佐藤俊斗 × ポーレートVol.18|光と余白でつくるポートレート
はじめに
こんにちは。フォトグラファーの佐藤 俊斗です。
今年もあっという間に1年が終わりそうですね。
今回の撮影では、その場にある光や空気の変化を丁寧に観察しながら、ひとつひとつのカットを積み上げるような感覚で進めました。
写真を綺麗に撮るだけなら、今は技術も情報も揃っていて正解のようなものはいくらでも見つかります。
ただ、目の前の人が持っている温度や静けさ、仕草のクセや佇まいまで写したいと思うと、撮影のテクニックだけでは届かない部分が出てきます。
僕は撮影前に必ず「どうしたら、この人らしさが一番自然で、より魅力的に見えるか」という問いを置いてから現場に立ちます。
その問いがあると、光の選び方や立ち位置、距離感の取り方が変わってくるからです。
どの環境でもまず何を見るべきかがはっきりするので、構成の軸が安定しやすいでしょう。
今回は〈ヘルシー×自然光〉〈色気×クリップオンストロボ〉〈ファッション×モノブロックストロボ〉〈ビューティー× 定常光+モノブロックストロボ〉この4つのシーン別に、意識したポイントを整理しました。
皆さんの撮影でも、光を決めるときの参考にしてみてください。
ヘルシー × 自然光
自然光の撮影では、まず光が一番やわらかく落ちてくる位置を必ず探します。
自然光は刻一刻と変化するため、どこに立つかだけで画のトーンが変わってしまうのが特徴。
窓との距離や角度、モデルさんの姿勢、その全てが影の出方に影響します。


こちらの写真をご覧下さい。僕はこんな風に撮影しました。
白い衣装は光をよく拾うので、光が強すぎると衣装だけが目立ってしまいます。
そのため、“光がそっと触れるくらい”の距離で光を止めることを意識しました。
肌の色が自然に見え、衣装も浮いてこない位置を探しながらモデルさんに少しずつ動いてもらい、光が綺麗に馴染む場所を確認していきました。
大げさな調整ではなく、数センチの差で印象が変わるのでその小さな変化を丁寧に見極めるのがポイントです。



また次の写真をご覧下さい。
寄りのカットは普段70mmのレンズで撮影することが多いのですが、近すぎず遠すぎないこの距離が、その人らしさを捉えやすいのではないかと感じています。
距離が近すぎると表情が固くなったり、また逆に離れすぎると温度感が伝わりにくくなる。
みなさんも同様の経験があるのではないでしょうか?
まずは“自然に会話できる距離”を意識してみていただければと思います。
きっと、その方が持つ空気がふっと現れてきます。
自然光はその場の空気にそっと馴染む光で、写真にやわらかな透明感をもたらしてくれます。
写真の余白を少し広めに取ることで視線の流れが整い、写真の見え方もぐっと変わってきます。
自然光で撮影する時は、自分の立つ位置やどんな距離感で向き合うかなど、その小さな選択だけでも写真の印象は大きく変わります。
色気 × クリップオンストロボ
クリップオンストロボを使ったシーンでは、自然光では作れない“芯のある光”をどう使うかが鍵になってきます。
クリップオンの光は硬く、影のエッジもはっきり出やすいため、影をどのように残すかを決めるだけで仕上がりが変わります。

こちらのシーンでは肌の艶をしっかり出すために、あえて点光源の硬さを活かして撮影してみました。
硬い光って、扱いが難しいと感じられる方も多いですよね。
木目の背景は光を吸収しやすいので、影が重くならないように光の角度を細かく調整しながらライティングを組んでいます。
レタッチでは彩度を抑えて透明感を残しつつ、肌に必要な赤みだけをほんの少し戻しています。
硬い光で撮ると肌が冷たく見えやすいので、“色味で温度を補う”感覚が大切になってくるのではないでしょうか。
画角は35〜50mmで撮影していて、近すぎず遠すぎず、モデルさんの身体の動きがそのまま表情として写る距離感。身体のラインがもっともきれいに見える位置を探りながら、丁寧にフレーミングしていきました。
クリップオンの光は直進的なので、どうしても扱いにくいと感じますよね。
ただ、その癖をあえて表現として使うことで、写真に“抜け”が生まれるので個人的にはそこが面白い部分だと思っています。
ファッション × モノブロックストロボ
ファッションのカットでは、自然光とストロボをどう共存させるかがポイントです。
右からの自然光をベースにしつつ、反対側へアンブレラをつけた1灯を弱めに添えることで、左側の影を整えています。
光を「足す」ではなく「補う」という意識です。

自然光が作る表情の柔らかさを壊さないためには、ストロボの光を必要以上に当てないことが重要。
ストロボの出力を下げ、自然光の延長線にあるような柔らかい質感を目指しています。
白壁からの反射も合わせて、影の角を和らげることを意識しました。
ストロボを強くするとコントラストが上がり不自然な光になってしまうので、自然光のトーンに合わせながら影の濃さだけコントロールするのがコツです。

寄りのカットでは、自然光とストロボのキャッチがどちらも入ることで、目元がより立体的に見えるようになります。
これは他の撮影でも大切にしているポイントで、キャッチの位置や大きさだけでも表情の印象が大きく変わります。細かい部分ですが、ここにこだわるだけで仕上がりがかなり変わるので、ぜひ意識してみてください。
自然光がつくる明るさや陰影をまず見て、その上で足りない部分だけをストロボで補うと、光がきれいに馴染みます。
ビューティー × 定常光 + モノブロックストロボ


この日はビューティーのカットも撮影してみました。
皆さんがビューティー撮影のときは、最初にどの光から組み立てていらっしゃいますか?
自分の場合は 「どこに立体感をつくるか」 を軸に光を足していくことが多いです。
今回は定常光とストロボを組み合わせたミックス光で、より細かくコントロールしながら光を組んでいくスタイルで撮影しました。
このカットでは、陰影が美しい広告写真のような質感をイメージしていたので、まずは定常光でベースの明るさと肌の質感を整えていきます。そのうえでハレ切りを使い、「どこを切るか」「どこに影を落とすか」を決めていきました。
影の位置を先に決めてしまう方が、画のメリハリを出しやすいですよね。
背景を白く飛ばしながら輪郭をきちんと分離させるために、背景側にはストロボを2灯配置しています。
光が硬くなりすぎないようアンブレラを併用して、背景に均一に光が回るよう距離と照射範囲を微調整しました。
黒い衣装は影の角度ひとつで雰囲気が重たく見えがち。
光の角度を数センチずつ動かしながら、もっとも綺麗にハイライトが入る位置を探っていきました。
強く芯のある光を使う時ほど、表情自体も硬く見えてしまうので、モデルさんへの声掛けも意識して撮影できると、より質の高い作品になります。
おわりに
今回は、光・影・距離・余白の扱い方について解説しました。
技術だけで成立させるのではなく、どこを意識して撮るかを明確にすると写真全体の雰囲気がまとまりやすくなります。
今回ご紹介した自分自身の拘りが、皆さんの撮影の中で何か一つでもお役に立てると
嬉しいです。
ぜひ現場で試してみてください。
■モデル:涼那
■写真家・フォトグラファー:佐藤俊斗















