小松基地航空祭&事前訓練で戦闘機を撮る|飛行機撮影のコツ
はじめに
航空自衛隊の戦闘機を間近で撮影できる機会、それが航空祭だ。航空祭は航空機をはじめとする装備品の展示や訓練成果の披露を通じて航空自衛隊の活動を国民に知らしめることを目的とし、全国各地の基地において年1回の頻度で開催されている。
近年は自衛隊人気やデジタルカメラの普及もありどこの航空祭も満員御礼で、とくにブルーインパルスが展示飛行を行う航空祭ではより混雑する。海上自衛隊や陸上自衛隊でも開庁記念祭や駐屯地祭などがあり、こちらは戦闘機が参加することは少ないものの航空機の飛行展示や地上展示を楽しめる。その他、在日米軍基地として岩国基地フレンドシップデーでは米海軍/海兵隊機による派手な飛行展示が見所だ。
航空祭会場への撮影機材の持ち込みはもちろん可能だが、基地によってはボディ含め40cmを超える望遠レンズは使用禁止といった制限もあり、脚立や三脚、折りたたみ椅子等を持ち込めないことも多いので、詳細は各基地の公式ホームページ等で確認されたい。
なお航空祭は我々撮影者のために行われているわけではなく、周辺住民や隊員家族、将来の自衛官になりうる若者が優先されるべきである。航空祭当日はもちろん、事前訓練等で基地周辺に訪れる際にも迷惑行為を慎み他者に配慮した立ち振る舞いをお願いしたい。

■撮影環境:f/5.6 1/2000秒 ISO200 WB晴天
令和7年度の航空祭
令和7年度における航空自衛隊主催の航空祭は以下の通りで、多くが9月~12月の秋冬にかけて開催される。このほか小牧基地での航空祭は例年3月上旬に開催されているが、本稿執筆時点では発表されていない。また5月には美保基地航空祭が予定されていたが中止された。
・5/25(日)静浜基地(静岡県)
・6/8(日)防府北基地(山口県)
・8/31(日)松島基地(宮城県)
・9/7(日)千歳基地(北海道)
・9/21(日)三沢基地(青森県)
・10/5(日)小松基地(石川県)
・10/5(日)芦屋基地(福岡県)
・10/12(日)岐阜基地(岐阜県)
・10/26(日)浜松基地(静岡県)
・11/3(月祝)入間基地(埼玉県)
・11/30(日)築城基地(福岡県)
・12/7(日)新田原基地(宮崎県)
・12/7(日)百里基地(茨城県)
・12/14(日)那覇基地(沖縄県)
航空祭事前訓練を撮る

■撮影機材:Nikon Z9 + NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR(250mm)
■撮影環境:f/8 1/1500秒 ISO200 WB晴天
筆者は例年2-3カ所の航空祭に行っているが、今年はまず小松基地航空祭に出かけることにした。小松基地には第6航空団隷下の第303飛行隊と第306飛行隊、そして飛行教導群の、3個のF-15イーグル飛行隊が配置されている日本一の“イーグルネスト”なのである。将来的には第303飛行隊と第306飛行隊は次期主力戦闘機のF-35へと機種更新することになっており、第303飛行隊には今年4月よりF-35Aが配備され始めている。したがって現在の小松基地では従来のF-15に加えてF-35が見られるのはもちろん、今年はブルーインパルスが参加しないため戦闘機だらけの小松基地航空祭となることが約束されていた。
航空祭自体は日曜日のみの1日開催だが、事前訓練や通常訓練の撮影と天候のバックアップを考慮して、数日前から現地に展開するようにしている。今回は1週間前時点での天気予報によると火曜日と木曜日が晴れそうなので、月曜日に自宅を出発して火曜日の朝から撮影できるようにした。
ちょうど火曜日には大編隊の事前訓練が実施されて11機のF-15大編隊を晴天下で撮影でき、今回撮るべき1項目をクリアしたことになる。午後には飛行教導群、通称アグレッサーによる機動飛行が実施され、こちらも晴天下で撮影できたのだが、全体的に飛行高度が高く840mmでも十分な大きさに写ることは少なく、1.5倍の望遠効果が得られるDXクロップ機能を多用しての撮影だった。

■撮影機材:Nikon Z9 + NIKKOR Z 600mm f/4 TC VR S(840mm/1260mm相当)
■撮影環境:f/6.7 1/2000秒 ISO200 WB晴天
▼FXフォーマット(フルサイズ)とDXフォーマット(APS-C)の画角比較
左は600mmレンズに内蔵1.4xテレコンを装着して840mmでF-35Aを撮影したが、もう少し大きく写したいときは右写真のようにDXクロップで1260mm相当で撮影した。DXクロップは画素の一部を切り出すことで擬似的に望遠効果を得るもので、見かけ上は1.5倍大きく写せるが画素数は4500万画素から1900万画素に目減りする(Nikon Z9の場合)。
FX(フルサイズ)とDX(APS-C)のフォーマット切り替えはボディ前面のFn2に割り当てており、ファインダーを覗いたまま瞬時に切り替えできる。ただしFXに戻し忘れることも多いので、EVF右上のFX/DXモードを常に確認する癖を付けておきたい。
続く水木金も通常訓練の合間に航空祭の事前訓練が行われたが、なかでも印象的だったのは、第303飛行隊による機動飛行だ。従来機種のF-15Jに加えて今年度からF-35Aも運用する同隊は、F-15JとF-35Aを1機ずつ3ペア飛ばしてそれぞれ異なる飛行を行う趣向を凝らした展示飛行を披露した。エンジンパワーと機動性でねじ伏せるF-15Jとは異なり、F-35Aによる緩急織り交ぜた異次元の機動にこれまでの新しい時代の到来を感じた。
しかもこの第303飛行隊による事前訓練は連日16時過ぎに実施されており、夕方のオレンジ色の低い光線を浴びて機動するF-15とF-35がとても美しかった。航空祭本番では15時頃には終了してしまうので、今回のような光線状態で撮影できる可能性があるのは事前訓練ならではといえる。

