カメラのキタムラ
Vol.48 2004 SPRING
特集 写真家 丹地敏明氏  
常に自分が撮りたい写真のイメージを思い描くことで、
オリジナリティのある作品が生まれます。
ご本尊さまの脇に立つ小さな仏像。障子越しに入る光が金色をきれいに見せてくれた。
■カメラ:ペンタックス645NII レンズ:80-160mm 絞り:f5.6 +1/3補正 シャッタースピード:10秒 フィルム:RDPIII +1段増感
大きな石のタヌキの親子。バックの本堂の古さを見せるために夕陽を待って撮った。
■カメラ:ペンタックス645NII レンズ:45-85mm 絞り:f8 シャッタースピード:1/60秒 フィルム:RDPIII +1段増感 撮影地:香川県84番札所屋島寺


水をかけるお地蔵さん。つるつるの頭がぬれてまわりの風景を映しこんだところをねらった。
■カメラ:ペンタックス645NII レンズ:150-300mm 絞り:f5.6 +1/3補正 シャッタースピード:1/30秒 フィルム:RDPIII +1段増感
―――八十八ヶ所の中では、一般公開されていないものも撮影されたとお聞きしていますが、どのような気持ちで撮影に臨まれたのでしょうか?
 いきなり撮影を始めるのではなく、まず、ご住職の方にお経を唱えていただき、その後に仏像が安置されている扉を開けていただくのです。
 その間、緊張しながらご住職の後ろで待っているのですが、扉が開かれて仏さまを見た瞬間というのは、とてもおごそかな気持ちになります。これは、何回繰り返しても常に変わることはありません。
 ほかの撮影では、ここまで緊張しながら撮るということはなかなかありません。このような緊張感に包まれながらの撮影というのは心地よく、そして撮り終えた時の満足感を得られることにつながります。これは、自分の中でも貴重な体験になりました。

写真が持っている表現力を最大限に引き出すために、作品に合った展示方法をすることも重要なことです。
―――
二つの写真展では、それぞれ特徴のある展示方法をおこなわれていましたが、その狙いはどうようなことなのでしょうか?
 「Paradis Blue」では、フレームに「古材」といって、アメリカで昔の家や倉庫などを解体したときに出てきた木を使いました。
 この木は、風雪に長い時間さらされたことで、独特の質感が出ています。
 今回の「Paradis Blue」の作品は、写真自体が非常に光沢のある印画紙にプリントされています。これを普通にアルミフレームに入れたり、フレームなしで展示したのでは、作品が無機質なものになってしまうのです。
 そこで、素朴で風合いのある「古材」を使うことで、写真とうまくマッチした作品展示をすることができました。
 また、「巡る楽園・四国八十八ヶ所から高野山へ」の方では、私の故郷である徳島産の和紙に、ポジフィルムで撮影したものをスキャニングして、デジタルデータに変換し、インクジェットプリンターでプリントしました。
 これは、被写体が古くから人々の信仰の対象物であった仏像や場所などだったからです。そのまま光沢のある印画紙にプリントしたのでは、写真としての作品にはなりますが、仏像などが持っている、もっと精神的な魅力が表現できないので、和紙にプリントすることにしました。
 それにより、絵画的でもありながら、リアルな写真になり、非常にいい作品に仕上げることができました。

―――
四国八十八ヶ所を選ばれたのは、先生が徳島で生まれ育ったことと関係があるのでしょうか?
 それは、私自身が昔から見聞きして知っていたものなので、私自身の楽園ということではないんです。
 以前、仏教やヒンズー教などの聖地とされているチベットのカイラス山に行ったときに、多くの巡礼者が幸せそうにニコニコしている様子を見て、そういえば自分が生まれ育った徳島にも、これに似たことがあるのを思い出し、気がついて撮るようになったのです。
暗いお堂の隅で五百羅漢さんが笑っていた。やっぱり自然光はきれいに写る。
■カメラ:ペンタックス645NII レンズ:80‐160mm 絞り:f13 -2/3補正 シャッタースピード:2秒 フィルム:RDPII +1段増感 撮影地:香川県75番札所善通寺
デジタルカメラは楽しみながら撮る。それに対して銀塩は構えて撮る。そして心地よい緊張感に包まれる。
―――
先生はデジタルカメラと銀塩カメラの使い分けをされているのでしょうか?
 昨年、出版した伊勢神宮の写真集の中で、たいまつの炎だけでおこなわれる夜のお祭りがあったのですが、すべてデジタルカメラで撮影しました。仕上りも満足いくものでした。
 やはり、その場で色補正をおこなったり、状況に合わせて撮影感度を上げるなど、デジタルカメラは確認作業をしながら撮影できるところが優れています。
 しかし、クオリティも求め、緊張感を大事にして撮るようなときは、銀塩カメラの中判や大判サイズを使います。やはりこうした場合は銀塩の持っている力を切り捨てるわけにはいかないのです。
 現在も、中国の世界遺産を撮影していますが、メインカットは645で撮って、ホテルや食べ物など楽しみながらの撮影では、手軽できれいに撮れるコンパクトタイプのデジタルカメラを使用しています。
 だから、最近ではコンパクト一眼レフカメラに、フィルムを入れて撮ることがほとんどなくなりました(笑)。

