Hasselblad X2D II 100C レビュー|1億画素が拓く中判デジタルの新次元
イントロダクション
Hasselbladが2025年8月に発表したX2D II 100Cは中判ミラーレスカメラの概念を根底から刷新する革新的なシステムです。
前作X2D 100Cが示した「携行可能な中判」という新たな方向性を継承しながら、手ブレ補正、オートフォーカス、ユーザーインターフェース、そしてワークフロー全体にわたる抜本的な進化を遂げています。
本稿ではX2D II 100Cが実現した技術的革新の本質を、光学性能、手ブレ補正機構、オートフォーカスシステム、操作性、そしてワークフローの観点から詳細に検証します。
特に、10段分の手ブレ補正が中判撮影にもたらす表現の可能性、LiDAR技術の統合によるAF性能の飛躍、そしてEnd-to-End HDRワークフローが示す新たな画像処理について技術的・実践的側面から分析していきます。
X2D II 100Cの技術的革新:前作からの劇的な進化
X2D II 100Cは、前作X2D 100Cの基本設計を継承しながら、以下の領域において顕著な進化を遂げています。
● 手ブレ補正:7段から10段への向上
● オートフォーカス:LiDAR技術の統合とAF-C対応
● ISO感度:常用感度がISO 50に変更
● ダイナミックレンジ:15ストップから15.3ストップへの拡大
● HDRワークフロー:中判デジタル初のEnd-to-End HDR対応(HEIF 10-bit、Ultra HDR JPEG)
● ユーザーインターフェース:5Dジョイスティック、1400nitディスプレイ、8個のカスタムボタン
● AFポイント数:294点から425点へ向上
● システム設計:60gの軽量化(790g→730g)
これらの進化は、単なる仕様の改善にとどまらず、中判カメラの活用領域そのものを拡張する本質的な革新です。
各技術要素の詳細については以下の各セクションにて詳述いたします。
1億画素CMOSセンサーが生み出す圧倒的な描写力
X2D II 100Cに搭載される1億画素の裏面照射型CMOSセンサーは、43.8×32.9mmという中判フォーマットと相まって現代デジタルカメラにおける描写力の頂点を体現しています。
ダイナミックレンジは前作の15ストップから15.3ストップに向上しており、ハイライトからシャドウに至る階調の連続性がより自然で滑らかな描写を可能にしていると考えられます。
また、常用ISO感度はISO 50に変更になりました。前作X2D 100CのISO 64から変更されたこの設定は、より低いベース感度での撮影を可能にし、中判センサーの持つ階調表現力を最大限に引き出すことを目的としていると推測されます。
Hasselbladが長年培ってきたハッセルブラッドナチュラルカラーソリューション(HNCS)は、X2D II 100Cにおいても継承されています。特に、肌色の再現性、中間調のトーン遷移、そして彩度の高い被写体における色分離能力は35mmフルサイズシステムとの明確な差異を示す領域であると感じております。
また16bitの色表現はRAWデータからの現像・レタッチプロセスにおいて、トーンカーブ調整やカラーグレーディングに対する高い耐性をもたらすと考えられます。
色深度に関してはHasselblad 3FR RAW形式で14bitまたは16bitを選択可能です。

設定:f/4.8 1/20秒 ISO100(撮って出し)
森の木々が織りなす複雑な緑のグラデーションを捉えた作例です。画面左側の木の幹に当たるスポット光から画面右側の深い森の暗部まで、広大なダイナミックレンジを一枚に収めています。
特筆すべきはHNCSによる緑の階調分離能力です。
光が透過する明るい黄緑、葉本来の中間調の緑、そして影に沈む青みがかった深緑という3つの異なる緑が、自然な連続性を保ちながら精密に描き分けられています。
従来のカメラシステムでは単調な「べた塗り」になりがちな森の緑が、ここでは驚くほど豊かな階調として記録されています。
ISO 50というベース感度での撮影により、ノイズレスな状態でHNCSの純粋な色再現が実現しています。
画面右下の深い暗部でさえ色情報が失われることなく、青緑の色相を維持したまま階調が沈んでいく様子が確認できます。これは1億画素センサーとHNCSの相乗効果によるもので、微細な色のグラデーションまで余すことなく記録されています。
この作例は、派手な色や印象的な色ではなく、「その場にいた時に見えていた色」を忠実に記録するというHNCSの設計思想を体現しています。
後処理での大胆な調整にも耐えうる豊富な色情報が記録されていることから、撮影者にとってHNCSは色を作る道具ではなく色を正確に記録する道具として機能していることが分かります。

