失敗しない「皆既月食」撮影ガイド ~赤い満月を美しく残す徹底テクニック~

関岡大晃
失敗しない「皆既月食」撮影ガイド ~赤い満月を美しく残す徹底テクニック~

はじめに

天体撮影の世界へようこそ!
今年の3月3日は、いよいよ「皆既月食」がやってきますね。
とてもワクワクしております。

ただ今回を撮り逃すと、次に見られるのはなんと2029年1月1日。
3年も先になっちゃうんです。いやいや長すぎますって!!!
だからこそ、今回ばかりは何としてでも成功させたいところですよね。

皆既月食は、天文学的なワクワク感とアートのような美しさが一度に味わえる、楽しい被写体です。
ただ、実はちょっとクセモノでもあります。ふだんの満月と同じ感覚で撮りに行くと、「あれ、真っ暗で何も写ってない…」とか「あとで見返したら全部ブレてた…」なんて悲しい結果になりがちなんです。

そこで今回は、皆既月食を確実に仕留めるための撮影テクニックをひとつにまとめました!
機材の設定から現場でのちょっとしたコツ、そして最近人気の「風景と重ねる撮り方」まで、失敗しないためのノウハウをガッツリ徹底的に解説していきます。
ぜひ最後まで読んで、当日の撮影に活かしてくださいね!

皆既月食のタイムスケジュール

今回の月食は日本全国で見られますし、時間帯も早め。
撮影にはもってこいのチャンスです!

・18:50:部分食スタート(東の空で月が欠け始めます)
・20:04:皆既食スタート(月が「赤銅色」に染まる本番!)
・21:03:皆既食終了
・22:18:部分食終了(南東の空で、いつもの満月に戻ります)

★豆知識:次はいつ見られる?
日本全国で見られる皆既月食は2025年9月以来です。次は2029年1月1日までお預け。
かなり先になっちゃうので、今回のチャンスは確実にモノにしておきましょう!

なぜ月は「赤く」なるのか?

撮る前に、「なんで赤くなるの?」という正体を知っておくと、撮影がより楽しくなりますよ。

・現象の仕組み
太陽・地球・月が一直線に並んで、地球の影の中に月がすっぽり入ることで起こります。

・なんで赤いの?
地球の大気がレンズみたいな役割をして、太陽の光を少しだけ曲げるんです。このとき、青い光は散乱して届かないんですが、波長の長い「赤い光」だけが月まで届きます。それで、月が赤黒く輝いて見えるというわけです。

「ふつうの満月」との決定的な違い

ここが一番の落とし穴なので、気をつけてください!

・露出の設定がガラッと変わる
満月って実はめちゃくちゃ明るいので、シャッタースピード1/500秒くらいでサクッと撮れます。
でも、皆既中の月は「星空」と同じくらい暗いんです。設定を大幅に変えないと、何も写りません。

・月は意外と速い!「被写体ブレ」の恐怖
月は空をかなりのスピードで動いています。暗いからといってシャッタースピードを長くしすぎると、月がびよーんと伸びて写っちゃうんです。

おすすめの機材と基本設定

まずは、しっかり準備を整えましょう。

【おすすめ機材】
・レンズ:望遠レンズは必須です!
200mm~:月の模様がなんとかわかるかな、というレベル。
400mm~600mm:クレーターまでくっきり、迫力満点に撮るならこのあたりが理想です。

・三脚:これは絶対!
できるだけ太くて、ガシッとした丈夫なものを選んでくださいね。
耐荷重を要チェック。使用機材より重い重量を扱えるものを用意してください。

【カメラの基本設定】
・記録形式:RAW(後で色味や明るさをいじるために必須!)
・撮影モード:M(マニュアル)
・手ブレ補正:オフ(三脚に固定している時は、逆にブレの原因になります)
・シャッター:リモートレリーズか、2秒のセルフタイマーを使いましょう。(指で押す振動でブレないようにするためです)

フェーズ別の設定

左から順に
満月:SS1/500 F6.3 ISO1000
部分食:SS1/160 F6.3 ISO1000
皆既食:SS1/2 F6.3 ISO1000
■撮影機材:Nikon Z9 + NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR

月が地球の影に入ると、太陽の光が当たらなくなるので、露出が一気に変わります。
現場で慌てないように、この数値を基準に調整してみてください(焦点距離600mmでの想定です)。

【露出設定の目安】
・満月~部分食(かなり明るい)
ISO:100
絞り:F6.3 – 8
SS:1/250 ~ 1/500秒
ポイント:クレーターが白飛びしないようにシャープに!

