ネイチャースナップのすすめ|C-PLフィルターを使いこなそう
はじめに
写真がデジタル化して後処理で色々なことができるようになってから、フィルターの出番はだいぶ減ってしまった感じがします。そのなかでも異色の存在がC-PL(円偏光)フィルターです。
後処理では得られない効果があるため、いろいろなシーンで活用されています。私も使用頻度が高く、なくてはならないフィルターとなっています。今回はネイチャースナップの視点から、このC-PLフィルターを紹介したいと思います。

■撮影機材:Nikon D850 + AF-S NIKKOR 24-120mm 4G ED VR + C-PLフィルター
■撮影環境:F14 1/80秒 ISO800 WB太陽光
C-PLフィルターの役目
C-PLフィルターは何をするものかというと、「偏光」をカットするためのフィルターとなります。
光はさまざまな方向に振動していますが、物体にあたって反射すると特定の方向だけに振動する「偏光」となります。フィルターには偏光膜という特定の方向に振動した光だけを通す膜が貼られていて、被写体からやってくる偏光の振動と違う角度にすることで、この偏光をカットすることができます。
簡単にいうと、被写体の反射をとる効果があるのです。詳しいことを知りたい方は、フィルターメーカーのWEBサイトなどに図解入りで分かりやすく解説されていますので、見てみてください。


■撮影機材:Nikon D850 + AF-S NIKKOR 24-120mm 4G ED VR + C-PLフィルター
■撮影環境:F14 1/80秒 -0.7EV補正 ISO800 WB太陽光
反射をとる
被写体の反射をとることで得られる効果は、色を鮮やかに再現できることです。身の回りにある景色の中には、常に反射があるといっても過言ではありません。とくに日差しが強い時には、太陽の光が強く反射して光って見えるところがあちこちにあるはずです。
風景を撮影しているときを考えると、葉の表面や水面に反射が起きています。この反射を取り除くことで、被写体本来の色を再現できるようになって、鮮やかさが増すというわけです。
肉眼で何気なく景色を見ている時には、頭の中で補正されて反射しているところも色が鮮やかだったように感じるかもしれませんが、じっくり冷静に見てみると、あちこちに反射があるのがわかるでしょう。


■撮影機材:Nikon D850 + SIGMA 100-400mm F5-6.3 DG OS HSM + C-PLフィルター
■撮影環境:F11 1/250秒 ISO800 WB太陽光


■撮影機材:Nikon D850 + AF-S NIKKOR 24-120mm 4G ED VR + C-PLフィルター
■撮影環境:F13 1.3秒 ISO200 WB太陽光
水辺の景色では水の透明感を再現したいと思っても、水面に景色が映っていて目で感じたような透明感を再現できないことが多いです。しかし、C-PLフィルターで水面の反射を取り除けば透明感を再現できます。
ただし、すべての反射を取り除けるわけではありません。反射してくる角度が30°から40°の範囲のものに限られます。水面を真上から撮影している時に自分の写り込みを消したいと思っても、これは無理なのです。
色を鮮やかにしたいからといってカメラの色彩設定の彩度が高いものにしても被写体の反射がなくなるわけではなく、かえって不自然な色合いになってしまうことがあります。まずはC-PLフィルターで被写体の反射を抑えて、それから好みの彩度に調整することが必要です。


■撮影機材:CANON EOS R5 Mark + RF24-240mm F4-6.3 IS USM + C-PLフィルター
■撮影環境:F13 1/80秒 +0.3EV補正 ISO640 WB太陽光


■撮影機材:CANON EOS R5 MarkII + EF100mm F2.8 Macro USM + C-PLフィルター
■撮影環境:F3.5 1/200秒 +0.7EV補正 ISO1600 WB太陽光

空の青さを強調する
自然写真のなかでは空の青さを強調するのもC-PLフィルターが活躍するシーンです。後処理で空を青くすることは可能ですが、稜線部の境目などが不自然な仕上がりになってしまうこともあり、撮影時に思い通りに撮れている方がいいと思います。
ただ、空の青さを強調する場合には制約があります。空を青くできるのは、太陽とカメラマンを結んだ線に対して90°の位置にあたる部分に限定されるのです。
朝や夕方の太陽が低い時は空の高い部分で効果があり、日中の太陽が高い時なら順光の方向で効果が得られます。空の一部分にしか効果が得られないため、画角が広いときには空がムラになってしまうこともあります。ムラが気になる時には、後処理でムラを抑える必要がでてきたり、フィルターをつけない方がいいこともあるでしょう。
また、湿度が高くかすんでいたり薄い雲が広がっていたりする時にはあまり効果がありません。すっきりと晴れている部分だけに効果が得られると覚えておいてください。


■撮影機材:CANON EOS R5 MarkII + RF24-240mm F4-6.3 IS USM + C-PLフィルター
■撮影環境:F9 1/320秒 ISO1600 WB太陽光


■撮影機材:CANON EOS R5 MarkII + RF24-240mm F4-6.3 IS USM + C-PLフィルター
■撮影環境:F10 1/400秒 +0.7EV補正 ISO640 WB太陽光



