OM SYSTEMで変わる!鉄道写真表現|M.ZUIKO DIGITAL ED 50-200mm F2.8 IS PRO

山下大祐
OM SYSTEMで変わる!鉄道写真表現|M.ZUIKO DIGITAL ED 50-200mm F2.8 IS PRO

OM SYSTEMという選択は鉄道撮影にどうなのか

まず、OM SYSTEMが採用するマイクロフォーサーズセンサーについて簡単に説明しておきたい。
デジタルカメラは撮像板の大きさにいくつもの規格があり、マイクロフォーサーズという規格は、撮像板が17.3mm×13mmのミラーレス機専用に開発された規格だ。35mmフィルムで一般的なライカ版1コマと同じ大きさ(36mm×24mm)のフルフレーム(フルサイズ)と呼ばれる規格からは随分と小型ということになる。同じ焦点距離のレンズで撮影した際、マイクロフォーサーズはフルサイズの約2倍の焦点距離と同等の画角になる。またアスペクト比というセンサーの縦横比が、フルサイズ2:3に対してマイクロフォーサーズ3:4であるのも大きな違いだ。

例えばフルサイズ用レンズで600mmが必要でも、マイクロフォーサーズでは300mmで撮ることができる。
鉄道を撮る人なら、このように望遠画角が手頃になるというのは画期的だということがわかってもらえるだろう。またシステム全体がコンパクトになり、軽くて嵩張らないため機動力にも秀でている。

35mm判換算1200mmの超望遠画角の写真。M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PROにテレコンMC-20の組み合わせ。バックパックに入れて徒歩で訪れて撮影した。
■撮影機材:OM-1 Mark II + M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO + Teleconverter MC-20
■撮影環境:シャッター速度:1/320秒 絞り値:F8.0 ISO感度:1600 焦点距離:600.0mm (35mm判換算):1200.0mm

もう一つOM SYSTEMの強みを挙げるなら、手ぶれ補正機能の高さである。規格に則して算出される数字では7段や7.5段など、すごいけど他社より飛び抜けているわけではない。しかし実際の撮影で体感する補正力は圧倒的なものがある。揺れる列車内での撮影、車窓の撮影など、手ぶれをしやすい条件で大幅に撮影効率が上がる。これまでは常識的に不可能だった、三脚を使わずに数秒程度の長秒露光も本当にできてしまうほどだ。

走る列車内で手持ちの1秒露光。景色がとことんぶれて線路のラインが浮かび上がるような描写になる。
■撮影機材:OM-1 Mark II + M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II
■撮影環境:シャッター速度:1.0秒 絞り値:F3.5 ISO感度:200 焦点距離:34.0mm (35mm判換算):68.0mm

三脚が使えない場所や状況で表現の幅が制限されることなく、いつも通り撮るだけなので即応性も高い。
■撮影機材:OM-1 Mark II + OLYMPUS M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
■撮影環境:シャッター速度:1/5秒 絞り値:F13.0 ISO感度:6400 焦点距離:150.0mm (35mm判換算):300.0mm

鉄道撮影にベストマッチの新レンズが登場M.ZUIKO DIGITAL ED 50-200mm F2.8 IS PRO

このほどOM SYSTEMに高性能なレンズが加わった。35mm判換算100-400mmの大口径ズームレンズM.ZUIKO DIGITAL ED 50-200mm F2.8 IS PROだ。これまで同システムになかったズーム域であるが、他社のフルサイズシステムでは鉄道撮影の中心的レンズとして非常によく使われているズーム域だ。しかしこのレンズは全域でF2.8という開放値を実現しており、その表現力の幅が気になるところだ。

風景的なカットでは列車の先頭部が画面端に来ることが多く、周辺部の解像感が心配になるところだが、まったくその心配は無用だった。
■撮影機材:OM-1 Mark II + M.ZUIKO DIGITAL ED 50-200mm F2.8 IS PRO
■撮影環境:シャッター速度:1/1250秒 絞り値:F5.6 ISO感度:400 焦点距離:61.0mm (35mm判換算):122.0mm
手前のアジサイをおおきな前ボケにすべく、被写体に寄って開放のf2.8で撮影。絞り込んだ例との解像力の差を感じず優秀な開放描写。充分なボケ描写が得られるのも大口径のおかげだ。
■撮影機材:OM-1 Mark II + M.ZUIKO DIGITAL ED 50-200mm F2.8 IS PRO
■撮影環境:シャッター速度:1/6400秒 絞り値:F2.8 ISO感度:500 焦点距離:70.0mm (35mm判換算):140.0mm
北海道の室蘭本線、一両の鈍行がゆく。田んぼの稲の葉の立体感や、遠く海の向こうの駒ヶ岳の山腹など、微妙な再現にレンズ性能が試される。
■撮影機材:OM-1 Mark II + M.ZUIKO DIGITAL ED 50-200mm F2.8 IS PRO
■撮影環境:シャッター速度:1/800秒 絞り値:F5.6 ISO感度:200 焦点距離:50.0mm (35mm判換算):100.0mm

