天体望遠鏡を使った撮影ハウツー|天体望遠鏡の魅力とカメラの接続方法

成澤広幸
天体望遠鏡を使った撮影ハウツー|天体望遠鏡の魅力とカメラの接続方法

はじめに

 少し気が早いですが、2022年11月8日に大変条件の良い皆既月食が起こります。皆既月食とは、地球の影に月が完全に入り込むことで、月が赤銅色に染まるという天文現象。日本全国で楽しめる天文現象として、2022年の目玉と言っていいでしょう。

■撮影機材:FUJIFILM X-T2 + VIXEN SD103S + SX2赤道儀
■撮影環境:ISO6400、f7.7、SS1/2秒、795mm(35mm換算1192mm相当)
Photoshop CCで画像処理

 さて、みなさんは月を撮影したことがありますか?300mm程度の望遠レンズでは焦点距離が足りずなかなか大きく写らず、トリミングしてもシャープに表現できない、という経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。また、何かしら遠くの風景を撮りたいと思った時に、300mm以上のカメラ用の望遠レンズだととても値段が高くなってしまうので、なかなか手を出しにくいという悩みもあると思います。

 そんなときに安価で手軽に超望遠撮影ができる便利アイテムが天体望遠鏡です。実家の物置から古い天体望遠鏡が見つかったりして「これってカメラつけれるのかな……」なんて思ったことがあるひともいらっしゃるでしょう。

私が愛用している天体望遠鏡Vixen SD81SIIにGFX100Sを接続している状態。天体望遠鏡は夜の撮影だけでなく、昼間の撮影でも活躍する場面があります。三脚はiFootage TA7、雲台は同じくiFootage KOMODO K7。望遠鏡本体が夜に冷えすぎないように、市販の断熱シートを貼っています。

 しかしながらこの天体望遠鏡、カメラの接続方法について調べようとしても望遠鏡の型番や規格がわからなくて、実際にメーカーHPを見てもどれが適合するのか、何を買えばいいのかよくわからない……なんて話をよく聞きます。よくわからない原因は天体望遠鏡ならではの「見る」「撮る」の両方に対応した汎用性の高さ。用途に合わせた選択肢がたくさんあるので、ビギナーは混乱してしまいがちなのです。また、すべての天体望遠鏡にカメラが取り付けられる訳でもありません。

 今回は天体望遠鏡の魅力と、カメラを接続するときの方法や必要な機材についてご紹介したいと思います。

写真撮影においての天体望遠鏡の魅力とは?

私がカメラをはじめて間もない2010年に撮影したサギの写真。後ろにちょうど林があり、背景を林の影にすることでパーフェクトブラックに近い感じで撮影することができました。望遠鏡ならではの鋭い描写性能が伝わると思います。
■撮影機材:CANON EOS KISS X2 + VIXEN ED80Sf鏡筒
■撮影環境:ISO200、f7.5、SS1/250秒、600mm(35mm換算900mm相当)
JPEG撮って出し

 天体望遠鏡の魅力は、ズバリ画質でしょう。後で詳しく説明しますが、星という究極の点像を撮影するために、画像の劣化につながる危険要素を極力排除している設計になっているのが特徴です。特にSDガラスやフローライトを使用した写真設計の天体望遠鏡を昼間に使用すると「ほぼ無収差」でとてつもなくキレのあるシャープな像を得ることができます。

 また、風景を撮影する場合なども、レンズ枚数が少ないことで大気の影響を受けにくくなるので、TOP画像にあるパール富士(月と富士山を同一構図で撮影したもの)のような「低い風景を離れた場所から撮影する」ような場合はカメラレンズよりも天体望遠鏡のほうが圧倒的に有利です。私はカメラを始めたてのときに野鳥を撮影していたのですが、カメラのレンズよりも高画質な超望遠が安価に手に入るので、お財布にも幾分か優しかったです。ただし、完全にマニュアルフォーカスになりますので、飛んでいる鳥を撮影することはなかなか難しいです。

カワセミはスズメと同じくらいの大きさなので、ここまで大きく写すのは通常のカメラレンズだとかなり高価な機材になってしまいますよね。
■撮影機材:FUJIFILM X-E1 + VIXEN SD81S鏡筒
■撮影環境:ISO2500、f7.7、SS1/120秒、625mm(35mm換算937mm相当)
JPEG撮って出し
桜とシメ。手前に桜を入れてピンク色のボケが入るようにしました。春はたくさんの野鳥が飛来し花とのコラボも楽しめる撮影シーズンです。
■撮影機材:FUJIFILM X-T1 + VIXEN SD81S鏡筒
■撮影環境:ISO800、f7.7、SS1/850秒、625mm(35mm換算937mm相当)
Photoshop Lightroom Classicで画像処理
満月をこの焦点距離で撮影するとあまりの明るさにびっくりすると思います。上記の皆既月食の撮影データと比べると全く光量が違うことがわかりますね。
■撮影機材:FUJIFILM X-E1 + VIXEN SD81S鏡筒
■撮影環境:ISO400、f7.7、SS1/1000秒、625mm(35mm換算937mm相当)
Photoshop Lightroom Classicで画像処理

天体望遠鏡とカメラレンズの違いは?

