プロの撮影現場に密着|スポーツフォトグラファー 西山和明

ShaSha編集部
プロの撮影現場に密着|スポーツフォトグラファー 西山和明

はじめに

Sports Graphic Number(以下、Number)やVS.(バーサス)はスポーツ好きにとって、熱冷めやらぬ想いを馳せる空間であり、スポーツがより好きになる鍵であり、新たなスポーツを知る扉でもあると思います。

名勝負が繰り広げられたその瞬間や舞台裏の写真は、記憶として私たちの脳裏に焼きつき、熱狂を呼び起こしては心を動かしてきました。今回はそのようなスポーツ誌をグラフィックとして彩り、今も撮影の最前線で活躍されているスポーツフォトグラファーの西山和明さんにプロの撮影現場を密着させていただき、スポーツ写真への想いを語っていただきました。

スポーツ写真への想い

― まずはフォトグラファーとしてのスタートを教えてください

家に暗室がある環境で育ち、小学生の頃からカメラに興味を持っていました。大学卒業後に勤務した広告制作会社で職業としての写真を学び、フリーとなってからは主に物撮りを仕事としていました。しかしながら、スタジオに篭っている日々が楽しくなかったので、他のジャンルも知りたいと思い、知り合いのつながりで新聞や雑誌に売り込みをしました。とはいえ、ポートフォリオは物撮りばかりでしたけどね。

まずスポーツ新聞の門を叩き、女子ゴルフと女子プロレスを撮影させてもらうことができました。それでは飽き足らずに積極的に撮影に出ました。週刊誌に掲載された有名アスリートのマラソンの写真が一定の評価をしてもらったことで雑誌社から定期的に仕事をもらえるようになりました。その頃は撮影の機会を得ることにかなり貪欲だったと思います。

ようやく私がスポーツフォトグラファーであるということが定着した頃に、Numberでのキャリアがはじまります。

ブラジルのリオデジャネイロでビーチバレーの第一回世界選手権が開催されることを知り、「自分がビーチバレーを撮りたい、この種目の撮影でトップランナーになるんだ」という強い想いを周囲の関係者に伝え、ブラジル行きの切符を手に入れ撮影に赴きました。

いざ行ってみるとF1の大会もブラジルで開催されており撮影の機会をもらったり、キングカズこと三浦知良選手がブラジルで修行している時期と重なってその時の出会いをきっかけに幾度も取材することになったりと、私にとって大きな転機となりました。

F1ブームやJリーグ設立、サッカー日本代表などの撮影やMLBやNBA の特集にも携わらせていただき、ありがたいことに数多くのアスリート・スポーツシーンを撮影させてもらいました。

― 見せてもらった写真1枚1枚が時代を物語っていますね。撮影では何を最も心がけていますか

例えば、Numberの表紙になったロサンゼルス・ドジャースの野茂英雄投手(以下野茂投手)の1枚。ドジャースタジアムが薄暮になった1回表、1球目の野茂投手の振りかぶった瞬間を押さえたかったのです。

そのために「何月なら1回表に薄暮になるか、薄暮と野茂投手のワインドアップを押さえるにはどこから撮影するか」を考えましたね。球団広報から8月の初旬頃と聞きつけ、撮影エリアの範囲内で工夫して当時他の人が入らない場所を見つけました。いざその日を迎えるとイメージ通りでした。撮影した瞬間、「やったぞ」と思いましたよ。

その写真が表紙のNumberが世に出てからは、その写真がドジャースタジアムの定番の写真になったのも嬉しかったですね。

その場所・その瞬間をより色濃いものにするために、空や建物などの背景を決めて被写体をどう際立たせるかを意識しています。「らしさ」、「っぽさ」が伝わるよう創意工夫しています。

イメージにイメージを重ねた良いシーン

― 西山さんのこだわりがよく伝わります。密着させてもらった撮影についてもぜひ教えてください

先日、全日本大学野球選手権の撮影をしました。この写真は東京ドームでの早稲田大学と東亜大学の2回戦です。アマチュアスポーツではありますが、プロ注目の選手が出場するので放映もありメディアも多い大会です。この撮影では撮影ポジションがある程度指定されているので、ポジションの工夫はあまりできません。

このような撮影の場合は、「良いシーンを逃さないゲーム」になります。つまり、シーンの読みが重要になる頭脳戦です。

プロであれアマチュアであれ、良いシーンがなければ良い写真を撮影することはできません。それはスポーツに限ったことではないと思います。ですから、対戦カードの前評判を調べたり選手の特長を把握したりすることで、どんな展開やプレーになって良いシーンが生まれるかを事前にイメージします。

1回表に東亜大学が1点先制し、その裏に早稲田大学が同点に追いつく。この試合はもしかしたら、接戦になるかもしれないという雰囲気になりました。3回裏に二死から4番の選手が二塁打で出塁すると、一気に集中力が研ぎ澄まされていきました。

アウトカウントやバッティングカウント、ランナーの動き、選手の守備位置などからあらゆるシーンが頭の中を駆け巡ります。その情報の中から起きそうな展開をイメージすることで、良いシーンを逃さないようにします。

