「伝説のタムキュー」と呼ばれるレンズ、タムロン 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD
はじめに
今回紹介するレンズは「タムキュー」の愛称で親しまれている、タムロン「90mm F/2.8 Di III MACRO VXD(Model F072)」です。初代のタムキューが発売されたのは1979年、初代登場から45周年を迎えた2024年10月にミラーレス版として「Eマウント」と「Zマウント」で登場しました。多くのタムキューファンが待ち望んでいたニューモデルの登場で、筆者も発売後すぐに購入をしました。
タムロン「90mm F/2.8 Di III MACRO VXD」(Model F072)はマクロレンズだけではなく、オールラウンダーな中望遠単焦点として評価の高いレンズです。そのスペックと魅力・写りをご紹介します。
タムロン「90mm F/2.8 Di III MACRO VXD」の基本スペック

今回のタムロン「90mm F/2.8 Di III MACRO VXD」(Model F072)は、単焦点90mmのマクロレンズです。マクロレンズとしての機能もさることながら、中望遠の単焦点レンズとしての魅力も高いレンズです。今回使用しているのはEマウント版なので、ソニー純正のマクロレンズ「FE 90mm F2.8 Macro G OSS」とスペックを比較してみました。
| 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD(Model A72) | FE 90mm F2.8 Macro G OSS | |
| 焦点距離 | 90mm | 90mm |
| レンズ構成 | 12群15枚 | 11群15枚 |
| 開放絞り | 2.8 | 2.8 |
| 最小絞り | 16 | 22 |
| フィルター径 | 67mm | 62mm |
| 絞り羽根枚数 | 12枚 | 9枚 |
| 最近接距離 | 0.23m | 0.28m |
| 最大撮影倍率 | 1:1 | 1:1 |
| 手ブレ補正 | 無 | 有 |
| 全長×最大径 | 126.5×79.2mm(Eマウント用) | 130.5×79mm |
| 重量 | 630g(Eマウント用) | 602g |
| 発売 | 2024年10月 | 2015年6月 |
実を言うと筆者は「FE 90mm F2.8 Macro G OSS」を使用していましたが、タムロン「90mm F/2.8 Di III MACRO VXD」(Model F072)の発売を機に、マクロレンズのメインを「タムキュー」に鞍替えしたユーザーの一人です。筆者が鞍替えした一番の理由は、「FE 90mm F2.8 Macro G OSS」が発売から10年ほど経過したモデルである事、ハードな使用による経年劣化とオートフォーカス性能等の不満を感じていたことが一番の大きな要因でした。
10年以上前には「SP 90mm F/2.8 Di MACRO 1:1 VC USD」(Model F004)を愛用していたこともあり、今回のタムキュー回帰になった次第です。




タムロン「90mm F/2.8 Di III MACRO VXD」(Model F072)で、特徴的な要素として挙げられるのが「タムロン初の12枚羽根の円形絞り」の採用です。最近のレンズでは奇数の絞り羽根枚数が標準的で、「9枚」「11枚」といった絞り羽根枚数がほとんどのレンズに採用されている状態です。そこに他には無い、偶数である12枚の絞り羽根を採用してきたところに非常に興味をそそられます。
12枚という偶数枚で羽根を構成することにより、絞った際のすっきりとした光芒表現が可能になります。奇数枚数の絞りであれば、羽根の枚数の倍数の光芒線が発生するので、線の数が多くなります。偶数枚の絞りを採用しているタムロン「90mm F/2.8 Di III MACRO VXD」(Model F072)は、工場夜景やイルミネーションといった光源が多い場所でも、被写体を邪魔することなく、スッキリとした描写が可能です。
下の2枚の写真は、絞り羽根12枚のタムロン「90mm F/2.8 Di III MACRO VXD」(Model F072)と絞り羽根9枚のソニー「FE 24-105mm F4 G OSS」を同じ場所から撮影し、光芒線の出方の違いを比較した写真です。
▼タムロン 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD

