ソニー RX1R III レビュー|ポケットに収まる“最高画質”のスナップシューター
コンパクトボディに凝縮された最新技術
約10年の時を経て、 ついにSONY RX1R IIIが登場しました。 ソニーが誇るフルサイズコンパクトの最新作は、 単なる後継機ではありません。搭載されているのは、 α7R Vと同等の有効約6100万画素、 35mmフルサイズ裏面照射型 CMOSイメージセンサー。 ローパスフィルターレス設計により、 細部のディテールまで余すことなく描き切る圧倒的な解像力を備えています。
手に取ると、 まず驚くのは、 この圧倒的な性能がポケットサイズのボディに収められていることです。 マグネシウム合金製の堅牢な筐体は約498gと軽量で、 日常の鞄にすっと忍ばせられます。 スナップカメラと呼ぶには贅沢すぎるスペックですが、 常に持ち歩けることこそがこのカメラの真骨頂です。
「最高画質をどこへでも連れ出せる」。 これこそがRX1R IIIの存在意義であり、 このレビューで最もお伝えしたいポイントです。

ストリートスナップで輝くカメラ
コンパクトなボディは、 ストリートでの撮影において何よりの武器となります。 大きなカメラを構えると、 被写体も周囲もどこか緊張してしまいがちですが、 手のひらサイズのRX1R IIIなら、 **「心の動いた瞬間を高画質で意のままに描写できる相棒」**として街に溶け込むことができます。
ここでは、 実際に街を歩きながら撮影したスナップ写真から、 その魅力を紐解いていきます。
●建築物のディテール
手前の手すりから奥へと続く曲線的な構造物を捉えた一枚です。 有効約6100万画素の高解像度は、 ガラスや金属の質感を余すことなく捉え、 建築のディテールから人のシルエットまで克明に描写します。

●広大な屋内空間を歩く人の姿
高い天井から差し込む光が床を照らし、 その中央を歩く人物がアクセントとなっています。 広大な空間と人の対比を35mmという自然な画角が絶妙なバランスで切り取ります。

●階層の異なる空間
ゆったりとした時間が流れる落ち着いた雰囲気が感じられる空間と、 窓の外を歩く人の異なるリズムが対照的で、 都市の多層的な時間の流れを感じさせます。 RX1R IIIの35mmという画角は、 この「同時に存在する異なる世界」を一枚に収めるのに最適です。 また、 暗部から明部まで豊かに描き分ける解像力とダイナミックレンジが、 確かな描写力を示します。

●街角での偶然の瞬間
丸い格子越しに自転車で通り過ぎる人の姿がふと現れた一瞬です。 ほんのわずかな出来事がフレームに収まることで、 日常が小さな物語のように感じられます。 手のひらに収まるこのコンパクトさだからこそ、 通りすがりの一瞬にも素早く、 軽い気持ちでシャッターを切ることができます。 街角で生まれる偶然の瞬間を逃さず捉えられるのは、 このカメラならではの魅力です。

●夜の都市を歩く人
街灯とネオンが照らす歩道を一人歩く人物を捉えた一枚です。 ここで威力を発揮するのが、 RX1R IIIに新しく追加された「クリエイティブルック」です。 「FL3」で撮影するだけで、 写真全体が少し青みがかったクールで都会的な雰囲気に変わります。 小型のカメラでありながら、 表現の幅は非常に広く、 街の光景を自在に変化させることができます。

どの場面でも、 カメラを意識させずに瞬間を切り取ることができ、 さりげなくシャッターを切ることができました。 スナップシューターとしての資質は間違いなく一級品で、 描写は非常に精細です。 ストリートの何気ない一瞬が、 まるで作品のように撮れるのは、 フルサイズセンサーと高性能レンズの恩恵に他なりません。
風景で見せる圧倒的な描写力
RX1R IIIの真価は、 その卓越した描写力にあります。 有効約6100万画素の圧倒的な解像力は、 風景写真においてその威力を存分に発揮します。どこまでも続く広大な風景も、 RX1R IIIにかかれば細部まで驚くほど鮮明に写し取ることができます。 遠景にそびえる山々の荘厳な稜線、 岩肌の力強い質感、 そして木々の一本一本、 葉の一枚一枚に至るまで、 肉眼で捉えた以上の情報量で表現されることにきっと驚かされます。
特に、 光と影が織りなすディテールは圧巻です。 強い日差しの中で輝く川面、 岩の表面に刻まれた微細な凹凸、 風に揺れる草葉の柔らかな動きなど、 あらゆる要素が緻密に描き出されます。 また、 ローパスフィルターレス設計により、 ディテールの再現性が極めて高く、 風景が持つ空気感や奥行きを写真に閉じ込めることができます。


