画期的なスペックを軽やかに実現|シグマ 20-200mm F3.5-6.3 DG Contemporary

鹿野貴司
画期的なスペックを軽やかに実現|シグマ 20-200mm F3.5-6.3 DG Contemporary

世界初のスペックを小型軽量で実現

シグマといえばラインナップは単焦点レンズや大口径レンズが目立ち、正直高倍率ズームの印象が薄かった。しかし2025年2月、新しいビジュアル・アイデンティティーを採用するのに合わせ、APS-C専用の16-300mm F3.5-6.7 DC OSを発表。会社のロゴから製品に刻まれるフォント、カタログ、商品のパッケージまで何もかも一新される記念すべき日に、超望遠ズーム・300-600mm F4 DG OSとこの高倍率ズームを発表してきたことに特別な意気込みを感じた。

このフルサイズ版が出たらいいなぁ…と思っていたら「シグマ 20-200mm F3.5-6.3 DG | Contemporary」(以下・本レンズ)という、まさかのワイドに寄せた高倍率ズームをリリースしてきた。20mmスタートのフルサイズ用ズームはいくつかあるが、望遠端をここまで伸ばしたものは過去に例がない。しかもLマウント版では最大径は77.2mm、全長は115.5mmとコンパクト。フィルター径は72mmだ。同じLマウントで比べると16-300mmより3.4mm太いものの、5.9mm短い。そして重量は65gも軽い550g(Eマウントは540g)だ。20mmスタートのフルサイズ用高倍率ズームがこんなに小さく作れることに驚かされた。

※世界初:広角端20mmと10倍ズームの両立を実現したフルサイズ用高倍率ズームレンズ( 2025年9月時点、Sigma社調べ)

インナーフォーカスでAFも快適

Contemporaryラインの製品ではあるが、シグマらしく作りは上質。望遠端では鏡筒が約7cm伸びるが、ガタつきはない。ズームリングもトルクが重めなものの、動きそのものはスムーズだ。ちなみにズームリングにはロックスイッチが設けられているので、カメラを下向きにしても鏡筒が自重で下がることはない。またズームは繰り出し方式であるものの、AF駆動にはリニアモーターHLAを採用しインナーフォーカスという構造もあって、音もなく高速で合焦する。

■使用機材:ソニーα7R IV + シグマ 20-200mm F3.5-6.3 DG | Contemporary
■撮影環境:シャッター速度1/125秒 絞りF6.3 ISO200 焦点距離180mm
■使用機材:ソニーα7R IV + シグマ 20-200mm F3.5-6.3 DG | Contemporary
■撮影環境:シャッター速度1/200秒 絞りF5.6 ISO100 焦点距離56mm

本格的にスポーツや乗り物を撮るようなズームレンジではないが、AF自体はしっかり追従。寄りと引きが一本で撮れるという点で、たとえば運動会といった用途ではありかもしれない。

ズームレンジだけでなく寄れるのも魅力

実際に使ってみると、ああ、こういうレンズが欲しかった……とうれしい気持ちになった。これまで仕事や私事でさまざまなレンズを使ってきた中で、利便性は間違いなく3本の指に入る。もうちょっと引きが撮れたら……とか、もっと寄りたいのに……ということが、ふつうに撮り歩いている限りは皆無といってもいい。さらにハーフマクロ機能がさらにその利便性を高めている。20mmでの最短撮影距離は25cmだが、28mmから85mmの間で撮影倍率0.5倍のハーフマクロになるのだ。

■使用機材:ソニーα7R IV + シグマ 20-200mm F3.5-6.3 DG | Contemporary
■撮影環境:シャッター速度1/160秒 絞りF5.6 ISO100 焦点距離56mm

広角端でレンズ先端ギリギリまで寄れたり、望遠端では倍率を高く写せるズームレンズはたくさんあるが、常用域で最大撮影倍率を高めるというアイデアは素晴らしい。写真を撮る人がどんな機能を求めているか、しっかりユーザーの声を聞き、社内の人たちも写真に親しんで実感しているのだと思う。

■使用機材:ソニーα7R IV + シグマ 20-200mm F3.5-6.3 DG | Contemporary
■撮影環境:シャッター速度1/80秒 絞りF5.6 ISO320 焦点距離66mm

実はこのレンズをお借りしていた間、別件でシグマ会津工場を見学させていただく機会を得た。想像以上の手間をかけて、丁寧に一本一本のレンズを製造していたのが印象的だった。上の写真は玄関に飾られていた過去の製品たちだが、前ボケも後ボケも良好だ。