■撮影環境:シャッター速度10秒 絞りF16 ISO800 焦点距離90mm
※絞り羽根枚数12枚(偶数)の為、光芒線は12本
▼ソニー FE 24-105mm F4 G OSS

■撮影環境:シャッター速度10秒 絞りF16 ISO800 焦点距離86mm
※絞り羽根枚数9枚(奇数)の為、光芒線は18本
タムロン「90mm F/2.8 Di III MACRO VXD」(Model F072)のフィルター径は67mmで、タムロンの多くのレンズがフィルター径67mmに統一されています。複数のレンズを同時に持ち歩いても携帯性が高いことに加え、各種フィルターも共用できるほか、レンズ交換時に径の異なるキャップを探す手間が省けるなど、ラインナップ全体で高い利便性を発揮します。
タムロン「90mm F/2.8 Di III MACRO VXD」(Model F072)は、機能をカスタマイズできる「フォーカスセットボタン」とレンズをカスタマイズする為のコネクターポート(端子形状:USB Type-C)が搭載されているので、「フォーカスセットボタン」にユーザーの使いやすい機能を割り当てる事ができるようになっています。


タムロンのレンズをより快適に使いこなすためのポイントとして、「TAMRON Lens Utility」というソフトがあります。
パソコンまたはスマートフォンを使用して、コネクターポート(端子形状: USB Type-C)を搭載したタムロンレンズのカスタマイズやファームウェアのアップデートを行える専用ソフトウェアです。レンズを使いやすいように設定することで、撮影がもっと楽しく、もっとクリエイティブになります。
「TAMRON Lens Utility」で設定できる各種機能は、カメラボディ機能割り当て、AF/MF切り替え・フォーカスリミッター・フォーカスプリセット・A-B フォーカス・フォーカス/絞り リング機能切り替え・フォーカスストッパー・アストロFC-Lなど様々な機能設定が可能です。



タムロン「90mm F/2.8 Di III MACRO VXD」のマクロの実力

■撮影環境:シャッター速度1/6400 絞りF2.8 ISO800
一般的にマクロレンズの使用で一番多いのは、やはりお花の撮影をするシーンになるかと思います。タムロン「90mm F/2.8 Di III MACRO VXD」は、イメージセンサーに被写体と同じ大きさ(等倍)での撮影が可能です。小さな被写体を大きく写すことができるマクロレンズは、肉眼では捉えきれないものもしっかりと写すことができる魅力的なレンズです。

■撮影環境:シャッター速度1/500 絞りF2.8 ISO400
タムロン「90mm F/2.8 Di III MACRO VXD」の最短撮影距離は0.23mです。カメラのセンサーの位置からフードを装着したタムロン「90mm F/2.8 Di III MACRO VXD」の先端まで長さがおおよそ0.21mなので、気を付けないと被写体に当たってしまうぐらいに寄れてしまいます。レンズの保護や被写体への配慮を含めて、レンズフードはできるだけ装着していたほうが良いでしょう。

■撮影環境:シャッター速度1/800 絞りF9 ISO800
マクロレンズで被写体に寄って撮影した場合、特にピント合わせはより慎重に行います。被写界深度が浅いので、少しのピントのズレが大きなミスに繋がることがあります。シャッター速度に余裕がある場合は、絞りを絞って撮影してみましょう。

■撮影環境:シャッター速度1/1250 絞りF8 ISO800
タムロン「90mm F/2.8 Di III MACRO VXD」は、キレイな背景のボケの表現も魅力的です。これは、タムロン初の12枚羽根の円形絞りを採用したことが大きな要因のひとつです。最大撮影倍率1:1から1:4付近のマクロ領域において、絞り開放時に玉ボケ(丸ボケ)が真円になるよう配慮することで、画面の隅々まで口径食を軽減しています。また球面レンズのみの構成なので、非球面レンズで発生しやすい輪帯ボケも少なく、美しい玉ボケ表現をすることができています。

