現役バリバリ 10年前の十二分に使える一眼レフ、キヤノン EOS 5D Mark III

新納翔
現役バリバリ 10年前の十二分に使える一眼レフ、キヤノン EOS 5D Mark III

はじめに

去年の夏頃だったか、ふと防湿庫の奥に眠っていたEOS 5D Mark IIIを取り出してみた。作品制作のメイン機材を中判デジタル・PENTAX 645Zに置き換え、仕事での撮影は専らSONYのミラーレスを使用するようになってからは出番がめっきり無くなっていたのだ。

久しぶりに手にすると、こんなにもずっしりと重厚な感覚だったのかと相当ヘビーに使ったカメラのはずなのに驚いてしまった。記憶の中のEOS 5D Mark IIIはもっと軽くて、モノとしての存在感は希薄だったのだ。

こいつを眠らせておくのは勿体ない。それからちょくちょく持ち出すようになり、まだまだ現役で使えるポテンシャルを感じている。発売から10年以上経った今、あらためて再評価したいと思う。

ちなみに今回の作例の大半は筆者の愛用レンズ「EF50mm F1.2L USM」で撮影したものである。この大口径レンズの味も同時に紹介していきたいと思う。

地球の光をすべて受け止めるために

■撮影機材:Canon EOS 5D Mark III + EF50mm F1.2L USM
■撮影環境:F6.3 1/500秒 ISO200

繊細な描写が特徴のフルサイズCMOSセンサーを搭載し、2012年に発売されたEOS 5D Mark III。ミラーレスから写真に入った人からするとオールドデジカメの分類になってしまうのだろうか。しかし実際に使えば、こいつから古臭さを感じることはないとすぐに分かるはずだ。

「地球の光をすべて受け止めるために」というキャッチコピーからも、キヤノンが本機に込めた意気込みを感じる。すべての光・・・いやぁ光と影の芸術と言われる写真だけに、このフレーズだけで何かものすごい写真が撮れる頼もしさを感じてしまうのは筆者だけではないはずだ。

大口径ならではのとろける描写 すすきの立体感が凄い
■撮影機材:Canon EOS 5D Mark III + EF50mm F1.2L USM
■撮影環境:F1.8 1/1250秒 ISO400

初代EOS 5Dによって長く待ち望まれていたフルサイズ一眼は一般的なものになった。筆者はEOS 10Dからキヤノン機を使っていたが、2005年、EOS 5Dの登場には胸躍るものがあったのを今でも鮮明に覚えている。

捨てられずに残してあるカタログ

昨今のデジタルカメラはスチールに関して言及すると、新機種によって圧倒的な進化があるということはほぼなくなってしまった。言い換えればそれだけ成熟してしまったということなのだが、当時は新機種が出るたびに画期的な進化があった。大袈裟に聞こえるかもしれないが、初代EOS 5Dの登場は新時代の到来であったのだ。

■撮影機材:Canon EOS 5D Mark III + EF50mm F1.2L USM
■撮影環境:F7.1 1/2000秒 ISO160
曇天でも立体感の表現に優れている
■撮影機材:Canon EOS 5D Mark III + EF50mm F1.2L USM
■撮影環境:F5 1/400秒 ISO400

筆者はEOS 10Dを本格導入しようとレンズ数本・ストロボ・メディアを揃えるために、当時システムを組んでいたミノルタα-9と10本ばかしのレンズ、Konica HEXAR RFなど多くの機材を下取りに出した。こんなにフィルムカメラが高騰することを予見できていたらと思うとまったく涙ものである。まだ中古で1GBのCFカードが一万円超えの時代であった。

完成された操作感

■撮影機材:Canon EOS 5D Mark III + EF50mm F1.2L USM
■撮影環境:F8 1/1250秒 ISO200
■撮影機材:Canon EOS 5D Mark III + EF50mm F1.2L USM
■撮影環境:F6.3 1/800秒 ISO320

筆者は初代EOS 5Dをダイヤルがおかしくなるほど使い倒し、EOS 5D Mark IIが出てすぐに購入した。画素数は1280万から2110万へとアップしたものの、どうにも出てくるデータに馴染めなく初代EOS 5Dを買い足してIIIが出るまで使っていた。

初代EOS 5Dで撮影しA2サイズのバライタ紙にプリントアウトしたものを取り出してみたが、初代が生成するデータは今からすれば解像感はやや足りないものの、数値では図れない独特の階調性があり個人的には名機だと認定している。その感覚はどこかフィルムに通じるものがあるかもしれない。

■撮影機材:Canon EOS 5D Mark III + EF50mm F1.2L USM
■撮影環境:F2 1/1600秒 ISO250

ただ、こればかりは仕方ないがカメラとしての古臭さは否めない。そういった意味では、5DシリーズはEOS 5D Mark IIIでようやく完成された感がある。Wi-Fiによる快適なテザー撮影をしたい等の細かいニーズを除けば、今でも十分に使えるポテンシャルを持ち合わせている。

