シカゴの街を歩く。旅はライカで軽快に|上田晃司・コムロミホ写真展 「CHICAGO-ライカで切り取るそれぞれのストリート-」インタビュー

鈴木誠
シカゴの街を歩く。旅はライカで軽快に|上田晃司・コムロミホ写真展 「CHICAGO-ライカで切り取るそれぞれのストリート-」インタビュー

新宿 北村写真機店で2025年12月24日(水)~2026年1月7日(水)に開催する上田晃司・コムロミホ写真展 「CHICAGO-ライカで切り取るそれぞれのストリート-」がスタートしました。上田氏はフィルムで、コムロ氏はデジタルで撮影した味わい深いモノクロスナップを楽しめる写真展です。今回はその開催を記念して、ライターの鈴木誠氏に旅のきっかけや、旅の中で見つけた街の魅力についてインタビューしてもらいましたので是非ご覧ください。

名作写真と縁深いシカゴ

– 今回のテーマがシカゴとなったきっかけは何でしたか?

上田:ディアドルフのシノゴ(4×5インチ判)を使ったプロジェクト「U.S.ROUTE 66」で、1年半前の春に訪れた街でした。スティーブン・ショアが撮っていたウィンスローに行きたいと思い、アリゾナからルート66を北上して、シカゴに到達したのが1年半前の春です。街中に光が乱反射する綺麗さが面白いな、という第一印象を持ちました。

ただシノゴだと夜は撮れないので、復刻版のライカM6もバッグに入れていたんです。頭を切り替えるためにシノゴはカラー、ライカはモノクロと決めてトライXを詰めました。そのライカでのスナップが意外に良い感触だったんです。冬も撮りたいと思い、2025年12月にライカだけを持って2日間、追加で撮影しました。1年半前の春とあわせてトータルで5〜6日間、集中して撮った作品群です。

コムロ:私は今年の7月と12月にシカゴを訪れました。モノグラフィー(東京・日本橋小伝馬町のお店「MONO GRAPHY Camera & Art」)で扱う写真集はストリートスナップに特化しているのですが、アメリカを題材にした作品が多いんです。石元泰博さんの『シカゴ、シカゴ』とか、ヴィヴィアン・マイヤーもシカゴを撮影していました。アメリカという切り口ではロバート・フランクもそうですね。

いろんなモノクロの名作を見ていて、シカゴをモノクロで撮りたいなと思っていました。中藤毅彦さんが2年前にシカゴで撮影されていたのも、きっかけのひとつです。洗練されたニューヨークとはまた雰囲気が違って、ちょっと田舎な感じで、少し歩くと寂れた街並みになるぐらいの規模でした。

– お二人ともシカゴに思い入れや必然があったのですね。シカゴはどんな環境ですか?

上田:冬は寒くて人がいないんです。特に20時以降は誰も見かけません。体感はマイナス14度か15度かという感じで、「なぜここに都市を作ったのだろう?」と思うぐらい寒いところです。

コムロ:7月は独立記念日のハッピーな雰囲気が街に溢れていました。街の中で花火を打ち上げるので、最初は銃撃戦が始まったのかと驚きました。夏と冬でこんなにも雰囲気が変わるのかと思うぐらいですね。あと、ハトが多いですね。野生のリスにも会いました。

上田:大都会でも自然があるので、その対比が見られますね。冬は外だとフィルム交換ができず、フィルム交換のたびにスターバックスに入ってました。物価が高いところでは、フィルム交換のためにフィルム1本ぐらいのお金を払って(笑)。

コムロ:スタバの多さには驚きました。一つの交差点で3か所にあったり。ただ、そのおかげで冬は暖を取れて助かるんですよね。学校の近くにある店舗は安くて、2ドルで紅茶が飲めました。

作品に写る街の魅力

– 上田さんの思い出深い作品を教えてください。

上田:ド直球ですが、シカゴ劇場です。訪れたら必ず撮ってしまうようなアイコニックなイメージがありますよね。アメリカといえば街の掃除もすごくて、「拭き飛ばす」か「流す」の二択なんですよね。夜中に行われています。

コムロ:あれはすごいですね。サンクスギビング(感謝祭)の時期には通りでパレードがあって、終わった後に人がいなくなるとゴミがすごいんです。それをクルマで巻き込みながら一気に掃除しています。

– コムロさんの印象的な1枚はどれですか?

