シグマ 35mm F1.4 DG DN Art レビュー|圧倒的な描写性能でムービー撮影も楽しい!

水咲奈々

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はじめに

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 シグマのArtラインに新しく加わった「35mm F1.4 DG DN | Art」。2012年に登場して、圧倒的に高レベルな描写性能を讃えられてArtラインの価値基準を築いた「35mm F1.4 DG HSM | Art」を、新たにミラーレス専用設計として再構築した、新生Art 35mm F1.4レンズです。今回は、本レンズをポートレートのスチールとムービーでレビューいたします。

小さな背面液晶でも感じられる高性能設計

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■撮影機材:SIGMA fp L + 35mm F1.4 DG DN | Art
■撮影環境:f/1.4 1/320秒 ISO400 WB:5000K
■カラーモード:ポートレート
■モデル:深澤胡桃

 シグマのArtラインと言えば、高度な光学性能を駆使して設計し、豊かな表現力で被写体をさらに魅力的に描き出すことに注力して開発された、アーティスティック・ラインのレンズです。噛み砕いて言ってしまうと、収差や色にじみ、フレアやゴーストのない、ボケ味の綺麗な画を作り出してくれるということです。そのようなレンズはシャッターを押した後、カメラの小さな液晶画面を見ただけでも、ハッと息を呑まされることが多いです。

 本レンズも、スタジオのデザイン照明を入れたカットを撮影した後に、その光の表現の美しさに息を呑まされました。変わったデザインのガラスの器の中で乱反射するオレンジ色の光と、それを映して細かく光るモデルのラメ入りの衣装、背景のボトルや蛇口などは丸ボケとして写り込んで、奥行き感を演出してくれます。

 「光学性能最優先」というArtラインのコンセプトで設計された本レンズは、SLD2枚、ELD1枚、FLD1枚、非球面レンズ2枚の11群15枚のレンズが採用されています。最新のレンズと硝材を採用しているので、カメラ側で補正できない軸上色収差を中心に補正し、F1.4の大口径レンズながらサジタルコマフレアを抑制してくれます。点光源の描写性能を問われる星景・夜景撮影でも、絞り開放での撮影に耐えられる高性能な設計なのが特徴です。

ポートレート・ショート・ムービー

■撮影機材:SIGMA fp L + 35mm F1.4 DG DN | Art
■カラーモード:ポートレート
■モデル:深澤胡桃
三脚使用

 今回は、日常のひとコマのようなムービーを作成しました。35mmの標準画角を活かして、どのようなシチュエーションで何をしているかが見える、Vlog的な仕上がりになっています。編集中に特に気に入ったのが、ロングのカットで左手前にある茶色いボトルの丸ボケと、湾曲デザインが美しい蛇口の丸ボケでした。この光のお陰で、リアルがほんの少しだけアンリアルに感じられて、日常的でありながら「少し素敵な日常のワンシーン」に、ムービーのイメージをランクアップすることができました。

自然で馴染みの良いボケ

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■撮影機材:SIGMA fp L + 35mm F1.4 DG DN | Art
■撮影環境:f/1.4 1/320秒 ISO400 WB:5000K
■カラーモード:ポートレート
■モデル:深澤胡桃

 35mmという画角は背景を広く写し込んでくれるので、ボケていてもどのようなシーンかがうっすらとわかる、ドラマ的なポートレートを撮ることができます。

 このように背景に縦横のラインが多いシーンでは、ボケ味が雑だと全体にうるさいイメージになってしまうことがあるのですが、F1.4の自然で馴染みの良いボケは、抑えた良いムードの背景を作り出してくれています。左手前の前ボケは、椅子の背を使っています。

 ピントの合っているところの切れ味はもちろん、画面隅々まで綺麗に描き切ってくれているので、見ている人が他の情報に惑わされることなく、主役のモデルに目が行くポートレートを撮ることができます。

 構図の中央でも周囲でも収差や色にじみがあると、見ている人の目がそちらにズレてしまって、モデルの主役力が低い画になってしまうことがあります。ポートレートを撮るレンズとしては致命的です。その点、本レンズはファーストカットから安心して撮影できました。

