目からうろこ!並木隆の花撮影術|チューリップをとことん楽しむ
はじめに
チューリップはどうやって撮るのが一番良いのだろう? このように考えがちですが、そもそも一番良い撮り方なんて存在しません。大切なのは撮りたいと思ったチューリップに対してあなたが何をどう感じたのか、なのです。なぜなら、それによって撮り方も被写体の条件も変わってくるからです。
色でも形でも雰囲気でもなんでも構いません。感じるところが人それぞれ違うからそれが個性となって写真に現れてくるのです。
感じたことをどう表現するか?

■撮影環境:F1.8 1/3200秒 ISO100
この写真を見て紫と白のチューリップの色と形以外に何か感じられることがありますか? なんとなくこのチューリップきれいだな、と思うだけでは今までと同じような写真になりがちです。このチューリップの色と形以外に何がキレイだと思うのかを考えてみましょう。

■撮影環境:F1.8 1/3200秒 ISO100
例えば周りに同じチューリップがたくさん咲いていて囲まれているような雰囲気を出したいなと思ったなら、周りのチューリップが入るように少し小さめにフレーミングしてみましょう。手前のチューリップを画面の中に入れて前ボケにすると、アップで写したときの写真と比べて周囲の状況が入るのでその雰囲気が感じられるようになりましたが、片側にしか前ボケがないので囲まれている雰囲気がまだ弱いですね。

■撮影環境:F1.8 1/3200秒 ISO100
そこで両側に前ボケが入るよう、もう少し後ろに下がってレンズを向けてみました。これは私がこのチューリップを見たときに周囲の花たちに見守られているような雰囲気だなと感じたからその思いをどう表現したらいいか、表現するにはどうしたらいいのかを順序立てて撮っていったのです。チューリップはこう撮るのが正しい、ではないのです。
このとき使用したレンズは単焦点の135mmなので焦点距離は変えていませんし、ピントを合わせた花以外ぼかしたいと思っていたので絞り値はF1.8のまま。変えたのは撮影位置だけです。なのにチューリップの他にピントの合っているところがありませんね? 後ろに下がって小さくフレーミングしたら他のチューリップなどにピントが合いそうですが合っていません。これはピントを合わせたチューリップの周囲に他のチューリップが咲いていないからです。小さくフレーミングしても、ひとつのチューリップにしかピントの合わない条件選びが重要なんです。
主題にしかピントが来ない状況を探す


上の写真のチューリップの配置を表した俯瞰図です。ピントを合わせたチューリップが赤丸、レンズは画面下方向から向けています。小さくフレーミングしても、ひとつのチューリップだけにピントを合わせるにはピントの合う範囲の狭い望遠レンズを使い、絞り値を開放にする、という設定以外に、ピントを合わせる被写体の周囲(15〜20cm以上)に他の被写体がない条件を探すのがポイントです。
横並びに他の被写体があればピントが合ってしまいますし、前後に離れていても近ければ中途半端なボケになってしまいます。チューリップを小さくフレーミングしてもひとつだけにピントを合わせたいなら、密集してたくさん咲いているところよりもまばらに咲いているところを探さないと実現できません。

このようにチューリップが大きくなってしまうのは密集して咲いているところにレンズを向けている場合が多く、他の花が邪魔だからとズームリングを回して焦点距離を長くしたり、寄って他の花を入れないように切り取っていったら・・・大きくなっちゃったというパターンがほとんどなので、まずは主題のチューリップの周囲に他の花がないところを探す被写体選びを実践してみましょう。

■撮影環境:F1.8 1/1600秒 ISO100
下の形状がカップ型で可愛いと思ったので上側を大胆に切り取りつつ、周囲の咲いている状況を見せるために引いたフレーミングにしてみましたが・・・なんだかごちゃごちゃして見えますね。原因のひとつが両側にあるピントのあっている下草です。花だけでなく葉などでもピントの合っている被写体が入ると主題が曖昧になります。ここでは前ボケをもう少し上まで入れれば下草を隠すことができるので、あと数センチアングルを下げればいいでしょう。また、主題の周りのチューリップや茎のボケがちょっと少ないですね。これは主題からの距離が10cmくらいしかないからです。

ここで焦点距離を伸ばしたり寄ったりして余計なものを入れずに切り取ったらキレイに撮ることはできますが、今まで撮ったことのある同じような写真になってしまいます。被写体に合わせて撮るのではなく自分の意図が実現できる被写体選びが最も重要で、最も難しい部分なんですね。
望遠レンズの撮影バリエーション
とはいえ、作品イメージを膨らませることも大切ですから、ここからはレンズによる表現の違いなどを主にバリエーションを見ていきましょう。
まずは望遠レンズ。普段良く使っている望遠レンズは「FE 70-200mm F2.8 GM OSS II」や「FE 135mm F1.8 GM」です。最短撮影距離が短くある程度寄ることができ、前後を大きくぼかしたり、主題を小さく配置しても画面の中で際立たせたいときに使います。開放F値が明るいだけでなく、解像力が高くボケ具合がキレイなレンズです。