コムロ:霧が出ている中に人がいて、吸い込まれるようなイメージです。やはり撮影で思い出すのは、アメリカの人達って楽しいな!ということでした。すぐ友達になれるんです。夏は特にそうなのかもしれませんが、開放感が面白かったです。

– お互いがどんな作品を撮っているかは、何となく知っていたんですか?

コムロ:いま初めて見ています(笑)。今回のコンセプトとしては、デジタルとフィルムの対比が面白そうだなと思って、2人でそれぞれの空間を作りたかったんです。これを機にフォトブック『MONO GRAPHY』の7冊目も作ろうと思っています。

上田:2人で同時期に同じ場所について展示するのは初めてですね。僕の写真だと人の気配を感じるものはあまりなくて、どちらかというと離れた目線。鳩が見ている世界のような距離感です。2人で作品のテイストを揃える必要もないから自由に撮りましたが、路地を撮ったり、好きなところは似てますね。

使用したライカについて

– レンズとボディは何を使いましたか?

コムロ:ズミルックスM f1.4/35mm ASPH.(現行)と、ズミルックスM f1.4/50mm ASPH.(現行)を持っていきました。使ったのはほとんど35mmでしたね。

コムロさんの愛機 ライカM11 +ズミルックス35mm F1.4 ASPH.

ズミルックスには、その場の雰囲気をすくいとってくれるような描写があります。他のプロジェクトではアポ・ズミクロンM F2/35mm ASPH.も使いますが、今回はキッチリ、カッコよく!というより、生活する人のドラマが引き立つような写真が撮りたかったのでズミルックスを選びました。

上田:僕が使ったズミルックスM F1.4/50mm ASPH.は寄れない先代(2004年発売)ですね。アナログとのマッチングも良くて好きなレンズです。フードを収納した状態でちょっとフレアが増えるのを作画に取り入れたりもします。といっても、フィルムを現像してみるまで結果はわからないので、経験則でコントロールしています(笑)。

上田さんの愛機 ライカM6 +ズミルックス50mm F1.4 ASPH.

カメラは光が変わりやすい昼間にライカM7の「AUTO」(絞り優先AE)を使い、夜は露出が変わらないのでマニュアルのライカMPでした。重くなるので、2台を同時に持ち歩くことはありませんでした。フィルムはカメラに1本入れて、プラス3本を予備に持ちます。かなり集中していて、2時間で1本を撮るぐらいのペースでしたね。

上田さんのもう一台の愛機 ライカMP +ズミクロンM F2/28mm ASPH.

珍しいところでは、アイピースに取り付けるアングルファインダーを使いました。
水たまりギリギリの反射を撮りたい時に、水平が傾くのは嫌ですし、人が通りがかるタイミングも見たいなと思ったからです。

コムロ:私はライカM11とライカM10-P “White”を使いました。どちらもメインで、使い分けは気分です(笑)。出会った人を撮らせてもらうときにはカメラが目立つほうが好都合なので、コミュニケーションになるかなと思って白いカメラを使いました。

コムロさんのもう一台の愛機 ライカM11 +ズミルックス35mm F1.4 ASPH.

上田:最近は、むしろ街で目立ったほうがスナップは撮りやすかったりしますよね。ブラックペイントのライカMPなんか、本当に「無」の存在感です(笑)。

– 街を撮るうえでライカを使う効能はありますか?

