今年だけの桜の表情を残すための基本とテクニック|斎藤裕史

斎藤裕史
今年だけの桜の表情を残すための基本とテクニック|斎藤裕史

はじめに

誰もが必ず撮影するといっても過言ではない被写体「サクラ」は満開の華やかさだけでなく、散り際の桜吹雪や水面を彩る花筏、光の向きによって変わる表情など、さまざまな姿を見せてくれます。写真に収めようとすると一筋縄ではいかない場面も多いですが、レンズの特性や光の扱い方を理解することで、肉眼では捉えきれない“桜の奥行き”が見えてきます。本稿では、広角から望遠、順光・逆光・シルエット、さらにはライトアップまで、桜撮影をより深く楽しむためのポイントを紹介したいと思います。

レンズの効果を生かす

■撮影機材:キヤノン EOS 5D Mark IV + EF16-35mm F2.8L III USM
■撮影環境:F11(+0.5EV・1/45秒)・ISO100・太陽光

滋賀県・琵琶湖北部に位置する海津大崎。沖には竹生島が浮かび、春には湖岸沿いに見事な桜並木が続きます。この場所では、まず枝ぶりの良いサクラを探すところから始めました。そして、その枝の隙間に竹生島がちょうど収まるポジションを見つけ、近景で遠景を囲む「額縁構図」として画面を組み立てています。

ピントは手前の桜の枝に合わせ、しっかり絞り込んでパンフォーカスで撮影。サクラの質感と湖の奥行き、そして竹生島の存在感が一枚の中で調和し、広角レンズならではの“春の風景の広がり”を表現できました。

■撮影機材:キヤノン EOS 7D Mark II + EF70-200mm F4L USM
■撮影環境:F16(±0EV・1/10秒)・ISO200・太陽光

「望遠レンズ」と聞くと、遠くの被写体を大きく写すためのレンズという印象が強いですが、それだけではありません。望遠レンズには、手前から奥までの距離感を凝縮して見せる視覚的圧縮効果があります。この圧縮効果により、画面全体が屏風絵のように平面的にまとまり、桜の密度やボリューム感を強調した表現が可能になります。

撮影時は、絞りをしっかりと絞り込み、画面の隅々までシャープに写すことを意識します。F16程度を基準にすると、桜の重なりや枝の立体感を保ちながら、全体のまとまりを得やすくなります。

■撮影機材:キヤノン EOS 5D Mark IV + EF70-200mm F2.8L IS II USM
■撮影環境:F2.8(+1.5EV・1/250秒)・ISO200・太陽光

望遠レンズで私が最も多用する表現が、背景や前景を大きくぼかす「ボケ効果」です。被写体である桜の背後をぼかして主役を際立たせる「後ろボケ」、手前の枝や花をぼかして柔らかい雰囲気を作る「前ボケ」。どちらも肉眼では得られない、写真ならではの表現です。望遠レンズの特性として、被写界深度が浅く、ボケ味を活かした表現ができます。

「ボケ効果」を活かす表現では、絞りは基本的に開放値、主役と背景(あるいは前景)との距離をしっかり確保することで、よりやさしいボケ効果を得ることができます。
主役のシダレザクラの前後にシダレザクラ。さらに背景に葉のグリーンを配することで主役を浮かび上がらせることができました。

■撮影機材:キヤノン EOS 5D Mark IV + EF70-200mm F2.8L IS II USM
■撮影環境:F2.8(+1EV・1/45秒)・ISO200・太陽光

奈良県宇陀市の又兵衛桜は、春になると華やかな表情を見せてくれます。かつては周辺に菜の花が一面に咲き、黄色と桃色が織りなす春らしい色彩が訪れる人を迎えていましたが、現在はその姿もほとんど見られなくなりました。そんな中、駐車場の片隅にわずかに咲いた菜の花を見つけ、望遠レンズで前ボケとして取り入れることで、かつての風景を思わせる春の情景を表現することができました。背景に広がる桃の花と相まって、望遠ならではの圧縮効果とボケ味により、又兵衛桜の存在感をいっそう引き立てています。

光を意識する

■撮影機材:キヤノン EOS R5 + RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM
■撮影環境:F19(-0.5EV・1/125秒)・ISO200・太陽光

桜に限らず、写真では光の方向を意識することが最も重要な要素のひとつです。 その中で「順光」は一見すると平凡で、ドラマ性に欠ける光線に思われがちですが、決して避けるべき光ではありません。順光は被写体に対して正面から光が当たるため、肉眼で見た印象に近い、素直で明瞭な描写が得られます。桜の色や質感を正確に再現したいとき、あるいは風景全体をクリアに見せたいときに適しています。また、青空を画面に入れるシーンでは順光が特に有効です。空の青をしっかりと残しつつ、桜の色も正確に描写できます。順光は春の爽やかな雰囲気をストレートに表現したい場合に最適な光です。

■撮影機材:キヤノン EOS R + RF24-105mm F4 L IS USM
■撮影環境:F11(-1EV・1/125秒)・ISO200・太陽光

丘の上に立つ樹齢約300年のシダレザクラは周囲は竹林に囲まれています。太陽が西に傾き、シダレザクラや竹林に光が届かなくなったタイミングで撮影しました。背景に明るい青空を配置することで、桜の輪郭がくっきりと浮かび上がり、シルエットならではの重厚感ある描写が得られました。

シルエット描写では色や質感を表現できないため、最も重要になるのは被写体の「カタチ」です。枝ぶりや樹形が魅力的に見える位置を選ぶことが、写真の印象を大きく左右します。
露出のわずかな違いで、シルエットの力強さが大きく変わります。シルエットがしっかり成立しているかどうかを確認するために、段階露光で複数カットを撮影することをおススメします。

