ニコン Z 9の最新ムービー性能を試す!【後編】

三井公一

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報道&スポーツ写真から8K/4Kムービーを軽々こなすZ 9

 発表から話題を呼び、全世界で発売されるやいなや大人気で入手難の「ニコン Z 9」。報道やスポーツ大会など過酷な環境でのスチル撮影はもとより、圧倒的な8Kムービー撮影性能でCMや映画制作の現場でも大活躍しはじめています。

 ボクも仕事でスチルにムービーにとバリバリと使用しています。素晴らしいスペックも大事ですが、信頼して使える「仕事の道具」としての安定感がとても気に入っているのです。

2種類の「RAW」を扱えるZ 9

 前回ご紹介したようにZ 9は「N-RAW」と「ProRes RAW HQ」という2種類の12bit「RAW」を記録できるカメラになっています。センサーから得た生データを、対応するアプリケーションを駆使して、ホワイトバランスや露出、そして色味も自在に調整できるのです。しかも「N-RAW」ならば「8.3K/60p」や「4.1K/120p」という驚きのスペックで、外部レコーダーを使わずにボディ内のカードにRAW記録できるのがスゴいですね。映像作品や映画制作もきっとはかどるに違いありません。

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 ファームウェアVer.2.00によってさらに進化したZ 9のムービー性能ですが、詳細な仕様はこちらのニコン公式サイトを参照するといいでしょう。

https://www.nikon-image.com/products/mirrorless/lineup/z_9/movie/

 Z 9の「N-RAW」と「ProRes RAW HQ」を扱うにはパソコン用のアプリケーションが必要となります。ニコン公式サイトではこのように記述されています。

N-RAW対応のソフトはEDIUS X ver.10.32(Grass Valley社製)およびDaVinci Resolve 17.4.6、DaVinci Resolve Studio 17.4.6(Blackmagic Design社製)です。なお、N-RAWを8Kで書き出すためにはDaVinci Resolve Studio ver.17.4.6が必要です。2022年4月14日現在

 こちらの画像は「DaVinci Resolve」での編集画面です。

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 無償版のDaVinci Resolveでも扱うことが可能ですが、8K解像度で書き出すには有料の「DaVinci Resolve Studio」が必須となっています。対して「ProRes RAW HQ」を扱えるソフトは「Final Cut Pro(Apple社製)」がメジャーですね。

 こちらの画像はFinal Cut ProでProRes RAWの調整インスペクタを開いた部分です。このようにISO感度やホワイトバランスを目的に合わせて変更できるようになっています。12bitという豊富なデータ量を持っているため、調整をしても絵が破綻しにくいのがいいですね。

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 とはいえ「RAW」、しかもオーバー8Kのデータを扱うのには、高いスペックのPCが必要となります。データ量も大きいのでストレージも大容量で高速なSSDが必須と言えるでしょう。「RAW」は生データのため、ノイズリダクションやレンズの収差補正などがかかっていないデータになります。それをアプリケーションで調整することが必要になるのです。なにせ「オーバー8K RAW」ですから、トランジションやフィルターをかけるのもマシンパワーがものを言う世界になってきます。

 また、「N-Log」というグレーディング前提の階調でも記録できるので、後述の「LUT」を当てるにも速いPCを使用するに越したことはありません。この卓越した性能を楽しむには周辺の環境整備も大切になってくると言えますね。まさにクリエーター向けのフルサイズミラーレス一眼、という感じです。

 「RAW + N-Log」で撮った映像はコントラストが低く眠いものになっています。それに「LUT」を当てることにより色鮮やかなものに変身します。LUTとは「Look Up Table」のことで、ニコンが開発した「N-Log用 3D LUT」を適用することによってグレーディングすると美しい映像になります。これはニコン公式サイトから無料でダウンロード可能です。

 このように「RAW」や「N-Log」では、制作者が追い込んで自分なりの映像を作り込むことが可能なのです。感性次第でさまざまな表現できることでしょう。

オーバーサンプリング拡張4Kが美しい

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 ボクの現場ではスチルをメインに撮影し、ムービーに適した部分を「8K」や「4K」で記録しています。背面にある「静止画/動画セレクター」をひねるだけで、独立したメニューのムービー機能に切り替えることができるので大変操作しやすいと感じています。

 現在、メインはやはり「4K」となりますが、ここでZ 9の「オーバーサンプリングの拡張」による高解像な「4K/60p」動画が活きてくるのです。画素混合のないオーバーサンプリングなので、よりきめ細かい4Kムービーが撮れるのです。今までは「4K/30p」だけだったのが「4K/60p」「4K/50p」にも対応したのがうれしいですね。キレのある映像は評判いいですよ。

Z 9でのムービー撮影は楽しい!