設定:f4.0 0.5秒 ISO800(撮って出し)
展望台から夜景を眺める人々のシルエットと無数の光が織りなす都市景観を捉えた作例です。
夜景撮影における最大の課題は、異なる色温度の光源が混在する環境下でそれぞれの光の色を自然に記録することです。
この作例では、画面中央のシアンブルーのLED照明を纏った超高層ビル、画面全体に散らばるオレンジ系の街灯や白色系の住宅照明という、少なくとも4種類以上の異なる色温度の光源が共存しています。
HNCSは2004年から20年以上にわたる開発の中で、人間の視覚システムと記憶色の関係性を徹底的に研究し、単なる色域の広さではなく、自然に見える色を追求してきました。
この作例において中央のシアンブルーのタワーの鮮やかな発色、周囲の暖色系照明の柔らかな色調、そして空の深い青紫のグラデーションがすべて人間の目がその場で感じた印象に忠実に再現されています。
また、ISO 800という中感度域での撮影でありながら、暗部のノイズが極めて少なく、色の濁りがほとんど見られない点も特筆すべきです。
手前の人物シルエット部分、展望台の手すりの暗部、そして遠景の空のグラデーション領域において、1億画素センサーとHNCSの組み合わせが高感度域でも豊かな色情報を保持しています。
撮って出しのJPEGであっても、後処理を前提としたRAWであっても、HNCSは撮影者が見た色を忠実に記録する基盤として機能し表現の自由度を高めてくれるのです。
革新的な手ブレ補正システム:10段分のブレ補正が実現する新たな表現領域
X2D II 100Cにおける最も革新的な進化は5軸センサーシフト式手ブレ補正の性能が前作X2D 100Cの7段から10段へと向上した点です。
この3段分の向上は中判カメラの活用領域を根本的に拡張する技術的革新といえます。
実用的な観点から従来7段補正で実用可能であったシャッター速度から、さらに3段分低速なシャッター速度での手持ち撮影が理論上可能になります。
これはISO感度を3段分低く設定できることを意味し、中判センサーの持つ階調表現力とダイナミックレンジをより多くの撮影状況で活用できる可能性が増えます。
中判デジタルカメラにおいて、ISO感度を低く維持することは画質の根幹に関わる重要な要素であります。
X2D II 100Cの常用ISO感度 50において、10段分の手ブレ補正は室内や薄暮時といった低照度環境でも三脚を使用することなく最高画質を維持できます。
さらに常用ISO感度 50と10段の手ぶれ補正の掛け合わせにより、NDフィルターを使用せずに日中でもスローシャッターが実現可能になっています。
従来は三脚が必須であった撮影条件においても、手持ちでの撮影が可能となり構図の自由度と機動性が飛躍的に向上しています。

設定:f27.0 1/13秒 ISO50(撮って出し)
X2D II 100Cの10段手ブレ補正の実力を端的に示す一枚です。
日中の明るい環境下において、NDフィルターを使用することなく1/13秒というスローシャッターでの手持ち撮影を実現しています。画面右側を走行する車両が適度な流動感を伴って表現されており、動きのある被写体と静止した橋梁構造物の対比が効果的に捉えられています。
また、注目すべきはf/27という極端に絞り込んだ設定です。
一般的に、f/8からf/11程度が回折の影響を最小限に抑えた最適な絞り値とされますが、本作例では意図的にf/27まで絞り込むことで、シャッター速度を1/13秒まで低速化しています。ISO 50という常用最低感度と組み合わせることで、日中の強い光量下でもスローシャッター効果を得ることに成功しています。
Hasselbladの強みはボディの性能はもちろんのこと、高品質なXCDレンズシステムを使用できる点にあります。
本作例で使用したXCD 3,2-4,5/20-35Eの光学性能の高さはこの極端な設定下においても明確に示されています。f/27という絞り値では回折現象により理論上は解像度の低下が避けられません。
しかしながら、画面中央のアーチ状橋梁構造や遠景の高層ビル群のディテールは十分に保持されており、XCDレンズの光学設計の優秀さが実証されています。

