前田真三氏のハッセルブラッドに憧れて、35mmから中判カメラへ。
――先生の作品は6×4.5で撮影されたものが数多くありますが、35mmから中判へ移行されたのは、どのようなことからだったのでしょうか?


 実は非常に安易なのですが、写真の勉強をしている時に見ていた写真雑誌に、女性の方が6×4.5で撮られた作品が入賞していました。これを見た私は「私も中判の6×4.5にしよう」と思い、早速カメラを購入しました。
 また、中判にしたきっかけは別の理由もありました。北海道旅行の時に美瑛町にある前田真三氏のギャラリー『拓真館』に行って、これまでに見たことのないきれいな写真と出会ったのです。前田真三氏がハッセルブラッドで撮影された”真四角“の写真が印象的でした。それもあって私も写真を始めるのならこの真四角な作品が撮りたいと思って、最初にカメラを購入する時に値段も知らず、ハッセルを買おうとしたぐらいです(笑)。

※拓真館:北海道美瑛町の廃校となった小学校跡地を利用し、写真家の故前田真三氏の代表作品80点を常設展示しています。約8000坪ある敷地では、ラベンダーをはじめ四季折々の草花を楽しむことができます。

――中判サイズでも6×6や6×7ではなく、6×4.5を選ばれた理由は?

 それは機動性からです。6×6、6×7のボディー・レンズのフルセットですと、私が持ち歩くには少しきつく、これならフルセットでも歩き回れる自信がありましたので6×4.5にしました。
 もちろん最初から全部を揃えた訳ではなく、まずはマクロレンズと45-85mmのズームレンズ2本だけでした。それが本格的に写真を始めてから4年後の2000年のことでした。その後初めて6×4.5で撮ったものがフォトコンテストに入賞して、写真がますます楽しくなりました。


【美しくて…】日没後、空がピンクに染まり湖面も美しい色に。小さなしぶき氷ですが、なぜか私の心を惹きつけました。静かで美しい時間です。
■カメラ:ペンタックス645N・ レンズ:FA150-300mm(F5.6) シャッタースピード:1秒 絞り:f22 フィルム:フジクローム ベルビア UVフィルター 三脚使用 撮影地:青森県十和田湖


【灯美(ともしび)】十和田湖畔でしぶき氷に夕陽の光が入りました。寄せては返す波のタイミングを見計らって、氷にオレンジの光が入る瞬間にシャッターを切ります。冷たさの中にも温もりを感じた出合いです。
■カメラ:ペンタックス645N・ レンズ:FA150-300mm(F5.6) シャッタースピード:1/4 絞り:f22 フィルム:フジクローム ベルビア100 UVフィルター 三脚使用 撮影地:青森県十和田湖

 

【風の音】能取岬で流氷を撮影した後の帰り道、雪原は優しい光に包まれプルーとピンク色に。吹きつける風の音を聞きながらシャッターを切っていると、やがて雪原は見慣れた白一色の世界になりました。
■カメラ:ペンタックス645N レンズ:FA150-300mm(F5.6)シャッタースピード:1/8 絞り:f27 フィルム:フジクローム ベルビア UVフィルター 三脚使用 撮影地:北海道網走市

 

「日本フォトコンテスト」誌の
“年度賞1位”を獲得。さらに女性初の“前田真三賞”を受賞。
――プロの写真家になるのを決意されたきっかけはどのようことからでしょうか?

【冬墨絵】湖面に張った氷は夜明け前に降った雪で真っ白でした。時間とともに気温が上がり、雪はどんどん融けながら形を変化させていきました。静寂でモノトーンの世界です。
■カメラ:ペンタックス645NII レンズ:FA150-300mm(F5.6)シャッタースピード:1/8 絞り:f22 フィルム:フジクローム ベルビア100 UVフィルター 三脚使用 撮影地:福島県裏磐梯秋元湖

 

【白い時間】針葉樹の前に1本の個性的なシラカバが立っていました。薄っすらと雪をまとった白い時間はそう長くはありません。シャッターを切っている間に雪はみるみる消えていきました。
■カメラ:ペンタックス645N・ レンズ:FA80-160mm(F4.5) シャッタースピード:1/10 絞り:f16 フィルム:フジクローム プロビア100F UVフィルター 三脚使用 撮影地:長野県高ボッチ


 6×4.5を始めた後に、もっとうまくなりたくて初めて写真クラブに入会したのです。撮影会にも参加して今まで知らなかったことも学ぶことができました。フォトコンテストにも継続的に応募するようになり、コンスタントに入賞できようにもなりました。自分の作風がある程度評価されるようになってきて、それまではずっと音楽をやってきたのですが、写真を仕事にできたらいいなあと思い始めていました。
 写真の仕事だけでやっていくにはどうしたらいいのか考え、その答えのひとつがフォトコンテストで上位に入り、いろいろな人に名前を覚えてもらうことではないかと思い、「日本フォトコンテスト」誌の月例年度賞にチャレンジ。3年計画で1位を目指しました。1年目の2002年に5位に入り、2年目の2003年には1位をいただくことができたのです。その後に初めての写真集『青い森話〜八甲田・奥入瀬・十和田〜』と、同名の写真展を計画しました。
 そのときに“前田真三賞”のことが頭に浮かびましたが、応募規定に「未発表作品に限る」という規定がありました。写真集・写真展用に撮り貯めた作品がありましたので、「八甲田」の中から30点に絞って応募したところ運よく“前田真三賞”を受賞することができました。それが2004年のことで翌年に写真集と写真展を実現でき、そのことがプロでやっていくきっかけになりました

――日本の自然風景を撮り続けている先生にとって、お気に入りの撮影場所はおありでしょうか?

 カメラを買って最初に行った森が八甲田でした。ですから八甲田には他と違った思い入れもありますが、南の西表島や北の北海道も大好きです。まだ日本の中でも行けていないところの方が多いので、お気入りというよりは日本のすばらしい自然をもっともっと撮ってみたいです。私のモットーは「見たい」「行きたい」「撮りたい」なので、まだ行ったことのないところを撮りに行きたいです。
 私が大きなテーマとしているのが『夢のある表情豊かな作品』をつくることです。その被写体の中でも『森』にはすごく心惹かれるものがあります。また、日本の色彩は独特の世界です。四季の変化があって山があり森や川があり、外国とは違う日本ならではの景観がありますので、これらをもっと見ていかないといけないと思っています。日本は南北に長いので、北と南では植生が全く異なり、気候も差が大きいのですごく表情が豊かです。それを追い続けていると外国に行っている時間がありません。やはり日本は自分の生まれ育ったところですので、まず同じ国の人たちに日本の素晴しさを見てもらいたいと思います。これからもずっと日本にこだわって撮り続けてくつもりです。



 

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