熊野古道には日本の“原風景”が数多く残っています。
――昨年「熊野古道」の写真集を出版されました。また、2月17日まで熊野古道センターで写真展が開催されました。『熊野古道』をテーマにされた理由についてお聞かせください。


 熊野古道は本当に魅力ある被写体です。この道は三重県・和歌山県・奈良県にまたがっています。歩いてみると、人々がいかに熊野の神様を大切にしているかがわかります。信仰の原型のようなものが読み取れました。写真集出版まで2年間撮影を続けました。私にとっては短い撮影期間でしたが、その2年間にかなり凝縮して撮影を行いました。
 特に魅力を感じたのは、農家や山、林などの姿です。熊野は日本の“原風景”が残る場所だと思います。また、漁業や農業や信仰の中に、百年前のことがいまだに残っています。そのようなことも、気に入った理由のひとつでした。
 これまであまり注目されてこなかったので、昔から伝わってきたことがそのままの形で残ってきたのではないでしょうか。たとえ今後ブームになったとしても、あの山道を旅行者が歩くのは大変なことです。そのような大変さがあるところが熊野の魅力でもあると思います。


【風合】やさしく綺麗に咲いている桜に出会った。桜は離れた位置から全体を撮るのも良いが、このように花を大きく見せるように撮るのもおもしろい。近寄って花びらを観察してみると、やはりそれぞれの花びらに個性がある。
■カメラ:ペンタックス645NU レンズ:150-300mm F5.6 絞り:f5.6 AE -1/3EV 三脚使用 PLフィルター使用 RVP 50 撮影地:宮城県塩釜市

 
 

【山桜満開】山を登った所に、巨木で堂々とした山桜が姿を現してくれた。周辺には、沢山の人工物があった。人工物をいかに目立たせないで撮影するか、そして年輪の厚みを表現できるかが、これからも課題である。
■カメラ:ペンタックス645NU レンズ:150-300mm F5.6 絞り:f22 シャッタースピード:1/15秒 三脚使用 PLフィルター使用 RVP 50 撮影地:福島県二本松市

 

フィルムもデジタルも撮り方は同じです。
被写体を区別することもありません。
――昨年デジタルカメラのみで撮影された写真集「digiscape 日本列島」を出版されました。日本の自然を表現する新しい手法だと思いますが、自然風景を撮るのに、フィルムとデジタルでの撮り方の違いはありますか?

【散華】桜の樹の脇に、スイレンの植わっている池があった。この池に花びらが散る。散った花びらは水面に落ち、何故か風景を寂しいものにさせた。それは、春の終わりを告げているからなのであろう。
■カメラ:ペンタックス67U レンズ:55-100mm F4.5 絞り:f32 AE -1/3EV 三脚使用 PLフィルター使用 RVP 50 撮影地:山形県西川市 東泉寺


 フィルムもデジタルも撮り方は同じです。被写体にしても区別することはありません。フィルムだから、デジタルだからということはもうありません。今はそういうレベルまで来ています。
 しかし、私はもう少しフィルムに力を注いでいきたいと思っています。フィルムの底力を忘れている人が多くいますが、非常に惜しいことです。フィルムからデジタルに移った人を含め、写真に対して少しラフになっているようです。例えデジタルであっても被写体に対峙したら、そこは真剣勝負をしないといけません。
 さらに、フィルムの場合は35mmをはじめ6×4.5、6×7などの機種がありますが、撮影機種におけるこだわりは特になく、現場に着いたらそのときに出会った光景に、一番合ったもので勝負します。

写真は撮って終わりではなく、
プリントまでして「形」に残すことが大事です。
――デジタルカメラの出現により写真の楽しみ方が変ってきていますが、アマチュアの方々の撮影活動について、お感じになっていることをお聞かせください。


 写真を撮ることを日常に取り入れている民族は日本人だけです。それは素晴らしいことです。
 この『フォトライフ四季』を参考にして、撮影活動を行なうアマチュアの方も多いと思いますが、その中には単なる趣味というだけではなく、自分の人生の目的を見つけ活動する人がたくさんいます。それは大変貴重なことだと思います。

――最近は女性が写真を楽しんでいる姿をよく見かけますが、写真を撮る上で男女による違いはあるのでしょうか?

 確かに最近は写真を撮る女性が増えていることを強く感じます。写真の楽しみ方を自分の中で深く理解し、単なる趣味ではなく、目的を発見して撮影している方が増えてきているのだと思います。
 メカニカルなことはともかく、自分が撮るべき写真の目的をちゃんと把握している女性がたくさんいます。男性よりも女性のほうが、自分が撮りたいものが最初からハッキリしているように感じます

――写真の楽しみ方のひとつにフォトコンテストへの応募や、個展の開催などがあると思いますが、注意する点はどのようなことでしょうか?

 写真は撮って終わりではなく、プリントまでして「形」にして残すことが大事です。デジタルが盛んになってきて、デジタル専門の写真家も出始める時期に来ています。これからデジタルで写真をやろうとしている人は、写真の価値について特に勉強してもらいたいです。“写真は何故楽しいのか”ということを、もう少し自分の中で考えてみて欲しい。
 そして、写真を幅広く楽しむ方法を考えてもらいたい。その意味からもコンテストに応募することは意義があります。それは、作品を大きくプリントする必要があるからです。大きくプリントするには、それなりにクオリティのある写真でないと成立しません。
 また、個展を開催するのであれば、そこからさらに大きくプリントする必要があります。大きくプリントした自分の作品を眺めることは、上達する上でも、とても大事なことです。


【花簾】桜の花冠の中に入り、花の精を全身に享受しながら撮った作品。枝垂れ桜の花越しに青空を眺めるのは、なんとも言えない爽快な気持ちになる。広角レンズを使うことによって、枝垂れ桜の力強さを引き出した作品。
■カメラ:ペンタックス645NU レンズ:33-55mm F4.5 絞り:f16 シャッタースピード:1/20秒 三脚使用 PLフィルター使用 RVP 50 撮影地:長野県松本市


 

 

 

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