日本の風景の中に、女性的な美しさを見い出す。


●先生が特にお好きな風景モチーフを教えてください。

 基本的には何だって撮るのが私のやり方ですが、特にと言われれば「森」と「水」を挙げたいですね。「森」や「水」には女性的な優しいイメージを感じるんです。私の場合、そこに理想の女性像を重ね合わせているのかも知れません。やはり、その風景に恋をしているような気持ちになれて、ウキウキするじゃないですか(笑)。
凄まじい地吹雪の日だった。千載一遇のチャンスだ。写真は、その時を記録するかどうかで大違いである。とにかくシャッターを押すこと、これが一番大切なことだ。

■カメラ:ペンタックスZ1-P レンズ:SMC ペンタックスFA★ズーム80〜200mm 2.8ED[IF] 絞り:f11 AE マイナス0.7EV補正 フィルム: RDPII CPLフィルター・三脚使用
撮影地:青森県東通村・尻屋崎

 だからあまり人の来ない渓谷などは最高ですね。先客のカメラマンがいたりすると、風景という女性に恋する私としては、邪魔された思いがして気分をそがれますから(笑)。中でも茨城県の花園渓谷などはよく行く撮影地です。人が来ない割には道路のすぐ脇を流れているのでアクセスしやすいんですよ。楽に写真が撮れるならそれに越したことはないというのが私の考えですが、時には道なき道を分け入って、やっと現場にたどりつくことだってあります。でも、それだって自分では苦労だと思っていませんから。そりゃあ、肉体的には苦しいですけど、登山と同じで、未知の風景に出逢える喜びに比べたら、まったく苦になりませんよ。
珍しく東京に雪が降った。朝一番に新宿御苑へ入園すると、人気のない御苑の片隅で、ドラマチックな場面に遭遇した。池に溜った落ち葉がゆっくりと移動していた。

■カメラ:ペンタックス645 レンズ:SMC ペンタックスA645 ズーム45〜85mm F4.5 絞り:f32 AE フィルム: RVP CPLフィルター・三脚使用
撮影地:東京都新宿区・新宿御苑

 冬の風景では雪や氷も女性的で美しいモチーフですね。雪はあらゆるものをきれいに見せてくれるんです。写ってほしくないものは真っ白に覆ってくれるし、積もればその柔らかな曲線が、造形的な美しさを醸し出してくれるんですよ。そして雪は冬の冷たさや厳しさを表現するだけでなく、状況のとらえ方によっては、温かみや希望を感じさせることだってできるんですよ。雪がいっぱい積もっていても、その中から草の芽がたくましく顔を出していたら、そこに希望があふれている。同じ雪にも様々な要素が含まれており、いろいろな感情を表現することができるんです。
寒々とした雲が湖を這うように流れていた。夕暮れ前のヒュルヒュルという風を体で感じながら湖岸に立ち、あれこれ撮影した中の一枚である。

■カメラ:ペンタックス645 レンズ:SMC ペンタックスA645 35mm F3.5 絞り:f22 AE フィルム:RVP CPLフィルター・三脚使用
撮影地:秋田県田沢湖町・田沢湖

 そして氷の場合は、やはりその女性的な曲線の造形に魅力を感じるし、偏光フィルターでその光彩を鮮やかな色彩として表現すれば、そこにひとつの宇宙空間のようなものを創りあげることができて面白いんですよ。ただし、単にその造形的な部分を記録しているわけではなく、その形に自分が何を感じたのかという感情を表現しているんです。
氷は、独特の色彩を持っている。特に透過光で見ると色彩が豊かになる。トップライトの逆光線で見た陰陽の差が、色彩と立体感を盛り上げてくれた。

■カメラ:ペンタックス645 レンズ:SMC ペンタックスA ★645 300mm F4 ED[IF] 絞り:f32 AE プラス0.3EV補正 フィルム: RDPII CPLフィルター・三脚使用
撮影地:山梨県足和田村・野鳥の森公園

 また、冬の風景で私が心打たれたもののひとつに、下北半島の寒立馬があるんですが、生き物がそこに存在することによって、冬の厳しさというものが余計に際立ってくるんです。厳しい環境の中で生きている姿。「長い冬の間、ここにずっと佇んでいるのか」と思うといとおしくなるし、これがこの地に生きるものの真の姿かという感動を覚えますね。
足下にだって写真の素材は転がっている。ツツジの枯れ木に氷の華が咲いていた。その華を活かす工夫がフレーミングだ。撮影の過程の中で一番楽しいのが、この作業である。

■カメラ:ペンタックス645 レンズ:SMC ペンタックスA ★645 300mm F4 ED[IF] 絞り:f8 AE フィルム: RDPII CPLフィルター・三脚使用
撮影地:山梨県足和田村・野鳥の森公園


当サイトに掲載されている写真・テキスト等を無断で複製・転載することを禁じます。