ネイチャースナップのすすめ|小林義明

小林義明
ネイチャースナップのすすめ|小林義明

はじめに

私の撮影では被写体の探し方に2つのパターンがあります。はじめからここに行ってこの被写体を撮ると決めて動く場合と、だいたいの向かう先を決めたらあとは目に入ってきた気になるものを撮影する感じです。日の出の景色とか生き物などの撮影は前者となり思い通りにならないことも多く、行けば撮れるものではありません。そんなときは気持ちを切り替えて、なにか別の被写体を探すという撮り方をもう30年以上続けています。ここでは、後者の撮影スタイルを「ネイチャースナップ」と呼んで紹介してみたいと思います。

ネイチャースナップとは

「ネイチャースナップ」というのは私が作った造語で、街中でスナップするように自然のもの(自然的なものも含む)を手軽に撮っていく撮影スタイルを表します。歩いていると目に入ってくる花や虫、草の影とか雲の形とか、なんでもいいのです。あらかじめこれを撮ろうと決めておく必要もありません。車で移動しているときに気になった景色を撮ることもよくあります。

木漏れ日を受けた赤い葉の色が印象的でレンズを向けた。こういった何気ないものが立派な被写体になる。
■撮影機材:PENTAX K-3 Mark III + smc PENTAX-D FA MACRO 100mmF2.8 WR
■撮影環境:F4.5 1/160秒 ISO640

人気の絶景のような定番の景色は意外と難しく、撮りに行っても思い通りにならない事のほうが多いですよね。でも、それで諦めて帰ってしまうのはもったいないです。定番がだめならあとはそのあたりをウロウロして、気になったものをどんどん撮ってみましょう。簡単なことなので、ぜひ試してみてもらいたいと思います。傑作を狙うなんて大それたことを考える必要はありません。そうやって撮影した写真は、あとで組写真を作ったり、作品をまとめるときに役に立ちます。

地元の絶景ポイント摩周湖。やっと一部分が凍ったが、なかなか見られない景色となってきている。
■撮影機材:PENTAX K-3 Mark III + HD PENTAX-DA★16-50mmF2.8ED PLM AW
■撮影環境:F11 1/200秒 ISO200 +0.3EV
摩周湖では絶景に会えるかは運次第だが、いきものの足跡はよく見られる。こんなシーンも大きな景色の細部を伝えるいい被写体だ。
■撮影機材:PENTAX K-3 Mark III + HD PENTAX-DA★16-50mmF2.8ED PLM AW
■撮影環境:F11 1/200秒 ISO200 +0.3EV

身近なところから始めよう

ネイチャースナップの良いところは、どこでも撮れるということです。ネイチャー系の写真は、街中では撮れないというイメージがあるかもしれませんが、そうではありません。

私は現在北海道に住んでいますが、もともと東京に住んでいました。東京にいた頃は写真雑誌でハウツー記事などを書かせていただいていて、今のようなデジタル全盛でもなかったので、都内の編集部にも頻繁に行っていました。

都内でもちょっとした公園や道路脇の街路樹、線路脇の空き地などを見てみると、いろいろな草花が生えていたり、そこには虫や鳥などの姿がありました。さすがに広い風景を撮影するということはなく、マクロや望遠レンズを使って、切り取ることが多かったです。

都内の公園で撮影したムクドリ。小鳥は意外なほど身近に見られて、特に人のいる公園では種類も多い。声を頼りに探してみると面白い。
■撮影機材:PENTAX KP + smc PENTAX-DA★60-250mmF4ED[IF] SDM
■撮影環境:F5.6 1/250秒 ISO400 +1.3EV

わざわざ遠くに出かけなければと思うと腰が重くなかなか撮影に出られなくなることもありますが、身近なところで撮れればちょっとした時間があれば撮影できますよね。近所を散歩するつもりで、カメラを持って歩いてみましょう。そして、気になったものがあればシャッターを押すだけです。

自分の目で見ること

ネイチャースナップを楽しむコツは、自分の目で被写体を探すようにすることです。はじめは被写体を見つけるのに苦労すると思います。でも、被写体を探しながら歩いていると、だんだんいろいろなものが見えてくるようになります。

人は同じ場所にいても、それぞれの人が持つ興味によって見えてくるものが違います。たとえば、自分がレストランの席に着いているとイメージしてください。その景色はどんなものでしょうか。いますごくお腹が空いている人は、メニューの内容がまっさきに浮かんだかもしれません。恋愛中の人なら席の正面に座る恋人の姿かもしれません。経営コンサルタントを職業としていたら、店の内装やまわりのお客さんの客層を思い浮かべているかもしれないですね。