M.ZUIKO DIGITAL ED 50-200mm F2.8 IS PROの特徴の一つは、ズーミングしてもフォーカシングしても鏡筒の繰り出しがないことだ。これによって例えばズーム間流し撮りも、ズームアウトに力は要らず、成功率も上がってくるだろう。このレンズはレンズ自体に手ぶれ補正機構を有しており、より強力なボディとの5軸シンクロ手ぶれ補正というのが可能になった。スペック上は7段分の補正効果を謳っている。

高速シャッターで写し止めると、LEDの愛称表示器がきちんと写らないが、低速シャッターでズーム間流し撮りをすることで、表示を描写しつつ編成写真としての写真も撮ることができる。インナーズーム方式の方が、ズーミングがスムースでやりやすい。
■撮影機材:OM-1 Mark II + M.ZUIKO DIGITAL ED 50-200mm F2.8 IS PRO
■撮影環境:シャッター速度:1/250秒 絞り値:F9.0 ISO感度:200 焦点距離:98.0mm (35mm判換算):196.0mm
縦位置の斜め方向、難しい条件の流し撮りである。ただでさえ望遠で車両を大きく捉え続けるのは難易度が高いが、5軸シンクロ手ぶれ補正の的確な動作のおかげで抜群のカットを得ることができた。
■撮影機材:OM-1 Mark II + M.ZUIKO DIGITAL ED 50-200mm F2.8 IS PRO
■撮影環境:シャッター速度:1/40秒 絞り値:F18.0 ISO感度:100 焦点距離:186.0mm (35mm判換算):373.0mm

AI被写体認識「鉄道」

OM SYSTEMの強みはほかにもある。それは近年カメラのトレンドともいうべく被写体認識機能における鉄道認識力の高さだ。他社に先駆けて被写体認識に「鉄道」をラインナップしていたOM SYSTEMだが、これが非常に賢い。列車の顔がかなり小さい段階でも認識しはじめ、フォーカスエリアで拾える程度の大きさになったときは100パーセントに認識するという安心感まである。この絶対安心という感覚は同システム以外にはないように思う。

このように2つの列車が写り込む場合には、フォーカスエリアを大まかにでも右か左に寄せておいてあげるだけで、そちらの列車を優先的に認識する。画面上で車両の占める面積がそれほど大きくないこのようなシーンは、AI被写体認識に任せてしまえばズームを引きながら構図を変えることも容易になる。
■撮影機材:OM-1 Mark II + M.ZUIKO DIGITAL ED 50-200mm F2.8 IS PRO + Teleconverter MC-20
■撮影環境:シャッター速度:1/500秒 絞り値:F8.0 ISO感度:200 焦点距離:254.0mm (35mm判換算):509.0mm
線路が写らないシーンではAFを使ってピントを合わせることになるが、AI被写体認識の信頼度はこういう場面で完全にカメラ任せできるほど。
■撮影機材:OM-1 Mark II + M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO
■撮影環境:シャッター速度:1/640秒 絞り値:F4.0 ISO感度:2000 焦点距離:300.0mm (35mm判換算):600.0mm

高速性

鉄道撮影時にカメラに求める性能のひとつに連写速度がある。私の愛用するOM-1 Mark IIはシステム中もっとも高速で、AF追従なら50コマ/秒(対応レンズの場合)、AF固定なら最高120コマ/秒で撮ることができる。もちろん電子シャッターになるが、積層型センサーによるデータ走査速度は高速で、ローリングシャッター歪みも大抵の撮り方では問題にならない。