■撮影環境:F1.8 1/5000秒 ISO100
前ボケはネモフィラで奥のチューリップまでの距離は約10mくらいです。たくさん咲いている雰囲気を出したかったので遠くのチューリップの群生にピントを合わせています。一直線に咲くチューリップ全部にピントが合うよう、並んでいるチューリップに対して直角にレンズを向けました。チューリップを大きくすると数が少なく見え、ごちゃごちゃした雰囲気になってしまうので小さくたくさん入れるのがポイントです。また、両端はチューリップを途中で切るようにすると、どこまで咲いているかがわからなくなるのでたくさん咲いている雰囲気が増しますよ。

赤い丸がネモフィラ、紫色がチューリップで、この間は10mくらいの隙間があるということです。

■撮影環境:F1.8 1/1000秒 ISO100
ひとかたまりで咲いているようなところも、一列と同じように遠くに咲いているところを小さくフレーミングすると群生している雰囲気が出てきます。奥行きがあるようなところではピントの位置に迷いますが、一番手前に合わせておけば大丈夫です。花がない空間や隙間ができたら前ボケを入れて色味を加えると画面全体のバランスがとれます。

赤い丸が左側の前ボケ、奥の紫色がピントの合っているチューリップの群生です。距離は6〜7mくらいですね。

■撮影環境:F1.8 1/2500秒 ISO100
前ボケを入れるとき、隙間や手前の花の上からレンズを向けて作ることが多いと思います。そうすると前ボケの配置が画面下半分になってしまうので同じような作品を量産しがちです。そんなときはアングルを地面すれすれまで下げてみましょう。
上は手前のチューリップの下から奥のチューリップにピントを合わせていますが、アングルを下げることで前ボケを画面上に持ってくることができます。同じような距離感のチューリップにピントを合わせていても前ボケの位置が変わるだけで大きな変化が生まれます。ちなみに、前ボケのグリーンは芝生、白い丸いボケは芝生に落ちている桜の花びらです。

■撮影環境:F4 1/400秒 ISO320
チューリップの花ばかりに目を奪われがちですが、キレイだなと思ったら葉や茎だって立派な被写体になります。これは逆光で輝く黄色いチューリップを前ボケにして奥の茎にピントを合わせています。花に比べて被写体が地味なので茎のグリーンの類似色となる黄色の前ボケだけで構成して画面全体の調和を取り、色の印象が強くでないようにしています。

■撮影環境:F2 1/8000秒 ISO100
天気の良い日は明暗差が大きくなるので日向と日陰の両方を入れると、どちらかが白飛びしたり黒つぶれしたりしてしまいます。チューリップをキレイに見せたいなら日向か日陰のどちらかで光の当たり方が同じところにレンズを向けるのが一般的ですが、このように日向と日陰が混在するところで極端なアンダー露出にすると、影の部分が黒く潰れて日向の部分だけを浮かび上がらせることができます。黒潰れして構いませんし、ソニーだったらクリエイティブルックをコントラストの高めの仕上がりになるビビッドなどに設定すると、より日向の部分を強調することができます。
広角レンズの撮影バリエーション
では次に広角レンズでのバリエーションを見ていきましょう。広い範囲を写すことができる広角レンズは風景写真のように撮るのはもちろんですが、花撮影では広角レンズの遠近感を使って低い花の高さを強調したり、花に寄って背景の写る範囲を広げて咲いている場所の雰囲気を見せたりするのに使います。

■撮影環境:F13 1/50秒 ISO100
20cmくらいの高さの花でも超広角レンズで地面すれすれからレンズを向けると、広角レンズ特有の遠近感でとても背の高いチューリップに見えてきます。高層ビルを見上げたときと同じで、根元に寄ることで低い茎を太く、高い茎ほど細く見せるのがポイントです。そのために地面すれすれからローアングルで見上げるのが必須なんですね。また、チューリップの並びも重要で同じ高さ、同じ幅で植えられているとキレイなラインができるのでバランスが良くなります。

■撮影環境:F16 1/160秒 ISO200
背が低いチューリップだと高さも感じにくいですし、間隔もバラバラだとなんだかごちゃごちゃした雰囲気に見えませんか? 望遠レンズのときは間隔が適度に空いていればボケでごまかすことができましたが、広角レンズはそれができません。望遠以上に被写体の条件が作品のクオリティを左右しますが、そんなに都合良く条件に合ったチューリップなんてないんです。だから広角レンズで作品を作るのは非常に難しく、撮れないときの方が圧倒的に多いので上級者向けといえます。

