ブルーインパルスの撮り方|中野耕志

中野耕志
ブルーインパルスの撮り方|中野耕志

はじめに

大空をキャンパスに白いスモークで軌跡を描くブルーインパルスは、今や飛行機ファンのみならず大人気の被写体だ。ここではブルーインパルスの撮り方の基本を解説していくが、まずはブルーインパルスについて知っておこう。

ブルーインパルスとは

■撮影機材:Nikon Z9 + NIKKOR Z 24-120mm f/4 S(24mm)
■撮影環境:f/8 1/1500秒 ISO200 WB晴天

ブルーインパルスは航空自衛隊のアクロバットチームで、広報活動の一環として全国各地の航空祭や記念イベントで展示飛行を行っている。発足は1961年で、1963年の東京オリンピック開会式では当時の使用機であるF-86Fで五輪を描いたことで一躍有名になった。

その後使用機をT-2へと機種更新し、1995年からは現在の川崎T-4ジェット練習機を使用している。ブルーインパルス仕様のT-4は白/青に塗られているほか、スモーク発生装置やラダー(方向舵)の可動範囲を拡大するなどいくつかの特別仕様が施されている。ホームベースは宮城県松島基地で、展示飛行の際には全国各地の基地や空港へと展開する。

ブルーインパルスの年間スケジュールは、例年新年度が始まる前の3月頃には航空自衛隊公式ウェブサイトや公式SNS等で発表される。年間約20カ所での飛行展示が計画されており、全国各地の航空祭やイベントでその雄姿を披露する。

■航空自衛隊公式ウェブサイト
https://www.mod.go.jp/asdf/event/cat-blue/

また、ホームベースである松島基地ではほぼ毎日ブルーインパルスによる飛行訓練が行われ、金華山沖での洋上訓練のほか基地上空でも実施される。この「フィールドアクロ」と呼ばれる基地上空での訓練は1日1回程度の頻度で行われるが、必ずしも6機揃って全課目通しで行われるわけではないので注意が必要だ。基地上空での訓練予定は松島基地の公式ウェブサイトや公式X(旧Twitter)上で発信されている。

■松島基地 ブルーインパルス基地上空訓練
https://www.mod.go.jp/asdf/matsushima/hiko/acro/index.html

展示課目

■撮影機材:Nikon Z8 + TAMRON 150-500mm F/5-6.7 Di III VC VXD(500mm)
■撮影環境:f/9.5 1/1500秒 ISO200 WB晴天

ブルーインパルスの展示課目は、航空祭等では「曲技飛行(アクロバット)」、地方イベントのうち人口密集地以外では「編隊連携機動飛行」、市街地上空では「航過飛行」が行われるのが基本なので、アクロバットを撮影するためには航空祭に出かけることになる。

航空祭における展示課目は天候条件により決定されるが、よく晴れた日で視程8km以上、シーリング(雲低高度):10,000フィート(3,000メートル)以上の好条件下では第1区分のフルアクロが実施され、ループ(宙返り)などいわゆる「縦系」のダイナミックな課目が楽しめる。シーリングが低くなるにつれ垂直方向の課目は制限され、第2区分、第3区分、第4区分となるに従い水平系中心の課目となる。なお視程が5km以下またはシーリングが1,500フィート以下の悪天候時は展示飛行が中止される。

ブルーインパルスの撮影機材

筆者の撮影機材の一例。Nikon Z9には望遠ズームとしてNIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VRを、Z8には標準ズームとしてNIKKOR Z 24-120mm f/4 Sを組み合わせた2台体制で寄りと引きの両方を効率的に撮影する。

撮影機材は高性能ミラーレスカメラまたは一眼レフカメラなど、動体撮影向きのカメラが適している。使用レンズは撮影テーマや展示課目にもよるが、編隊アップの撮影は300~500mmクラスの望遠レンズ、ソロ機の撮影は600~800mmクラスの超望遠レンズ、地上風景を取り入れた撮影では14~24mmクラスの広角レンズが目安だ。課目ごとにアップ向きかワイド向きかが異なるので、可能なら2台のカメラを用意してそれぞれに望遠レンズと広角レンズを装着しておくと、寄りと引きの両方を効率よく撮影できる。

望遠レンズで密集編隊の撮影

■撮影機材:Nikon Z9 + NIKKOR Z 600mm f/4 TC VR S
■撮影環境:f/6.7 1/2000秒 ISO100 WB晴天

ここでは第1区分における、画になりやすい課目を作例にして、定番の撮り方を解説していく。ブルーインパルスは6機編成だが、4機の編隊+2機のソロ機を基本構成としている。4~6機編隊による課目をアップで撮影するときには300~500mmクラスの望遠レンズが活躍する。

本作例の「ファンブレイク」は1、2、3、4番機が密集編隊で会場に背中を見せながら旋回する課目で、機体間隔が狭くフォトジェニックな課目の一つだ。編隊の距離感により横位置にするか縦位置にするか見極める必要がある。

超望遠レンズでのソロ機の撮影

■撮影機材:Nikon Z9 + FTZII + AF-S NIKKOR 800mm f/5.6E FL ED VR
■撮影環境:f/5.6 1/2000秒 ISO100 WB晴天