存在感たっぷりの大口径レンズ たっぷりつまったガラスが堪らない

EOSシリーズ特有の背面ダイヤルによる露出補正、しばらくぶりでも2、3枚撮っていればすぐに使い倒していた頃の感覚が蘇る。優れたインターフェースは手が覚えているものだ。その洗練された操作感がEOS Rシリーズに引き継がれているのが何よりの証拠だろう。EOS Rユーザーはもとより、他メーカーユーザーも説明書など見ずともすんなりと使えるはずだ。

メニューを覗いてみるとAFの細かい調整やレンズごとのピント微調整などカスタマイズの幅も広い。ここ最近カメラを始めた人であれば、10年前にここまで完成されていたのかと驚くかもしれない。

ミラーがあることの有難み

ISO1600あたりからノイズは気になる
■撮影機材:Canon EOS 5D Mark III + EF50mm F1.2L USM
■撮影環境:F2.2 1/2000秒 ISO1600

一眼レフの「レフ」はレフレックス、つまり反射をあらわす。レンズに入ってきた光がミラーによって反射し、ペンタプリズムを通って撮影者は目の前の景色を覗くという構造である。

EVFがどんなに進化してもやはり一眼レフとは見え方が異なる。これは好みの問題かもしれないが、筆者はEVFだとどこか「映像化された景色」を見せられているようで、被写体との間に一枚壁があるように感じてしまう。被写体としっかり対峙しようとするには一眼レフが合っているように思うのだ。

■撮影機材:Canon EOS 5D Mark III + TS-E45mm f/2.8
■撮影環境:F2.8 1/1000秒 ISO400
■撮影機材:Canon EOS 5D Mark III + TS-E45mm f/2.8
■撮影環境:F2.8 1/1000秒 ISO400

ミラーレスの利点はその名の通りミラーボックスがないことによる小型化が大きいと言えるが、ミラーがあることによる違った撮影体験というものもある。

機能的なことだけを言えばミラーをなくすことの恩恵はとても大きく、カメラの進化をみればそのほうが自然だと筆者も思うが、いかんせん使うのが人間である以上、常にスペックや数値だけでは語れない要素が多くあるのだ。

■撮影機材:Canon EOS 5D Mark III + EF50mm F1.2L USM
■撮影環境:F8 1/1000秒 ISO160

とにかく軽いカメラが良い、カメラ選びにおいてその点を第一に重視するのであれば残念ながらこのカメラはおすすめ出来ない。しかしフィルムカメラと同様、多少重いからこそ得られるものもある。ずっしりと手に伝わる重みは、撮影する意気込みを与えてくれる。860gという重量でありながら、撮影時にはさほど気にならない絶妙な重量感なのだ。

十分いや十二分のデータ

■撮影機材:Canon EOS 5D Mark III + EF50mm F1.2L USM
■撮影環境:F1.6 1/2500秒 ISO800

語弊を恐れずに言えば、写真表現において所詮カメラはデータ生成機でしかない。デジタル時代、その画質というものは生成されたデータだけでなく、いかにそのデータをPhotoshopなどのソフトウェアで完成させるかという比重がより大きくなった。つまりEOS 5D Mark IIIはまだまだ進化し続けるのだ。

非常に素直で編集しやすいRAWデータだと感じるが、それゆえに撮影時の背面モニターに表示される色調がやや味付けされて見えるのはEOS 5D Mark IIIの欠点かもしれない。もちろん表示画像のカラー調整はできるが、パソコンに取り入れたものと一致させるまではいかない。他が細部までよく出来ているだけに悔やまれる点だ。

暗所撮影に関して、今回のようなf1.2という大口径でなくても暗部に強い為困るということはないだろう。ただ、一眼レフの特性上ファインダーの明るさはレンズのf値によるので注意が必要だ。あと一点、メディアはSDカードとCF(コンパクトフラッシュ)カードの一枚ずつなのでSDの2枚挿しはできない。

■撮影機材:Canon EOS 5D Mark III + EF50mm F1.2L USM
■撮影環境:F8 1/1000秒 ISO400

取り回しが良く、上質なRAWデータが得られる一眼レフがここまで手軽な値段でゲットできるので是非使ってみてはいかがだろうか。ミラーレスとはまた違った体験が得られることは間違いない。正直このカメラが持つポテンシャルと中古市場での価格が釣り合っていないとさえ感じる。

これは筆者の推測だが、この時代の一眼レフ人気が今年あたり出てきそうなので買うなら今だ。

■撮影機材:Canon EOS 5D Mark III + EF50mm F1.2L USM
■撮影環境:F8 1/800秒 ISO200

 

 

■写真家:新納翔
1982年横浜生まれ。麻布学園卒業、早稲田大学理工学部中退。2000年に奈良原一高氏の作品に衝撃を受け、写真の道を志す。2007年から6年間山谷の簡易宿泊所の帳場で働きながら取材をし、その成果として日本で初めてクラウドファウンディングにて写真集を上梓する。2009年から2年間中藤毅彦氏が代表をつとめる新宿四ツ谷の自主ギャラリー「ニエプス」でメンバーとして活動。以後、現在まで消えゆく都市をテーマに東京を拠点として活動をしている。日本写真協会(PSJ)会員。

 

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