キヤノン RF50mm F1.2 L USM レビュー|被写体がまとう空気まで繊細に写す
はじめに
2026年3月現在、ラインナップはフルサイズ対応だけで46本、APS-C専用を含めると51本を数え、システムとしてすっかり成熟したキヤノンRFレンズ。高い性能と利便性を兼ね備えたハイスペックなレンズが揃う一方、ユニークな発想で小型軽量や低価格を実現したレンズも増えている。
一方で2018年、RFマウントの発表とともにお披露目された4本のうちの1本、RF50mm F1.2L USM(以下・本レンズ)は今なお人気がある。RFマウントの標準単焦点レンズは後にRF50mm F1.8 STM、RF50mm F1.4 L VCM、そして2025年にはRF45mm F1.2 STMが登場。それぞれに特徴と魅力があるのだが、こと画質という点では本レンズが“大横綱”として君臨している。

■撮影環境:シャッター速度1/500秒 絞りF1.2 ISO100
50mmF1.2というスペックの概念を変えた
この50mmF1.2というスペックは、フィルム一眼レフ時代から多数存在はしていた。ただし50mmF1.4がキットレンズ的な(=誰もが持っていた)時代、半絞り分の明るさを求めてわざわざ買い換える人は少なかったと思う。当時の光学系では明るいぶん収差も大きくなり、高級硝材を使った一部例外を除けば画質的な利点もなかった。
それがデジタル一眼レフに変わると、1本目のレンズは標準ズームという時代に。単焦点の標準レンズはオプションとして選ぶレンズになった。キヤノンも初代EOS 5Dがヒットしていた2007年1月に、EF50mm F1.2L USMを発売。これは僕も愛用していたが、絞り開放ではとても柔らかく、解像感よりも味に振ったレンズだった。そのコンセプトが2025年、RF45mm F1.2 STMとして蘇ったのは多くの方がご存知かと思う。
一方で本レンズは同じスペックのEF50mm F1.2L USMと比べてはるかに大きく、重量もEF版の590gに対して950gもある。描写は絞り開放から高い解像力を誇り、そこからアウトフォーカスへなだらかに変化していく。それが本レンズ独特の繊細さや立体感につながっている。登場直後の本レンズを、EOS Rとともに初めて使ったときの驚きは今もよく覚えている。

■撮影環境:シャッター速度1/1250秒 絞りF1.2 ISO100

■撮影環境:シャッター速度1/200秒 絞りF1.2 ISO100
情緒的な描写を扱いやすい画角で
そんなわけでずっと心に残っていた本レンズを、僕は少し間があってEOS R5 Mark IIとともに購入した。カメラの描写力が高まったこともあり、目の前の風景や人物がここまで写るか、というほど情緒的に再現してくれる。
とりわけ本領を発揮するのは逆光や夕暮れといったドラマチックな状況や、光の乏しい夜景や室内だ。仕事で描写性能を問われることはほぼないが、このレンズで撮って納品すると、クライアントさんから予想以上に喜ばれる。詳しくない人でもその実力の高さがわかるレンズというのは、なかなかないと思う。

■撮影環境:シャッター速度1/1600秒 絞りF1.2 ISO100

■撮影環境:シャッター速度1/1250秒 絞りF1.8 ISO100
描写が際立ったレンズや単焦点レンズになると「自分には使いこなせない」という声も聞くが、本レンズは標準50mm。目の前の光景をそのまま切り取ったような画角で、遠近感も肉眼に近く、どんな状況やジャンルでも重宝する。
単焦点レンズに慣れていない方へコツをお教えするなら、構図の中に奥行きを作ること。抜けのよい背景を作るのはもちろん、被写体の手前にもボケる要素を配することで、被写体が浮かび上がるような写真を撮ることができる。あとは日中は絞りが絞られるプログラムオートではなく(明るいレンズを買っても、これで損をしている人が多い)、絞り優先オートかフレキシブルオート、あるいはマニュアルで絞りをしっかりと開けること。これで持ち味を存分に活かすことができるはずだ。

