ソニー FE 100mm F2.8 Macro GM OSS|フルモデルチェンジでさらなるマクロ撮影が楽しめるG Masterレンズ
はじめに
適度なワーキングディスタンスを持つ中望遠系マクロレンズは入門者から上級者まで分け隔てなく使うことができるレンズですが、これまでの「FE 90mm F2.8 Macro G OSS」(2015年6月発売)が約10年のときを経てフルモデルチェンジ。高い解像力とボケ味に定評のあるG Masterシリーズにグレードアップして登場したのが「FE 100mm F2.8 Macro GM OSS」です。
最大撮影倍率 1.4倍、テレコン使用で最大2.8倍
レンズ単体での最大撮影倍率が1.0倍(等倍)から1.4倍に拡大され、もう少し寄りたいな、切り取りたいなというときにクロップや撮影後のトリミングなどで画素数を犠牲にすることなく思い通りの作画が可能になりました。そのため最短撮影距離は0.26mと2cmほど短くなっています。
さらに、超望遠レンズ専用というイメージの強い純正テレコンバーターを装着できる仕様となり、SEL14 TC(1.4×)で2.0倍、SEL20TC(2.0×)で最大2.8倍という超高倍率撮影が可能となりました。どんなレンズでも撮影倍率を上げるには中間リングやクローズアップレンズを装着する方法がありますが、どちらもレンズの設計以上に最短撮影距離が短くなるため、画質の低下が顕著で使う気になれないというのが現実でした。
テレコンバーターを装着すると倍率を上げながらも最短撮影距離は変わらないので、ワーキングディスタンス(レンズ先端と被写体のおおまかな距離)をキープしたまま撮影できるメリットがあります。テレコンバーターを装着するとSEL14 TC(1.4×)で1段、SEL20TC(2.0×)で2段開放F値が暗くなるというデメリットがありますが、そのぶんISO感度を上げれば対処できるので気にする必要はなく、高解像度をキープしたまま超高倍率撮影が可能になった、これまであるようでなかった夢のようなレンズなのです。




G Masterならではハイレベルな描写性能
G Masterの冠をもつだけに描写性能にもとことんこだわっており、超高度非球面XA(extreme aspherical)レンズ2枚、ED(特殊低分散)ガラス2枚を採用して花びらの縁のピント面などに出やすい色収差などを徹底的に排除。開放絞りほど画面周辺に画質の甘さが出やすいのが一般的ですが、隅に被写体を配置しても解像力の低下や像の流れなどは感じられずハイレベルな描写性能を持っています。
ボケ味に影響する絞り羽根は新設計の11枚羽根円形絞りユニットを採用し、絞り込んでもできるだけ円形をキープする絞りユニットは背景のボケ具合の調整で威力を発揮します。

■撮影環境:F2.8 1/400秒 ISO400
画面の端に被写体を配置しても解像力が落ちることはなく、花びらに落ちた花粉のひとつひとつまでしっかり解像しています。それだけイメージサークルが大きく余力のあるレンズ設計になっている証拠ですね。ここまでイメージサークルが広いとフレーミングの自由度が高くなるので表現の幅がより広がります。
同じ場所、同じ被写体でも背景のボケ具合でこれだけ雰囲気が変わります。一般のレンズで絞り込むときは被写界深度を変えるときに使うことがほとんどですが、花撮影では絞り込んで背景のボケ具合を調整できるようにすることがマクロレンズを最大限活用する使い方なのです。ちなみに絞り込んだときに円形をキープできるのはF4.5くらいですが、くらいというのは撮影する倍率によってボケ具合が変わるのでF5.6やF8.0でもキレイな丸いボケになるときもあります。

■撮影環境:F2.8 1/1000秒 ISO400
「ナノARコーティングII」によりゴーストやフレアの抑制と優れたコントラストと鮮明さを実現しており、夕陽を直接入れるとゴーストは出るけれどファインダー内で見ているときよりも実画像を見ると影響が少ないように感じました。また90mmマクロもフレアが少なくゴーストが出ても汚く感じることはありませんでしたが、さらにヌケの良いクリアな画質になったなという印象を持ちました。逆光の強さもこのレンズの隠れた実力のひとつです。

■撮影環境:F2.8 1/500秒 ISO500
G Masterレンズといえば超高解像+とろけるようなボケ味が大きな魅力。ピントを合わせた彼岸花のおしべの部分の解像力は非常に高く、花粉が出てくる前の膨らんでいるでこぼこした質感までしっかり再現されていますが、背景の木漏れ日と重なっているおしべのボケは二線になることもなく木漏れ日の明るい部分に徐々に溶け込んでいってます。解像力が高いながらもボケが硬くならず、コントラストがありながらも徐々にボケていく様はまさにG Masterらしい描写といえますね。