■撮影機材:Nikon D850 + AF-S NIKKOR 24-120mm 4G ED VR + C-PLフィルター
■撮影環境:F11 1/250秒 +0.3EV補正 ISO800 WB太陽光
効果の確認方法
C-PLフィルターは持っているけれど、使い方がよくわからないという声を聞くことがあります。
まずC-PLフィルターは付けるだけではダメで、効果が得られるようにフィルターの前枠を回転させる必要があります。90°毎に効果の強弱が変化しますから、ファインダーを覗きながらフィルターを回して効果の得られる角度にしてから撮影するのです。
効果があるかどうかは、画面の反射して白っぽく見えている部分を見ながら判断します。反射が抑えられると被写体本来の色が見えるようになったり、水面なら映り込んでいる反射そのものがなくなったりします。空の青さを強調する場合は、空が一番暗く見えるようにフィルターを回します。画面のどの部分を見ていれば効果の違いがわかるのかは、何度か練習して慣れていくようにしましょう。
これらの効果は、光学ファインダーのカメラの方が確認しやすいように思います。ミラーレス一眼では反射が抑えられるのと同時に見えている像の明るさが変化して、C-PLフィルターの効果が出ているのが分かりにくいことがあります。
私はEVFの輝度を手動で設定してファインダーの明るさが変化しないようにしているのと同時に、シャッターボタン半押しでAEロックがかかる設定にしていて、C-PLフィルターを回す時にはシャッターボタンを半押ししたままで露出が変わらない状態にしています。


効果の強弱を使い分けよう
C-PLフィルターは常に最大効果で使うのが正しいわけではなく、表現に合わせて中間の効果で使った方がいいこともあります。いつでも完全に反射をとってしまうのではなく、ほどよく反射を残すことでイメージ通りになることもありますし、シーンによっては反射が強い方がいいこともあります。
ファインダー上では効果の違いがわからないときには、小刻みにフィルターを回して撮っておくといいでしょう。このような微調節が一味違う作品へとつながります。
また、C-PLフィルターはつけっぱなしという人も多いのですが、効果があまり得られないシーンなど必要がない時には外すようにしましょう。C-PLフィルターは偏光をカットするためフィルターを通過する光量が減っていて、1絞りから2絞り近く光量が減ることがあります。その分の光量を補うために感度を上げたり、シャッター速度を遅くしてブレの可能性が増えたりするなどいいことはありません。


■撮影機材:Nikon D850 + AF-S NIKKOR 24-120mm 4G ED VR + C-PLフィルター
■撮影環境:F13 1/125秒 +0.7EV補正 ISO400 WB太陽光


■撮影機材:Nikon D850 + AF-S NIKKOR 24-120mm 4G ED VR
■撮影環境:F13 0.4秒 -0.7EV補正 ISO200 WB太陽光


■撮影機材:CANON EOS R5 MarkII + RF24-240mm F4-6.3 IS USM + C-PLフィルター
■撮影環境:F9 1/160秒 +0.7EV補正 ISO500 WB太陽光

応用した使い方
反射を抑える目的ではなく、ちょっと応用した使い方もできます。C-PLフィルターをつけると光量が減ることを利用して、ND(減光)フィルターの代わりにもなります。減らせる光量は少ないですが、スローシャッターを使いたい時には低感度と併用することで効果が得られます。
これは特殊な使い方になりますが、C-PLフィルターを2枚重ねると減光効果が大きくなり、どうしても大幅に光量を減らしたい時に有効です。ただ、色が変わったり濁ったりしてしまうことがあるので、緊急用として考えてください。またフィルター枠が画面の四隅に写ることもあります。


■撮影機材:Nikon D850 + Tamron SP 70-200mm F/2.8 Di VC USD G2 + C-PLフィルター
■撮影環境:F22 1.6秒 +1EV補正 ISO100 WB太陽光
知っておくといいこと
C-PLフィルターは前枠を回して使うために、使い方にもコツがあります。
まずはきちんとフィルターをねじ込んでおくことです。取り付けが甘いとフィルターが外れて落ちてしまうことがあります。とくに前枠を回す時に、フィルターが外れる方向(カメラを構えている時に時計回り)に回すと、だんだんフィルターが緩んでいって外れてしまうことがあるので、注意が必要です。
フィルターを取り付ける時には、ちょっと斜めになったまま無理やりねじ込むとフィルター枠が歪んでスムーズに前枠を回せなくなってしまいます。取り付ける時はレンズを上に向けてC-PLフィルターを被せて平行になっていることを確認してからゆっくり回していくとうまく取り付けられます。
逆にフィルターが固く締まってしまい外れない時には、力を入れずに緩くフィルター全体を手で包むようにしてゆっくり回すと外れやすいです。力を入れるとフィルター枠が歪んで楕円になって外れにくくなってしまうのです。
また、頻繁にフィルターを回すため、ついフィルター面に触れてしまって手の脂がついて汚れてしまうことも多いです。そのまま撮影すると汚れがフレアのように写ってしまうこともあるので、ときどきフィルター面を確認して、汚れていたらクリーニングしましょう。
そして、C-PLフィルターが古くなると偏光膜が変質して撮影される色が黄色くなったり赤くなったりします。そうなったら寿命なので交換しましょう。


■撮影機材:CANON EOS R5 MarkII + RF24-240mm F4-6.3 IS USM + C-PLフィルター
■撮影環境:F20 1/500秒 -1EV補正 ISO1600 WB太陽光

まとめ
自然の景色を鮮やかに再現してくれるので人気が高いC-PLフィルターは、持っている人は多いと思いますが、うまく使えていないことも多いようです。今回の記事を見ながら効果がしっかり得られるように使い方を練習して、撮影シーンに合わせて使い分けていきましょう。
まずは、カメラを構えたらC-PLフィルターの前枠を回すという一連の動作がクセになるくらい練習するといいと思います。
ちょっと高価なフィルターなので複数買えないという場合は、自分が持っているいちばん大きなフィルター径のものを購入して、ステップアップリングでサイズを合わせて利用するのもいいですよ。
■自然写真家:小林義明
1969年東京生まれ。自然の優しさを捉えた作品を得意とする。現在は北海道に住み、ゆっくりとしずかに自然を見つめながら「いのちの景色」をテーマに撮影。カメラメーカーの写真教室講師などのほか、自主的な勉強会なども開催し自分の視点で撮影できるアマチュアカメラマンの育成も行っている。













