと違うところが見えてくるかもしれません。定番もおさえてさらに違うところが撮れるのが理想ですが、なかなか思い通りにはいかないことの方が多いものです。

ちょっとイメージと違うなと思っても、ゆっくりと歩いてみれば意外と面白い被写体を見つけられることの方が多いですから、諦めずにじっくり撮ってみるといいと思います。きっと新しい写真を撮ることができますよ。

 

 

■自然写真家:小林義明
1969年東京生まれ。自然の優しさを捉えた作品を得意とする。現在は北海道に住み、ゆっくりとしずかに自然を見つめながら「いのちの景色」をテーマに撮影。カメラメーカーの写真教室講師などのほか、自主的な勉強会なども開催し自分の視点で撮影できるアマチュアカメラマンの育成も行っている。

 

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