ペンタックス HD PENTAX-D FA★50mmF1.4 SDM AW レビュー|光をリッチに受け止める魅惑の標準レンズ

鹿野貴司
ペンタックス HD PENTAX-D FA★50mmF1.4 SDM AW レビュー|光をリッチに受け止める魅惑の標準レンズ

イントロダクション

PENTAXが初のフルサイズ機・K-1を投入した後、それに対応するレンズとして投入したのが今回取り上げるHD PENTAX-D FA★50mmF1.4 SDM AWだ。2018年7月発売と決して新しいレンズではないが、ペンタキシアン垂涎のスターレンズとあって、新品・中古とも今なお人気がある。

かくいう僕もPENTAX K-1 Mark IIで愛用しているが、実際には910gという重さもあり、積極的に持ち出せないでいる。なにせK-1 Mark IIと合わせるとほぼ2kg。今日はこれで撮るぞ!と自分自身に気合いを入れないと、心(と足腰)が折れそうになる。ただし構えたときのバランスは良好。このあたりのデザインは、長い歴史ゆえの巧みさを感じさせる。

光学性能優先の贅沢な設計

かつて標準レンズといえば4群6枚といったダブルガウスタイプが主流で、小型軽量、明るくてよく写るというのが相場だった。しかし2010年頃から、レトロフォーカスタイプの大柄な標準レンズが各社から競うように登場している。このレンズも異常低分散ガラス3枚、非球面レンズ1枚を含む9群15枚で、手にするとレンズがぎっしり詰まっているのがわかる。レトロフォーカスタイプはダブルガウスタイプに対して収差が少なく、とりわけ隅々までシャープという利点がある。

なおこのレンズが発売された後も1991年発売のsmc PENTAX-FA 50mmF1.4(もちろんダブルガウスタイプ)が併売されていたが、2023年になんとそれをリニューアル。光学系はそのままで、外装やコーティングを新たにして発売した。しかも最新のHDコーティングを施したHD PENTAX-FA 50mmF1.4と、逆光で虹色フレアが現れるsmc PENTAX-FA 50mmF1.4 Classic、なんと2バージョンを同時にリリースしている。このHD版とsmc版はどちらも絞り開放では薄いベールを1枚隔てたような優しい写りをする。対してHD PENTAX-D FA★50mmF1.4 SDM AWは絞り開放からキレ味が鋭く、すっきりとクリアな描写をする。

■使用機材:PENTAX K-1 Mark II + HD PENTAX-D FA★50mmF1.4 SDM AW
■撮影環境:シャッター速度1/320秒 絞りF1.4 ISO200
■使用機材:PENTAX K-1 Mark II + HD PENTAX-D FA★50mmF1.4 SDM AW
■撮影環境:シャッター速度1/200秒 絞りF5.6 ISO100

立体感のある描写

現行ラインナップで3本もの50mmF1.4が存在し、どれを買うか迷うペンタキシアンも多いと思う。安さや軽さが優先だったり、ズームレンズがメインだけど単焦点も欲しいというのならHD PENTAX-FA 50mmF1.4だろう。しかしボケ味や立体感が欲しい、単焦点レンズの醍醐味を味わいたいというのなら、断然HD PENTAX-D FA★50mmF1.4 SDM AWだ。

絞り開放からシャープなのは先に触れたが、拡大するとカリカリというわけではなく、ごくごくわずかに収差が残っている。それがピントを合わせた部分から外れていくにつれて、美しいボケ味となっていく。そして立体感や奥行き感につながっていく。この収差は設計者がきっと味として意図的に残したんだろうな、撮影した写真を見るとそんなことを勝手に思う。

■使用機材:PENTAX K-1 Mark II + HD PENTAX-D FA★50mmF1.4 SDM AW
■撮影環境:シャッター速度1/800秒 絞りF1.4 ISO400

1~2段絞ったあたりがおいしい

防塵防滴構造や、AF駆動に内蔵の超音波モーター(SDM)を採用している点もこのレンズのアドバンテージだ。他の2本はカプラーを介してボディー側のモーターで駆動させる旧式で、この点は人気のあるLimited3兄弟も同じだ。

そんなF1.4で何でも撮りたくなるが、実際には1~2段絞ってキレが増したところがもっともおいしいと思う。僕の主な撮影フィールドは街角だが、そこでこのレンズを使うなら2段絞ったF2.8を軸にしている。ピントが極端に浅すぎず、かといってパンフォーカスで平面的にもならず、主題の前後になだらかなボケが生まれる。もちろんボケが足りないと感じれば絞りを開けるし、反対に遠景や深いピントが欲しいときはF4~5.6へ絞る。もちろんこれは好みや撮影ジャンルによって変わってくる。たとえばポートレートなら1段開けてF2を軸にすればおもしろい。

■使用機材:PENTAX K-1 Mark II + HD PENTAX-D FA★50mmF1.4 SDM AW
■撮影環境:シャッター速度1/160秒 絞りF2.8 ISO200
■使用機材:PENTAX K-1 Mark II + HD PENTAX-D FA★50mmF1.4 SDM AW
■撮影環境:シャッター速度1/640秒 絞りF2.8 ISO200

APS-Cフォーマット機で使うのもアリ

ちなみにポートレートといえば、APS-Cフォーマット機に装着すれば76.5mm相当の中望遠レンズ、すなわち極上のポートレートレンズになる。とりわけPENTAX K-3 Mark IIIならAF性能や連写速度も含めてK-1 Mark IIより基本性能が高く、機動力もあるので合理的な選択だと思う。