―――
四国八十八ヶ所を選ばれたのは、先生が徳島で生まれ育ったことと関係があるのでしょうか?
 それは、私自身が昔から見聞きして知っていたものなので、私自身の楽園ということではないんです。
 以前、仏教やヒンズー教などの聖地とされているチベットのカイラス山に行ったときに、多くの巡礼者が幸せそうにニコニコしている様子を見て、そういえば自分が生まれ育った徳島にも、これに似たことがあるのを思い出し、気がついて撮るようになったのです。
石に刻まれた像や文字を写すためにこの光が必要だった。
■カメラ:ペンタックス645NII レンズ:AF35mm 絞り:f8 シャッタースピード:1/30秒 フィルム:RDPIII +1段増感
―――自然風景写真を撮る人が増えている中、マナー違反などのトラブルを耳にすることがありますが、このことについて先生のご意見は?
 アマチュア写真愛好家が増えていることは、とてもいいことだと思います。しかし、マナーというものが欠落している人が多すぎます。特に自然風景写真を撮るのであれば、自分が自然の中にいることを忘れないで欲しいものです。
 先日も、ある自然公園の監視員の方が、「最近、写真家の方が多く来ていますが、自然を保護するための木道から降りて、平気な顔で三脚を立ててる人がいるんです」と嘆かれていました。
 私も近くの公園で撮影することがありますが、そこでも立ち入り禁止区域内で写真を撮っている人がいるので、よく注意をしたりしました。
 でも、注意するとこちらも気分が悪くなります。そうすると、不思議なものでその時の気持ちが写真に表れてしまうんです。だから、最近はその公園には行かなくなってしまいました。

春爛漫といった感じにつつまれた境内。ワイドレンズで微妙にアングルを変えながら楽しく撮った。
■カメラ:ペンタックス645NII レンズ:45-85mm 絞り:f11 シャッタースピード:1/125秒 フィルム:RDPIII +1段増感 撮影地:徳島県23番札所薬王寺
日が暮れる前の淡い光の中で撮影。黒い幹のバランスに気をつかった。
■カメラ:ペンタックス645NII レンズ:150-300mm 絞り:f5.6 -1/3補正 シャッタースピード:1/45秒 フィルム:RDPIII +1段増感 撮影地:山形県南陽市烏帽子山公園
―――先生の今後の活動予定を伺いたいのですが?
 ヴェルサイユ宮殿の写真集の企画が進んでいます。これは「太陽王の楽園」というテーマで、"太陽王“と呼ばれたルイ14世がこの世に創ろうとした楽園を写真集にしていこうと思っています。
 このためにヴェルサイユ宮殿は、細部にわたり撮影しましたので、現在は写真集に使うカットを含め、構成を考えています。
 その他には、毎年恒例になっていますが、日本各地の桜を撮りに行きます。実はこの桜の撮影では、カメラのキタムラ主催の「全国春の花フォトコンテスト」で入賞された方の撮影地データや、本誌でも紹介されている「春の花」撮影ポイントも参考にしています。
 全国的にも有名なポイントは、私も知っているのですが、地元の人しか知らないようなとっておきの情報を知るのに、とても役立っています。
手前に花をぼかして入れた。バックも緑で少し明るい感じ。しだれ桜を望遠レンズで平面的に撮ると、着物の柄のようで優雅な感じななる。
■カメラ:ペンタックス645NII レンズ:150-300mm 絞り:f5.6 +1 1/3 補正 シャッタースピード:1/20秒 フィルム:RDPIII +1段増感 撮影地:山形県南陽市烏帽子山公園
アップを撮る時はシズル感(ぬれた感じ)が大切。小雨の中で風が止まった一瞬を待って撮った一枚。
■カメラ:ペンタックス645NII レンズ:AF120mmマクロ 絞り:f4 +1補正 シャッタースピード:1/20秒 フィルム:RDPIII +1段増感 撮影地:福島県会津高田町雀林法用寺
 

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