PENTAX 17で撮ったキラキラで暑い夏|鹿野貴司

鹿野貴司
PENTAX 17で撮ったキラキラで暑い夏|鹿野貴司

はじめに

もうメジャーなカメラメーカーからフィルムカメラが発売されることはないだろう…。平成も終わり、誰もがそう思っていた令和。まさかのPENTAX 17が登場して今年(2025年)の7月で1年が経った。フィルムカメラといえばヴィンテージかジャンクに二分され、ちょうどいい実用品を手頃な価格で買うのが難しくなりつつあった中、メーカー保証付きの新品が買えるというのは朗報だった。また、通常の倍の枚数が撮れるハーフサイズに注目が集まり、PENTAX 17の影響があるのかどうかは定かではないが、他社から「half」の名を冠したデジタルカメラも発売されている。

そのPENTAX 17の生みの親である元リコーイメージングのTKO(鈴木タケオ)さんと、このたび東京・門前仲町の小さなギャラリーで二人展をやることになった。「Connect」というタイトルで、TKOさんのカメラのイラストと、僕の写真を掛け合わせる展示だ。パートナーはTKOさんという珍しい企画なので、ここはPENTAX 17で夏の旅や日常を撮り下ろすことにした。

■フィルム:富士フイルム SUPERIA PREMIUM 400
しかし今年の夏は本当にモー暑かった。

ハーフサイズでたっぷり撮れる

そんなわけで約2か月の間、どこへ行くにもPENTAX 17と一緒だった。36枚撮りのフィルムで72枚+α撮れるハーフサイズなら、フィルム代+現像代をざっくり3000円としてもコストは1枚40円ほど。その経済性もさることながら、撮っても撮ってもまだ撮れる感覚がまたいい。フィルムを装填して、2〜3時間パチパチ撮ってカウンターを見ると、だいたい20枚ちょっと。TKOさんも開発時「ハーフサイズなら旅先で1日撮り歩くと、ちょうどフィルム1本で収まる」とあちこちで話しておられたが、まさにそう思う。日常をちょこちょこ撮るぶんには、1本で1週間から10日は楽しめる。いろいろ心配せずにパチパチ撮れる点が、まさにこのカメラのキャラクターのひとつになっている。

また、今年の夏はミラーレスカメラが高温で止まったという話をSNSでよく見かけた。僕もうっかり電源を切り忘れたカメラが、カメラバッグの中で火の玉のように熱くなっていたことが…。そんな暑い夏をともにしたPENTAX 17はいつもクールだった。電池は使うものの熱を帯びるデバイスはなく、ボディーも温度変化がゆるやかなプラスチック製だ。金属製のカメラには手にしたときの悦びがあるけれど、対してプラ製のカメラは手にすっとなじむ。いい意味で特別感がない点もまたキャラクターだと思う。

■フィルム:富士フイルム SUPERIA PREMIUM 400
息子、洗車を手伝うの図。今年4月から小学生になり、手伝いをするたびに少しずつお小遣いをあげるようになった。まだ貨幣価値がわからないので、「うまい棒2本分だよ」とか「これでガリガリ君が1本買えるよ」と説明している。そのうち「フィルム1本分だよ」とかになるのだろうか。ならないか。
■フィルム:富士フイルム SUPERIA PREMIUM 400
こんなスナップもフィルムで撮ると情緒的というかエモいというか。その理由はフィルム特有の光のにじみ方にあると思う。シャープさと柔らかさを兼ね備えたPENTAX 17のトリプレット(3群3枚構成)レンズが、それをアシストしているように感じる。