また最短撮影距離も40cmと、一般的な50mmF1.4より5~10cm短い。ほんの5cmというなかれ。よりクローズアップできるだけでなく、最短撮影距離+絞り開放ではピントが紙のように薄いため、見え方も大きく変わってくる。さらにAPS-Cフォーマット機であれば、フルサイズ機より拡大気味に写すこともできる。

というわけで、K-3 Mark III Monochromeで1964年製・初代Super-Takumar 50mmF1.4を撮ってみた。同じペンタックスの50mmF1.4でも、初代Super Takumarは光をとても柔らかく捉える。そこでこのカットもあえて低光量の淡いライティングをしてみた。K-3 Mark III Monochromeは高感度のノイズがフィルムの粒子のような役割を果たし、美しいトーンを織りなす。

■使用機材:PENTAX K-3 Mark III Monochrome + HD PENTAX-D FA★50mmF1.4 SDM AW
■撮影環境:シャッター速度1/200秒 絞りF2.8 ISO6400

逆光に暗所、厳しい光線状況で真価を発揮

独自開発のエアロ・ブライト・コーティングIIを採用しており、HDコーティングと併用することでゴーストやフレアを抑制。逆光に強い点もプラス要素だ。

■使用機材:PENTAX K-1 Mark II + HD PENTAX-D FA★50mmF1.4 SDM AW
■撮影環境:シャッター速度1/320秒 絞りF2.8 ISO200

しかしながらこのレンズは晴れて光があるシチュエーションよりも、日陰や曇天など光が淡いときに真価を発揮すると思う。大口径レンズとは本来そういうものではあるが、メリハリがありながらしっとりと、ときには湿度をまとったような描写をする。K-1 Mark II自体がそのような絵作りをするカメラでもあるのだが、その個性をこのレンズが存分に引き出している。

■使用機材:PENTAX K-1 Mark II + HD PENTAX-D FA★50mmF1.4 SDM AW
■撮影環境:シャッター速度1/1000秒 絞りF1.8 ISO200
■使用機材:PENTAX K-1 Mark II + HD PENTAX-D FA★50mmF1.4 SDM AW
■撮影環境:シャッター速度1/320秒 絞りF2.8 ISO200

マウントアダプターでミラーレスにも

では他のカメラに装着したときはどうなのだろうか。僕はかねてからこのレンズが他社のミラーレスカメラでも使えたらいいのに…と考えていた。このレンズは電磁絞りを採用する(=絞りリングがない)KAF4マウントのため、形状を変更するだけの筒状のマウントアダプターでは開放絞りとマニュアルフォーカスでしか撮影できない。

しかし今はソニーEマウントやニコンZマウントのカメラで、KAF4マウントレンズの絞り制御やオートフォーカスを可能にする「モンスターアダプター」がある。 そのソニーEマウント用(LA-KE1)を輸入元からお借りする機会を得た。

K-1 Mark II(というか一眼レフ)ではピントの精度に限界があり、絞り開放付近ではかなり神経質になってしまう。しかし撮影するセンサーが測距のセンサーにもなるミラーレスであれば、自分か被写体が動かない限りは原理的にピンボケがない。

■使用機材:ソニーα7R IV + MonsterAdapter LA-KE1 + HD PENTAX-D FA★50mmF1.4 SDM AW
■撮影環境:シャッター速度1/8000秒 絞りF1.4 ISO100
■使用機材:ソニーα7R IV + MonsterAdapter LA-KE1 + HD PENTAX-D FA★50mmF1.4 SDM AW
■撮影環境:シャッター速度1/250秒 絞りF1.4 ISO160

今回ソニーα7R IVで撮影したが、オートフォーカスの速度や挙動はK-1 Mark IIよりやや遅いかなという程度。ピント精度はやはりというか、K-1 Mark IIより良好だった。マウントアダプターを介するぶん全長は長くなるものの、構えたときのバランスも悪くない。もちろん描写はソニーのミラーレス機でも惚れ惚れとするほどだった。

■使用機材:ソニーα7R IV + MonsterAdapter LA-KE1 + HD PENTAX-D FA★50mmF1.4 SDM AW
■撮影環境:シャッター速度1/400秒 絞りF2 ISO100

まとめ

というわけでソニーEマウントやニコンZマウントのユーザーも、「モンスターアダプター」を介して使ってみる価値があるし、逆にこのレンズをすでに持っているペンタキシアンは、レンズ資産を生かしたミラーレス導入を考えてもいいかもしれない。

もちろんK-1/K-1 Mark IIのユーザーでまだこのレンズを持っていないという人は、ぜひ手にすべき一本だと思う。広角や望遠はジャンルや好みで使用頻度が変わってくるが、50mmはこれ一本で何でも撮れる焦点距離。フットワークやアレンジが必要ではあるが、引けば広角、寄れば望遠やマクロのような使い方ができる。普段ズームに頼っている人には、使うことでレンズワークの鍛錬にもなる。なにより描写が素晴らしく、ファインダーをのぞくだけで撮りたい意欲が湧いてくると思う。

 

 

■写真家:鹿野貴司
1974年東京都生まれ。多摩美術大学美術学部二部映像コース卒。さまざまな職業を経て、広告や雑誌の撮影を手掛ける。著書『いい写真を取る100の方法』が玄光社から発売中。公益社団法人日本写真家協会会員。

 

関連記事

人気記事