編隊長を含む4機は編隊飛行を中心とした演技を行うのに対し、2機のソロ機はT-4の機動性を最大限に発揮した激しい機動を行う。

T-4は全長13m、全幅9.9mと小さい飛行機なので、アップで撮影するには超望遠レンズが必要になるのと、撮影位置をピンポイントで定めることが求められる。

広角レンズで地上風景を入れた撮影

■撮影機材:Nikon Z8 + FTZII + SIGMA 15mm F2.8 EX DG DIAGONAL FISHEYE
■撮影環境:f/8 1/2000秒 ISO200 WB晴天

2機でハートを描き、もう1機がハートを射貫く「キューピッド」。魚眼レンズを使用して全景を入れるとともに画面周辺が歪曲する独特の写真表現を得た。

6機による課目

■撮影機材:Nikon Z9 + NIKKOR Z 600mm f/4 TC VR S
■撮影環境:f/9.5 1/1500秒 ISO200 WB晴天

6機揃っての課目は、「デルタロール」や「デルタループ」、「ボントンロール」など演技の終盤に行われる。6機の基本隊形はデルタ隊形だが、やや間隔の開いたフェニックス隊形で行われることもある。また、年末近い時期にはモミの木をかたどった「クリスマスツリーローパス」を行うこともある。

■撮影機材:Nikon Z8 + NIKKOR Z 24-120mm f/4 S(24mm)
■撮影環境:f/6.7 1/1500秒 ISO100 WB晴天

地上での撮影

■撮影機材:Nikon D500 + AF-S NIKKOR 500mm f/4 E FL ED VR (700mm相当)
■撮影環境:f/8 1/1000秒 ISO200 WB晴天

航空祭ではエプロン(駐機場)にT-4が7機(6機+予備機)並べられ、ウォークダウン(搭乗時の儀式)やエンジン始動、タキシング(滑走路への移動)なども撮影できる。

■撮影機材:Nikon D500 + AF-S NIKKOR 300mm f/4 E PF ED VR (450mm相当)
■撮影環境:f/6.7 1/1500秒 ISO200 WB晴天

滑走路へ向かう時も一糸乱れぬ編隊を組んでタキシング(地上滑走)するので、タキシーウェイ(誘導路)の正面からは機体の重なりが撮影できる。遠方へ展開するときは両翼下に増槽(外部燃料タンク)を携行する。

撮影のポイント1:課目を把握する

■撮影機材:Nikon Z9 + NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S(24mm)
■撮影環境:f/8 1/2000秒 ISO200 WB晴天

ブルーインパルス撮影のポイントは、第1に展示課目を把握することである。課目の順番や進入方向などはあらかじめ決まっているが、受信機を通して航空無線を聞くことでより確実に次の課目を知ることができる。当日の実施区分は離陸直後の天候偵察を通じて編隊長が判断し、無線を通じて各機に伝えられる。また、演技途中で実施区分が変更されたり、空域内に他の航空機が進入して中断されたりすることはよくあることなので、航空無線を聞きながら撮影すると逐一状況を把握できる。

撮影のポイント2:天気と光線状態

■撮影機材:Nikon Z9 + NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S(14mm)
■撮影環境:f/6.7 1/1500秒 ISO100 WB晴天

飛行機写真の仕上がりを左右するのはズバリ天気で、良視程日の快晴またはわずかに積雲が出ている天気が望ましい。ブルーインパルスは白い機体に白いスモークなので、曇天や上層雲により背景が白いと写真的には厳しい。光線状態は機体アップで撮る場合は順光が望ましいが、ブルーインパルスのスモークは逆光で撮影すると質感と立体感が強調されるので、引き画を中心に狙ったり、寄りでも露出を切り詰めてスモークの立体感を表現するのも手だ。

航空祭では滑走路方向がディスプレイライン(基準線)となり、エプロン中央や管制塔などがショーセンターとなる。またブルーインパルスは午後に展示飛行を行うことが多いため、滑走路が南北に延びてエプロンが西側にある千歳基地や入間基地、滑走路が東西に延びてエプロンが南側にある三沢基地や築城基地のようなレイアウトでは順光線を得やすい。

撮影のポイント3:各種設定

■撮影機材:Nikon Z9 + NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S(400mm)
■撮影環境:f/6.7 1/1000秒 ISO100 WB晴天

ブルーインパルス撮影の作画のポイントは、スモークの軌跡を意識して全体のバランスを整えることだ。また、アクションが派手だからといって写真的に見栄えするわけでもないので、そのあたりを見極めることも重要だ。

カメラの各種設定は一般的な飛行機写真と変わらず、速めのシャッター速度で被写体ブレとカメラブレを抑えたい。また、ブルーインパルスの白い機体は露出オーバー時に白トビしやすいので、露出値は控えめに設定したい。AFモードはコンティニュアスAF推奨だが、広角レンズでの撮影時は画面内の飛行機が小さすぎて検出できないこともあるので、シングルAF+置きピンにするなど、不用意にAFを動かさないほうが得策のこともある。

(c)Koji Nakano/写真の無断転載禁止

 

 

■写真家:中野耕志
1972年生まれ。野鳥や飛行機の撮影を得意とし、専門誌や広告などに作品を発表。「Birdscape~絶景の野鳥」と「Jetscape~絶景の飛行機」を二大テーマに、国内外を飛び回る。著書は「侍ファントム~F-4最終章」、「パフィン!」、「飛行機写真の教科書」、「野鳥写真の教科書」、「飛行機写真の実践撮影マニュアル」など多数。

 

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