・部分食の途中(明暗差が激しい)
ISO:100 – 800
絞り:F6.3前後
SS:1/250 ~ 1/2秒
ポイント:明るいところが真っ白にならないように注意。

・皆既中(めちゃくちゃ暗い!)
ISO:800 – 1600
絞り:一番明るい数値(F6.3など)
SS:1/3秒 ~ 1/2秒
ポイント:月がブレない限界のスピードを探ってください。

※空がピカピカに晴れている時の予想です。雲が出てきたら、さらに明るく調整が必要です。

失敗を防ぐ3つのテクニック

【1】ピントは「自分の目」で合わせる
皆既中の暗い月には、オートフォーカス(AF)はまず効きません。

・マニュアルフォーカス(MF)に切り替える。
・画面で月を最大まで大きくして、クレーターの角が一番シャキッとする位置を探す。
・ピントが決まったら、マスキングテープでフォーカスリングを固定しちゃうのもテクニックです。

レンズのフォーカスリングをマスキングテープで固定

【2】月を止めろ!「200ルール」
月がブレないためのシャッタースピードの限界を知っておきましょう。

計算式:200 ÷ 焦点距離
・200mmレンズなら:1秒以内
・400mmレンズなら:1/2秒以内
・600mmレンズなら:1/3秒以内

これより遅くすると月を止めて写すことができず、移動した分伸びたように写り始めます。
暗かったら、無理にシャッタースピードを遅くせず、ISO感度をドーンと上げましょう!

【失敗作例】皆既食
シャッタースピードが遅いせいで月が伸びたように写ってしまった
■撮影機材:Nikon Z9 + NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR
■撮影環境:SS1 F6.3 ISO800

【3】レリーズorセルフタイマーを使う・手ブレ補正は切る
超望遠レンズを使うときはこの二つを守るようにしましょう。
シャッターを手で押すと、カメラに触れた振動でブレを起こしたり、手ブレ補正機能が誤作動して画像がブレることがあります。

【失敗作例】皆既食
シャッターを手押ししたことでブレを起こしてしまった
■撮影機材:Nikon Z9 + NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR
■撮影環境:SS1/2 F6.3 ISO1000

【4】三脚と「風」に注意
超望遠レンズは風の影響をモロに受けます。現場のモニターだと気づきにくいんですが、家に帰って大きな画面で見たら「全部ブレてる…」なんて絶望することも。三脚と雲台は、しっかりしたものを使ってください。

また、風が強い日はレンズフードが「帆」の役割をして揺れを大きくしちゃいます。
そんな時は思い切ってフードを外しちゃいましょう!

当日の流れとシミュレーション

暗くなってから超望遠レンズで撮影する機会なんてなかなかないはず…
現地でトラブルを起こさないためにも薄明るいうちに到着して準備しよう

【準備すること】
・ロケハン:月が建物や木に隠れないか、アプリでチェックしておきましょう。
・天気:雲の動きはもちろん、風が強くないかも重要です。(天気アプリのSCWやWindyでチェックしよう)

【本番の動き】
・満月のうちに:ピントを合わせて、試し撮りを済ませておきます。
・皆既が始まったら:設定を一気に「皆既用」へ。露出が変わっていくので白飛びしていないか、こまめに確認してください。

【失敗作例】皆既食
撮影途中に設定を変えるのを忘れて白飛びしてしまった
■撮影機材:Nikon Z9 + NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR
■撮影環境:SS1/6 F6.3 ISO640

応用編:風景と重ねる「月景写真」

赤い月は、お城やタワーなどと組み合わせると印象的な写真になります。

2021年の皆既月食を撮影した写真。この日は完璧な1枚を撮ることができた。
実はこの写真にはテレビ番組「世界の果てまでイッテQ!」のロケが写っている。写真を拡大してみてほしい
■撮影機材:Nikon Z7 + TAMRON SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2
■撮影環境:SS2 F11 ISO640
2023年の部分月食を撮影した写真。ちょうど半分くらい月食しているタイミングが一番露出を決めるのが難しい
■撮影機材:Nikon Z7 + TAMRON SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2
■撮影環境:SS1/2 F6.3 ISO640

【撮影のポイント】
・圧縮効果を使う
月と一緒に撮影する被写体(今回の場合はお城)から数km離れた場所から、超望遠で撮影します。
そうすると遠近感が圧縮され、月が実際よりも大きく写ります。
目で見た印象とはまったく違う、ダイナミックな構図を作れるのがこの撮り方の魅力です。

