ニコン NIKKOR Z DX MC 35mm f/1.7レビュー|軽くて寄れる、明るくて表現豊かなレンズ
はじめに
小さくて軽い、それでいてぐっと寄れる。ニコンから、明るくて軽量な標準マイクロレンズ「NIKKOR Z DX MC 35mm f/1.7」が登場しました。DXフォーマット(APS-C)では初となるマイクロレンズであり、単焦点レンズとしては2本目のラインナップになります。同時に「NIKKOR Z DX 16-50mm f/2.8 VR」も登場し、DXシリーズのレンズの選択肢が増えたのは、ユーザーにとっても嬉しいことではないでしょうか。
私自身もZfcを愛用しているので、このマイクロレンズの登場には心躍りました。F1.7という明るさ、軽量さ、そして繊細な描写力など、おすすめできるポイントがいくつかあります。さらに接近撮影だけでなく、標準単焦点レンズ(35mm換算で52.5mm)としても活用できるので、その魅力を実際に確かめるため、Z50IIに装着して様々なシーンを撮影してみました。
日常で持ち歩けるコンパクトさ
Z50IIにNIKKOR Z DX MC 35mm f/1.7を装着しました。

2つを組み合わせても約770gと、負担なく持ち運べるサイズ感です。見た目にもバランスがよく、すっきりとまとまりのある印象です。Z50IIのしっかりとしたグリップのおかげで、実際に持って構えたときに、軽さと安定感を感じます。その安定感があることにより、長時間持っていても疲れにくく、手ブレを抑えることにもつながります。

コントロールリングの幅が広く、ピント合わせがシビアな接近撮影時でもスムーズな微調整が可能です。
フォーカスだけでなく、ISO感度やF値、露出補正を割り当てることもできるので撮影スタイルに合わせたカスタマイズが可能です。私は主にフォーカス調整として活用しています。
また、金属質感を感じさせる素材を組み合わせ、見た目の高級感や堅牢感も備えています。レンズの先端が前方に繰り出さないため、被写体との接触も防ぐことができるほか、チリやホコリが入りづらいという点もおすすめできます。
やわらかなボケと、クリアな描写
DX用として持ち運びしやすくコンパクトなサイズ感ですが、ニコンユーザーとしては、Zマウントレンズ特有の、クリアな描写はどのレンズにも求めてしまいます。

■撮影環境:1/400秒 f/3.5 ISO320
小さな白い花を、マイクロレンズならではの距離感で切り取りました。やわらかなボケ感で背景が溶け込み、主役の花を自然に引き立てています。収差(滲みや歪みなど)の少なさにも満足しました。

■撮影環境:1/400秒 f/1.9 ISO320
室内の柔らかな光が差し込む中で撮影した一枚です。半逆光気味の光を受けながらも、ピントの合った部分はクリアかつシャープ、毛並みの一本一本まで繊細に描写されています。
背景のボケは滑らかで、被写体が自然に浮き立つような立体感があります。開放F値付近の明るさを活かしたやわらかな描写が、リラックスした表情をより印象的に引き出してくれました。
ちなみに、ニコンは実効F値表示です。これは何かというと、最短撮影距離で撮影する場合、f/1.7ではなくf/3.2など実際の明るさで表示されます。被写体に近づけば近づくほど、カメラ内のセンサーに当たる光の量は少なくなるので、どのマイクロレンズであっても必然と暗くなります。f/1.7で撮れないから故障している、というわけではないので安心してください。

■撮影環境:1/1000秒 f/2 ISO320
前ボケを取り入れて、奥行き感を出してみました。ボケ感は大きくやわらかいのですが、想像以上にピント面がシャープな写りをしていました。白飛びを抑えて花びらの質感を出すために、影に咲いている花を選んで撮影しています。
1本で幅広いシーンに対応
等倍相当の接近撮影

■撮影環境:1/500秒 f/5.6 ISO200
等倍相当の最大撮影倍率0.67倍(35mm判換算)なので、思い切り被写体に近づき、迫力のある接写撮影が可能です。

■撮影環境:1/320秒 f/3.5 ISO320
足元に咲いている小さな花も、ぐっと近づいて撮影することにより、肉眼では気付かないような繊細な魅力を引き出すことができるのがマイクロレンズの良いところです。使用するレンズによっては、最短撮影距離で諦めていた被写体にも寄ることができるので、被写体選びの幅が大きく広がります。

■撮影環境:1/400秒 f/2 ISO320
真剣な眼差しを向ける愛猫を、そっと近くから撮影しました。動物に接近して撮影する際に気になるのが、オートフォーカス作動時の駆動音です。フォーカスが迷うとその音に反応してしまい、自然な表情を逃すこともあります。
撮りたいと思った表情を残せたのは、ステッピングモーター(STM)が採用され、静音性が保たれていたからだと思います。駆動音が気になりにくいのは、写真撮影だけでなく動画撮影時においてもフォーカス音が入りづらくなるため大きなメリットといえます。
また、同じシーンでの切り取り方の幅が広がることも、このレンズの特徴です。