■撮影環境:シャッター速度1/250秒 絞りF1.2 ISO400
絞ったときの精細感も魅力
どんなに明るくて高価なレンズも、絞れば暗くて安いレンズと同じ…という人もいるが、このレンズに限ってはその常識は通用しない。絞り羽根は10枚で、ちょっと絞ったときのボケもきれいな円形を描く。さらにF5.6〜8くらいまで絞ればキレが増し、フルサイズでも中判デジカメで撮影したような精細感がある。

■撮影環境:シャッター速度1/250秒 絞りF5.6 ISO100

■撮影環境:シャッター速度1/160秒 絞りF2.8 ISO100
950gという重量をどう考えるか
もちろん高い描写力には代償も伴い、本レンズでよく話題にされるのはその重さだ。50mmで950gという数値は、最近ではとくに珍しいものではないが、持ち歩くことを躊躇するかもしれない。レンズ構成図をみるとぎっしりとレンズが詰まっており、しかもAFはインナーフォーカスではなく前群繰り出し。相当パワフルなモーターを搭載しているはずで、それもヘビー級になった要因だろう。もっともAF自体はかなり速い。

■撮影環境:シャッター速度1/320秒 絞りF1.4 ISO100
ちなみに9群15枚とレンズ枚数自体はさほど多くなく、研削非球面レンズが2枚、ガラスモールド非球面レンズとUDレンズをそれぞれ1枚ずつ使用している。また重さに対して全長は108mmと決して長くはなく、カメラに着けた状態でのバランスやホールディング性は良好だ。僕はEOS R5 Mark IIで使っているが、これくらい重量感やボリュームがあるほうが撮る意欲が湧く。

■撮影環境:シャッター速度1/1250秒 絞りF2 ISO100

■撮影環境:シャッター速度1/1250秒 絞りF5.6 ISO100
F1.4Lと迷うところだが…
キヤノンには同じ50mmのLレンズ、RF50mm F1.4 L VCMがある。F1.2とF1.4は実用上大きな違いとはいえず、ボケもそこまで変わらない。ならばコンパクトで580gと軽く、より新しい光学設計、そしてVCMにより高速AFを実現したRF50mm F1.4 L VCMが魅力的に感じる。しかも本レンズより実売価格が10万円以上安いのだ。今ならば本レンズよりこちらを選ぶ人が多いかもしれない。かくいう僕もかなり迷った。

■撮影環境:シャッター速度1/640秒 絞りF1.2 ISO100
結果的に決め手になったのはコンセプトの違いだ。RF50mm F1.4 L VCMは動画撮影との親和性を高めたレンズ。RF F1.4 L VCMシリーズとして他のF1.4単焦点レンズと鏡筒のサイズを揃えているが、裏を返せば電子補正も積極的に活用し、そこを優先して設計している。対する本レンズは“無差別級”。とにかく最高の50mmレンズを目指し、コストやサイズは度外視して画質最優先で設計したとキヤノンの方から聞いたことがある。そしてその贅沢さが描写の端々に感じられるのだ。

■撮影環境:シャッター速度1/3200秒 絞りF1.2 ISO100

■撮影環境:シャッター速度1/800秒 絞りF1.8 ISO100
まとめ
本レンズと似た生い立ちを持つ製品としては、キヤノンがEFマウント黎明期の1989年に発売したEF50mm F1.0L USMがある。やはり自社の技術力をアピールする目的があったといわれ、こちらも研削非球面レンズを2枚使用している。ただしその描写はかなり癖があり、絞り開放ではまるでソフトフォーカスレンズのようだった。
それに対して本レンズは数値ではなく描写で大きなインパクトを放った。キヤノンユーザーの友人・知人に聞くと、大抵の人が本レンズを持っている。そして全員がその唯一無二な描写を褒めるのだ。僕自身、そうした声を信じて購入したひとりだが、EOS Rシリーズのボディーをお持ちであれば、ぜひ一度この凄みを体験してほしいと思う。

■写真家:鹿野貴司
1974年東京都生まれ。多摩美術大学美術学部二部映像コース卒。さまざまな職業を経て、広告や雑誌の撮影を手掛ける。著書『いい写真を取る100の方法』が玄光社から発売中。公益社団法人日本写真家協会会員。