■撮影機材:キヤノン EOS R5 + RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM
■撮影環境:F11(-1EV・1/45秒)・ISO200・太陽光

逆光では、空や太陽を背景にするとシルエット描写になり、被写体の色や質感は表現できません。しかし、背景を山肌や林などの暗部にすると、桜の花びらは透過光による印象的な描写へと一変します。逆光は背景の選び方で写真の表情が大きく変わる光線といえます。

この写真では、シダレザクラに逆光が降り注いでいました。背景の桜にも光が当たっていたため、背景のシャドー部に主役のシダレザクラを重ねることで、透過光が際立ち、主役が浮かび上がりました。逆光は難しい光線と思われがちですが、光の方向と背景の明暗差を理解すれば、桜の透明感や立体感を美しく引き出せる光でもあります。

■撮影機材:キヤノン EOS R5 + RF15-35mm F2.8 L IS USM
■撮影環境:F11(±0EV・2秒)・ISO400・AWB(雰囲気優先)

近年は各地で桜のライトアップが行われており、昔の「桜まつり」のように提灯が並ぶ光景とは異なり、光の演出にこだわった本格的なライトアップも増えています。奈良県曽爾村の屏風岩公苑では、柱状節理の岩肌が続く麓で見ごろのヤマザクラがライトアップされます。日没後のブルーモーメントは空の青と人工光が調和する絶好の時間帯。短い時間なので構図や露出を整えて待ち、段階露光で撮影するとよいでしょう。

また、ライトアップは照明の種類によって色調が大きく変わるため、RAWで撮影し、PC上で好みのホワイトバランスに調整するのがおすすめです。現場で無理に色温度を固定するよりも、後処理で微妙な色のニュアンスを追い込むほうが、仕上がりの自由度が高まります。

満開以外の美しさに目を向ける

■撮影機材:キヤノン EOS R5 Mark II + RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM
■撮影環境:1/250秒(-1EV・F11)・ISO400・太陽光

満開の桜は言うまでもなく美しい存在ですが、散り際にだけ現れる「桜吹雪」には、また別の魅力があります。ひらひらと舞い落ちる花びらを写真に収めたいと思う方は多いものの、実際に撮ろうとすると意外と手強い被写体でもあります。
私の実感として、写真に写る桜吹雪は、肉眼で見たときの迫力や密度の“六割程度”に感じます。記憶は増幅されるということもありますが撮影時に工夫して、記憶に少しでも近づけたいと思っています。

ポイントは「望遠レンズ」。ピントを合わせた位置の前後に舞う花びらを圧縮効果でまとめて写し込むことで、桜吹雪のボリューム感がぐっと増します。また、花びらだけでなく桜の枝を画面に入れると、画面全体の華やかさが引き立ちます。さらに、背景を暗めにすると花びらが浮かび上がり、より印象的な一枚に仕上がるでしょう。

■撮影機材:キヤノン EOS R5 + RF24-105mm F4 L IS USM
■撮影環境:F11(+2.5EV・1/125)・ISO400・太陽光

水面いっぱいに散った桜の花びらが帯のように流れ、まるで小さな筏が連なっているように見える情景を「花筏」と呼びます。花びらは水に落ちた翌日には色がくすんでしまうため、鮮やかな姿を撮れるのは散った“その日”だけと言っても過言ではありません。

水面に広がる花びらは、風や流れに導かれて思いがけない模様を描きます。まさに自然がつくり出すアートです。この日、青空だったものの、太陽が雲に隠れて柔らかい光に包まれていました。露出をプラス側に補正すると花びらの淡い色が引き立ち、全体がやさしいハイキー調にまとまりました。

■撮影機材:キヤノン EOS R5 + RF24-105mm F4 L IS USM
■撮影環境:F11(+1EV・30秒)・ISO200・太陽光・ND64

川面や池に散った花びらが帯状に流れをつくる「花筏」。とくに流れのない池では、風が吹くとゆっくりと動き出し、写真に独特の表情を与えます。この動きを写し取るために有効なのがスローシャッターです。必要に応じて、減光効果のある NDフィルターを装着してシャッター速度を確保します。

ただし、花筏の動きだけを追うと画面が単調になりがちです。そこで、枝や幹といった静止した要素を画面に入れ、「静」と「動」を共存させる構図を意識します。「静」を存在させることで花筏の軌跡がより際立ち、写真に奥行きとリズムが生まれます。
シャッター速度は、花筏の流れ方によって最適値が変わります。まずはテスト撮影を行い、もっとも美しく軌跡が描かれる速度を見つけましょう。あとは風の変化や花びらの密度が生む“偶然の動き”を待ちながらシャッターを切るだけ。撮るたびにモニターに現れる軌跡が変わり、その一喜一憂こそが花筏撮影の醍醐味です。

さいごに

桜は毎年同じように咲くようでいて、天候や光、風、咲き具合によってまったく異なる表情を見せてくれます。だからこそ、撮影のたびに新しい発見があり、思い通りにいかない難しさも含めて魅力的な被写体です。今回紹介したテクニックを手がかりに、ぜひご自身の感性で“今年だけの桜”を探し、写真に残してみてください。

 

 

■写真家:斎藤裕史
1968年千葉県生まれ。大阪芸術大学芸術学部写真学科卒業後、関西をベースに雑誌、コマーシャル撮影をおこなう。2000年より写真教室や撮影ツアーなどの講師業をスタート。写真雑誌などへの寄稿も。「楽しく撮った写真はいい写真」がモットー。blog「ふっても晴れても写真日和

 

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