■使用機材:ソニーα7R IV + シグマ 20-200mm F3.5-6.3 DG | Contemporary
■撮影環境:シャッター速度1/2000秒 絞りF5.6 ISO100 焦点距離69mm

シグマならではの素晴らしい描写性能

描写もまったくといっていいほど欠点がない。もちろんカメラ側での補正が効いているのだろうが、超広角でも歪曲収差は見られないし、周辺光量の低下もおだやかだ。シグマ製品らしく逆光にも強いし、何よりピントの合った部分が、シャープでありながらとても繊細。それが質感の素晴らしい再現・表現につながっている。どうしても大きなボケが必要でなければ、出掛けるときのレンズはこれ一本でいいんじゃないだろうか。とりわけ移動や環境がハードな旅では、その軽快さが大きなアドバンテージになるはずだ。

唯一残念な点を挙げれば、手ブレ補正機構が搭載されていないこと。僕が使っているソニーα7シリーズはボディ内手ブレ補正が搭載されているものの、正直そこまで効きは強くない。またコンパクトな本レンズはシグマのfp・fp L・BFにもマッチすると思うが、この3機種にはそもそもボディ内手ブレ補正が搭載されていない。

大きさや価格、画質などに影響があるのだろうが、このスペックであればぜひ搭載してほしかった。手ブレしやすい望遠域はもちろんのこと、広角域でも手持ちで室内や夜景が撮れるメリットは大きい。これは将来出るかもしれないII型に期待しよう。

■使用機材:ソニーα7R IV + シグマ 20-200mm F3.5-6.3 DG | Contemporary
■撮影環境:シャッター速度1/500秒 絞りF8 ISO100 焦点距離20mm
■使用機材:ソニーα7R IV + シグマ 20-200mm F3.5-6.3 DG | Contemporary
■撮影環境:シャッター速度1/400秒 絞りF8 ISO100 焦点距離69mm
■使用機材:ソニーα7R IV + シグマ 20-200mm F3.5-6.3 DG | Contemporary
■撮影環境:シャッター速度1/400秒 絞り6.3 ISO500 焦点距離183mm

強力なライバルの存在……

ちなみに同じく手ブレ補正は未搭載なものの、Eマウントではタムロンの28-200mm F2.8-5.6 Di III RXD(A071)という強力なライバルが存在する。僕も発売日に購入し、しばらくは仕事の9割以上をこのレンズで撮影していた。

その後、2024年に望遠側が伸びて手ブレ補正も内蔵した28-300mm F4-7.1 Di III VC VXD(A074)が登場。僕もそちらに買い替えたが、シグマが本レンズを発表した直後、A071もリニューアル版の25-200mm F2.8-5.6 Di III VXD G2(A075)を開発発表している。

F2.8の明るさはそのままで広角端が28mmから25mmに広がるという、これもなかなか魅力的なスペックだ。逆にいえば半段の明るさが気にならなければ、5mm広い本レンズにアドバンテージがあるともいえる。

■使用機材:ソニーα7R IV + シグマ 20-200mm F3.5-6.3 DG | Contemporary
■撮影環境:シャッター速度1/320秒 絞りF8 ISO100 焦点距離22mm
■使用機材:ソニーα7R IV + シグマ 20-200mm F3.5-6.3 DG | Contemporary
■撮影環境:シャッター速度1/400秒 絞りF8 ISO400 焦点距離53mm
■使用機材:ソニーα7R IV + シグマ 20-200mm F3.5-6.3 DG | Contemporary
■撮影環境:シャッター速度1/500秒 絞りF6.3 ISO100 焦点距離200mm

まとめ

もともと高倍率ズームというジャンルはタムロンが得意とし、シグマもカメラメーカー各社も意欲的とはいえなかった。そこにシグマは満を持して挑んでいるように見えるし、タムロンもどうぞ受けて立ちますよ、という王者の風格を感じるのは僕だけだろうか。

もちろんLマウントならパナソニック、Eマウントならソニーという選択肢もあり、いざ高倍率ズームを買おうとするとかなり迷うかもしれない。ただ現状では本レンズのバランスの良さが抜きん出ており、旅行や散策にカメラとレンズ1本で身軽に出掛けたい、という人には最良の選択だと思う。とくに高倍率ズームに今まで関心がなかった人に、機会があれば一度試してほしい。そんな画期的なレンズだ。

 

 

■写真家:鹿野貴司
1974年東京都生まれ。多摩美術大学美術学部二部映像コース卒。さまざまな職業を経て、広告や雑誌の撮影を手掛ける。著書『いい写真を取る100の方法』が玄光社から発売中。公益社団法人日本写真家協会会員。

 

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