作家の記憶を呼び起こすカメラ、PENTAX K-3 Mark III Monochromeで変わりゆく都市風景を写す

新納翔
作家の記憶を呼び起こすカメラ、PENTAX K-3 Mark III Monochromeで変わりゆく都市風景を写す

K-3 Mark III Monochromeで撮る都市風景

モノクロしか撮れない究極のストイックカメラ、PENTAX K-3 Mark III Monochrome。しかし特化しているからこそ高感度におけるデティールの美しさ、センサーサイズを超えた解像感と、出てくる絵は常識を突き抜けている。カラー画像を得るために必要なデモザイク処理がないことで、ここまで画質が変わることに筆者も驚かされた。

今回はカメラとしてのK-3 Mark III Monochromeの話より、作品を生み出す道具としての話をしたい。

写真点数も多めなのでフォトギャラリーのように観ていただければと思う。

かれこれ20数年、横浜から品川あたりの国道沿いを撮り続けている。最初は国道一号線沿いの景色をメインに撮影していたが、今は移り変わる様子を撮りにその日の気分で鶴見に行ったり、川崎から横浜まで撮り歩いたりと週に最低2回はでかけている。

最初は大学生の頃、定期券があるからと撮り始めた記憶がうっすらあるが、今では写真ライフに欠かせないルーティンワークとなっている。どんな名のない場所でも数日空けると変化はある。そういうことに気づけるのが写真をやっている者の特権であり、取り逃した際の悔しさを背負うことにもなるのだ。

写真の持つ記録性がゆえに、一度撮ってしまうと定点観測を始めてしまう。あの空き地どうなったのだろう、あそこにあった解体されそうなビルはまだ残っているのだろうか・・・と。

そうやって辞め時を見失って今でも撮っているのだと思う。今回はそのシリーズをK-3 Mark III Monochromeで撮影した。

最初にこのシリーズを作品として発表したのは2006年。四谷三丁目の写真家・中藤毅彦氏がオーナーを務めるギャラリー「ニエプス」にて、筆者の初個展である。

「道脈」と名付けたそのシリーズは、カメラはデジタルになったがおそらく一生撮るのだろうなと思っている。

当時はモノクロフィルムを6本ほどカバンに入れて、てくてくと国道をひたすら歩いていた。ISO100のアクロスをメインに使っていた為、日が暮れると家に帰ってお風呂場で現像し、申し訳程度の自家暗室でベタ焼きをとったものだ。

都心にいればたいていの人は電車で移動する。しかしその中で車窓を眺め、街の様子に気を留める人はどの程度いるだろうか。特に今のようなスマホ時代、皆下を向いて仮想空間に繋がっている。

自分を含め都市風景を撮るものは、せめて自分だけでも街としっかり対峙しようと思っているはずだ。

各駅停車しか止まらない小さな駅で降りると、そこには面白い景色があちこちにある。そう気づくと、車窓に流れていく景色の中に宝物がたくさんあるように感じてくるのだ。

それと同時に主要駅では新しい駅ビルが建ったりしている。メディアでも目にするが、その途中にある景色はどこかないがしろにされているように感じるようになった。なんというか景色の格差があるような。

2006年の初個展会場に貼ったキャプションが今でも残っている。

今や自動車社会のもとで、かつて点と点を結ぶ線であった街道も、点と点だけを残して消えようとしている。しかし、今その現在の街道にはなんともいえぬ雰囲気がある。いや雰囲気ではない、臭いだ。取り残されたような街に、よそ者を拒絶さえしているかのような臭いを感じる事が有るのである。そこの人がというよりも、それ自体がそうなのだ。大概において街道というものには、一方通行だからという明確な理由ではないけれど流れが有る。そういう街道に身を置くことが心地よい。何故だか分らないけど、自分と同じ境遇なのかと思ってみたりする。
(原文ママ)

その後、山谷・築地市場と消えていく景色を撮ることになるのだが、その根幹がここにあるのだと思う。消えてなくなって、いつしか人々の記憶からも消えてしまってもせめて写真に残すことはできる。

JR鶴見線の国道駅もいつまで撮れるかは分からない。昭和を色濃く残した空間、いつもタイムスリップした感覚を覚える。ただ構内の店もどんどんなくなっていき、老朽化も見られるので時間の問題かもしれない。

いまやAIで存在しない景色を自動生成できる時代、写真というのは誰しもが刻々と変わりゆく景色を記録できる素晴らしいものだと改めて思う。

ただ八百屋の日除けが風で揺れるだけで嬉しくなる。写真の本質ってそんなところにあると思ったりする。最近ではPhotoshopを使ってデジタル加工した作品を作ったりしているが、やはり身近なものも含め、ドキュメントが写真という気がする。

■新納翔さん作品:https://shoniiro.com/unsustinable

 

作品制作に行き詰まった時、国道に来ると脳をリセットできる。そしてなぜだか風邪も治る。

風光明媚な場所やバエスポットも良いが、自分だけのルーティンスポット探しはオススメだ。写真を始めてある程度するとテーマ探しという壁にぶつかるはず。何かしら根っこのないものは作品にはならない。

その答えは案外身近なところに落ちているものだ。

今回は敢えてカメラの機能的な話はしないで、K-3 Mark III Monochromeで作品を撮るとどのような心境になるかという点に絞って話した。しかしなぜモノクロ専用機が良いのか、どこが違うのか疑問に思われる方がいることだろう。

その答えはデジタル写真における「デモザイク」という処理にあるのだが、それはPENTAX officialにて詳しく解説してあるのでご覧いただきたい。

 

 

■写真家:新納翔
1982年横浜生まれ。麻布学園卒業、早稲田大学理工学部中退。2000年に奈良原一高氏の作品に衝撃を受け、写真の道を志す。2007年から6年間山谷の簡易宿泊所の帳場で働きながら取材をし、その成果として日本で初めてクラウドファウンディングにて写真集を上梓する。2009年から2年間中藤毅彦氏が代表をつとめる新宿四ツ谷の自主ギャラリー「ニエプス」でメンバーとして活動。以後、現在まで消えゆく都市をテーマに東京を拠点として活動をしている。日本写真協会(PSJ)会員。

 

 

関連記事

人気記事