懐かしく心やすらぐ情景。
素朴で美しい竹のすべてをとらえたい。

さまざまな道具や装飾品に用いられるなど、昔から人々の生活に密着してきた「竹」。神秘的な力が宿るとも言われ、お馴染みの物語「かぐや姫」にも竹の神秘性が表現されています。また、近年では竹が持っている数々の特徴を活かした製品が健康グッズや癒しグッズとして注目を浴びています。このように我々日本人にとって身近な存在である竹。その素朴な美しさに魅せられて、3年間にわたり竹だけを撮りつづけてきた写真家がいます。私たちが目にすることがなかった竹の、美しく、また力強い表情をとらえた作品と、その撮影におけるエピソードをご紹介いたします。
【仰望】分け入っても分け入っても続く竹林。薄暗い竹林の中で忘れがちな空の存在を、初めて意識した作品である。
■カメラ:キヤノンEOS1N レンズ:EF20-35mm F2.8L 絞り:f11 シャッタースピード:オート フィルム:RVP 10月上旬 撮影地:京都府亀岡市


【伐竹】伐られた真竹が丁寧に積まれてあった。雨に濡れて緑が冴え、切り口が白くて新鮮である。現代に息づく伝統的竹文化の片鱗に触れたような気分であった。
■カメラ:キヤノンEOS1N レンズ:EF28-70mm F2.8L 絞り:f16 シャッタースピード:オート フィルム:RVP 11月下旬 撮影地:京都府亀岡市

【滴】雨上がりの竹林。意識的な観察は、時に別世界をかいま見せてくれる。
■カメラ:キヤノンEOS1N レンズ:EF100mm F2.8L 絞り:f22 シャッタースピード:オート フィルム:RVP 5月上旬 撮影地:京都府向日市

【真竹の筍】真竹の筍は孟宗竹より一月ほど遅く出る。竹皮には大きな斑模様があり、毛はあまり無く滑らかである。
■カメラ:キヤノンEOS1N レンズ:EF70-200mm F2.8L 絞り:f4.5 シャッタースピード:オート フィルム:RVP 6月中旬 撮影地:京都府亀岡市
36歳の時に初めて手にしたカメラ。
入会したカメラクラブが運命を変えた。


 以前から絵画や彫刻などの芸術作品を鑑賞するために、美術館にはよく通われていたという鉄 弘一さん。
 「他人が何かを表現した作品には興味があったのですが、自分で何かを表現することはありませんでした。もちろん写真に対する興味もありませんでした」。
 ところがサラリーマン生活をしていた36歳の時に、何げなく買ったカメラが、鉄さんの運命を大きく変えたのです。
 そのカメラに同封されていたのは、カメラクラブの入会案内でした。
 「早速入会して、とにかく写真を撮りはじめよう」と、思い立った鉄さん。
 「最初に撮ったのは自然風景です。それ以来、いままで一度も人物は撮っていませんね」と、笑いながら話されました。

素朴な自然風景が好き。
最も身近にあった竹林に注目。


 鉄さんは、人の手があまり入っていないような素朴な自然風景が好きで、自宅の周りにある草花や、近くの淀川河川敷で撮ることが多かったそうです。
 やがて撮影する地域も少しずつ広がり、竹の写真も撮るようになりました。
 「私の自宅のある大阪府枚方市の隣町が京都府八幡市なのですが、ここは昔から竹林が有名なところです。その竹はエジソンの発明した白熱球のフィラメントに使われたことでも知られています」。
 身近にあった美しい竹林に魅せられるのに多くの時間はかかりませんでした。
 「竹は、一見すると単純で面白味に欠けるように思えるかもしれませんが、竹にも四季それぞれの表情がありますし、周りの環境を活かして撮影する楽しさもあります。春先の筍の時期は特に魅力的です」。
 「竹のすべてを撮ってやろう」と思われた鉄さんは、竹の不思議な生態をよく観察し、あらゆる状況をカメラに収めていきました。

35mmで作品づくりをしている私には、
竹内敏信先生の存在は非常に大きいもの。


 また、入会したカメラクラブの月例会には4年間にわたり作品の応募をつづけ、竹の写真では何十回も入選しました。
 実は、この応募作品の審査員をつとめておられたのが、本誌でもお馴染みの竹内敏信先生でした。
 「竹内先生からは毎回コメントをいただき、その一言一言は大変参考になりました。また、クラブの年度賞でもある竹内敏信賞も受賞することができました。35mmで作品づくりをしている私にとって、竹内先生の存在は非常に大きなものです」。
 一度興味をいだくと、とことん追求していくタイプだとおっしゃる鉄さん。
 「竹は身近にある被写体ですが、じっくりと腰を落ち着けて取り組んでみると、とても味わい深いことがわかりました」。
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