設定:f/6.8 8秒 ISO 50(撮って出し)
X2D II 100Cの10段手ブレ補正の強さを示す一枚です。本作例の最も驚異的な点は三脚を使用することなく手持ちで9秒という長時間露光を実現していることです。
従来の常識では考えられないこの撮影を可能にしたのはカメラストラップを首から下げ、ピンと張ることでカメラを安定させるという技法とX2D II 100Cの革新的な手ブレ補正システムの組み合わせです。
歩行者天国を行き交う人々は完全に透明化し、都市空間に流れる時間そのものが可視化されています。
建築物やアスファルトの質感は驚くほどシャープに保たれており、10段分の手ブレ補正が実際の撮影において極めて実用的な機能であることを実証しています。
X2D II 100Cの手ブレ補正システムは、高精度のジャイロスコープと加速度計を使用し、0.001度という微細な動きを検出します。
Hasselbladはすべての年齢層にわたるカメラの揺れパターンを分析する広範なフィールドリサーチを通じて、実際の撮影条件に合わせて安定化アルゴリズムを洗練しました。
さらに革新的な電子コンパスは地球の自転に対する補正を行うことができます。この自転補正機能はPhocus Mobile 2を通じて有効にすることができ、GPSをONにしたスマートフォンとBluetoothで接続しボディを操作せず平面に数秒置くことで機能します。
次世代オートフォーカスシステム:LiDAR技術の統合
X2D II 100Cは、前作のPDAF(像面位相差AF)とCDAF(コントラストAF)のハイブリッドシステムに加えて、新たにLiDAR(Light Detection and Ranging)技術を統合しています。この三位一体のAFシステムは、中判カメラとして初めてAF-C(コンティニュアスAF)に対応し、動体追従性能を得ました。
LiDARはレーザー光の飛行時間を計測することで被写体までの距離を直接測定する技術です。従来のPDAFやCDAFがセンサー上の情報から間接的に距離を推定するのに対し、LiDARは物理的な距離測定を行うため、低照度環境やコントラストの低い被写体においても確実な測距が可能になります。
また、AF-C(コンティニュアスAF)の搭載はX2D II 100Cにおける重要な進化と言えるでしょう。従来、中判カメラは静止被写体の撮影に特化しており、動く被写体への対応は限定的でありました。
被写体が動きながらのポートレート撮影や、歩いている動物の撮影といった状況でAF-Cは極めて有効であると考えられます。

設定:f/4.0 1/100秒 ISO 400(Phocus Mobile2で明るさ調整)
X2D II 100Cが搭載する次世代AFシステムの実力を示す一枚です。
本作例では前作X2D 100Cでは不可能であったAF-Cを使用し、動きのある被写体に対して確実にピントを合わせることに成功しています。
X2D II 100CではPDAF、CDAF、LiDARを統合した三位一体のAFシステムにより動体を追従することが可能です。
本作例では、わずかに動きのある鹿の表情を捉えるにあたってAF-Cが極めて有効に機能しました。被写体の微細な動きに対しても迷うことなくピントを追従させることができ、瞳にジャストフォーカスした状態で撮影を完了しています。
XCD 2,8-4/35-100Eの100mm側(35mm判換算約76mm相当)、f/4.0という開放絞りでの撮影により、背景の森は美しいボケとして処理されています。
中判フォーマット特有の大きなセンサーサイズが生み出すボケ味は、35mmフルサイズとは明確に異なる質感を持っています。焦点距離100mm、f/4.0という一見控えめな設定でありながら背景の木々が柔らかく溶け、被写体である鹿が立体的に浮かび上がっています。
特に背景の玉ボケの描写は滑らかで自然であり、XCDレンズの光学設計の優秀さが示されています。円形絞りによる美しいボケの形状と色収差を最小限に抑えた光学系が相まって、主題と背景の分離が明確でありながら、全体として調和のとれた画作りが実現されています。
新世代のユーザーインターフェースと操作性の向上
X2D II 100Cは、ハードウェアインターフェースの刷新により、操作性において前作から顕著な進化を遂げています。
5Dジョイスティックの追加、カスタムボタンの増設、そして高輝度ディスプレイの採用はワークフローにおける効率性を大幅に向上させています。

