プラスαの現像スキルでより魅力的な一枚に! vol.2 「進化したマスク機能の応用」

はじめに
プラスαの現像スキルでより魅力的な一枚に!シリーズ3連載の1回目はvol.1 「進化したマスク機能を使ってみる」と題して
「被写体を選択」「背景を選択」「オブジェクト」などにより、進化したマスク機能による現像をご紹介しました。まだご覧になっていない方は最初にそちらをご覧ください。
今回はvol.2 「進化したマスク機能の応用」と題してマスク機能を組み合わせて使う応用編をご紹介します。
次回はvol.3 「完成度を高めるトリミングと進化した削除機能」についてご紹介していく予定です。
なお、基本的な現像については「デジタル時代の現像スキルでワンパターンから脱却」をご参照ください。
※ここでご紹介するのは風景写真(特に富士山)の経験から得た私なりの考え方と方法論の一つのパターンです。写真によって別のパターンで行う場合もあれば、これが絶対正解という訳ではありませんので、ここでご紹介する以外の考え方や方法論も参考にしていただき、ご自身に適した道を見出していただければ幸いです。
※ここでは現像の主な流れをご紹介することを目的とするので、Lightroom Classic CCの操作方法全てについては触れません。
※2025年4月にLightroom Classic CC がアップデートされ新マスク「風景を選択」が追加されました。しかし、本記事の内容に影響はなくアップデート後もマスク機能の使い方の参考にしていただけますので是非ご覧ください。
露出差を解消するハーフNDの悩み
(画像1)のような場面で、ハーフNDフィルターを使って明るい富士山や空の露出を落として撮影すると、白鳥の頭が暗くなって不自然になってしまいます。
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そんな時はハーフNDフィルターを使わず、明るい富士山冠雪が白飛びしないアンダー気味に撮影して現像処理する必要があります。
しかし、vol.1「進化したマスク機能を使ってみる」でご紹介したLightroom Classic CCのマスク機能を単純に使っただけでは、白鳥の頭の部分が暗くなるなどの問題を解決できません。
今回はマスク機能を組み合わせることで、このような場合に対応する応用的な使い方をご紹介します。
進化したマスク機能の応用で悩みを解消
(画像2)は撮影したままのRAWデータです。湖面の波がキラキラする早朝の山中湖で『富士山に向かって伸びをする白鳥』をテーマに撮ったのですが、このままではキラキラと伸びをする白鳥の印象が弱いので、これから調整していきます。
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まず(画面3)のように、湖面のキラキラと伸びをする白鳥が際立つように基本現像を行います。
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その結果、富士山の冠雪と空が明るくなり過ぎたので(画像4)のようにマスクの「線型グラデーション」を使用して、湖畔より上部分を調整します。(画像5)
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【5】

これによりハーフNDを使ったのと同じような効果を得られますが、(画像6)のように白鳥の頭も黒く沈んでしまいます。
【6】

そこで、上記の「線型グラデーション」の効果から白鳥の頭部分のみ無効にする方法をご紹介します。
(画像5)の「線型グラデーション」部分を調整した後、「マスク1」をクリックすると「追加」ボタンと「減算」ボタンが表示されます。「追加」ボタンは「線型グラデーション」の選択範囲を広げる場合、「減算」ボタンは「線型グラデーション」の選択範囲を狭める場合に使います。
今回は「減算」ボタンを使用します。「減算」ボタンを押すと(画像7)のように「減算」可能なマスク一覧が表示されます。
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「オブジェクト」を選択して中央の白鳥を囲みます。(画像8)
【8】

自動的に中央の白鳥部分の「線型グラデーション」が適用された範囲から「減算」(無効化)されます。「オブジェクト」が狙った通りに選択されない場合はやり直すかブラシなどで選択範囲を調整します。
「オブジェクト」についてはvol.1「進化したマスク機能を使ってみる」もご参照ください。
【9】

