フォトライフ四季

協力:カメラのキタムラ

カメラノキタムラ
Studio Mario

冬 Vol.79 WINTER|つもる思い出 残す冬 ぬくもり伝わる冬を撮る

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   思い出をつくる道具たち Vol.3 増田勝正

思い出を作る道具たち

写真家の道具論お役立ちプロの金言撮影機材&持ち物リスト取材こぼれ話おうち編

写真家の道具論 すべてはペットたちに、気持ちよく演じてもらうために Vol.3 増田勝正

今回はペット写真家の増田勝正さん。ペットの表情をとらえるヒントを聞きました。
プロ写真家愛用の機材や、撮影に便利なアイテムを見せてもらい、撮影のコツもうかがいました。

ペットを飽きさせないため、撮影は早く終わらせる

「あ~ダメダメ。モデルさんが動いちゃうよ~!」

芝生がしきつめられたお庭に響く、増田さんの声。そのたびに撮影アシスタントをしている奥様が、子犬を抱き上げ、言い聞かせるようになだめています。そんな苦労をおもしろがるかのように、ちょこちょこと動き回る子犬たち。最後はしかたなく、芝生の上に座った奥様の足に寄りかからせて撮影しました。背景をぼかしてフレーミングを工夫したことで、デニム生地のジーンズが写真にうまく調和した作品になりました。さすが30年のベテランコンビです。

「とにかく撮影は、早く終わらせることを心がけています。撮影が長引くと、ペットたちも飽きてしまって、目の輝きが失われますからね」

カメラの前でペットたちに自然に振る舞ってもらうためには、大きな音を立てない配慮も大切。撮影者があわただしく動き回ると、ペットも落ち着かなくなってしまうそうです。なるほど、増田さんの撮影機材が必要最低限にまとめられているのは、ペットたちにプレッシャーを与えず、気持ちよく演じてもらいたいという気づかいがあるからなんですね。

カメラの位置をペットの目線の高さに合わせる

使用するレンズは、基本的には単焦点。動いている被写体を追うときは、ズームレンズを使ったほうが楽ですが、増田さんの場合は表情をアップでとらえることが多いため、最短撮影距離が短く、より被写体に近づいて撮影することができるマイクロレンズをメインに用いています。ただし、常用レンズはあえて持たないといいます。その理由は…。

「同じ焦点距離を使っていると、似たような写真ばかりになってしまうからです。必要に応じて、105ミリ、200ミリ、300ミリ、ときには20ミリの超広角レンズなどを使い分けています」

 撮影でつねに心がけていることは、カメラアングルをペットの目線の高さまで下げること。カメラの位置を下げると、動物たちのいきいきとした表情をとらえることができるからです。増田さんいわく、「本当は穴を掘って、そのなかに入って撮影したい」そうですが、実際はそうはいかず、ほとんどの場合、地面に腹ばいになって撮影しているそうです。三脚も、地上すれすれの高さにカメラを固定できるように特別仕様のものを使用しています。

撮影アシスタントの協力が不可欠

ペットの撮影は、アシスタントの協力が不可欠です。なぜなら、つねにモデルのそばにいて、位置や動きを調整する必要があるからです。

「300ミリのレンズを使っていれば、撮影距離はだいたい4メートル。モデルが動いてしまうたびに、カメラマンが立ち上がって戻っていては、時間がかかりすぎてしまいます。それにウチのペットの場合は、飼主である私にくっついてきてしまうから、いつまでたってもシャッターを押せません(笑)」

増田さんが世界一優秀なアシスタントだと断言する奥様は、ペットのすべてを知り尽くしたスペシャリスト。動物たちをなだめたり、あやしたり、はげましたりして、テキパキと撮影環境をととのえていきます。その存在感は裏方というよりも、まるで撮影監督。読者の皆さんも、息の合った家族の力を借りてペット撮影にのぞんでみてはいかがでしょうか。

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  • ペット用おもちゃ
  • ペットの関心を引くのに役立ちます。おもちゃのなかに、好物のエサをしのばせておいて、遊んでいる様子を撮ることも。音が鳴るおもちゃの場合は、音がどれも似ているため、慣れてしまうこともあります。そんなとき、増田さんは裏声を出したり、舌をならしたりして、注意を引きつけるそうです。
  • 撮影小道具
  • 小道具を使うことで、色彩が加わり、イメージが豊かになります。でも、使いすぎると、写真が作為的になるので注意が必要です。あくまで主役を引き立てる脇役と考えましょう。ちなみに、小道具は奥様が、輸入雑貨店やホームセンターに出かけては、使えそうなものを買ってくるそうです。
  • 撮影アシスタント
  • ペットの撮影は、動物たちからはなれると、勝手に動き回ってしまうため、カメラマンひとりではとても困難。そこで頼りになるのが、いつもモデルのそばにいてくれるアシスタント。ペットの心理や健康状態を知り尽くし、増田さんとツーカーの仲で行動できる奥様の協力なくして、傑作は生まれません。
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プロの金言「逆光の中でペットの毛並みを輝かせる」

