天空からのレンズレビュー | ソニー FE 16mm F1.8 Gが拓く新たな表現の地平

SILK DRONE
天空からのレンズレビュー | ソニー FE 16mm F1.8 Gが拓く新たな表現の地平

はじめに

皆様は、レンズを選ぶとき、どのようなジレンマを抱えていますか?
この記事は天空写真家である私たちSILK DRONEの視点から、ソニー FE16mm F1.8 Gが、単なる高性能レンズという枠を超え、風景、建築、そして夜の光を捉える写真家の創造性をいかに引き出してくれるのか。その真価に迫るレンズレビューです。

「これは、私たちが待ち望んでいた答えかもしれない」

写真家にとって、機材選びは常に自問自答の連続だと思います。
最高の画質を求めれば機材は重くなり、身軽さを優先すればどこか妥協が生まれてしまう。

特にダイナミックな世界を切り取る広角レンズにおいて、この問題はより深く問いを投げかけているように思います。16mm F1.8のような大口径・超広角というスペックは、本来、大きく重いレンズになるのが常識でした。最高の描写力を誇るレンズは、気軽に持ち出すことを躊躇させてしまうほどの存在感を放ちます。この「性能」と「機動力」という、相反する永遠のテーマで常に最適解を探し続けている写真家は多いのではないでしょうか。

そんな中、ソニーから登場したのが「FE 16mm F1.8 G」です。16mmという超広角、F1.8という大口径、そしてGレンズという信頼。これだけのスペックを信じられないほど軽く小さな筐体に凝縮した一本です。

■使用機材 SONY Airpeak(ドローン) + α7CR + FE 16mm F1.8 G + KANI ND2-64 variable CPL 67mm
■撮影環境 F13 1秒 ISO100
※撮影地の飛行許可を得て撮影

新たなフィールドへ誘う、驚異的な軽さと信頼の操作性

まず語るべきは、このレンズが持つ驚異的な軽さとコンパクトさです。質量はわずか304g 。この数字が持つ意味は、皆様が想像する以上に私たちの創作活動に大きな影響がありました。

私たちSILK DRONEは天空写真家と名乗らせていただいておりますが、現在はソニー製のドローン「Airpeak S1」にソニーαシリーズのミラーレス一眼を搭載して撮影を行っています 。

バッテリーで飛行するドローンにとって、重量は飛行時間と安定性にダイレクトに影響する重要な要素。体感では100g軽くなるだけで、飛行時間が5%から10%も延びるのです 。この差は、撮影できるカット数、そして作品のクオリティに直結します。304gというこのレンズの軽さは、まさに生命線とも言えるのです 。

軽さが大事なのは皆様にとっても同じはずです。
カメラバッグに機材を詰め込み、一日中歩き回っても苦にならない軽さ。そして瞬間を逃さないための直感的な操作性。これらこそが、作品の質を左右する重要な要素かと思います。

重い機材を担いで山道を歩いたり、旅先を巡ったりする中で、機材の軽さは持ち歩きやすさ。このレンズの軽さは、まさに「もう一本」として気軽に持ち出せる自由。それは、表現の可能性を常に携えて歩けるという、心強いもう一本です。

■使用機材 SONY Airpeak(ドローン) + α7CR + FE 16mm F1.8 G
■撮影環境 F14 /1/125秒 ISO100
※撮影地の飛行許可を得て撮影

Gレンズならではの操作性と堅牢性

小型軽量でありながら、操作性や堅牢性に一切の妥協がない。それがGレンズたる所以です。防塵防滴に配慮された設計と、レンズ最前面のフッ素コーティングは、作例のようなハードな環境下でも安心して使うことが出来ました。

また、レンズに設けられた3つの物理コントロールの存在は、非常に便利なものに感じたので次に紹介します。

絞りリング:動画撮影時にクリック音をなくすスイッチは動画撮影時には必須。無音かつスムーズな露出変更を可能にします 。スチルにおいても、絞りリングの直感的な操作感は大きな魅力です。

アイリスロックスイッチ:意図しない設定変更を防ぐこの小さなスイッチは、特にジンバルやドローンへの搭載時に不意に絞りが変わってしまう事故を防ぐ、現場での確実な操作を支える重要な機能です 。

フォーカスホールドボタンとAF/MFスイッチ:カメラのメニューに潜ることなく、瞬時に設定を切り替えられます。

表現の自由を約束する、フィルターワーク

このFE 16mm F1.8 Gは、超広角レンズにも関わらず一般的によく使われている67mm径のフィルターを装着できます 。この一点が、私たちの表現の幅をどれほど広げてくれることか。