フィルムをデジタルで楽しむ

今回はいつもお世話になっている近所のラボの同時プリント…ならぬ同時スキャンの画像をそのまま掲載している。おそらくフィルムユーザーの多くも、それをアプリで多少調整してSNSにアップしているのではないだろうか。端に少し黒い影が映り込んでいるのはそのためだが、職人かたぎのおじさんが丁寧にスキャンをしてくれている。僕も30年くらい前、DPE工場のアルバイトでこの作業をしていたのだが、まだアナログの時代。裏から光を当てたネガの色や被写体を見ながら、明るさや色をキーで補正していく。人の顔が写っているが、ネガ上では青いからプリントは赤くなる、だけどこのフィルムは青みが強くなるから、M(マゼンタ)を少しマイナス、みたいな(適当な例えだが)判断を、1枚1〜2秒くらいで次々とやっていく。しばらくして排出されるプリントを検品して、自分の判断と頭の中で照合。それを繰り返すとネガを見ただけで指が勝手に動くようになる。その経験が今は写真家として役立っている…といいたいが、全然役に立っていないと思う(笑)。

ちなみにCD-Rに焼かれた同時スキャンの画像は2905×2048ピクセル、約600万画素だ。数値上ではA4のプリントもぎりぎりいける。とてもシャープで画質も悪くない。これで展示用のプリントを作ろうと思っていたのだが、絵柄によってはスキャナー特有のノイズが目立つ。これはこれでデジタイズ特有の味ともいえるし、こうしてウェブやSNSに載せるならアリだと思うが、紙にプリントするとデジタルっぽさが強く出てしまう。

そこで展示用にはライトボックスにネガを置き、フルサイズミラーレスの高画素機+絞り込んだマクロレンズで複写。そのRAWデータをAdobe Lightroomで現像した。トーンカーブの右上の端を右下、左下の端を左上にすると画像が反転。そこからRGBそれぞれのチャンネルを調整し、Adobe Photoshopで追い込んでいく。

この写真はそうして仕上げた1枚。手間はかかるが、自分でカラープリントを焼くような楽しさがある。また複写による微妙な甘さが、銀塩プリントのような味わいにもなる。
反転処理を簡単にする「Negative Lab Pro」というLightroomのプラグインもある。99ドルだが、無料で24枚まで体験できる。僕も試してみたが、実にわかりやすく、安定した仕上がりを得ることができる。カメラやフィルムを販売しているLomographyでは、ネガで撮ったJPEGをアップロードすると反転するサイト「DigitaLIZA LAB」(https://lomography.tools/digitaliza/)を開設している。同様のスマホアプリはいくつかあるが、こちらは無料で、パソコンでも利用できるのがありがたい。

変わり種のフィルムで

昨年だったか、ずっとご無沙汰していた知人から、使っていないフィルムがたくさんあるので差し上げますという連絡をいただいた。以前は熱心に写真を撮られていた方だが、子供ができてスマホでしか撮らなくなったという。我が子こそカメラで撮ってよ…と思うのだけど、かくいう僕も息子をあれこれ撮るようになったのは、言葉が通じるようになってからだ。そんな知人からいただいた中から、イタリア・Ferrania社製のSolaris 100を使ってみた。箱を捨ててしまってわからないけど、期限は10年以上切れていたはずだ。

■フィルム:Ferrania Solaris 100
F1のテスト、で僕もフィルムをテスト。期限切れのフィルムはコントラストが低下しがちだが、知人の保存状態がよかったのか、しっかりとサーキットに降り注ぐ夏の光を再現してくれた。
■フィルム:Ferrania Solaris 100
Solarisは黄色や赤が強く出る。クセのあるフィルムを使うと、自分の記憶と印象がかけ離れていく。それも写真の醍醐味ではないかと思う。
■フィルム:Ferrania Solaris 100
PENTAX 17のレンズにはHDコーティングが施され、逆光にはかなり強い。ここが中古フィルムカメラと違う点で、当然ながら撮った写真はクリアでシャープ。逆光では多少ハレーションがあるほうがエモいのかもしれないが。

ピント合わせは神経質にならず

僕もPENTAX 17についてよく質問されるのだが、多くの人が心配しているのがピント合わせ。目測で6段階のいずれかに合わせるゾーンフォーカスだが、スナップや風景を撮るのであれば、慣れれば苦にならないと思う。2m前後の距離ではアイコンの「1人・2人・3人」で迷いそうだが、そもそも被写界深度が深いので多少アバウトでもシャープに写る。ピントは手前より奥に深いので、迷ったときは近いほうに合わせればよい。