その状態をわかりやすくするため、マスク一覧の下にある「オーバーレイを表示」をチェックすると(画像9)のようになり白鳥の頭部分が「減算」(無効化)されていることが確認できます。(オーバーレイをグリーンに変更してあります)
(画像10)の左は「減算」処理前、右は「減算」処理後です。
【10】
「減算」処理によって白鳥の頭は改善されましたが、首と頭の羽色が茶色であるため胴体の白い羽色が少し目立っています。この状態で十分ですが、ここでは敢えて白鳥の首から上をもう少し明るくする方法もご紹介します。
(画像11)は画面を100%に拡大して「新しいマスクを作成」で「マスク2」を追加し、「オブジェクト」で白鳥を選択した状態です。
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「マスク2」の「減算」で「線型グラデーション」を使って白鳥の胴体部分を「減算」したのが(画像12)です。
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(画像13)のように白鳥の首から上の部分を調整します。
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これで中央の伸びをする白鳥の首から上の部分だけを調整できました。
しかし、テーマは『富士山に向かって伸びをする白鳥』でしたが、手前の白鳥、特に胴体部分が目立ち過ぎています。
ハーフNDを斜めに取り付けて手前の白鳥を少し暗く撮影する・・・という事はほぼ不可能なので、代わりに現像で同様のことを実現していきます。
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(画像15)は「マスク3」を追加して手前の白鳥にハーフNDをかけるように「線型グラデーション」をかけた状態です。
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ハーフNDのような効果を出すために(画像16)のように「露光量」をマイナスします。
しかし、このままでは手前の白鳥だけでなく「線型グラデーション」のかかった手前の湖面や地面まで暗く沈んでしまいます。手前の湖面や地面を元のままにする一つの方法をご紹介します。(多様な方法で同様のことが出来ます)
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「マスク3」の右側にある「…」マークをクリックすると現れるメニュー(画像17)から「マスクの共通範囲」「オブジェクト」を選択して、手前の白鳥を囲みます。(画像18)
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すると(画像19)にように「線型グラデーション」で選択したマスク範囲と「オブジェクト」で選択した「マスクの共通範囲」が選択されます。すなわち手前の白鳥部分だけに調整が適用される訳です。
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(画像20)は「線型グラデーション」だけの左側と「マスクの共通範囲」を使った右側を比較したものです。右側の湖面と地面が黒潰れしていないのがわかります。
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今回の調整では違いが分かりやすいように敢えて強く調整しています。マスクを使った現像、調整ではマスク部分とそれ以外の部分の違和感を感じさせないバランスを意識することがとても重要なことです。
まとめ
風景写真を撮影しているとハーフNDフィルターで強い明暗差を調整して撮影することがあるかと思います。そんな時、被写体の形(今回なら富士山や白鳥の形)を切り抜いたハーフNDフィルターがあれば良いのにと思った事はないでしょうか?
そのようなハーフNDフィルターは現実的ではありませんが、Lightroom Classic CCの進化したマスク機能を応用すればそれが可能になると言えます。
今回の記事を参考にして、皆さんが撮影された写真をより魅力的な一枚にしていただければ幸いです。
次回vol.3 「完成度を高めるトリミングと進化した削除機能」ではトリミングや進化した削除機能を使って構図を整え、主役やテーマをより明確にすることで完成度を高める流れをご紹介する予定です。
※ここでご紹介した画面はLightroom Classic CC 14.2 リリース、Camera Raw 17.2 の画面です。バージョンアップにより画面デザインやツールバーが変更されて、今回のご紹介画面と異なる場合があります。
※Lightroom Classic CCはAdobe Inc.(アドビ社)の米国ならびにその他の国における登録商標または商標です。
※Adobe 製品のスクリーンショットは Adobe の許可を得て転載しています。
■写真家:TAKASHI
2011年から富士山をメインテーマに風景写真を撮り続ける富士山写真家。主な所ではNational Geographic Traveler誌の2018年6/7月号表紙に採用されSony World Photography Awards 2018日本3位受賞、WPC 2022 (ワールドフォトグラフィックカップ)で日本最高得点を受賞。作品は世界各国のT V番組・写真集・専門誌・カレンダーなどで数多く紹介・掲載されている。
2019年1月銀座ソニーイメージングギャラリー、2020年1月銀座MEGUMI OGITA GALLERY、2023年3月あさご芸術の森美術館、他で写真展を開催。透明感のある美しいカラー、ダイナミックなコントラストのモノクロ、深みがあり記憶に残るブルーインクシリーズと多彩な作品を世界に発表し続けている。