さらに、 RX1R IIIは逆光にも強い描写力を誇ります。 太陽を画面に入れるような大胆な構図でも、 フレアやゴーストを抑えたクリアな描写が可能です。 光条の輪郭も美しく描き出し、 光の中に浮かび上がるシルエットや、 柔らかな光の温かさまで繊細に捉えます。明暗差の大きなシーンでも、 白飛びや黒つぶれを抑え、 豊かで滑らかな階調を再現。 これにより、 風景が持つ奥行きや立体感をありのままに表現することができます。ポケットから取り出した小さなカメラで、 ここまでダイナミックな風景を記録できることは、 改めて驚きを感じさせてくれます。

Zeiss Sonnar T* 35mm F2とマクロの世界
RX1Rシリーズの象徴ともいえるのが、 Zeiss Sonnar T* 35mm F2の固定レンズです。このレンズは、 開放では柔らかで立体的な描写を見せ、 絞り込むと極めてシャープな線を刻みます。 スナップにも風景にも万能な焦点距離で、 何を撮っても安心して任せられる、信頼性の高いレンズです。特に印象的だったのは、 雨上がりに歩道橋の手すりに並んだ水滴を撮影した一枚です。 手前の水滴はシャープに描写され、 その奥には街の明かりが大きな玉ボケとなって広がっていました。 水滴の透明感と、 遠景のやわらかな光のボケが共存する写真は、 35mm F2というレンズの持つ豊かな表現力を端的に示しています。

さらに、 マクロリングを回すことで最短20cmまで寄ることができるのも大きな魅力です。 花の蕊や食卓の小物、 自然の小さな被写体を大きく写し取ることができます。特筆すべきは、 このマクロ機能にクロップ機能を組み合わせたときの威力です。 例えば、夏の森で見つけたカブトムシ。 35mmのままでも迫力は十分ですが、 70mm相当のクロップを併用すると、 その存在感は一気にフレームいっぱいに拡大されます。 カブトムシの甲羅の質感、 脚の鋭さ、 触角の細部までも鮮明に描き出され、 まるで生体図鑑のような緻密な写真が得られます。 この機能の組み合わせは、 小さな世界を新たな視点で見せてくれます。

クロップで自在に切り替える視点
RX1R IIIには、「Step Crop Shooting」という非常に便利な機能が搭載されています。 基本の35mmを起点に、 50mm、 70mm相当の画角へと瞬時に切り替えることができるもので、 単焦点レンズを搭載したコンパクトカメラの枠を大きく超える存在感を持っています。
私はこのクロップ機能をシャッターボタン横の「C1」ボタンに割り当てて使用していました。 人差し指一つで素早く切り替えられるため、 握り直すことなく自然な流れで構図を変えられます。 特にストリートスナップでは、 目の前の被写体との距離感や画のリズムを瞬時に調整できるので、 逃したくない一瞬に対して非常に有効でした。
さらに、 このクロップ機能は風景撮影においても大きな力を発揮します。 例えば滝の撮影。 足場がなくこれ以上近づくことができない状況でも、 クロップを使えば安全な距離を保ちながら、 同じ立ち位置から複数のアプローチを生み出すことができます。
●35mmでは、手前の岩をフレームに入れつつ、 奥で流れ落ちる滝を広がりのあるダイナミックな風景として捉えられます。 大きなスケール感を残したまま自然の雄大さを伝える表現です。
●50mmに切り替えると、 滝そのものが主題となり、 余分な要素を削ぎ落とした引き締まった構図に。 水の流れがより明確に浮かび上がります。
●70mmでは、望遠レンズで狙ったかのように水流そのものを切り取ることが可能です。 流れる線が画面全体を支配し、 迫力と流麗さを兼ね備えた抽象的な作品に仕上げられます。
このクロップ機能は、 単焦点レンズでありながら、 まるでズームレンズを手にしているかのように多彩な表現を可能にしてくれます。 有効約6100万画素という圧倒的な解像度センサーが支えることで、 クロップしても画質の劣化をほとんど感じず、 細部の質感や色の豊かさを保ったまま構図だけを自在に変えることができます。 つまり、 RX1R IIIのクロップ機能は“便利なオマケ”にとどまらず、 撮影体験そのものを根本から変える存在なのです。 同じ場所に立ちながらも視点を切り替えることで、 作品がまるで生まれ変わる――その自由度は、 一度味わうと手放せなくなってしまいます。
新しく加わったFL2とFL3:表現の幅を広げる新たな個性
今回のRX1R IIIで大きく進化したポイントの一つが、「クリエイティブルック」です。 全12種類のルックが用意されており、 その中でも新しく追加されたFL2とFL3は、 写真に独自の個性を与える魅力的な選択肢となります。
FL2:ノスタルジックでフィルムライクな表現
FL2は、 コントラストをわずかに高めつつ、 全体の色味を抑えることで、 ノスタルジックでフィルム写真のようなトーンを生み出すルックです。 この設定で撮影すると、 柔らかな空気感の中にどこか懐かしさが漂い、 日常の風景をエモーショナルに描き出すことができます。
FL3:軽やかでドラマチックな表現
FL3は、 コントラストを優しく抑えながら、 色をより鮮やかに表現するルックです。 全体に軽快な印象を与える一方で、 被写体の色彩がいきいきと際立ち、 ドラマチックな雰囲気を演出します。 風景やポートレートなど、 多彩なシーンで印象的な表現を追求できるのが特徴です。
下の写真は比較画像です。 ST(スタンダード)は幅広いシーンに対応する自然な仕上がりを提供します。
下の2枚の写真は、 どちらも新しく追加されたクリエイティブルック「FL3」で撮影したものです。 私自身、 このルックを最も多用しています。コントラストを柔らかく整えながら、 色彩を鮮やかに引き出すため、 シャッターを切った瞬間にその場の空気感を“自分らしいトーン”に仕上げられます。 撮影の現場で迷うことなく表現の方向性を決められ、 撮影をより直感的で創造的な時間へと導いてくれます。
最初の写真は、 風に揺れる風鈴の列を切り取った一枚。 FL3特有の鮮やかさが透明なガラス玉に反射し、 背後の緑を一層みずみずしく写し出しています。 色が強調されすぎず、 それでいて瑞々しさが際立つため、 まるで夏の空気をそのまま封じ込めたかのような仕上がりになりました。