背面の右手親指位置に新設された5Dジョイスティックは、AF測距点の移動、メニュー操作、そして再生時の画像送りなど、多様な操作に対応しています。
特に、AF測距点の移動においては従来のタッチパネル操作やボタン操作と比較して、ファインダーを覗いたまま迅速かつ直感的な操作が可能となっています。
ジョイスティックは4方向への操作が可能であり、押し込み動作(5D目の操作軸)には任意の機能を割り当てることができます。例えばAFポイントのリセットやクロップといった頻繁に使用する機能を配置することで撮影時の操作効率が向上します。
加えてバイブレーションモーターが搭載されており、フォーカスが合った際や水準器の位置が合った際など特定の操作に対して触覚的な反応を確認できます。
背面液晶ディスプレイはピーク輝度1400nitという高輝度仕様のOLEDパネルに変更されたことにより、直射日光下での視認性を大幅に向上させ、屋外撮影における実用性を高めています。
ディスプレイサイズは3.6インチ、解像度は236万ドット、Display P3色域を100%カバーしており、持続輝度は1,000nit(標準)、コントラスト比は2,000,000:1(標準)、色温度はD65になっております。これまで様々なカメラを使ってきましたが、X2D II 100Cディスプレイから映し出される絵が飛び抜けて綺麗でした。
特に、風景撮影や建築撮影において晴天下でのライブビュー表示の視認性は重要になります。
従来の液晶ディスプレイでは直射日光下では画面が見えにくく、構図確認や露出確認に支障をきたすことがありました。X2D II 100Cの高輝度ディスプレイはこうした問題を解消し、あらゆる照明条件下での快適な撮影を可能にしています。

ディスプレイは90°上方にチルト可能であり、腰の高さでの撮影やカメラを真上に向けての撮影が可能です。下向きの撮影のためには最大42.7°まで傾けることができるのも進化点と言えるでしょう。

設定:f/8.0 1/50秒 ISO 50(Phocus Mobile2で明るさ調整)
超広角20mm(フルサイズ換算約16mm)で都市のビル群を真下から見上げたダイナミックな建築写真です。
X2D II 100Cの進化点である90°上方チルト可能なディスプレイを活用した作例であり、前作のX2D 100Cでは撮影が困難だった真上への構図が快適に実現されています。
この撮影ではディスプレイを90°チルトさせることで無理な姿勢を取ることなく正確なフレーミングが可能となっています。ビルの垂直線を画面の対角線に沿って配置し、中央の街灯を構図の支点として三つのビルファサードが放射状に広がる幾何学的な構成を実現しました。
X2D II 100Cの新しいチルト式ディスプレイという物理的な進化により建築写真における撮影自由度を劇的に向上させました。
無理な姿勢での撮影から解放されることで構図への集中力が高まり、より緻密なフレーミングが可能となります。
そして、その構図の中にHNCSが捉えた正確な色彩と豊かな階調が記録されることで、建築の持つ幾何学的な美しさと素材感が最大限に表現された一枚となっています。
End-to-End HDRワークフローへの対応
X2D II 100Cは中判カメラとして初めて、End-to-End HDRワークフローに対応しています。
これは、撮影から表示、編集、出力に至る全工程においてHDRを維持するワークフローであり、現代の写真制作における重要なパラダイムシフトと言えるでしょう。
X2D II 100CはHEIF形式での10-bit出力に対応しており、これがHNCS HDRとして実装されています。加えてUltra HDR JPEG形式での出力も可能です。

HDR機能はカメラ設定メニューで有効化することによりHDR HEIFまたはUltra HDR JPEGファイルを直接生成し、1400nitの内蔵タッチスクリーンで即座に表示できます。
HDR撮影モードは露出をある程度コントロールできるP、S、Aモードでのみ有効化することができ、フォーカスブラケット、連続撮影、または露出ブラケットに設定されている場合、露出モードがマニュアルに設定されている場合などは有効化できない点に注意が必要です。
背面液晶ディスプレイの1400nit高輝度仕様は、HDRコンテンツのプレビューにも対応しています。撮影直後の画像再生において、HDRの広い階調範囲とハイライトの輝度を、より正確に確認することができます。
特に、逆光条件や明暗差の大きいシーンにおいて従来のSDR表示では白飛びして見えていた領域が、HDR表示では階調が保持されていることを確認できます。
これにより撮影時点での露出判断がより正確になり、後処理における自由度が高まると想定されます。
HDR HEIF画像は、X2D II 100C本体、またはPhocus、LightroomでHDR表示がサポートされており、HDR JPG画像を表示するにはPhocus、Phone/iPad システムアルバム(iOS18 以降のバージョン)※、Google Chrome、Adobe Lightroomなどの最新バージョンのアプリケーションを使用することが推奨されています。
※iPhone 13 Proおよびそれ以降のモデル(6 GB以上のRAMを搭載)、iPad Pro 13インチ (M4)、iPad Pro 12.9インチ(第5世代以降)およびiPad Pro 11インチ (M4) で、iOS 18以降を搭載し、低電力モードを無効にした状態。