「ペットの毛並みと、その輪郭を美しく輝かせるために、私は逆光を選んで撮影します。順光で撮ると、光がまんべんなく当たるため、芝生のグリーンなどが立体的に写らずのっぺりと平坦な印象の写真になってしまうのです。しかし、逆光での撮影も難しく、レンズに直接、光が当たることでフレアやゴーストといった現象が起こりやすくなります。私は、市販のレンズフードの上に、自分でつくった黒いゴム製のフードをとりつけ、よけいな光の侵入を防ぐようにしています」

ありがちなNG

子猫の毛並みがきれいに輝き、芝生も立体的に写っています。

ありがちなNG

こちらは奥様の足の上でのショット。毛並みの輪郭が輝き、柔らかな質感が伝わります。

撮影機材&持ち物リスト

【カメラボディ】
ニコンD3s

【交換レンズ】
ニコン Ai AF ニッコール 20mm f/2.8D
ニコン AF-I ニッコール 300mm 1:2.8D(増田さん特製のレンズフード着用)
ニコン AF-S VR マイクロニッコール 105mm f/2.8G IF-ED
ニコン Ai AFマイクロニッコール 200mm f/4D IF-ED
ニコン AF ニッコール 24-85mm F2.8-4D (IF)
ニコンAF-S VR ズームニッコール ED 70-200mm F2.8G(IF)

【その他】
スピードライトSB-800、パワーアシストパックSD-8A、三脚(ローアングルでの撮影を可能にするため、ジッツオの三脚に、ハスキーの雲台を取り付けて使用)、CFカード(8GB×2枚)、予備電池、レンズクロス、ブロアーなど。
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Web 限定!取材こぼれ話

都心から車で約1時間。500坪の土地に建てられた、庭付きのご自宅は、撮影スタジオ兼、撮影モデルの合宿所。現在そこで生活しているのは、増田さんご夫婦の他に、15匹のワンちゃんと、15匹の猫ちゃんたち。都会の喧騒から離れて心静かに落ち着いて仕事ができる環境だったのに、いつのまにか部屋中ペットたちに占拠され、もはや人間には横になれるくらいのスペースしか残されていないのだとか。「ペットたちのために働いているようなものです」とは、ひさしを貸して母屋を取られた増田さんご夫婦が、思わず漏らした言葉です。

撮影アシスタントの奥様と息の合ったヒトコマ

取材を終えて、一同は増田さんおすすめのイタリアンレストランへ。取材時にも活躍した奥様との夫婦の会話は、他の者が入る隙を与えないほど呼吸が合っていて、編集部はユーモアあふれるおふたりのお話に笑いが絶えませんでした。「東京暮らしに疲れたら、いつでも遊びに来て。ここはいいところよ」と奥様はにっこり。動物と緑に囲まれ、のんびりと流れる時間に、取材とはいえ心いやされた編集部でした。

普段は、ちば愛犬動物学園で講師をし、生徒へ動物写真の撮り方について指導している増田さん。生徒に、フォトコンテストにも積極的に応募するように呼びかけているそう。「365日フォトコンテスト」で、増田さんの指導した写真がグランプリを取る日も遠くないのかもしれませんね。

増田勝正(ますだ・かつまさ)

1945年、東京都生まれ。愛犬雑誌のカメラマンを経てフリーに。犬、猫、その他ペットの写真を30年以上撮り続けている。アイメイト(盲導犬)協会のボランティア活動にも参加。みずからも犬や猫の繁殖、育成にかかわっている。現在、バーニーズ・マウンテン・ドッグ、スピッツ、ジャック・ラッセル・テリア、マルチーズなどの犬、アメリカン・ショートヘアー、エキゾチック、スコティッシュ・フォールドなどの猫、ウサギといっしょに生活中。

芳賀 日向(はが・ひなた)
写真家の道具論あれこれプロの金言撮影機材&持ち物リスト取材こぼれ話おうち編
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