■撮影環境:F2.8 1/800秒 ISO500
ヒガンバナの真上からレンズを向けて花びらの付け根にピントを合わせてみました。同じ被写体でもレンズを向ける角度やピントを合わせる位置を変えるだけで全く違う印象に仕上がるのがマクロレンズの面白さでもあります。ここでは花びらの前ボケに注目してみましょう。左上の花びらの前ボケが重なる部分はG Masterレンズの特徴でもあるとろけるようなボケ味というのがよく出ている部分。おしべの細い線などボケの汚くなりやすい要因が多い花ですが、素直なボケ味のこのレンズならそのようなことを気にする必要もありません。

■撮影環境:F2.8 1/640秒 ISO1600
ヒガンバナのおしべの茎についた水滴ですが、ここまで解像力が高いとちょっとしたゴミがついていたり枯れているなどの汚い部分も気になってしまうので、これまで以上に被写体選びに気を遣います。このときの天候は薄曇りの晴れ寄りという、曇りにしてはちょっと光が強い状況だったのですが、茎の前後についた水滴のボケが硬くも柔らかくもなく光の状況を的確に表現していて、このレンズの描写の素直さが出ています。コントラストが強いとかボケが柔らかいとか抜き出た特徴はありませんが、どんな条件でも素直に描写するレンズなのでパキパキに仕上げたければ光の強いとき、柔らかいボケ味がほしければ日陰や曇りといった光の使い方で描写をコントロールできるレンズです。

■撮影環境:F2.8 1/6400秒 ISO800
マクロレンズというとクローズアップ・花専用というイメージが強いですが、100mmの単焦点レンズの最短撮影距離をさらに短くしたらマクロレンズになりましたというだけなので、風景のような遠くにピントを合わせることももちろん可能です。遠くも近くもさらに寄ることもできるから花撮影に便利というだけなので、一般的な10mmの単焦点レンズとしてもどんどん活用しましょう。
サイズ感
「FE 90mm F2.8 Macro G OSS」と比べると2cm弱長く、フィルター径が62mmから67mmになったことで外径も若干太く、重量も50g弱増しています。こうして並べて比べるとちょっと大きくなったなという印象は受けますが、実際に使用してみると数字ほどの大きな違いを感じることはなく逆に軽くなったんじゃない?と思ったくらい。これは「FE 90mm F2.8 Macro G OSS」のレンズ構成が前側に多く配置されていたのに対して、「FE 100mm F2.8 Macro GM OSS」のレンズ構成は前・中・後と均一化されとても良いホールディングバランスになっているからだと思います。

右「FE 100mm F2.8 Macro GM OSS」
操作系はピントリングの前後スライドによるAF/MF切り替えやMF時のピントリングのダイレクト感など、「FE 90mm F2.8 Macro G OSS」での使いやすさはしっかり継承していますが、新たに「フルタイムDMFスイッチ」が搭載されました。
AF時に手前の被写体にピントを合わせたいのに奥の背景などにピントが抜けてしまうことがよくありますし、一度抜けてしまうとなかなか手前に戻ってきてくれません。マクロ領域では特に合わせたいところに合わないことが多くなるのでMFでピント合わせをする方が楽なことが多かったですが、このスイッチをオンにすることでピントリングのスライドやボディ・レンズ側でのAF/MFの切り替え操作することなくピントリングを回すだけで瞬時にMFに切り替わるので、奥にいってしまったピント位置をMFで簡単に手前に持ってくることができるようになりました。これは非常に便利な機能でマクロレンズのAF使用頻度が格段に増えました。


AFの使用頻度が増えたもうひとつの理由が超高速&高精度AF。マクロレンズは最短撮影距離が短いぶん一般的なレンズに比べてピントリングの移動距離が長く一度外すと合わせ直すまでに時間がかかっていました。結果として「マクロレンズはAFが遅い」というレッテルを貼られてしまう要因でしたが、4基のXD(extreme dynamic)リニアモーターを搭載したフローティングフォーカス機構と最適化されたアルゴリズムでフォーカス機構を精密に制御し、α9 IIIの最大120コマ/秒(試していませんけど)や4K 120pのスローモーション動画撮影にも対応する完成度の高いAFになっています。

■撮影機材:ソニー α7R V + FE 100mm F2.8 Macro GM OSS
■撮影環境:F2.8 1/1250秒 ISO500
おわりに
「FE 90mm F2.8 Macro G OSS」の描写性能、操作性に全く不満はありませんでしたが、ここがもっとこうだったらもっといいのになという部分が全て盛り込まれたのが「FE 100mm F2.8 Macro GM OSS」ですね。2×テレコン使用に2.8倍になる超高倍率は私でもあまり経験のない領域なので何を撮ったらいいのか試行錯誤中ですが、まずはマクロレンズ単体でひとまわり大きく撮れるようになった1.4倍の最大撮影倍率やG Masterの高解像力&美しいボケ味などを体感してほしいと思います。
■写真家:並木隆
1971年生まれ。高校生時代、写真家・丸林正則氏と出会い、写真の指導を受ける。東京写真専門学校(現・ビジュアルアーツ)中退後、フリーランスに。心に響く花をテーマに、各種雑誌誌面で作品を発表。公益社団法人 日本写真家協会、公益社団法人日本写真協会、日本自然科学写真協会会員。




