 というわけでオーバー8Kなどさまざまな解像度とフレームレート、懐深い2つの「RAW」での撮影が堪能できるZ 9ですが、最近はこんな機材構成で撮影しています。スピードと画質を要求される現場が多いので記録方式は「ProRes 422 HQ 10-bit」、階調モード「SDR」、フレームレート「3840 × 2160 60p」で行うことが多いですね。

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■使用機材
カメラ&レンズ:ニコン Z 9 + NIKKOR Z 24-120mm f/4 S + NIKKOR Z 50mm f/1.8 S
バッテリー:Li-ionリチャージャブルバッテリー EN-EL18d
メモリーカード:SUNEAST ULTIMATE PRO CFexpress TypeB Card【pSLC】
三脚&雲台:Leofoto LVM-324C + BV-15
ガンマイク:RØDE VideoMic GO II
スライダー:Zeapon Micro 2
ハンドル:Smallrig
可変NDフィルター:K&F Concept
ステップアップリング:Kenko変換アダプター

カメラ&レンズ:ニコン Z 9 + NIKKOR Z 24-120mm f/4 S + NIKKOR Z 50mm f/1.8 S

 前回ご紹介した「NIKKOR Z 24-120mm f/4 S」は本当に役に立つレンズです。しかも「S-Line」なので写りもバッチリ。これに大きなボケが欲しいときは「NIKKOR Z 50mm f/1.8 S」を使います。これをFX(フルサイズ)とDX(APS-C)、2.3倍とで使い分けます。軽くてコンパクトでキレもバツグンです。

三脚&雲台:Leofoto LVM-324C + BV-15

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 センターポールがない「Leofoto LVM-324C」はサッとローアングル撮影できるのがいいですね。ビデオ雲台「BV-15」のスムーズな動きも撮影を助けてくれます。また、アルカスイス互換なのでカメラの脱着も楽チンです。

 Z 9の液晶モニターはチルト式なので、バリアングル方式のように上方に向けるのに手間がかからず、すぐ撮影に入れるのが気に入っています。

スライダー:Zeapon Micro 2

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 スライダーは手動式のものを使っています。微妙な角度調整が必要な場合は自由雲台を付けて使用しています。Z 9にストラップを付けているのは、スライドするときにストラップを引くと自然な感じにスムーズに動かせるのです。ゴムを使う人もいますがストラップでもOKです。

可変NDフィルター:K&F Concept

 階調モードの「N-Log」を選択するとISO感度が800になります。ですので明るい環境や絞りを開けたい場合には「NDフィルター」が必須となります。前枠を回転させることによって効果を変更できる可変NDフィルターを用意すれば、明るさに合わせて柔軟に対応できるでしょう。また、フィルター径が大きいものを用意して、お持ちのレンズの径に合ったステップアップリングを使用すれば1枚のフィルターを使い回しできますよ。

 Z 9の「N-RAW」で富士山を撮影して、明るく暖かい春のイメージに仕上げてみました。伸びやかな再現性がとても魅力的ですね。

 Z 9はファームウェアVer.2.00でオートフォーカスが機能アップしてさらに良くなりました。ムービーでは12種類の「カスタムワイドエリアAF」を搭載し、きめ細かいエリア指定が可能です。もちろん被写体検出にも対応しているので、さまざまな撮影対象でも正確にフォーカシングし続けます。散歩するネコを撮りましたがしっかりとピントが追従し、手前に草が被るシーンでも正確にネコを捉えています。

まとめ

 ファームウェアVer.2.00でさらに機能アップした「ニコン Z 9」。「オーバー8K」を内部記録できるパワー、2つの「RAW」を選べる柔軟性、そして8K「オーバーサンプリングの拡張」による高解像な「4K」と、表現者の「期待を超えて期待に応える」スゴさが堪りませんね。長く一線で活躍できるフルサイズミラーレス一眼に進化したと言えるでしょう。

■写真家:三井公一
新聞、雑誌カメラマンを経てフリーランスフォトグラファーに。雑誌、広告、Web、ストックフォト、ムービー、執筆、セミナーなどで活躍中。有限会社サスラウ 代表。

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