大雪山の自然だからこそ、今までにない「新しい写真」が撮れる。
――この冬も大雪山に行かれるのですか?


 はい、行きます。やはり今まで体験したことのない考えられないような気象条件に遭遇したり、平地ではありえない現象や、風景の表情に数多く出合えると思います。この先も大雪山を撮影することを非常に楽しみにしています。まだまだ世の中に発表されていない、新しい写真が撮れると思います。

――先生の考えられている、新しい写真とはどのようなものですか?

 新しい視点で、その風景の本当に美しい瞬間をとらえることを前提とし、自分しか撮影できないものであって、且つ、自分でも二度と撮れない写真のことです。つまり、いつまでも新しいということです。
 しかもそれは、一般の人から見られた時にどのように評価されるか、という観点で撮られることが重要です。人に迎合するわけではありません。ただしあまり進み過ぎて、3歩も4歩も先へ進んで撮ったものを見てもらっても、かえってわからないと思います。
 ですから3歩、4歩と進んだら、そこでいったん立ち止まり、1歩半位下がって、見る人にも1歩半歩み寄ってもらう。そのようなスタンスで私は写真を撮っています。


【早春の流れ】
■カメラ:ハッセルブラッド503CW レンズ:CFi40mm F4 絞り:f22  
シャッタースピード:1/8秒 フィルム:RVP100 撮影地:長野県・横谷峡(3月)

写真展や写真集の制作を通して、地元・大雪山に恩返しをしていく。

――写真集の出版や個展の予定などはありますか?

【ミズナラの森】
■カメラ:ハッセルブラッド503CW レンズ:テレスーパーマクロマート CFE350mm F5.6 絞り:f22 シャッタースピード:1/8秒 フィルム:RVP100 撮影地:群馬県赤城山(2月)
 はっきりと決まってはいませんが、今取り組んでいる大雪山になると思います。大雪山を選んだのには、実はもうひとつの理由があるんです。
 今までは日本列島各地でとらえた美しい一瞬を作品にして、写真展を開催したり、写真集を出版することで終わっていましたが、やはりナチュラリストとして自然風景を撮り続けるのであれば、それだけではダメだと思います。
 日本で初めて国立公園が誕生した昭和9年に、大雪山も国立公園として指定されました。その広さは神奈川県の面積に匹敵する、日本一広い国立公園です。しかし多くの人が訪れたために、登山道は荒れ、高山植物は踏まれ続け、山自体もかなり荒れてきています。
 そこで、次回の写真展や写真集の制作では、自然風景のきれいなところだけを撮って、それを見てもらって終わりにするのではなく、メディアを通じて、山がいかに荒れてきているか、またトイレの問題も啓蒙していくべきだと考えています。
 ですから、どのような形になるかわかりませんが、写真集の売上などを版元と協力して大雪山の保護にあてていきたい。大雪山をよくするためのきっかけになるものをつくり、その流れを日本の国立・国定公園全体に広めていきたいと考えています。こういう目標を持って、取材を続けております。
 また、東京都写真美術館の企画で、「日本の若手写真家三人」のうちの一人に選んでいただき、2007年1月に写真展を開催します。ここでは大雪山で撮影した写真も含め、今までのネイチャーフォトの流れとはちょっと違った林明輝コレクションをみなさんにお見せできると思うので、ぜひ楽しみにしていてください。
 
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