未知の被写体と出会える期待が、撮影の苦労を喜びに変える。

旅の中での撮影活動には、常に新しい発見がある。


●まず、丹地先生が写真家となられたきっかけをお聞かせください。

 私は中学生の頃から写真を撮っているんですが、撮り始めの頃に通っていた写真屋さんがよく私の作品をほめてくれたんです。これは撮る側にとっては非常にうれしいことですよね。こうしたことから私は写真の道に進んだわけですから、人に作品を評価してもらうというのはとても大切なことだと思います。
 社会人となった私は最初、出版社の写真部に勤めておりまして、教育書関係の資料写真などを撮っていたんです。よく日本全国を回って寺社だとか歴史的なものを取材していたのですが、それがきっかけで、フリーランスになった後もその出版社から『日本の旅』という本の撮影を任されることになったんです。その本では旅をする中で、風景から民俗行事・料理・民家など、様々なものを撮りました。そのうちに、他の出版社からも各地域を取材する旅行ものの撮影依頼が来たりして、「旅をしながら目についたものは何でも撮る」という私の撮影スタイルができ上がったように思います。
下の作品の撮影を終えてから、ひと回りして戻ってみると、行灯に明かりが灯っていた。車のライトを赤いスコップに当て、雰囲気を盛り上げて撮った。

■カメラ:ペンタックス645 レンズ:SMC ペンタックスA 645 ズーム45〜85mm F4.5 絞り:f16 AE フィルム: RDPII CPLフィルター・三脚使用
撮影地:福島県下郷町・旧大内宿

3 枚のうち、最初に撮影したのがこの写真だ。赤と緑との色彩の対比が面白く、その色彩をきちんと見せるために、曇天の空の画面配分を考えて露出をオーバー目に設定した。

■カメラ:ペンタックスZ1-P レンズ:SMC ペンタックスFA★ズーム28〜70mm 2.8AL 絞り:f11AE プラス0.7EV 補正 フィルム:RDPII CPLフィルター:三脚使用
撮影地:福島県下郷町・旧大内宿

●先生にとって、旅の魅力とは何かをお聞きしたいのですが。

 私にとって最も魅力的な写真モチーフというのは、「行ったことのない所」や「見たことのないもの」、つまり未知のものなんですよ。旅というのは、自分にいろいろな未知のものを教えてくれる。新たな発見ができることが旅の良さですよ。食べ物だって、その土地ごとに違ったおいしさがあるのが楽しみですよね。でも私はガイド本に載っているお店などには絶対に行かず、自分の勘を頼りに店構えや雰囲気などを見て食事する所を決めるんです。確かに当たりはずれは大きいけれど、当たった時の喜びもまた大きい。写真だって、それと同じじゃないでしょうか。
 風景撮影でも、ある程度の予測のもとに出かけていくわけですけど、一枚も納得のいくものが撮れなくて帰ることだってあります。自分がイメージを固定しすぎるとかえってダメなんです。だから私の場合は現場主義。細かいことはあまり決めずに未知のものとの出会いを期待して、現場で臨機応変に考えた方がいい写真が撮れるんですよ。
上の写真を撮影しているうちに、薄暮状態になった。薄暮の空を入れて、暮れゆく宿場の雰囲気が出るように、水神様らしき石塔を入れてみた。

■カメラ:ペンタックス645 レンズ:SMC ペンタックスA645 ズーム45〜85mm F4.5 絞り:f16 AE フィルム: RDPII CPLフィルター・三脚使用
撮影地:福島県下郷町・旧大内宿


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