ソニー RX1R III レビュー|10年ぶりの後継機、唯一無二のフルサイズコンデジ
はじめに
RX1RIIが2016年に発売されてから約10年、まさか出るとは思っていなかった後継機の登場にはさすがに驚いた。長い沈黙を破って登場した「RX1RIII」、どのように進化を遂げているのだろうか、関心を寄せている方も多いはずだ。
筆者は作品の大半を中判カメラ「PENTAX 645Z」を使って撮影しているが、それ以外はプライベートから街のスナップまでRX1RIIをずっと愛用してきている。自分で言うのもなんだが、かなりのヘビーユーザーだと自負している。
RX1RIIについてはこちらの記事にてレビューしているので興味のある方は参考にしていただければと思う。
思い入れがあればこそ、RX1RIIIがどのように進化したのか、または前機種のほうが逆に良かった点があるのか等、筆者も色々と気になっている一人だ。
やや辛辣になるかもしれないがズバッと斬り込んで見ていきたいと思う。ちなみに著しく進化した動画性能の部分に関しては触れず、あくまで静止画に特化して語っているのでご了承頂きたい。
二度裏切られた

酷暑が続く夏の切れ間、久しぶりの雨の日にRX1RIIIは届いた。根幹となるデザインに大きな変更はないものの、アイアンブラック塗装や素材が一新されたグリップの質感によって全体の印象はかなり変わった。
コンパクトながらずしっと手に吸い付くマグネシウムボディの重厚感が感じられ、この一台だけ持ってどこか遠くの国を撮りに行きたいと思わせる。サブではなく明らかにメインとなるカメラだ。
気もそぞろに作業部屋の景色を撮ったりしてみた。キビキビとしたAFや操作感の向上はあるものの、正直に言うと重要な撮影部分に関しての進化ポイントがいまいち掴めず、このままレビューを書いては「10年経ったものの、とかく注目する進化なし」としか書けないではないか、どうしたものかと真剣に悩んでしまった。
それだけRX1RIIは完成されていたのだ。もう進化しようがないのかもしれない・・・。
次の日、内心ひやひやしつつRX1RIIIと長年使い込んだRX1RIIを持って横浜は本牧の方に撮影に行った。これで本当に進化が見当たらなければ編集部に断りの連絡をいれようと思っていた。

撮り始めて1分もしないうちに、あれ、おかしい!めっちゃ進化しているじゃないか!と、一人はしゃいでしまった。AFの進化はすさまじくRX1RIIIで撮ったあとにRX1RIIに持ち替えてみるとワンテンポもっさりしている。人間比べるものがないと分からないものだ。この進化は数値以上に撮影テンポを快適にしてくれる。
ファインダーについての詳しい考察は後述するが、やや倍率が下がったことを気にしていたものの、実際使い出すとEVFの見やすさが段違いに向上していることが分かり、満足のいく進化を遂げていることが分かる。改めてRX1RIIを覗くとややくすんだ感じがする。眼の前の景色を忠実に再現しているのはRX1RIIIの方だ。

RX1RIII, F8, 1/500s, ISO100
このテンポ感、M型ライカにズミクロン35mmを付けているような感覚。カメラ自体の構造は全く違うが、体感としてはそう思わせるものがある。
かくして筆者は二度裏切られることとなったのである。
細部の変化

ボタン・ダイヤル数には変化がないものの、デザインが新しくなり軍艦部がフラットになった。ここらは好みによるところが多いと思うが、筆者が一番感動したのは電源スイッチの改善だ。
撮影に入る時に必ず触る部分ゆえに、操作しにくい点が今まで結構ストレスになっていた。地味に嬉しいポイントだ。その他のボタンも押しやすくなっており、ファインダーを覗きながら、目視せずとも的確に操作できるようにブラッシュアップされ、細かい変更ながら撮り手のことをよく考えていると言えるのではないだろうか。