ドローンはもちろんジンバルを用いた撮影では、バランスの調整が重要で大掛かりなフィルターは利用できないことがほとんど。
この作例は、ドローンからNDフィルター(KANI ND2-64 Variable + CPL 67mm)を使用してシャッタースピード1秒で撮影したものです。三脚を立てられない天空から、まるで三脚を使ったかのように水の流れを絹のように描き出す。日中の長秒露光で川の流れを描いたり、CPLフィルターで水面の反射をコントロールしたり。 このような表現もフィルターが手軽に使えるこのレンズだからこそ可能になりました。

FE 16mm F1.8 Gは、ただ軽いだけではない。ただ明るいだけでもない。フィールドで写真を撮る者のワークフローを深く理解し、そのすべてを最適化するために生まれてきた。私たちはそう感じています。

■使用機材 SONY Airpeak(ドローン) + α7CR + FE 16mm F1.8 G + KANI ND2-64 Variable CPL 67mm
■撮影環境 F14 1秒 ISO100
※撮影地の飛行許可を得て撮影

解像力と設計思想

このレンズの解像力は高く、特に画面中央部は非常にシャープです 。更にF2.8以上に絞れば周辺まで高い解像力になります。しかし、FE16mm F1.8 Gを正しく理解するためには、その設計思想を理解する必要があります。このレンズは軽く手頃な価格を実現するために、光学と電子補正をあわせた巧みな設計を行っています。

補正なし作例を見ていただければわかる通り、補正前の写真は強い樽型の歪曲収差を持っています 。しかし、これは欠点ではなく巧みな設計思想の表れです。純正レンズの強みであるカメラ内補正や現像ソフトのプロファイル適用を前提とすることで、物理的なレンズのサイズとコストを劇的に抑えることに成功しているのです。

これを光学的に補正しようとすると更に多くのレンズを使用することになり、「大きく」「重く」「高い」レンズの出来上がりとなってしまいます。その役割はGMレンズに譲ることにより、軽くて小さく、しかし解像力の高い現代のレンズとして完成しています。

そして何より、私たちにとって重要なのは、純正レンズならではのオートフォーカスの信頼性です。
特に天空からの撮影では、コントラストAFが機能しにくく厳しいシチュエーションが多々ありますが、FE16mm F1.8 Gはストレスなく驚くほど正確に被写体を捉え続けてくれました 。この安心感こそ、純正レンズが持つ最大の強みの一つです。

■使用機材 SONY Airpeak(ドローン) + α7CR + FE 16mm F1.8 G
■撮影環境 F11 1/80秒 ISO100 (レンズ補正なし)
※撮影地の飛行許可を得て撮影
レンズ補正あり
■使用機材 SONY Airpeak(ドローン) + α7CR + FE 16mm F1.8 G
■撮影環境 f11 1/320秒 ISO100
※撮影地の飛行許可を得て撮影

F1.8の大口径が描き出す、新たな夜景

F1.8という大口径の真価は光がほとんど存在しない世界で発揮されます。この一枚は、天空からFE16mm F1.8 Gで、人物を除き月明かりのみで撮影した作例です。

天空からの夜間撮影は、地上のそれとは全く異なる次元の難しさを伴います。
多くのドローンは、機体下部のカメラで地面の模様を認識し、自らの位置を精密に保つ「ビジョンポジショニングシステム」によって、安定を保っています。しかし、光のない夜間では、このシステムはその機能を失い、ドローンはGPSのみに頼ることになるため、昼間のような安定感を保つことが難しくなります 。そのため夜間の飛行は厳しく制限されており、特別な技量と許可が必要になります。
常に微細な動きが伴うドローン撮影において、この安定感の低下は、長秒露光をさらに困難なものにします。

そのため、月明かりのようなわずかな光を捉えるには、シャッタースピードを下げることが出来ず、ISO感度を上げるという選択肢しか残されていません 。しかし、皆様もご存知の通り、ISO感度を上げれば上げるほど、ノイズという宿命が待ち構えています。ここで、F1.8という明るさが大きなメリットとなります。F1.8の明るさを持つこのレンズは、ISO感度の上昇を最小限に抑えながら、ブレを許容できるシャッタースピードを確保することを可能にしてくれました 。もしこれがF2.8やF4のレンズであったなら、同じ明るさを得るためにはISO感度をさらに数段上げる必要があり、この作例のようなクリアな空気感と、波や砂の質感は、現代の画像処理技術を持ってもノイズの中に埋もれてしまっていたことでしょう。

このレンズの明るさは、私たちに「不可能」と思われた夜の表現を可能にしてくれます。
それは、天空から撮る私たちだけでなく、例えば手持ちで夜景を撮るといった、すべての写真家にとっての希望の光となるはずです 。