■撮影環境:1/160秒 f/2.2 ISO200
標準の単焦点レンズとして切り取ることができるので、テーブルフォト撮影にも向いています。全体の雰囲気を捉えたい場合は、少し距離を取って構図を整えることで、自然な空気感を表現できます。この焦点距離なら、席を立たずにテーブルの上を撮影できるため、カフェなどでも周囲に気を使わずに撮影を楽しむことができます。

■撮影環境:1/100秒 f/4 ISO400
さらにレンズの特性を活かし、被写体に寄って異なるアングルから撮影しました。寄って撮影することで、果実の質感やみずみずしさが際立ち、シズル感のある仕上がりになります。明るいレンズによる浅い被写界深度で、マイクロレンズでありながら立体感のある描写となります。
スナップ/日常撮影

■撮影環境:1/640秒 f/5.6 ISO160
標準の単焦点レンズとしても普段使いができるレンズなので、シーンごとに解説します。
約52.5mm相当のため、自然な遠近感で広がりのある風景を切り取ることができます。空と花畑の細かな色彩も忠実に再現されていて、Zレンズらしさを実感しました。

■撮影環境:1/1000秒 f/6.3 ISO320
少し絞り込んで、解像感をチェックしました。光が当たっている葉や木の部分と、影の部分との階調差が豊かで、それぞれの質感が目で見た時の印象に近く、忠実に再現されています。細部までしっかりと描写されている解像力の高さを感じました。

■撮影環境:1/160秒 f/4 ISO100

■撮影環境:1/2500秒 f/3.2 ISO200
標準画角は、見たままの情景を自然に、心地よく切り取ることができます。Z50II × Z DX MC 35mm f/1.7という組み合わせは長時間の持ち歩きにも向いており、街スナップや旅先でも活躍します。
ふと目に留まり、心が動いた瞬間を自然体な画角で気軽に残すことができる。接近撮影だけでなく、日常の撮影でも使用頻度が上がりそうなレンズです。
ポートレート

■撮影環境:1/2000秒 f/2 ISO100
続いては、明るい標準単焦点レンズの特性を活かしたポートレート作例です。
会話できる距離感で撮影できるため、自然な表情を引き出しやすく、被写体とのコミュニケーションも取りやすいのが特徴です。
逆光で撮影した理由は、露出を調整することで被写体の輪郭にやわらかな光の縁取りを加えることができ、立体感を表現できるためです。開放F値付近で、背景の花畑をぼかすことで、被写体をふんわりと包み込むような描写となっています。
暗所でも活躍する、明るいレンズ

■撮影環境:1/100秒 f/1.8 ISO400
夜、落ち着きたい時にお香を焚くことがあります。間接照明だけを灯して室内で撮影をしました。光量が少ないシーンで、かつ手持ち撮影だとISOを上げる必要がありますが、明るい単焦点レンズのおかげで低いISO感度のままでも明るさを確保することができます。手ブレ補正はカメラ、レンズともに付いていませんが、しっかりとカメラを構え、1/100秒であれば手持ち撮影でも手ブレを起こすこともなく撮影が可能でした。
暗部の階調再現も滑らかで、煙の繊細な揺らぎや空気感が描写されていて、高感度に頼らずとも、明るいレンズが生み出すクリアな描写が印象的な一枚になりました。
まとめ
様々な撮影シーンで使用したことにより、DXフォーマット用のマイクロレンズとして、コンパクトさと性能どちらも備えたレンズであることを実感しています。まず、軽量で携帯性に優れており、気軽に持ち歩くことができます。そして、主役を自然に引き立たせるやわらかなボケ感と、空気感までもしっかりと再現するクリアで忠実な描写を合わせ持っています。接近撮影はもちろん、スナップやポートレート撮影まで、幅広く活躍する1本です。
普段は標準ズームレンズを使っている方の、「次の1本」としてもおすすめできます。様々な焦点距離を1本でカバーして楽しみたい方にとっては、同時期に出ているDX 16-50mm f/2.8 VRがお勧めですが、単焦点の明るくてボケ感のある写真を撮る楽しさを、ぜひ体感してみてください。

■撮影環境:1/800秒 f/5 ISO200

■撮影環境:1/100秒 f/3.2 ISO500

■撮影環境:1/100秒 f/5 ISO400
■フォトグラファー:鎌田風花
兵庫県在住。一般企業への就職を経て2017年よりフォトグラファーとして活動。ナチュラルで透明感のあるポートレートや風景写真を得意とし、家族写真の出張撮影や広告撮影、写真セミナーの講師などを務める。
近畿日本鉄道「わたしは奈良派」広告掲示(2023年春/夏)その他カメラ、レンズのパンフレット撮影など。Nikon CP+ステージ登壇(2022年/2023年/2024年/2025年)
