ボタンまわりで一点気になるのは、フォーカスモード切り替えのダイヤルが廃止されたことである。AFモードの切り替えやMFにする時など重宝していただけに残念だ。

特に35mmという焦点距離を考えても、スナップ撮影などでf8あたりまで絞り、距離を1.5m固定といった「置きピン」で使うことも多いので、ショートカット設定などで対応できるとはいえ、継続して欲しかった。
ちなみにカスタム設定に細かい距離設定の保存ができたら実に素晴らしい。是非ともファームアップで実装をお願いしたい点である。
描写


RX1RIII, F5.6, 1/3200s, ISO100
さて肝となる描写についてである。多少の欠点はあれど、筆者がRX1RIIを使い続けている理由としてその描写力の高さにある。小さなボディから生成されたとは思えないほどの階調性豊かなデータで、中判カメラのデータと混ぜても遜色ないレベルなのだ。

RX1RIII, F3.2, 1/2000s, ISO400
これはひとえにレンズ一体型の恩恵であると言える。センサー上には光を受け取る受光素子がびっしりと並んでいる。通常のレンズ交換式カメラであれば、様々なレンズを装着するので受光素子に異なる角度で光が届いても一定水準のクオリティを出すように設計しなければならない。
超広角からマクロレンズなど様々なレンズを想定しなければならないのに対し、本機はゾナーT*35mmのことだけを考えればいい。
さらに出荷される一台一台に対し、個体差を無くすためにミクロン単位で厳格なチェックをするという徹底ぶり。これにより、レンズ・センサーともに最大限のパファーマンスを引き出すことができるのだ。これは本当に大きい。


RX1RIII, F2.2, 1/200s, ISO1600
気になるのは、画素数が4240万画素から6100万画素へと引き上げられたのに対しレンズ設計に変更なしという点だ(もっと言えば2012年発売の初代RX1から据え置である)。
高画素化するほどレンズに求められる能力は高くなるのだがこれは杞憂であった。
同一地点から撮影したもので比較してみよう。

▼中央部を拡大

そもそもスモールモンスターと言える実力だったのが、着実に解像感も増した。それがカリカリの解像度アップということではなく、滑らかな描写の中で拡大すればしっかり写っているという好ましい印象。
画素数が上がった分、手ブレにはよりシビアになったわけで、手ブレ補正が搭載されていれば…と思うがコンパクトさを考えれば仕方ないのかもしれない。
普段はRAWでしか撮らないが、今回は検証のためjpeg同時保存した。jpegの画質もかなり良く、A4あたりのプリントなら遜色ない。もちろんbit数の違いからRAWの方が解像度・階調性もいいわけだが、ここは自分がどういうアウトプットに使うかで使い分けすればいいだろう。
高感度はやや弱点か

AF性能の向上で暗所撮影は格段と快適になった。ただ撮影データについて言えば、やや課題が残るように感じた。ISO400あたりから、最近のカメラにしてはノイズが多いように思う。ただノイズというのはある程度あった方が心地よい画像になる事も多く、RX1RIIIもそういった傾向だ。

かつては緊急用と言われることの多かったISO1600でも、今では常用感度とされることが多い。どこまでのノイズを許容範囲にするかは人それぞれだが、大きくプリントすることが多い筆者としてはISO800以下に抑えたいところ。以下に比較的意地悪な実験をしたので参考にしていただけばと思う。
室内の低照度環境、三脚使用、ISO1600で撮影。

まずは現像ソフトによる差を見るために同じRAWデータをSONY純正のImaging Edge(Windows)とAdobe Camera Rawにて展開。Imaging Edgeは偽色の発生が見られ解像度も今ひとつ。Adobe Camera Rawの方が好結果となった。

次に三脚を使用して同条件で撮影したRX1RIIIとRX1RIIをともにAdobe Camera Rawにて展開比較。データの結果は似ているものの、画素数の違いが素直に結果に現れている。ただ高感度域においてはRX1RIIも健闘しているように見える。