また、ファインダー越しでは普段の生活とは異なり、限られた視野になりますから、右目ではファインダー越しに打者を捉えつつも、必ず左目で状況を追いかけます。特にランナーがいる場合は、3塁からホームに向かっていないかを左目で確認することが「攻撃側が得点するか、はたまた守備側が得点を防ぐか」の勝敗を分けるシーンを撮影できるかどうかに関わってきます。

そうやってイメージにイメージを重ねた私のシーンと実際のシーンが一致した時が一番嬉しいですし、これこそがプロのスポーツを撮影する醍醐味ですね。

アマチュアの選手でもプロの選手みたいな瞬間がある

― 西山さんの頭の中を覗いているようで思考の深さや速さが感じられました。密着させてもらったもう一つのアマチュアのスポーツ撮影についてもぜひ教えてください

埼玉県の中学軟式野球大会の撮影です。先ほど、プロであれアマチュアであれ、良いシーンがなければ良い写真を撮影することはできないと話しましたが、中学生レベルでは、正直なところ、なかなか良いシーンに巡り合うのは難しいです。そのため、「良いシーンを逃さないこと」はもちろんですが、クライアントが求めていることにフォーカスして撮影しています。

スポーツの撮影は大きく分けると2つあります。

1つは、ニュースとしての撮影です。この場合、注目している選手以外にボールを追いかけること、予測することが第一になります。球技ではボールの行方が結果を左右するので、「結果がわかるようなシーンを逃さないように」と心がけます。また、投手が活躍している場合はバックネット裏から打者越しに投手にフォーカスした写真を撮影するなど、対戦カードと勝敗が想起されるような写真も心がけます。

もう1つは、絵づくりを意識した撮影です。この場合、背景や情景を決めて、その中で選手が動くシーンを撮影します。例えるならば、黒澤明監督の映画のイメージでしょうか。スタジアムや背景の街、シンボルになりそうな奥の景観、スタジアム内でも照明や看板などを考えて「この絵の中で撮影する」ということを決めてから撮影します。雑誌等でページをつくったり、作品を発表したりする手法ですね。

埼玉県の中学軟式野球大会ではポジションは比較的制限なく撮影できましたので、この絵づくりを意識していました。

防球フェンスがあってもフェンスの網の隙間から。

写真にフェンスが映り込むことを恐れて脚立などを用いてフェンスの上から撮影すると選手の顔が見えません。このような撮影では、「プロの機材」・「プロ野球のようなアングル」が求められますからね。

それでも、中学生はもとより高校生でも土のグラウンドは難しいですから守備でのエラーはありますし、軟式野球であればいくらバットが進化したとはいえ硬式のようなきれいな打球が放たれることは少ないです。

良いプレーにはなかなか巡り会えない。

それでも「この投手、速い球を投げるな」「この選手、打ちそうな雰囲気だな」という直感から描いた私のシナリオと同じシーンが生まれることもあるんですよね。

そう、アマチュアの選手でもプロの選手みたいな瞬間があるんですよ。

その瞬間を撮り逃さないことがプロのスポーツフォトグラファーには求められます。

― 最後に今後のスポーツ撮影への想いを教えてください

私は、かつてメディアの撮影を多く担当してきました。撮影していると編集長の存在が頭によぎります。「編集長はこういうカットを望んでいるんだろうな」と。こういったメディアとしての撮影は、その経験から変わらず求められている最適解を提供していきたいです。

一方で、全日本大学野球選手権や埼玉県の中学軟式野球大会の撮影はフォトクリエイトからの依頼です。フォトクリエイトはいわゆる販売写真サービスをおこなっていて、私が撮影した写真は被写体であるアマチュアの選手に商品として届きます。 

このようなアマチュアの選手にダイレクトに写真を見てもらう場合は、「編集長ではなく被写体の選手に喜んでいただけるか」ということに主眼を置きます。

私の今までの経験を活かしてアマチュアの選手にも「プロの選手みたいな瞬間」を届けられたらという想いで撮影していきたいです。

 

フォトクリエイトのスポーツ写真サービス

オールスポーツ
80種目を超える様々なアマチュアスポーツにおける競技中の瞬間を第一線で活躍しているプロカメラマンが撮影し、参加者が閲覧・購入できるサービスです。すべてのアマチュアアスリートの皆さまへ、その瞬間にしかない臨場感や感動を写真という目に見えるカタチにしてお届けすることを目的としたインターネットスポーツメディアです。
https://allsports.jp/

グラフィックブック
さまざまなジャンルのイベントやシーンをプロのカメラマンが撮影し、専属デザイナーにて1冊のブックを制作するサービスです。チーム・団体競技での制作をメインとし、チームごとにオリジナルの1冊をお届けしています。一瞬の思い出だけではなく、一つのストーリーにして紡いでいます。
https://gb.photocreate.co.jp/

 

西山和明氏プロフィール

スポーツフォトグラファー。長野県生まれ。広告制作会社を経て、1984年からフリーのフォトグラファーに。1986年からスポーツをメインに撮影し、1992年よりスポーツ誌『Sports Graphic Number』(文藝春秋発行)の専属フォトグラファーとなる。2004年、スポーツ誌『VS.』(光文社発行)創刊と同時に、同誌のチーフカメラマン及びフォト・ディレクターに就任。『VS.』創刊号から2年間表紙の撮影を担当した。現在はフリーとしてスポーツ撮影をメインにさまざまな活動をしている。

 

 

 

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