次の写真は、 川辺に佇む少女の後ろ姿。 白いワンピースと川面に映る街並みが、 FL3の柔らかいコントラストによって軽やかに浮かび上がります。 ノーマルのスタンダードで撮ると落ち着いた記録的な写りになりますが、 FL3では被写体に物語性と清涼感が加わり、 同じ場面でもまったく異なる印象に変わります。

現場で「色味と雰囲気をどう仕上げたいか」を選べるのは、 表現の自由度を飛躍的に高めてくれるポイントです。 特にこのFL3は、 旅や日常のワンシーンを軽やかに、 そして印象的に残したいときに最適なクリエイティブルックだと感じています。
まとめ コンパクトなのに“すごい”一台
RX1R IIIを手にしてまず感じるのは、 このサイズからは想像できないほどの「すごさ」です。
有効約6100万画素という圧倒的な解像力、 Zeiss 35mm F2レンズが描き出す柔らかさとシャープさを兼ね備えた描写力、 そしてマクロやクロップ機能を活かした多彩な視点の切り取り。 さらに新しいクリエイティブルックによって、 その場で写真を“作品”へと昇華させられる表現力。 これらすべてが、 手のひらに収まるほどのコンパクトなボディに凝縮されています。
ストリートでの気軽なスナップはもちろん、 じっくりと構図を探る風景撮影にも、 あるいは自分らしい表現を追求する作品づくりにも対応できる万能さを持っています。 サイズを忘れるほどに携帯性が高く、 それでいて撮影体験そのものを大きく広げてくれる――だからこそ、 常に持ち歩きたくなる“真の相棒”と呼べる存在だと感じました。
RX1R IIIは、 その小さなサイズに無限の可能性を秘めた、 まさに唯一無二のフルサイズコンパクトカメラだと言えます。
■写真家:藤原嘉騎
米国 Walt Disney Company、 National Geographic とフォトグラファー契約を結び、世界を旅してまだ見ぬ風景を求め撮影を行っている。受賞歴にはNational Geographic Travel Photo Contest `People’ 世界2位。International Photography Awardプロ部門 `Nature’ 世界2位、 Tokyo InternationalFoto Award プロ部門 `People’ Gold受賞 など国内外のコンテストで多数の賞を得ている。 多くの企業から依頼を受け写真を提供すると共に、 国内外の新聞・書籍・雑誌など多くのメディアで活躍している。 元プロスノーボーダーという異色の経歴を持つフォトグラファー。




