全体としてアルゴリズムのせいか、センサーのせいかは分からないが、同世代のカメラとしては高感度撮影に弱い印象を受けた。手ブレ補正非搭載と合わせて考えても、ここが本機の弱点となりそうだ。
昨今AIを用いた現像などが台頭しているように、デジタルにおいて最終的な画質はソフトウェアによる所が多いので今後改善されるといいのだが。
バッテリー

カメラの断面図を見てもセンサーとレンズ最後部は本当にスレスレで、よくこの小さなボディに様々な基盤を詰め込めたものだと感心してしまう。しかも今回はバッテリーのサイズまで大きくなっているというのに全体としてはコンパクトなままだ。
画素数があがり消費電力が増えたせいか、トータルでの撮影枚数はそこまで上がったかというと悩ましいところである。


筆者はそんなにシャッターをパカパカ切らない方なので目安でしかないが、バッテリーを満充電して0%になるまで3時間弱だった。EVFメインで通常の使い方で総撮影枚数は286枚だった。
予備電池を持つか、充電時間も早いのでモバイルバッテリーを持って移動時間などにさっと充電するのもありだと思う。
ファインダー

RX1RIII, F2.5, 1/400s, ISO100
さて一番筆者が思うところある部分について述べよう。正直まだRX1RIIIは使い込んだと言えるほどの時期ではないので、慣れの問題といえばそれまでなのだが、RX1RIIのポップアップ式ファインダーから今回の変更にはかなり驚いた。

ファインダー部の突起で若干スリムさが無くなったのは否めないが、可動部は故障リスクがあるので正しい進化だと思う。現に筆者はポップアップ部の故障で一度修理を味わっている。それはさておき、問題はファインダー倍率の低下である。
0.74倍から0.7倍への変化ということでスペック上はそこまでのものではないように見えるが、いざ比較して覗くとその広さの感じ方はかなりの差がある。例えるならフルサイズ機とAPS-Cの差と言おうか。

まぁ撮影時にはそこまで気にはならないし、10年の年月でEVF自体はかなり良くなっている為、色やちらつきは断然RX1RIIIのほうが良い。だからなおのこと倍率がせめて同じであればと思うのだ。ちなみに筆者は普段メガネをかけて使うことが多いが、特に問題は感じない。
ただ最近では覗かないで撮る方も増えてきているので、気にし過ぎなのかもしれない。しかしそれなら背面液晶がチルト式では無くなってしまったのは痛い(RX1RIIIは背面液晶が固定式)。


RX1RIII, F7.1, 1/1250s, ISO100
晴天だと背面液晶はお世辞にも見やすいとは言えない。そうした場合はEVFで撮影せざるを得ないことも考えると、ファインダーのスペックにはこだわってほしかったと思ってしまう。
まとめ

約10年越しの後継機、改良する余地はそんなに無いだろうと思っていたが見事に裏切られた。根幹的なものに変化はないのに、ここまでブラッシュアップする場所が残っていたとは驚きだ。
気になるのは値段だろう。RX1は初代からしてコンパクトカメラにしてはトンデモナイ値段に驚かされた。ただ、1台ずつミクロン単位での調整をするなど手間がかかっており、手にしてみるとこのプライスには納得させられるはず。
RX1RIIを発売から使い続けている筆者も購入当初は清水の舞台から飛び降りる覚悟であったが、実に長く付き合えるカメラとなったことを踏まえ、RX1RIIIも唯一無二の存在になるだろう。
■写真家:新納翔
1982年横浜生まれ。麻布学園卒業、早稲田大学理工学部中退。2000年に奈良原一高氏の作品に衝撃を受け、写真の道を志す。2007年から6年間山谷の簡易宿泊所の帳場で働きながら取材をし、その成果として日本で初めてクラウドファウンディングにて写真集を上梓する。2009年から2年間中藤毅彦氏が代表をつとめる新宿四ツ谷の自主ギャラリー「ニエプス」でメンバーとして活動。以後、現在まで消えゆく都市をテーマに東京を拠点として活動をしている。日本写真協会(PSJ)会員。














