ライカ初の焦点距離35ミリのレンズ エルマー35mm で今を写す

加納満
ライカ初の焦点距離35ミリのレンズ エルマー35mm で今を写す

エルマー35とは

エルマーの35ミリは1930年から第二次世界大戦を挟んで1950年まで製造された、バルナックライカ用で初となる広角の交換レンズです。最初期には様々に細部の異なったモデルが存在し、コレクターアイテムになっているものも多数あるようです。一般的なものではニッケルとシルバーという仕上げのメッキの違い、戦前戦中のノンコーティングから戦後のコーティング付きになっているのが大きなバリエーションの違いとなります。

後にこのエルマー35ミリを引き継いだズマロン35ミリというレンズが名玉としての評判が高く、愛用する写真家も多いレンズとなっていましたので、その陰に隠れて久しく「目立たない」「地味な」存在となっていたと言っていいでしょう。しかしそこにこそ35ミリとしての初源の写り、流行りの盛る写真に逆行する「なんでもない写り」が潜んでいるのではないかということで、近年ちょっとしたブームとなってきました。

また、沈胴するエルマーの50ミリに比べて、最初から沈胴しているようなコンパクトさと軽さが、常に持ち歩くレンズとして見直されてきたということもあるように思います。

普通にしか写らない。でも十分普通に写る

エルマー35ミリの写りを簡単に説明すると、画面全体の解像度が上がって撮れるのは絞りをF8以上(正確には大陸絞りなので6.3と9の間)にした場合といっていいでしょう。それよりも絞りを開けるとだんだんと周辺部に甘さが現れ、俗に言う「真中番長」という描写になってしまいます。しかし一概にそれを「良くない」と言い切ってしまう欠点かというとそうではありません。光が少ない場所で周辺が甘い写りは、人の目に近いようにも思えます。そしてフイルム時代には克服できなかったこの特徴も、今やデジタルカメラの感度を上げていくことで問題なく高解像を維持できるようになりました。

では具体的にその写りを見ていきましょう。

まずはフイルム時代の夜の写真。場所は3枚共にイタリアのボローニャです。フイルム感度がそれほど高くない(ISO400)ため、これらは全て絞り開放で撮っています。甘いといえば甘いのですが全体として悪くない印象ではないでしょうか。個人的には必要且つ十分な描写性能と思っています。

1枚目のバイク、ベスパのナンバープレート、ハンドル周辺もしっかりと解像していますし画面全体のコントラストにも不満はありません。そして何よりいいのは35ミリの広角で開放F3.5という暗さにもかかわらず背景はなだらかにボケています。これはもう欠点ではなく長所だと初めてプリントした時に思った1枚です。

2枚目の壁のポスターと案内の看板ですが、これも甘いなりにプリントとしては十分な解像です。逆に目で見た感じに近く、カリカリしていないという意味では理想的とも言えます。

3枚目の建物では強い街灯のハイライトのために、画面中心に薄く丸いゴーストが出ています。もうここが限界とレンズが言っているような仕上がりですが、私は許せます。この辺りは意見の分かれるところかもしれないですね。
 
次にデジタルでの夜の描写です。

感度を上げられるので全く不満はありません。デジタルから写真を始められた方からすれば、何を当たり前のことを言っているのかと思われるでしょうが、どうしてもそう思ってしまいます。しかし反面、フイルムの時の軟らかさはもうそこにはありません。そしてこう撮りたかったのであれば、エルマー35ミリを使う必要があったのかという疑問も湧いてきます。なので単純にこのレンズが持つポテンシャルの高さを表した作例と捉えていただいた方がいいのかもしれないですね。

最後に絞りをF8に固定してAUTOで撮った昼間の写真を並べてみます。

シャッターを押すことだけに集中してカメラの操作からは解放された写真です。そういえばこんな撮り方を、誰かが「エルマー35ミリを使った写るんです」と言っていましたが上手いこと言うなと思ったものでした。

さて「なんでもない写り」どうだったでしょうか。このレンズを使うとレンズそのものに「ステイタス」のようなものは希薄なので、どうしても写真をいいものにしていくしかなくなります。そこに原点回帰できる稀有なレンズだという思いがあって、身辺に置き続けたいと思っています。

写真展「エルマー35展」開催

本記事で紹介したレンズがテーマとなった写真展が、2025年9月12日 (金) ~ 2025年9月23日(火・祝) の間、新宿 北村写真機店にて開催されます。展示されるのは、ライカで最初期に発表された交換式レンズであり、最も古い広角レンズである「エルマー3.5cm F3.5」で撮影された写真だけ。カメラの種類はもちろん、デジタルやフィルム、カラーやモノクロなど、レンズ以外の制約はありません。40名以上の参加者によるグループ展として、多彩な作品をご覧いただけますので、ぜひ足を運んでみてください。

展示情報

・写真展:「エルマー35展」
・日時:2025年9月12日(金)-2025年9月23日(火・祝) 10:00-21:00
・場所:新宿 北村写真機店 B1F ベースメントギャラリー
・住所:東京都新宿区新宿3丁目26-14 [地図はこちら
・入場料:無料
・HP:新宿 北村写真機店ホームページへリンク

会期中にはトークショーを開催
詳細は決まり次第、新宿 北村写真機店HPSNSで告知をさせていただきます。

 

主催者プロフィール

■写真家:加納満
岡山市生まれ。天晶雅彦氏、奥宮誠次氏に師事。独立以降フリーランス。主に広告写真を生業とする。

 

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