 天体望遠鏡と言えば、焦点距離がとても長いというイメージがありますが、実は200mmクラスの天体望遠鏡も存在するのです。そもそも天体望遠鏡とカメラの違いはなんでしょうか?そして天体望遠鏡のメリットとはなんでしょうか?

■天体望遠鏡のメリット
「レンズ枚数が少ないので安価なのに高画質」

 天体望遠鏡の最大のメリットは「高画質であること」。レンズの基本的な考え方として、レンズ枚数が多ければ多いほど画質が劣化します。レンズの小型化、手ぶれ補正、AFなど、カメラにとって便利な機能は実は画質劣化につながる(レンズ枚数を増やす)大きな要因になるのです。レンズ枚数が増えるにつれ、価格も上がりやすくなります。

 画質の劣化を極限まで下げるためにレンズ枚数は通常2枚、高価な天体望遠鏡になると5枚という感じです。そのため、同じ焦点距離のカメラレンズと比べて、比較的安価に製造できるというメリットもでてきます。また、カメラレンズと比べてかなり大口径(レンズ径)であることや、f値や焦点距離が固定であることも高画質になるポイントでしょう。

※屈折望遠鏡とは、レンズを使用した天体望遠鏡のこと。

 図面を見てみると、レンズ枚数の差は一目瞭然。上は代表的なレンズ設計の一例ですが、合計で20枚のレンズが使用されているのに対し、天体望遠鏡は2枚(2群2枚という設計です)になります。とは言え、通常の昼間の撮影では手ぶれ補正やAFはあったほうが便利です。つまりカメラメーカー・レンズメーカーは根本的に不利な設計でも良い画質が手に入るよう、懸命にレンズの研磨・設計・コーティング技術を磨いて商品開発をされているんですね。素晴らしい技術・努力だと常日頃から感じています。

■天体望遠鏡のデメリット
「極端に画質を優先するため、撮影に便利な機能が使えない」

 夜に使用することを想定されているため、手ぶれ補正・オートフォーカスはありません。また、小型化も考慮されてません。よって、ピントが出る位置がとても長くなります。本体が長くなると、望遠鏡本体の素材が弱ければ「たわみ」が起こり、シャープにピントを合わせることができません。そのため、たわみの少ない素材を使用するので、天体望遠鏡は重くなります。それだけ星という点像を鋭く写すことはシビアなんですね。

結論「手軽に超望遠撮影をするには、天体望遠鏡はお手軽アイテム!」

 冒頭の皆既月食などの天文現象をニュースで知っても、普段から使用していなければ300mm以上の焦点距離のレンズをすぐに用意できる方はなかなかいないでしょう。そんな中で、比較的価格が手ごろでレンズ設計的に劣化の少ない天体望遠鏡はとてもお手軽に超望遠撮影を楽しめるアイテムであると言えます。

 4~5万円の人気のある入門者向け天体望遠鏡を使えば、ガラスレンズでマルチコーティングも施されていますので、月や皆既月食の撮影であれば充分な画質の撮影ができます。写真用の高い望遠レンズを購入するのも良いですが、私としては、普段は家族や友人と星を見ることを楽しみ、いざとなったら超望遠撮影にも応用できる……そんな天体望遠鏡の使い方をおすすめしたいと思います!

天体望遠鏡にカメラを接続するには?

左:ビクセン キヤノンEOS用Tリング(私物のため印字が全て剥げています)
右:ケンコー ニコンZ用Tリング
ミラーレス用のほうがフランジバック分、長く作られている。Tリングひとつあれば天体望遠鏡にカメラを接続することができます!

 天体望遠鏡にカメラをつけるには、天体望遠鏡側に「42mm・ネジピッチ0.75」の「Tネジ」と呼ばれる規格が備わっていることが必要です。ここに各望遠鏡メーカーから発売されている「Tリング」というものがあれば、カメラを直接天体望遠鏡に接続することが可能です。望遠鏡に直接カメラを接続して撮影することを「直焦(ちょくしょう)撮影」といいます。焦点距離の計算はカメラと同じで、例えば天体望遠鏡の人気機種・ビクセンのポルタII A80MfにAPS-Cサイズセンサーのカメラを接続した場合、900mm x 1.5倍 = 1350mmという計算になります。

 お持ちの天体望遠鏡にカメラを取り付ける場合は、この42mmのTネジがあるかどうか調べましょう。実際にメジャーなどで測ってみるのが良いと思います。だいたい、何個かアダプターがかませてあって、それらを外していくとTネジが出てきます。ただ、古い望遠鏡の場合は、42mmではなく36.4mmなどの規格が採用されていることが多く、42Tネジへの変換アダプターが廃盤になっている場合があることも覚えておきましょう。

ビクセン ポルタII A80Mfでの例。アダプターを外せば42mmTネジがでてくる。
スカイエクスプローラー SE-AZ5 三脚付き 102鏡筒セットの場合は天頂プリズムを外し、付属の「31.7mm接眼アダプター(屈折式用)」に変換することでTリングが取り付けられる。

 余談ですが、Tリングの「T」はタムロンのことだと聞いたことがあります。タムロンさんが「内径42mm・フランジバック55mm」というTリングの規格を定めたのだとか……。大変興味深いお話ですね。

Tリングとカメラ用変換アダプターを併用すれば、未対応のカメラにも接続が可能。テレコンでさらに焦点距離を伸ばすことも!!

