富士フイルム GFX100RF|【続】ストックホルムへの旅に携えたカメラ
はじめに
皆さんは、旅に持っていくカメラをどのように選ばれているでしょうか。昨年は、このテーマに関連して、FUJIFILM X-M5+XF35mmF1.4Rをご紹介し、スウェーデンの首都ストックホルムで撮影した写真をご覧いただきました。今年も大学の出張でストックホルムを訪れることになったため、少し趣向を変えて、もう一台のカメラをご紹介したいと思います。また、昨年の記事では冬の景色を捉えましたが、今回は夏の終わりの北欧を写していますので、是非併せてお楽しみいただければと思います。
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ラージフォーマットとコンパクトで臨む2回目のストックホルム
今回、メイン機材として選んだのはFUJIFILM GFX100RFです。フルサイズより一回り大きい43.8×32.9mmのイメージセンサーを搭載し、35mm F4レンズが固定された、携帯性に優れた1億200万画素のラージフォーマットカメラです。レンズは35mm判換算で28mm相当となります。そのため、サブカメラには35mm判換算で40mmとなるRICOH GR IIIxを選択しました。
小型コンパクトカメラと大型(中判)フォーマットカメラの組み合わせは、私が学生だった頃の定番スタイルでした。コンパクトカメラではRICOH GRやCONTAX T2、大きいカメラではPENTAX 67IIやPlaubel Makina67、ハッセルブラッドなどをよく使っていました。時折使用していたFUJIFILM GA645は、今回の選択に最も近いスタイルのひとつかもしれません。GA645は中判カメラでありながらオートフォーカスが可能で、コンパクトさが魅力の画期的なカメラでした。ただ、スキャニングやプリント作業を考えると当時は6×7判のフィルムサイズのほうが扱いやすく、結果的にPENTAX 67IIの使用頻度が最も高かったように思います。
それでも、「中判+コンパクト」というスタイルには慣れ親しみがあり、今回の海外出張にもこの2台を選びました。GFX100RFは約735g、RICOH GR IIIxは約262gですので、2台合わせてもMacBook Pro1台分より軽い撮影機材に収まります。
重さは気にならない
移動は昨年同様、アラスカから北極圏を抜ける、ロシア上空を回避するルートです。今年からはANAが羽田―ストックホルム間の直行便を就航させたため、今回は乗り継ぎなしのフライトでした。昨年の冬の便は空席が目立ちましたが、8月末のオンシーズンは機内ほぼ満席でした。13時間半のフライトを経てアーランダ空港に到着すると、まず感じたのは、乾いた冷たい風です。日本の高原の夏を想像していましたが、実際は晩秋から冬の始まりのような感覚で、日中は12~15度、夜は5度程度まで冷え込みます。ジャケットは必須で、私は市街に到着してすぐマフラーを購入しました。早朝の到着でしたが、翌日からすぐ講義や展示準備が始まるため、ホテルに荷物を預けてすぐ撮影に出かけました。
肩にかかる機材の重さはほとんど気にならず、スナップ写真を楽しむには十分です。操作系もシンプルで分かりやすく、シャッター速度・絞り・露出補正・ISO感度はすべて専用ダイヤルで設定できるため、操作性に優れています。ファインダーは電子式で、視野も十分確保されていますが、欲を言えばX-Proシリーズのような光学・電子ハイブリッドのファインダーがあればさらに理想的だと感じました。

■撮影環境:1/25秒 F4 ISO6400

■撮影機材:FUJIFILM GFX100RF
■撮影環境:1/480秒 F5.6 ISO80
高画素センサーゆえにブレには注意が必要
シャッター速度は、メカニカルシャッターの場合で1/4000秒まで、電子シャッターでは1/16000秒まで対応しています。メカニカルシャッターはフォーカルプレーン式ではなくレンズシャッターが採用されているため、振動が少なく、ブレの影響が抑えられるのが特徴です。ただし、約1億200万画素という高画素センサーでは、ブレの影響が非常にシビアになるため、手ぶれ補正機能が付いていればと思うような場面も多くあります。
体感としては、手持ち撮影の場合1/25秒が限界で、できれば1/60秒以上、日中のスナップ撮影などでは1/125秒以上のシャッター速度を維持しないと手ぶれを抑えにくいと感じました。1/25秒では、何度か撮影しても1枚程度しかブレが許容範囲内に収まらない場合が多いです。
個人的には、ブレが影響するくらいなら、多少ノイズで画質が落ちても高感度を使った方が良いと考えています。実際、ISO-AUTOの設定ではシャッター速度の下限を1/25秒、ISOの上限は6400にしています。