トンネル飛び出しの瞬間からAI被写体認識によってAFし、ピントを合わせて撮る。その間わずかコンマ数秒。AFを追従しながら50コマ/秒での連写には目を見張るものがある。
■撮影機材:OM-1 Mark II + M.ZUIKO DIGITAL ED 50-200mm F2.8 IS PRO + Teleconverter MC-14
■撮影環境:シャッター速度:1/4000秒 絞り値:F4.0 ISO感度:400 焦点距離:280.0mm (35mm判換算):561.0mm
高速列車が真横に駆け抜けるため、止めたい位置に止められるかは連写速度に掛かっている。このような真横の撮り方なら、AF固定で120コマ/秒を選択。
■撮影機材:OM-1 Mark II + M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
■撮影環境:シャッター速度:1/6400秒 絞り値:F4.0 ISO感度:640 焦点距離:57.0mm (35mm判換算):114.0mm

コンピュテーショナルフォトグラフィ

もしかしたらこの項目がもっともOM SYSTEMの個性に触れているかもしれない。コンピュテーショナルフォトグラフィというのは、複数ショットを合成して擬似的な効果を施した1枚を作り出す機能で、目的によって「ハイレゾショット」「深度合成」「ライブND」「ライブGND」「ライブコンポジット」など、様々な機能に細分される。一般には撮影後の後処理で同様の合成をする場合はあるが、これをカメラ内で行い、その場で仕上げられることが、同システムの理念にも通じるこだわりなのである。

ライブNDはNDフィルターがなくても擬似的にその効果を再現する機能だ。1回のシャッターで連続に複数枚撮影し合成して1枚の画像を生成・記録する。通常の写し止める撮影には向かないが、ここぞの時の流し撮りには活躍する。
■撮影機材:OM-1 Mark II + M.ZUIKO DIGITAL ED 75-300mm F4.8-6.7 II
■撮影環境:シャッター速度:1/4秒 絞り値:F16.0 ISO感度:200 ライブND:ND32 焦点距離:187.0mm (35mm判換算):375.0mm
ライブGNDで撮影。ライブNDのハーフND版である。明け方の明るい空にグレーを掛け、地上と同程度に黒くなるようにした。連続に複数枚撮影するため車両がブレたように写るのは避けられないが、露出の捩れによって宇宙的なイメージとなった。
■撮影機材:OM-1 Mark II + M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II
■撮影環境:シャッター速度:1/15秒 絞り値:F2.8 ISO感度:3200 ライブGND撮影:ND04, Medium 焦点距離:12.0mm (35mm判換算):24.0mm
車両基地に並ぶN700S・N700A新幹線のノーズを全体にピントを合わせて撮影。この望遠域では絞り込んでもピントは1点しか合わないが、深度合成機能を使うと1シャッターで複数枚自動撮影しピント深度の深い画像を生成してくれる。
■撮影機材:OM-1 Mark II + M.ZUIKO DIGITAL ED 50-200mm F2.8 IS PRO + Teleconverter MC-20
■撮影環境:シャッター速度:1/1250秒 絞り値:F11.0 ISO感度:1600 深度合成 焦点距離:314.0mm (35mm判換算):629.0mm
ライブコンポジット機能とは連続撮影しながら同時に比較明合成を行なっていく機能だ。三脚に固定したカメラで星の光跡を簡単に撮れる。工夫次第で作例のように列車の明かりを写し込むことも可能。
■撮影機材:OM-1 Mark II + M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II
■撮影環境:シャッター速度:10.0秒 絞り値:F2.8 ISO感度:6400 比較明合成:178コマ 焦点距離:12.0mm (35mm判換算):24.0mm

まとめ

鉄道撮影に関係するOM SYSTEMの特徴を書いてきた。様々な機能と強力な手ぶれ補正機能を活かして、通常カメラ一つではできない表現をカメラ一つですることができる。それがOM SYSTEMである。小型軽量ボディのどこにそんな能力が詰まっているのかと、ぜひ多くの人に驚いてもらいたい。

 

 

■写真家:山下大祐
1987年兵庫県生まれ 日本大学芸術学部写真学科卒業。鉄道撮影プロダクション勤務を経て2023年独立。
幼い頃からの鉄道好きがきっかけで写真と出会い、作品制作の舞台として鉄道と関わるようになる。幾何学的な工業製品あるいは交通秩序としての鉄道を通して、人や自然の存在を表現しようと制作活動を行なっている。

鉄道事業者広報素材、インフラ、カレンダー、CMの撮影
鉄道誌・カメラ誌等で撮影・執筆
鉄道写真セミナー講師など
株式会社OfficeYAMASHITA代表
日本鉄道写真作家協会(JRPS)会員

 

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