左:ビクセンA80MfにTリングEOS用を接続し、SIGMA MC-21を接続してLマウントのLUMIX DC-S5を装着
右:さらに追加でケンコー製テレプラスを間に追加した状態

 Tリングはビクセン、ケンコーともに発売していますのでどちらを購入してもOKです。ただし、ニコンZ用のTリング(ケンコーではTマウントアダプターという名称)はケンコーでは発売されていますが、ビクセンでは未発売なのに注意。また、キヤノンRF用やLマウントの場合はどちらのメーカーからも未発売なので、マウント変換アダプターと併用しましょう。

 おすすめは内径の大きな(=周辺減光が最も少ない)「TリングキヤノンEOS用」を購入し、EOSから別マウントに変換するのがおすすめです。裏技として、画質は多少落ちる可能性がありますが、EOS用のテレコンバーションレンズをつけて、焦点距離を倍にするなんてこともできます。

 実際にカメラを接続する様子を以下の動画にまとめましたのでご確認ください。

安価な入門機にはカメラの接続はできない仕様になっている

ビクセン スペースアイ600
ケンコー スカイエクスプローラーSE-GT100N2

 天体望遠鏡で安価な入門モデルには基本的にカメラがつかないので注意しましょう。本体にそもそも42mmTネジがありません。仮にどうにか頑張ってカメラを接続することができたとしても、望遠鏡本体がプラスチックで製造されているため、カメラの重みで大きくたわみが発生してピントが不明瞭になったり、付属している三脚が弱くて構図合わせすらまともにできない、などの問題が起こります。天体望遠鏡購入の際は「一眼カメラが取り付けられるかどうか」を事前に確認しておくとよいでしょう。

接続部品がわからない場合は使用している望遠鏡のシステムチャートを活用しよう!

 実は天体望遠鏡メーカーからは機種ごとにシステムチャートを用意してくれてる場合があります。これらは各社HPからダウンロードできるようになっています。例えば、人気商品「ビクセン ポルタII A80Mf」や「Kenko SE102」あたりの情報を調べると以下のようなシステムチャートが見つかります。

 いろいろなことができるので、いろいろ書いてあって大変ややこしいですが、それぞれ見て欲しいところは赤線の部分です。システムチャートを確認すると、どの順にどのアダプターを接続すればよいのかがわかります。

ビクセンHPより「ポルタII A80Mf取扱説明書」より抜粋
ケンコーHPより「天体望遠鏡システムチャート図」より抜粋

三脚は天体望遠鏡のセット品のものを使おう!

 長い天体望遠鏡は、通常のカメラ三脚では心もとないです。三脚の対荷重は、軸荷重を表記しているので、天体望遠鏡のように長いものを搭載すると、強度不足になってしまいますし、操作性も異なります。天体望遠鏡のセット品になっている三脚を使えば、強度・操作性とも安心して使用できるでしょう。

Tリングはカメラ用レンズでも使用できるものがある

ニコンZ 7にTokina SZX 400mm F8 Reflex MFを装着

 ケンコー・トキナーから発売されたミラーレンズ「SZX」「SZ」シリーズにはTリングの規格が採用されています。Tリングさえ変えれば様々なメーカーのカメラに接続できてしまうという、設計にも天体望遠鏡の技術が応用された高コスパなレンズです。天体望遠鏡は大きいのが気になるという方にはお手軽に超望遠撮影が楽しめるのでこちらも大変おすすめです。画像は「Tokina SZX 400mm F8 Reflex MF」。このサイズでなんと400mm!もちろんピント・露出ともにマニュアルで使用します。

 いかがでしょうか?みなさんもぜひ天体望遠鏡での撮影にチャレンジしてみてくださいね!最後に、ビクセンの天体望遠鏡を使った天体写真の機材選びから画像処理までの工程を、ビクセンのYouTubeチャンネルで解説している動画がありますので、天体写真に興味のある方はぜひ見てくださいね。

■写真家:成澤広幸
1980年5月31日生まれ。北海道留萌市出身。星空写真家・タイムラプスクリエイター。全国各地で星空撮影セミナーを多数開催。カメラ雑誌・webマガジンなどで執筆を担当。写真スタジオ、天体望遠鏡メーカーでの勤務の後、2020年4月に独立。動画撮影・編集技術を磨くべくYouTuberとしても活動している。
・著書「成澤広幸の星空撮影塾」「成澤広幸の星空撮影地105選」「プロが教えるタイムラプス撮影の教科書」「成澤広幸の星空撮影塾 決定版」
・月刊「天文ガイド」にて「星空撮影QUCIKガイド」を連載中
・公益社団法人 日本写真家協会(JPS)正会員

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