■撮影環境:F16 1/125秒 ISO400
広角レンズはアングルの自由度が高いという特徴もあります。このように真上からレンズを向けるのは得意中の得意。視点が変わると同じ風景でもこれだけ違ってきます。このとき気をつけたいのはチューリップの隙間の地面。ここに土の茶色があると汚く見えてしまうのでこのように隙間に花や草が植えられているところが理想です。また絞り値は中途半端なボケができないようF11〜16くらいまで絞り込んで画面全体にビシッとピントを合わせると仕上がりがキレイです。

■撮影環境:F4 1/5000秒 ISO400

広角レンズのもうひとつの特徴が背景の写る範囲の広さ。焦点距離は変えずに最短撮影距離付近までどんどん被写体に近付いてみましょう。被写体が大きくなるだけでなく背景の写る範囲が広いままになるので周囲の状況を見せるのに効果的です。ただ最短撮影距離が短くても広角レンズですから小さい花を大きく撮れるほど寄れないので、チューリップくらいの大きさが実は撮りやすいんです。
全体にピントの合いやすい広角レンズでも最短撮影距離付近まで被写体に近付いて絞り開放で撮るとこのくらいのボケが得られます。望遠レンズのような大きなボケにはなりませんが、周囲の状況を見せながらボケで被写体を浮かび上がらせることもできます。
このときも被写体選びが重要で、主題と背景のチューリップに高低差がないと背景をぼかすことができないのでそのような条件を探しましょう。
マクロレンズの撮影バリエーション
最後にマクロレンズのバリエーションを見ていきましょう。
クローズアップを得意とするマクロレンズはキレイだなと思うチューリップの一部分をどんどん切り取ります。切り取る場所によってチューリップかどうかわからない作品になるかもしれませんが、そんなことは気にしなくて大丈夫です。
ひとつの花をいろいろな方向、角度から観察してお気に入りの一部分を見つけてからレンズを向けてみましょう。

■撮影環境:F4 1/250秒 ISO400
開き始めたばかりの1cmもない花びらの隙間から見える花芯です。花の輪郭が見えてしまうと花芯と同じくらい花の大きさを意識してしまうので輪郭が見えないよう一番大きな倍率で撮影しています。このときMFにしてピントリングを回して最短撮影距離に設定し、身体の前後移動でピント合わせをしています。撮影倍率が高くなるほどピントの合う範囲が浅くなるのでピント合わせはとてもシビアです。手持ちの場合は合うまで何枚も撮り続け、確実にピントを合わせて撮りたいなら三脚を使いましょう。

■撮影環境:F2.8 1/1600秒 ISO1600
同じく真上からですが、底の花びらの付け根部分の白と紫のグラデーションがとてもキレイだったのでそこにピントを合わせています。実はこの花は枯れ始めていてキレイな花ではありませんが、一部分を切り取れるマクロレンズなら関係ありません。爽やかな印象にするために明るめの露出に設定しています。

■撮影環境:F2.8 1/100秒 ISO100
雨上がりの花びらについていた水滴です。一部分の水滴だけにピントを合わせたかったので花びらに沿うようにレンズを向けてピントの合う範囲が狭く見えるようにしています。マクロレンズを使うとき被写体の面に対して直角に向ければ面全体にピントが合いやすく、逆に沿うようにレンズを向けるとこのように一部分だけにピントが合うようになります。レンズの向け方次第で仕上がりが大きく変わってくるのでいろいろな角度からレンズを向けて変化を楽しみましょう。

■撮影環境:F4 1/160秒 ISO4000
花びらの重なっている部分がキレイだったので、その部分だけが際立つよう前ボケの花で他の部分を全部隠して浮かび上がらせてみました。花同士の間隔が狭くひとつの花を小さく撮るには不向きな条件ですが、マクロレンズで一部分を切り取るときには邪魔になる周囲の花が前ボケの材料になるので逆に好都合です。落ち着いた花色だったので同色でまとめてみました。
さいごに
どう撮ったらいいかではなく、チューリップを見てどう感じたかが大事なのです。撮り方やキレイに撮れる被写体選びだけを当てはめていると同じような作品ばかりになってしまいますから、チューリップをじっくり観察してキレイだなと思える部分を探しましょう。ボケに包まれている雰囲気がいいなと思うなら望遠レンズやマクロレンズを選択すればいいですし、高さや広さなどの雰囲気を出してみたいと思ったなら広角レンズを選択すればいいのです。その他にも逆光と順光どちらがいいのかではないんです。どっちで撮ったら自分の好みの仕上がりになるのかが大事ですからね。
■写真家:並木隆
1971年生まれ。高校生時代、写真家・丸林正則氏と出会い、写真の指導を受ける。東京写真専門学校(現・ビジュアルアーツ)中退後、フリーランスに。心に響く花をテーマに、各種雑誌誌面で作品を発表。公益社団法人 日本写真家協会、公益社団法人日本写真協会、日本自然科学写真協会会員。














