ソニー α9 III レビュー|世界初のグローバルシャッター搭載ミラーレスを野鳥撮影でテスト

山田芳文
ソニー α9 III レビュー|世界初のグローバルシャッター搭載ミラーレスを野鳥撮影でテスト

衝撃だった初代α9

2017年5月に発売された初代α9は、僕にとって衝撃でした。
なかでも、アンチディストーションシャッター、ブラックアウトフリー、AFの追従性能、の3つは驚愕でした。α9の登場以前は一眼レフ機とミラーレスは棲み分けて共存していくであろうと思っていましたが、α9の登場によって、一眼レフはフイルムカメラと同じ運命をたどり、次の時代はミラーレスに変わっていくであろうことを確信しました。

α9 IIIで世界初のグローバルシャッターに

その後α9 IIが出て、α1が出て、スピード系のαとフラッグシップモデルはアンチディストーションシャッターが当たり前になり、動いている野鳥を電子シャッターで撮影してもほとんど歪まないのが普通になりました。将来的にはグローバルシャッターの時代がくるであろうけれど、まだまだ先の話だろうと漠然と思っていたら、想像以上に早いタイミングで出ました!世界初のグローバルシャッター方式のミラーレスカメラとして、α9 IIIが2024年1月26日に発売されました。

演算処理を超高速にすることによって、歪みを極限まで抑えるアンチディストーションシャッターに対して、グローバルシャッターは全画素を同時に露光、読み出しを行います。これによって、高速で動く野鳥などを撮る場合でも歪みは完全になくなり、「ゼロディストーション」で撮影することができます。

120コマ/秒の圧倒的なスピード

はじめ高速連写120コマ/秒と聞いた時に「そんなに必要か?」と思ったのが正直な感想でしたが、使ってみると、予想以上に大きな効果を発揮してくれました。ドライブモードのHi+を120枚/秒に設定したものと60枚/秒に設定したものをいろいろと撮り比べ、撮影結果を比較すると、思っていた以上に大きく異なる結果になりました。

たとえば、野鳥が目に瞬膜をはる瞬間などは、60枚/秒に設定すると狙って撮ることができず、結果的にその瞬間が偶然に1枚写っていたこともあった程度です。一方、120枚/秒に設定すると、プリ撮影の効果もあって、その瞬間を2枚撮影することができました。

撮影後のセレクトは大変ですが、瞬間を確実にとらえることが極めて容易になりました。あとは野鳥の観察力が高まるように訓練して、「次」を読むことができるようになれば、撮れたも同然の時代になったと言えるのではないでしょうか。

水を飲んだ後のハシビロガモを連写して、したたり落ちる水滴を写しとめた。120コマ/秒なので、このカットとこのカットの間のカットが欲しかったというようなことはなく、自分のイメージに近いカットを選ぶことができる。
α9 III/FE 600mm F4 GM OSS/F4、1/1250秒/ISO 1250
120コマ/秒とプリ撮影で、ハシビロガモが瞬膜をはる瞬間を狙って撮ることができる。
α9 III/FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS/400mm/F11、1/500秒/ISO 400
ホシハジロ雄の着水直前のシーン。飛び散った小さな水滴の微妙な位置関係にもこだわって撮影することができる。
α9 III/FE 600mm F4 GM OSS/F4、1/2500秒/ISO 400
飛び立つ前に水面を蹴って走るホシハジロの雌。120コマ/秒によって、翼の形や足の位置など細かい部分にも妥協せずに自分のイメージ通りに撮れる可能性が高くなった。
α9 III/FE 600mm F4 GM OSS/F4、1/2500秒/ISO 500

AIプロセッシングユニットによるリアルタイム認識AF

AFの追従性能はα1、被写体認識AFの精度ではα7R Vがそれぞれいちばんだと思っていたのですが、α9 IIIのAF性能は両方の良いとこ取りをしたようなイメージです。特に被写体認識AFの精度は本当に素晴らしく、認識が難しいと言われているサギの仲間のような首が長い鳥でも瞳を高精度に認識、その後、責任をもって合焦してくれます。