使用機材:Hasselblad X2D II 100C + XCD 3,2-4,5/20-35E
設定:f/11 1/40秒 ISO 100(撮って出し)
(HDR対応デバイスとアプリケーションでHDRを体験することができます)
橋の下から隅田川越しに東京スカイツリーを捉えた作例です。
この一枚は、X2D II 100Cに新たに搭載されたHNCS HDR機能の真価を示す典型的なシーンと言えます。この作例における最大の撮影課題は画面左上の強烈な逆光と橋の下部の深いシャドウという、両極端な明暗差の共存です。
従来のSDR撮影ではこのような極端なコントラストシーンにおいて、空に露出を合わせれば橋が黒つぶれし、暗部に露出を合わせれば空が白飛びするという妥協が避けられませんでした。
しかし、この作例ではHNCS HDR機能によりこれらすべての領域が適切な階調で記録されています。ハッセルブラッドのエンジニアが認識した重要な点は、ハイライトの表現を制御するには全く異なるアプローチが必要だということです。
従来のHDR技術はシャドウを明るくしハイライトを圧縮することでディテールを保持しようとします。しかし、この手法には致命的な欠陥がありました。コントラストが低下し、画像が平坦になり、写真に命を吹き込むトーンの特性が犠牲になるのです。
この作例を見ると、HNCS HDRがいかに異なるアプローチを取っているかが明白です。
画面左上の空の階調では、淡い青から白へと続く雲のグラデーションが滑らかに再現されていますが、単に明るさを抑えただけではありません。
1400nitのピーク輝度により、ハイライトの微妙なディテールが保持されながら空本来の明るさと透明感が維持されています。実際のX2D II 100Cのディスプレイ上だとよりハイライト部分の輝きやディテールを確認することができます。従来のHDRのように平坦に圧縮された空ではなく、体感のある雲の造形が表現されているのです。
ここで重要なのは、暗部が単に持ち上げられて明るくなったのではなく、自然な暗さを保ちながら階調情報が保持されている点です。これこそがHNCS HDRの哲学であるトーンの特性を犠牲にしないことの証明です。本作例のような逆光でのシーンはもちろん、電灯やネオンが煌びやかに輝く夜景でも肉眼で見た印象に近い輝きの表現が可能です。
まとめ:中判ミラーレスの到達点と今後の展望

設定:f/9.5 192秒 ISO 50
X2D II 100Cは、中判ミラーレスカメラの進化における明確な到達点を示しています。
1億画素センサーの圧倒的な描写力、10段手ブレ補正がもたらす表現領域の拡大、LiDAR統合による次世代AFシステム、そしてEnd-to-End HDRワークフローへの対応は、いずれも中判デジタルカメラの可能性を根底から拡張する技術革新であると言えるでしょう。
特筆すべきはこれらの革新が単なる仕様の向上にとどまらず、撮影者のワークフローそのものを変革する可能性を秘めている点です。
10段手ブレ補正による三脚からの解放、LiDARによる確実なAF、そして直感的なインターフェースは、中判カメラを「特殊な用途のための道具」から「日常的に活用できる表現手段」へと昇華させています。
Hasselbladが長年培ってきた色再現性と階調表現の哲学は、X2D II 100Cにおいても継承されており、技術革新はこの哲学を拡張し、より多くの撮影状況において最高画質を実現するための基盤となっています。
中判デジタルカメラは依然として高価であり、システム全体の重量も決して軽くはないです。しかしながら、X2D II 100Cが示した圧倒的な描写力、豊かな階調表現、そして色再現性における技術的到達点は35mmフルサイズとは明確に異なる価値を提示しています。
技術革新と実用性の融合という観点において、X2D II 100Cは中判デジタルカメラの新たな基準点を確立したと言えるでしょう。
Hasselbladが追求してきた画質の哲学と現代的な撮影ワークフローへの対応が高次元で両立されたこのシステムは従来の中判ユーザーのみならず、35mmフルサイズから画質の次なる段階を求める撮影者にとっても魅力的な選択肢の一つになっているでしょう。
■写真家:Amatou
1995年千葉県生まれ。非現実的な都市景観の表現をコンセプトとしたファインアートフォトグラフィーをメインに撮影している。その独特な世界観が評価され、International Photography Awards、Sony World Photography Awardsをはじめ、国際的写真コンテストで数多くの上位入賞を果たす。