■使用機材 SONY Airpeak(ドローン) + α7CR + FE 16mm F1.8 G
■撮影環境 F1.8 1/4秒 ISO12800 (ノイズ処理あり)
※夜間飛行許可を得て撮影
■使用機材 SONY Airpeak(ドローン) + α7CR + FE 16mm F1.8 G
■撮影環境 f1.8 1/15秒 ISO12800(ノイズ処理あり)
※夜間飛行許可を得て撮影

近い画角のレンズの比較:SILKDRONEの視点から

私たちSILK DRONEは純正・非純正問わず、様々なレンズをテストしています。
純正の超広角では「FE 14mm F1.8 GM」及び「FE 20mm F1.8 G」が私たちの作品作りを支える重要な2本でしたが、FE 16mm F1.8 Gの登場は、私たちに「性能」とは何かを、改めて問い直させてくれました。
それは、単なる解像力や収差の少なさだけではない「現場での実践力」という、もう一つの重要な指標です。

特徴 FE 20mm F1.8 G FE 16mm F1.8 G FE 14mm F1.8 GM
質量 373g 304g 460g
フィルター径 67mm 67mm 対応なし(リアフィルター)
コンセプト 優れた万能性と描写力 機動力と表現の自由度 絶対的な光学性能
実勢価格(2025年9月1日カメラのキタムラ調べ) 139,590円 122,760円 195,030円

FE 14mm F1.8 GM
まさに光学性能の王様です。画面の隅々まで行き渡る圧倒的な解像感 。私たちの積む6100万画素のカメラでのクオリティを究極まで追い込むなら、最高の選択肢であることは間違いありません。
しかし、その絶対的な性能と引き換えに、私たちは常に2つの制約と戦ってきました。1つは重さ、もう1つが、 フロントフィルターが装着できないという、天空写真家にとっては大きな制約です 。
FE 16mm F1.8 Gは、この2つの制約から私たちを解放してくれました。約30%軽いボディは、ドローンの飛行時間を延ばし、標準的な67mm径のフィルターを直接装着できる手軽さは、私たちの表現の自由度を飛躍的に高めてくれました。

FE 20mm F1.8 G
16mm Gと非常によく似た設計思想を持つこのレンズは、描写力、携帯性、操作性のバランスが高いレベルでまとまっています。
では、なぜ16mm Gが必要なのか。
その答えは、圧倒的画角の違い。
20mmが捉える風景が「広い」のだとすれば、16mmが捉えるそれは「雄大」です 。目の前の光景を、よりドラマチックに、より非日常的に切り取りたい。そんな時、16mmの画角は、20mmでは決して手に入らない領域へ導いてくれます。

以上の比較で「どれが優れているか」という単純な話ではありません。
究極の画質を追求するFE 14mm f1.8G Mか、万能な優等生であるFE 20mm F1.8 Gか。それとも、フットワーク軽くフィールドを駆け巡り、新たな表現の扉を開く最新レンズFE 16mm F1.8 Gか。
「どのような撮影体験を求めるか」という、私たち写真家自身の哲学に関わる選択なのだと、そう感じています。

まとめ:このレンズと共に、まだ見たことのない世界へ旅立ってみませんか?

FE 16mm F1.8 Gを手に撮影地へ立った時、私たちはこれが単なる「良いレンズ」ではなく、「極めて巧みに設計されたツール」であることを確信しました。

驚異的な軽さとプロの要求に応える動画性能。そして操作性とフィルターワークの自由度 。これらすべてが見事なバランスで成り立っているレンズです。

これまで重量や機材の制約で諦めていた場所へ、新たな表現の可能性を携えて踏み出す勇気を与えてくれます。それはもはや「妥協」ではなく、「解放」に近い感覚。

あなたも、このレンズと共に、まだ見たことのない世界へ旅立ってみませんか?

写真展REAL PORTRAIT NAGOYA開催

■展示期間:2025年9月18日(木)~9月21日(日)
■展示場所:市民ギャラリー矢田 第一展示室~第七展示室(SILK DRONE 4階第一展示室)
名古屋市東区大幸南一丁目1番10号 カルポート東
■時間:10:00 – 19:00(最終日17:00)

詳細ページ:https://www.neoalfaline.com/real-portrait

 

■写真家:SILK DRONE
東京カメラ部10選 2023
SILKとmicahの二人組で活動するドローン専門の写真作家。
「まだ見たことのない世界」「法令遵守」をテーマに、産業用ドローン+ミラーレス一眼カメラをメイン機材に使用し、5億画素を超える超大型作品や、斬新な技法を駆使した作品を発表し続けている。
KANIフィルター アンバサダー/Nextorage サポーター

個展
2025 「星と契約した日」
2024 「天空写真家がリアポS一部屋貸し切って個展をやってみることにした」
2022 「UNTITLED」

 

 

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