また、僕は鳥がいる風景をライフワークにしているので、短めのレンズで周囲の風景も大きめに取り入れ、鳥を小さく写すことが多々あります。そんな時でも高精度に認識、合焦してくれるのは、個人的に本当に有り難いのです。このカメラでぜひとも試していただきたい機能なので、たくさんの人に体感していただきたいです。

瞳の認識が難しいと言われている首が長いアオサギだが、首を縮めている状態(左)でも、伸ばしている状態(右)でも目にピントを合わせてくれる。
50mmの標準レンズでジョウビタキの雌を添景でとらえた。鳥を小さく写しても瞳を認識して、合焦してくれる。
α9 III/FE 50mm F1.2 GM/F1.8、1/500秒/ISO 400
AF時の被写体認識を「入」に、認識対象を「鳥」に設定してバンが水を飲んでいるところを撮影。水を飲む前からとらえ続ければ、下を向いた時も瞳をロストすることはない。
α9 III/FE 600mm F4 GM OSS/F4、1/1600秒/ISO 400
2羽のオオバンが小競り合い。追いかけている方のオオバンを写し、追いかけられている個体の体は写さずに水飛沫だけを写して、フォーカスが水飛沫に引っ張られないかテストしたが、結果はご覧のとおり、オオバンの目にピントがきている。
α9 III/FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS/400mm/F5.6、1/2500秒/ISO 800
飛んできたユリカモメが着水する直前のシーン。飛んでいるところからとらえ続けていれば、着水直前にユリカモメがこのような形になっても瞳をロストせず、目にピントを合わせ続けてくれる。
α9 III/FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS/400mm/F5.6、1/2500秒/ISO 250

解像性能を検証する

グローバルシャッターになり、瞬間を歪みゼロで撮れるようになったけれど、その代償として、解像性能が犠牲になっていないのか、と思った人もいらっしゃるかもしれないので、今回、解像性能の検証もしてみました。

レンズは全てGマスターを使ってテストしたこともあって、必要にして十分な解像性能である、というのが僕が出した答えです。α7R Vのような高解像モデルのカメラと比べると、少しマイルドな印象はありますが、それでも、合わせるべき位置にピントを合わせて、ブレないように撮れば、写真展で使うような大きなサイズでも余裕をもって鑑賞できるだけの解像性能があります。

以下2点、検証結果をご覧ください。

迫力感を伝えるために寄りで撮ったアオサギ。左がノートリミングのフル画面で、白枠で囲んだところを拡大したのが右。カメラ位置からピントを合わせた目までの距離と同じ距離にあるところは凄まじく解像している。
α9 III/FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS/400mm/F11、1/250秒/ISO 500
鳥を小さく写した時にカメラやレンズの本当のポテンシャルがわかるので、70-200mmズームを広角端にして、スズメを風景的に撮影した。
α9 III/FE 70-200mm F2.8 GM OSS II/70mm/F5.6、1/250秒/ISO 500
白枠部分を拡大してみる
拡大した写真を見ると、目や羽毛の質感が克明に描写されていることがおわかりいただけると思う。B0に出力しても写真展で余裕を持って使えるほどの解像性能だ。

まとめ

α9 IIの発売が2019年でしたので、後継のα9 IIIがもうすぐ出るであろうことは予想していましたが、まさかグローバルシャッターになるとは思っていませんでしたので、大きな、大きな衝撃でした。

お財布にやさしいカメラとは言えないかもしれませんが、このカメラでしか撮れない瞬間は確実にありますので、皆様も試してみてはいかがでしょうか。僕もこれから、このカメラを使って、どんな瞬間が撮れるのかを想像すると、とてもワクワクしています。

 

 

■写真家:山田芳文
「100種類の鳥よりも1種類を100回」をモットーに野鳥を撮り続ける。ライフワークは鳥がいる風景写真。主な著書は『写真は「構図」でよくなる!すぐに上達する厳選のテクニック23』(エムディエヌコーポレーション)、『やまがら ちょこちょこ』(文一総合出版)、『SONY α6600 基本&応用撮影ガイド』(技術評論社)など。 最新刊は『SONY α7 IV 完全活用マニュアル』(技術評論社)。

 

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