・ピント位置
対象物と合わせて撮る場合は、
ピントは月ではなく「対象物」に合わせます。
超望遠レンズでは被写界深度が浅くなるため、ピント位置の選択が仕上がりを大きく左右します。

・ロケーションの探し方
「サン・サーベイヤー」などのアプリを使い、どこから撮れば月と建物が重なるかを事前に確認します。
数十メートルの位置ズレで構図が大きく変わるため、現地での微調整も重要です。

・月の動きを計算して構図を決める
月は1時間に約15度、直径の約30個分も空を移動します。
つまり、建物と重なる「ベストな瞬間」は数分程度しかありません。
事前にシミュレーションを行い、月がどの高さ・方位に来るかを把握しておくことが成功のカギです。

・露出差に注意する
皆既中の月は暗く、反対に建物のライトアップは明るいことが多いため、露出差が大きくなりがちです。
その場合は以下のような対応が有効です。

建物に露出を合わせて月はやや暗めに仕上げる
月に露出を合わせて建物はシルエットにする
複数露出を撮影して後処理で調整する

どの表現を狙うかで設定が変わるので、事前にイメージを決めておきましょう。

・月のサイズ感は「距離」で決まる
月の大きさはレンズだけでなく、「被写体までの距離」に大きく左右されます。

例えば、同じ600mmのレンズでも
建物から500m → 月は小さめ
建物から5km → 月は巨大に写る
この距離設計が、月景写真の完成度を左右する重要な要素です。

また、インターバル撮影して比較明合成を行うと、月の軌跡を表現する作品も作れます。

■撮影機材:SONY α7IV + FE 12-24mm F2.8 GM
■撮影環境:SS1/2 F4 ISO500
1:00~5:00撮影分を比較明合成

最終まとめ:成功への4か条

ここまでいかがだったでしょうか。
3月3日に皆既月食をしっかり撮影していただけるとうれしいです。
最後に、失敗を防ぐための重要ポイントを整理しておきます。

・三脚は頑丈なものを使う
超望遠での撮影では、わずかな振動でも像が流れてしまいます。
しっかりした三脚と雲台で、まずは物理的なブレを徹底的に排除しましょう。

・手ブレ補正オフ、ピントはマニュアル
三脚使用時の手ブレ補正は逆効果になることがあります。
また、皆既中は暗すぎてAFが迷うため、満月のうちにMFでピントを固定しておくのが安全です。

・200ルールで月を止める
月は思っている以上に速く動きます。
焦点距離に応じた限界シャッタースピードを守り、「月を止める」ことを最優先に考えましょう。
暗さはISO感度で補う、という発想が成功のカギです。

・露出はこまめに調整する
月食は時間とともに明るさが大きく変化します。
一度設定したら終わりではなく、ヒストグラムや拡大表示で状態を確認しながら微調整を続けましょう。

しっかり準備しておけば、「赤い月」は誰にでも撮れます。
この記事を参考に、自分だけの最高の一枚を残してください。

もちろん今回解説した内容は、皆既月食だけでなく通常の月の撮影でも活かせるものばかりです。
下の3枚のように、風景と月を絡めた印象的な1枚を狙うのも楽しいと思います。
ぜひ月食のタイミングだけでなく、日ごろから月の撮影に挑戦してみてくださいね。

岐阜城の横にある建築物と合わせて撮影した。月の中に建物があるようなどこか異世界のような1枚に仕上がった。
■撮影機材:Nikon Z7 + TAMRON SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2
■撮影環境:SS1/3 F6.3 ISO400
PLの塔と満月をコラボさせた。この日は明け方に沈むときだったので、赤い満月と撮影することができた。
■撮影機材:Nikon Z7 + NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR
■撮影環境:SS1/15 F11 ISO400
獅子岩の口の間に月を入れた構図。チャンスは少ないがぜひ撮ってみてほしい。
■撮影機材:Nikon Z7 + TAMRON SP 70-200mm F/2.8 Di VC USD G2
■撮影環境:SS1 F2.8 ISO4000

 

 

■星景写真家:関岡大晃
学生時代のバックパッカー旅で訪れたニュージーランドで天の川を見上げた体験をきっかけに星景写真を始める。現在は大阪を拠点に全国で撮影を行い、SNSで作品を発信。共著『今夜星がみたくなる 夜空の手帳』(東京書籍)の出版をはじめ、記事執筆、セミナー登壇、αアカデミー講師として星景写真の魅力を広く伝えている。

 

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