もちろん実際の距離と設定した距離が大きく違ったり、被写界深度が浅くなる近距離ではピンボケもありえるのだが、フィルムカメラのピンボケはどういうわけか味になる。ちょっとしたミスも「ああ、あのとき慌てて撮ったからなぁ」という記憶とリンクするように思うが、できれば失敗したくないという人はモードを「AUTO」にする方法もある。ピントが1.7mに固定され、1m〜無限遠にピントが合う。よほどの接写でなければ、これでおおむねピントが合うはずだ。

■フィルム:富士フイルム SUPERIA PREMIUM 400
クセの強いフィルムから一転、ナチュラルな富士フイルム・SUPERIA PREMIUM 400でのカット。クリアな描写だが、ハイライトからシャドーまで階調は豊かさ。アナログの懐の深さを実感する。このような遠景はピント合わせで迷うこともなく、無限遠に合わせればよい。
■フィルム:富士フイルム SUPERIA PREMIUM 400
最短撮影距離は24cm。被写界深度が絞り開放で2cmと浅く、目測で合わせるのは困難だが、付属のハンドストラップをピンと伸ばすと24cmに。つまり“ものさし”になり、かき氷のエッジにもばっちりピントが合う。ちなみに僕は社外品のネックストラップを着けているが、24cmのところにマステを巻いている。
■フィルム:富士フイルム SUPERIA PREMIUM 400
息子とサイクリングロードを並走しながら、ノーファインダーで数枚撮ったうちの1枚。というかまともに撮れていたのがこの1枚だけだったのだが。ピントは「2人」マークに合わせたと思うけど、いや「3人」だったかな。

まとめ&お知らせ

一時は絶滅が危惧されたフィルムだが、映画分野での需要やフィルムカメラの人気もあり、世界全体では消費量が再び伸びているという話もある。昔ながらに暗室でカラープリントを焼くのはさすがに難しいが、一方で前述のようにデジタイズ(アナログのデジタル化)のやり方が多様化。海外のフィルム事情に詳しいTKOさんによると、とくに欧州では「フィルムカメラで写真を撮る」ということが、ひとつの趣味として確立しているという。

フィルムにはドキドキしながら現像を待つ楽しみもあり、未現像のものを郵送すればLINEでデータを受け取れるというラボもあるし、それこそ全国津々浦々には我らが「カメラのキタムラ」がある。最短で1時間の当日仕上げを提供している店舗も多く、検索したら東京都内だけでも28店あった(というか僕がよく行くショッピングモールの店舗も当日仕上げだった。灯台下暗し!)。

カメラに起因する失敗やトラブルがほとんどない=現像の仕上がりをみてガッカリすることが少ないPENTAX 17は、まさに今フィルムを楽しむには最適なカメラといえる。

最後に再び二人展のお知らせを。

■鹿野貴司xTKO・二人展「Connect」
日時:2025年9月26日(金)〜30日(火)
 11〜18時(最終日の火曜のみ16時まで)
場所:ギャラリーダイジロ(https://www.gallerydaijiro.tokyo
 東京都江東区門前仲町2-9-11 辰巳新道内
 地下鉄東西線・都営大江戸線『門前仲町駅』6番出口より徒歩1分
会期中無休・入場無料

TKOさんや僕もなるべく在廊する予定で、僕は展示作品を収録した小さな写真集を販売します。今回掲載した写真も何点か展示しますが、ほとんどはギャラリーで初公開です。会場があるのは、昭和レトロな飲食店が立ち並ぶ辰巳新道のど真ん中。ぜひカメラ持参でお越しください。

 

 

■写真家:鹿野貴司
1974年東京都生まれ。多摩美術大学美術学部二部映像コース卒。さまざまな職業を経て、広告や雑誌の撮影を手掛ける。著書『いい写真を取る100の方法』が玄光社から発売中。公益社団法人日本写真家協会会員。

 

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