■撮影機材:Nikon Z9 + NIKKOR Z 600mm f/4 TC VR S(840mm/1260mm相当)
■撮影環境:f/5.6 1/2000秒 ISO200 WB晴天

■撮影機材:Nikon Z9 + NIKKOR Z 600mm f/4 TC VR S(840mm)
■撮影環境:f/6.7 1/2000秒 ISO800 WB晴天
機動する戦闘機の“背中”を撮るためには旋回の内側から撮影するのが手っ取り早い。360度旋回のうち機体に光線が回るのは一部なので、順光方向を撮影しやすい場所を探すのがポイントだ。なお航空祭では会場側に旋回することはあまりないので、背中のショットは事前訓練にて撮影を済ませておくと航空祭当日は未練無く会場側から撮影できる。
小松基地航空祭 前日予行/本番
航空祭前日の土曜日には総合予行を兼ねて地域住民および隊員家族向けの特別公開が行われたが、生憎の雨模様。3飛行隊による機動飛行は行われたものの、写真的には厳しかった。

■撮影機材:Nikon Z9 + NIKKOR Z 600mm f/4 TC VR S(840mm/1260mm相当)
■撮影環境:f/5.6 1/2000秒 ISO400 WB晴天

そして迎えた航空祭本番。朝から雨が降り続き、雲低高度が低く視程も悪い状況が続いた。そのため飛行展示機は一旦離陸はしてみるものの、編隊飛行や機動飛行は実施できず地上からのレーダー誘導による着陸もしくはタッチアンドゴーするに留まった。

■撮影環境:f/8 1/250秒 ISO200 WB晴天
そんな中、がんばっていたのは小松基地救難隊のヘリコプター「UH-60J」で、要救助者を捜索、発見、救助の一連の救難展示を披露していた。ヘリコプター撮影時のポイントはシャッター速度で、「機体はブラさずにローターはブラす」が基本だ。UH-60の場合は1/30秒だとローターが1周するいわゆるフルディスクの状態になるのだが、1/30秒というシャッター速度は機体もブレてしまうリスクが高い。ホバリング中なら1/30秒や1/60秒という遅めのシャッター速度もチャレンジできるが、機体が動いている場合は動きの激しさに応じて1/125~1/500秒の間に設定すると良いだろう。
雨の航空祭では地上シーンを中心に撮影
雨天や曇天など、白い空バックでは写真的には厳しいため、地上シーンを中心に撮影するとよい。具体的にはタキシング、離着陸、地上展示など、地上が写り込んでいるシーンである。雨天曇天だからといって必ずしも悪いことだけではなく、晴天時は酷い逆光になったり陽炎の影響を受けやすい場合などは、逆に晴れない方が好条件で撮影できることもある。

■撮影機材:Nikon Z9 + NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR(600mm/900mm相当)
■撮影環境:f/6.7 1/750秒 ISO400 WB晴天

■撮影機材:Nikon Z9 + NIKKOR Z 24-120mm f/4 S(24mm)
■撮影環境:f/11 1/125秒 ISO200 WB晴天

■撮影機材:Nikon Z9 + NIKKOR Z 24-120mm f/4 S(120mm/180mm相当)
■撮影環境:f/8 1/30秒 ISO1600 AWB

■撮影機材:Nikon Z9 + NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR(600mm/900mm相当)
■撮影環境:f/8 1/250秒 ISO200 WB晴天
事前訓練の機動飛行ではほとんどの撮影をNIKKOR Z 600mm f/4 TC VR Sでこなしたが、航空祭の会場内では飛行機との距離が近いため超望遠レンズのみならず中望遠レンズや標準レンズも活躍する。飛行機カメラマン御用達のthinkTANKphotoエアポートアクセレレーターに収まるのは、カメラボディ2台(Nikon Z9、Z8)、レンズ4本(NIKKOR Z 600mm f/6.3 VR S、NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR、NIKKOR Z 24-120mm f/4 S、Z TELECONVERTER TC-1.4x)。加えて食料と雨具等も持参した。ほとんどの撮影は180-600mmと24-120mmの2本で事足りるのだが、天候が回復したときに飛行展示機を撮る際、テレコン使用時の画質面を考慮して600mm単焦点も持参した。
天候回復が見込まれないため昼過ぎには会場を後にして基地の外側から撮影したが、トリを務める第303飛行隊が果敢に機動飛行を行うも序盤の数課目を実施したところで天候が悪化し終了となった。事前訓練を通して小松基地航空祭における展示飛行の素晴らしさを目の当たりにしていただけに、当日の悪天候が残念ではあるが、久しぶりの航空祭を堪能することができた。
これから11月、12月とまだまだ航空祭シーズンは続くので、撮影に行かれる方はぜひ参考にしていただけたらと思う。
(c)Koji Nakano/写真の無断転載禁止
■写真家:中野耕志
1972年生まれ。野鳥や飛行機の撮影を得意とし、専門誌や広告などに作品を発表。「Birdscape~絶景の野鳥」と「Jetscape~絶景の飛行機」を二大テーマに、国内外を飛び回る。著書は「侍ファントム~F-4最終章」、「パフィン!」、「飛行機写真の教科書」、「野鳥写真の教科書」、「飛行機写真の実践撮影マニュアル」など多数。
















