ライカM EV1|M型ライカの新しい可能性を感じるカメラ

大門美奈
ライカM EV1|M型ライカの新しい可能性を感じるカメラ

不可抗力で触れてしまったライカM EV1

ある企画で短期間ライカM EV1が貸し出されることになった。今回は絶対の自信があった。なんの自信か。もちろん購入しないそれである。ライカは触ると欲しくなるのはこれまでの経験から胃が痛くなるほど知っている。だからなるべく触らないようにしていたのだが、今回は仕事ゆえ不可抗力である。さて、無事ライカM EV1を受け取り、早速電源スイッチを入れファインダーを覗いてみた。OVFでないことに強烈な違和感を覚え、あわててアイピースから目を離す。ほらね、大丈夫だ。わたしがこのカメラを買うことはないだろう。

美しい進化に揺らぎはじめる自信

■撮影機材:ライカM EV1 + アポ・ズミクロンM f2/35mm ASPH.
■撮影環境:絞りF4 1/60秒 ISO3200 WB:オート

やはりM型ライカはOVFと二重像でなくてはならん、とわたしの中の頑固親父が脳内で力説する。そうよね、とわたしも深く頷く。しかしだ、一旦否定してみたものの、触れば触るほどよくできている。ベースはライカM11だが、EVFはライカQ3を小型化したものとのこと。たしかに、アイピースの高さが抑えられ、エレガントな印象になった。

ライカQ3はもちろん美しいカメラだが、高い防塵防滴性能と取り回しの良さから、ライカMシステムと比較するとより実用主義的ともいえる。ライカとしてはあのカジュアルなアイピースをそのままMシステムに使用するのは許容しがたかったのもあるかもしれないが、このような美しい進化は大歓迎である。先ほどまでの自信が少し揺らぎはじめた。

ライカM EV1にアポ・ズミクロンM f2/35mm ASPH.をつけて向かったのは長崎。アポ・ズミクロンM f2/35mm ASPH.は約320gなので、ライカM EV1の約484gとあわせても約804g。ライカM EV1はベースとなったライカM11(ブラック/約530g)と比較してもEVFに変更されたぶん、46g軽量化しているため、非常に軽く感じる。わたしはライカM11-P(シルバー/約565g)を使用しているので尚更かもしれないが、ライカM EV1を肩にかけて持ち歩くと、途中で落としたのではないかと不安になるほど軽い。

■撮影機材:ライカM EV1 + アポ・ズミクロンM f2/35mm ASPH.
■撮影環境:絞りF3.4 1/100秒 ISO3200 WB:オート
■撮影機材:ライカM EV1 + アポ・ズミクロンM f2/35mm ASPH.
■撮影環境:絞りF2.8 1/125秒 ISO2500 WB:オート

結局ライカQシリーズと同じようにストラップを手首に巻き片手でレンズを掴むようにして持ち歩くが、このような持ち方をしてもその軽さから手首への負担がほとんどないのである。わたしは常々ライカMシステムはある程度の重さがあったほうがいいと思っていたし方々でそのように発言していたが、ごめんなさい、撤回します。カメラは軽い方が圧倒的に楽です。

ライカM EV1で変わる撮影スタイル

■撮影機材:ライカM EV1 + アポ・ズミクロンM f2/35mm ASPH.
■撮影環境:絞りF4 1/160秒 ISO250 WB:オート 1.3倍クロップ

アポ・ズミクロンM f2/35mm ASPH.の良さのひとつに挙げられるのが最高画質はそのままに30cmまでの近接が可能である、という部分。いままでのライカMシステムでは構造上、被写体までの距離が70cm未満の場合、背面液晶に切り替えてピント調整しなければならなかったが、ライカM EV1では近接でもファインダーを覗いたままフォーカシングが可能になったのである。

これは嬉しい。だって、せっかくのライカMシステムで背面液晶を見ながら操作するのはどうにも不恰好に感じられて、寄れるシチュエーションでも使う気になれなかったのだ。1.3倍と1.8倍のクロップシステムもできることだし、これは撮る写真が変わるかもしれないな、と思ったりする。ちなみにクロップシステムはボディ前面のレバー(ファンクションレバー)で操作切り替え可能なので、その都度メニューに移動する手間もない。

■撮影機材:ライカM EV1 + アポ・ズミクロンM f2/35mm ASPH.
■撮影環境:絞りF2 1/320秒 ISO64 WB:オート

変わるといえばもうひとつ。二重像合致のフォーカシングシステムが苦手としているものに「植物を撮ろうとするとどこにフォーカスしているか分からん問題」があったのだが、それが見事に解決したのである。微妙な距離の花びらと雄しべの描き分けも思いのまま。これはいい。買わない自信はどこへやら。買う。

■撮影機材:ライカM EV1 + アポ・ズミクロンM f2/35mm ASPH.
■撮影環境:絞りF2.8 1/160秒 ISO320 WB:オート

安心の内蔵メモリーは64GB。こちらはライカM11と同様である。外観に関しては、貼り革はライカQシリーズと同様でソリッドな印象。手に取るまではフラットな外観なのではと思っていたが、そこはライカのデザイン力である。今までのライカMシステムと同様に工業製品的な美しさがありながら、すっきりとシャープかつエレガントさを感じさせるのはさすが、としか言いようがない。

M型ライカとレンズ選びの楽しみ

■撮影機材:ライカM EV1 + アポ・ズミクロンM f2/35mm ASPH.
■撮影環境:絞りF4 1/1000秒 ISO64 WB:オート

コンパクトネスと軽さ、それからもちろん画質を優先するのであれば、アポ・ズミクロンM f2/35mm ASPH.は最良の選択だろう。EVFであることがそうさせるのかもしれないが、いつも使用している50mmよりもライカM EV1にはやや広角寄りのほうが使いやすく感じる。そのため、ライカM11-Pには50mm、ライカM EV1には35mmというような使い分けができるのもいい。いや、今は35mmだがそのうち中望遠も使いたくなって、近いうちに新宿北村写真機展店の6Fで90mmあたりのレンズを物色しているかもしれない。ライカM EV1はレンズ選びも含めてM型ライカの楽しさを改めて知ることができる、そんなカメラになり得るだろう。

 

 

■写真家:大門美奈(Mina Daimon)
横浜出身、茅ヶ崎在住。作家活動のほかアパレルブランド等とのコラボレーション、またカメラメーカー・ショップ主催の講座・イベント等の講師、雑誌・WEBマガジンなどへの寄稿を行っている。個展・グループ展多数開催。代表作に「浜」・「新ばし」、同じく写真集に「浜」(赤々舎)など。

 

 

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