コムロ:「ナイスカメラ!」みたいに言われることが多いですね。向こうから手を振ってくれたり。声を掛けて撮らせてもらうのにも有利だなと思います。アメリカの人達は喜怒哀楽の表現が大らかなので、撮影でのコミュニケーションも楽しいですね。

コムロさんのテストプリント。構成を考えるためにブックにして手に取れるように。

上田:ライカを持っている人どうしで挨拶したり、街に溶け込めるメリットは世界共通ですね。シノゴで撮っていると、冠布(かんぷ。ピント合わせ用の被り布)から出たら周囲に人だかりができています(笑)。

上田さんのコンタクトシート。「撮影時の心の動きが見える」と語る。

コムロ:ライカの不思議なところに、ピントを外してボケたとしても失敗写真に感じないというのがあります。

上田:画角が広めなレンズが多いからかもしれないですね。最近のカメラは予期せぬ失敗写真が撮れないので、物足りなく感じることもあります。

コムロ:確かに、どこにもピントが合っていない写真を撮れるのはM型ライカらしいかも。普通のカメラは、安全のためにピントが合わないとシャッターが切れなかったりしますし。ファインダーの真ん中でピントを合わせてから目的のフレーミングにずらす順序になるので、フレームの中にある被写体にピントを合わせる一般的なカメラとは、考え方の順序が違ってきます。

写真家の旅の装備は?

– お二人の旅支度について教えてください。荷物量とか、撮影中の装備とか……。
上田:13インチぐらいのMacBookが入る、ONAのレザーバッグを使っています。ライカだとシンプルな装備で歩きたくなります。これと、機内持ち込みのスーツケース1つです。飛行機の中でも盗難があるので、カメラが入ったバッグは上の荷物入れではなく足下に置いています。

コムロ:寒い時期はインナーが大事なので、季節に応じて旅の荷物量は変わります。あとホッカイロも活用します。カメラやパソコンはシンクタンクフォトのバックパックに入れていました。ファスナーに南京錠が付けられて、ワイヤーロックもあるので、ホテルでの盗難予防に便利です。

こだわりとしては、ホテルは街の中心地の良い場所に取ることです。とにかく歩きたいので撮影時は手ぶらです。首からカメラを提げて、レンズも装着している1本だけ。いろんな画角が頭にあると迷いが生じてしまうので、決まった目線で歩きたいんです。「別のレンズがいいな」と思ったら、ホテルに戻って取り換えます。

上田晃司・コムロミホ写真展 「CHICAGO-ライカで切り取るそれぞれのストリート-」

・日時:2025年12月24日(水)~1月7日(水) 10:00 ~ 21:00
・場所:新宿 北村写真機店 B1F ベースメントギャラリー
・住所:東京都新宿区新宿3丁目26-14 [地図はこちら
・入場料:無料
・ホームページ:https://www.kitamuracamera.jp/ja/information/news/cicago_leica/

写真家プロフィール

上田 晃司
フォトグラファー/映像作家
米国サンフランシスコに留学し,写真と映像を学び,CMやドキュメンタリーを撮影。帰国後,写真家塙真一氏のアシスタントを経て,フォトグラファー,映像作家として活動開始。現在は,雑誌,広告を中心に,ライフワークとして世界中の街や風景を撮影。最新カメラも使いこなすが、4X5の大判や様々なフィルムカメラでも作品を撮影している。講演や執筆活動も行っている。YouTubeチャンネル「写真家上田晃司の旅とカメラ」でカメラや旅について情報を発信中。ニッコールクラブ アドバイザー、ニコンカレッジ講師、LUMIXアカデミー講師、プロフォトトレーナー、日本写真家協会正会員

 

コムロ ミホ
文化服装学院でファッションを学び、ファッションの道へ。撮影現場でカメラに触れるうちにフォトグラファーを志すことを決意。アシスタントを経て、現在は広告や雑誌で活躍。街スナップをライフワークに旅を続けている。カメラに関する執筆や講師も行う。またYouTubeチャンネル「カメラのコムロ」でカメラや写真の情報を配信中。カメラや写真が好きな人が集まるアトリエ「MONO GRAPHY Camera & Art」をオープン。

 

 

関連記事

人気記事