■撮影環境:シャッター速度1/2000 絞りF2.8 ISO800

■撮影環境:シャッター速度1/500 絞りF4.5 ISO400

■撮影環境:シャッター速度1/3200 絞りF2.8 ISO800
タムロン「90mm F/2.8 Di III MACRO VXD」は、お目当てのお花だけでなく、お散歩途中も小さな被写体を探して撮影するのが楽しみになるレンズです。
タムロン「90mm F/2.8 Di III MACRO VXD」でペット撮影

■撮影環境:シャッター速度1/400 絞りF2.8 ISO800
※被写体認識「動物」使用
タムロン「90mm F/2.8 Di III MACRO VXD」はマクロレンズですが、もちろんマクロ撮影以外にも様々なシーンで使えるレンズです。中望遠の単焦点レンズとしてポートレート撮影やペット撮影などにも使いやすいです。今回は室内で猫と犬の撮影をしてみました。オートフォーカス性能に関しては、リニアモーターフォーカス機構VXD (Voice-coil eXtreme-torque Drive)を搭載しているので、カメラ側の被写体認識「動物」と瞳AFも高速でスムーズに動作します。

■撮影環境:シャッター速度1/125 絞りF5 ISO1600
※被写体認識「動物」使用

■撮影環境:シャッター速度1/50 絞りF2.8 ISO1600
※被写体認識「動物」使用

■撮影環境:シャッター速度1/30 絞りF8 ISO1600

■撮影環境:シャッター速度1/160 絞りF2.8 ISO1600
※被写体認識「動物」使用

■撮影環境:シャッター速度1/1000 絞りF2.8 ISO800
※被写体認識「動物」使用
室内での撮影では90mmという焦点距離はやや長く、ペット撮影ではアップの写真になる場合が多くなりますが、中望遠の焦点距離と開放F値F2.8で撮影する事で背景を大きくボカす事ができるので、シンプルな写真を撮る場合にはピッタリのレンズです
タムロン「90mm F/2.8 Di III MACRO VXD」でスナップ撮影

■撮影環境:シャッター速度1/500 絞りF2.8 ISO200
次はタムロン「90mm F/2.8 Di III MACRO VXD」でスナップ撮影です。焦点距離90mmでのスナップ撮影は少し焦点距離が長すぎて扱いづらいのですが、シーンによっては思い切って切りとった構図にする事で、そのシーンをより印象的に表現することできます。旅行先でのイベントシーンで気になったものを撮影してみました。

■撮影環境:シャッター速度1/1250 絞りF2.8 ISO200

■撮影環境:シャッター速度1/50 絞りF8 ISO800

■撮影環境:シャッター速度1/1600 絞りF2.8 ISO800

■撮影環境:シャッター速度1/500 絞りF2.8 ISO400

■撮影環境:シャッター速度1/6400 絞りF2.8 ISO400
まとめ
初代のタムキュー登場から45周年を経過し、進化を続けミラーレス機に対応した「タムロン 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD」(Model F072)は、ユーザーの期待に答えた魅力と性能を備えています。マクロ初心者から上級者まで誰にでも扱いやすいマクロレンズですので、初めて買うマクロレンズとしてもコストパフォーマンスが高いです。お花などのマクロ撮影だけでなくポートレートやペット撮影にもおすすめなので、一本持っていると非常に便利なレンズではないでしょうか。
■写真家:坂井田富三
写真小売業界で27年勤務したのち独立しフリーランスカメラマンとして活動中。撮影ジャンルは、スポーツ・モータースポーツ・ネイチャー・ペット・動物・風景写真を中心に撮影。第48回キヤノンフォトコンテスト スポーツ/モータースポーツ部門で大賞を受賞。
・公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員
・EIZO認定ColorEdgeアンバサダー
・ソニーαアカデミー講師
