難しい体勢でも撮影しやすいコンパクトボディ

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■撮影機材:SIGMA fp L + 35mm F1.4 DG DN | Art
■撮影環境:f/1.4 1/250秒 ISO2000 WB:5000K
■カラーモード:ポートレート
■モデル:深澤胡桃

 撮影場所がキッチンスペースのあるスタジオだったので、昼ドラ風カットも撮ってみました。何気ないカットに見えるかもしれませんが、ほふく前進に近い、かなり低くて維持が難しい体勢で撮影しています。

 背景に棚があって横にも壁があるシーンなので、なるべく水平垂直を保って見た目に自然な画にしたくて、モデルのおへそくらいの位置にカメラを構えています。真っ直ぐにしゃがむと背中が痛くなる姿勢なので、足を横に流して肘をついて上半身を支える、下手したらモデルさんが吹き出してしまうような格好になっていました。

 このとき、レンズが大きすぎると、長時間支えるのはかなり困難になります。本レンズの最大径は75.5mm、長さは109.5mm、重さは645g(Lマウント)で、ちょうど手のひらで包めるくらいのサイズになります。「SIGMA fp L」のボディが小さいのもあって、難しい姿勢での撮影も無理なく行えました。また、デコボコのないストレートなデザインなので、どこを持っても持ちやすいのも、難しい体勢での撮影のしやすさに繋がりました。

薄暗いシーンでも素早いAF

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■撮影機材:SIGMA fp L + 35mm F1.4 DG DN | Art
■撮影環境:f/1.4 1/250秒 ISO2000 WB:5000K
■カラーモード:ポートレート
■モデル:深澤胡桃

 通常、薄暗い、コントラストの低い場所ではAFの効きは悪くなるのですが、ステッピングモーターを採用したAFは、ストレスなくピント合わせを行えました。最短撮影距離は30cmなので、モデルにぐっと寄って、背景との奥行き感をさらに演出した撮影も可能です。

 それと、筆者個人的にフードの花形のラインが気に入っています。これくらいの長さのレンズだとちょうど手の長さと同じくらいなので、レンズを下から支えて、ほんの少しだけフード先端の波のへこみの部分に指先を掛けて撮影することで、グリップが安定するんです。あまり多く掛けてしまうと写り込んでしまいますが、指先を引っ掛けるだけなら意外と大丈夫です。たとえば、寝ているモデルを上から撮影するときなど、下を向いているレンズを指先で支えるのは、フードの落下防止にもなる、二重の安全策としてお薦めです。

ぜひムービー撮影も堪能していただきたいレンズ

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■撮影機材:SIGMA fp L + 35mm F1.4 DG DN | Art
■撮影環境:f/1.4 1/250秒 ISO4000 WB:5000K
■カラーモード:ポートレート
■モデル:深澤胡桃

 今回、ポートレートのスチールとムービーを両方撮影しましたが、ムービーの撮影がいつもより楽しかったことが印象に残りました。自分の肉眼に見えている画と同じような画角なのですが、この目では見えない丸ボケや、ピント面からボケの綺麗なグラデーションが映像となって仕上がるのは、スチールでは慣れていることでしたが、動きのあるムービーだとまた一味違った感動になりました。本レンズを手に入れたら、ぜひスチールとムービーの両方で堪能していただきたいです!

■写真家:水咲奈々
東京都出身。大学卒業後、舞台俳優として活動するがモデルとしてカメラの前に立つうちに撮る側に興味が湧き、作品を持ち込んだカメラ雑誌の出版社に入社し編集と写真を学ぶ。現在はフリーの写真家として雑誌やWEB、イベントや写真教室など多方面で活動中。興味を持った被写体に積極的にアプローチするので撮影ジャンルは赤ちゃんから戦闘機までと幅広い。日本写真家協会(JPS)会員。

「35mm F1.4 DG DN | Art」はこちらの記事でも紹介しています

■シグマ 35mm F1.4 DG DN Art レビュー|7:6で表現する映像と写真
https://www.kitamura.jp/shasha/article/482150097/

■シグマ 35mm F1.4 DG DN Art|三井公一
https://www.kitamura.jp/shasha/article/481461688/

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