このように、人それぞれの意識の違いで見えてくるものも違うのです。被写体が見つからないというのは、周りの景色に対して興味がないともいえます。

地面に落ちたツバキにやってきたアリ。アリはどこにもでもいる虫だし、いつも虫を気にしていると、こんなものも見えてくるようになる。
■撮影機材:PENTAX KP + smc PENTAX-D FA MACRO 100mmF2.8 WR
■撮影環境:F4 1/250秒 ISO800 +1EV

近所を歩いていて、偶然花の上にとまっていたテントウムシに気づいて「きれいだなぁ」と思ったら、他の場所でもテントウムシの姿に気づくことができるようになっていきます。でも、何もないと思って歩いていると、いつまでたっても何も見えてはきません。自分の心に素直になって、ちょっと気持ちが動いたものを撮っていくことで、あなたの視点が写真になっていくのです。もちろん撮った全てが作品になるわけではないですが、そこには確実にあなたの視点があり、あとはどう魅力的に撮るかを考えていけば良いのです。

まずは自分の目で被写体を探し、興味を広げてみてください。
ひとつひとつの発見があなたの個性となり、作品につながっていきます。

機材は適材適所で

機材に決まりはありませんが、場所によって向き不向きはあるように思います。これからネイチャースナップを始めたい人は、ダブルズームキットか高倍率ズームにマクロレンズがあれば、たいていのシーンをカバーできます。そのあとは必要に応じて揃えていきましょう。

東京で撮影していた頃は、広い風景が撮れないこともあって、100mmマクロだけで歩いていたことが多かったです。東京に限らず、街中でいろいろなものを探すのであれば、切り取りやクローズアップが多くなると思うので、マクロや望遠レンズが向いていると思います。通勤途中にもちょっと撮ってみたいと思うのであれば、コンパクトでマクロに強いコンデジもいいと思います。

本格的にネイチャースナップを意識するきっかけとなった一枚。今はなき銀座の一角の植え込みでみつけたシジミチョウの羽化。都会の中でも自然は息づいていると感じた瞬間だった。
■撮影機材:CANON EOS 10D + EF100mm F2.8 マクロ USM
■撮影環境:F2.8 1/125秒 ISO200 +0.3EV

少し足を伸ばして広い景色も撮れる場所では、高倍率ズームがあると便利ですね。レンズ交換の手間も省けますし、画角が合わないからと中途半端な構図で撮影することも防げます。

街中のネイチャースナップでは望遠系の切り取りが多くなるが、ときには広角で撮りたくなることも。こんな広がりのある景色も高倍率ズームなら手間なく捉えることができる。
■撮影機材:CANON EOS R5 + RF24-240mmF4-6.3 IS USM
■撮影環境:F14 1/60秒 ISO250 +0.7EV

北海道に住んでからは、超望遠ズームだけで撮影することも多くなりました。北海道では景色が広く被写体までの距離が離れていたり、いきものとの出会いも多いので、常用レンズとなっています。

北海道では野生動物との出会いも多く、景色も離れているので、望遠系のレンズが必須。このときはエゾリスがクルミをかじっていた。
■撮影機材:Nikon D850 + TAMRON SP150-600mmF5.6-6.3 Di VC USD G2
■撮影環境:F6.3 1/160秒 ISO3200 +2.3EV

じっくり撮れる時間があればレンズ交換をしてもいいと思いますが、被写体を見つけたら手早く撮影することが多いので、いまは機動性重視の選択となっています。入門者に多いと思われるダブルズームキットでネイチャースナップをする方は、面倒がらず必要に応じてレンズ交換をしてください。後でトリミングすればいいと考えてしまうと、せっかくの高画質を損ねることになりますよ。

また、ネイチャースナップをしているときは三脚を使わないことが多く、感度を上げて対応しています。最近のデジカメは高感度にも強いので、格段にシャッターチャンスに強くなっていますね。

なにはともあれ、身近な自然を発見して撮影するネイチャースナップを楽しんでみてください。

 

 

■自然写真家:小林義明
1969年東京生まれ。自然の優しさを捉えた作品を得意とする。現在は北海道に住み、ゆっくりとしずかに自然を見つめながら「いのちの景色」をテーマに撮影。カメラメーカーの写真教室講師などのほか、自主的な勉強会なども開催し自分の視点で撮影できるアマチュアカメラマンの育成も行っている。

 

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