■撮影環境:1/25秒 F4 ISO6400

■撮影環境:1/60秒 F4 ISO4000

■撮影環境:1/60秒 F4 ISO6400
35mm判換算28mm相当の広角レンズ
さて、GFX100RFに固定された35mm F4レンズについても触れておきます。まず画角ですが、35mm判換算で28mm相当の広角レンズとなっています。普段、中判や大判カメラを使用する際は標準レンズを選ぶことが多いため、できれば35mm程度の画角が欲しかったのですが、実際に撮影を始めてみると、普段からGR IIIを使っていることもあり、特に違和感なく構図を決められるようになりました。
写る範囲が広いぶん、水平を直感的に合わせにくい感覚もありましたが、入り組んだ路地が多い旧市街のガムラスタンではむしろ画面構成がしやすく、美しい建築や自然が広がるストックホルムでは、28mmの広角は結果的にとても使いやすかったと感じます。

■撮影機材:FUJIFILM GFX100RF
■撮影環境:1/60秒 F8 ISO125
開放F値はF4と、やや暗いレンズのため、スナップ撮影の際はシャッター速度を確保するために絞り開放で使う場面が多くなります。とはいえ、開放時も解像感は十分で、写りは柔らかさを持ちつつ豊かなコントラストがあり、明瞭感のある写真が得られます。絞り込むことで被写界深度が深くなり、さらに高い解像感が得られるので、都市や自然風景も鮮明に描写できます。100%表示まで拡大すると、中心部に比べて周辺部の解像感がやや低下し、画像が少し流れる印象があります。

■撮影環境:1/60秒 F4 ISO640

■撮影環境:1/25秒 F4 ISO6400

■撮影環境:1/40秒 F4 ISO6400
本機で特に印象的だったのは、ハイライト部分の再現力と階調表現の豊かさです。輝度差の大きいシーンでも、非常に自然で美しいハイライトの輝きを描写できます。色再現についても、豊かで滑らかなグラデーションを感じることができました。

■撮影環境:1/1000秒 F4 ISO100

■撮影環境:1/60秒 F4 ISO400

■撮影環境:1/210秒 F4 ISO80
最短撮影距離はレンズ先端から約20cmで、被写体にかなり寄って撮影することができます。近距離で撮影することで被写界深度が浅くなり、前景や背景に大きなボケを生み出すことも可能です。

■撮影環境:1/280秒 F8 ISO80

■撮影環境:1/25秒 F4 ISO6400

■撮影環境:1/60秒 F4 ISO5000
古い建築物やモニュメントが多く見られるストックホルム市内では、広角レンズを使うことで伸びやかで迫力のある画面構成が可能です。曇り空や夜景の光も、これらの被写体を美しく再現するため、カラーだけでなくモノクロームによる抽象的な表現も楽しむことができるでしょう。
学生たちと船に乗って自然豊かな島へ

■撮影環境:1/400秒 F4 ISO80

■撮影環境:1/500秒 F4 ISO80

■撮影機材:FUJIFILM GFX100RF
■撮影環境:1/125秒 F8 ISO160

■撮影環境:1/125秒 F8 ISO80
出張中は基本的に講演やワークショップ、各種打ち合わせでほとんどゆっくりする時間がありませんでしたが、滞在後半には学生たちと船に乗って、ストックホルムから約2時間のグリンダ島へ撮影に出かけました。スウェーデンには「Allemansrätten(自然享受権)」という慣習があり、これによって外国人を含むすべての人が自然の中で自由に散策し、キャンプや焚き火、キノコや植物の採取も許されています。さらに、海に入ることや魚釣りも可能です。この慣習に従い、森の中に入り自由に散策しながら撮影できたことは、スウェーデンでの大切な記憶の一つとなりました。

■撮影環境:1/70秒 F5.6 ISO80

■撮影環境:1/80秒 F5.6 ISO80
おわりに

■撮影環境:1/60秒 F4 ISO160
朝晩ストックホルム市街を歩き回って撮影する中で、GFX100RFの最大のメリットはその携帯性だと感じました。スナップ撮影や記録写真を撮りながらも、しっかりと撮りたい被写体に出会った際には、十分な解像力を持つレンズと高画素センサーによって、高品質なデータを得ることができます。日常的に持ち歩くにはやや大きいものの、旅のカメラとしては非常に魅力的な選択肢の一つだと思います。
実際、今回の海外出張を通じてGFX100RFを持参してよかったと感じる場面が多くありました。特にグリンダ島で撮影した森の風景は、また改めてどこかで発表したいと思っています。

■撮影環境:1/500秒 F4 ISO320
■写真家:大和田良
1978年仙台市生まれ、東京在住。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業、同大学院メディアアート専攻修了。2005年、スイスエリゼ美術館による「ReGeneration.50Photographers of Tomorrow」に選出され、以降国内外で作品を多数発表。2011年日本写真協会新人賞受賞。著書に『prism』(2007年/青幻舎)、『五百羅漢』(2020年/天恩山五百羅漢寺)、『宣言下日誌』(2021年/kesa publishing)、『写真制作者のための写真技術の基礎と実践』(2022年/インプレス)等。最新刊に『Behind the Mask』(2023年/スローガン)。東京工芸大学芸術学部准教授。















