カメラのキタムラ
Vol.49 2004 SUMMER
特集 写真家 丹地敏明氏  
人間の手によって作り出された造形よりも、
自然の力で産み出された造形のすばらしさに魅かれます 。
インドの村を訪れたとき、村の母子が正装して現れたが、その装飾品の豪華さには驚かされてしまった。
■カメラ:ペンタックス645 レンズ:80-160mm 絞り:f8 シャッタースピード:オート フイルム:RDP 撮影地:インド ラジャスタン州のある村

ブッシュマンの部落を訪れたとき、夕方に村人が集まってきて焚き火を囲んで円陣を作り、ひとりでに踊りだした。
■カメラ:キヤノンEOS-RT レンズ:シグマ15mm 絞り:f4 シャッタースピード:オート フイルム:EVS 撮影地:ボツアナのブッシュマンの部落


美しく透き通った海岸線の一角、岩場の一角にクロサギが羽根を休めていた。
■カメラ:ペンタックス645II レンズ:6×7/300mm 絞り:f4 シャッタースピード:オート フイルム:SRS 撮影地:オーストラリアケアンズの海岸


牛車が埃を立てて進む様子がとてものどかな光景は時間とタイミングが良否を決定する。
■カメラ:ペンタックス645 レンズ:300mm 絞り:f4 シャッタースピード:オート フイルム:RDP 撮影地:インド ラジャスタン州のある村道で
―――それでは、海外での撮影というのはいつ頃からになるのでしょうか?
 田中先生の事務所を4年半で退職し、フリーになったときに、「一番最初に行くんだったらアフリカ」と思い、南アフリカと東アフリカへ行きました。東アフリカはケニヤやタンザニアあたりです。やはり動物との出会いが多いところですからね。
 それでフリーになった途端、いろんなところを飛び回るようになったんですよ。

―――
動物の撮影では、その「習性なり環境をよく理解してから」といわれますが。
 いや、前もって理解なんてできないですよ。もちろん知識を得ておくことはできますが、それまで本で読んで知っていた知識が、何回と通っていくうちに「ああ、これは本当だ」と理解に変わっていくものです。
 例えば若いアフリカ象などは、自分が強いということを示したいんでしょうが、耳を広げて鼻を鳴らしてちょっと威嚇してくることが何回かありましたね。
 アフリカでは基本的にドライバーを雇ってサファリカーで動かないといけないので、危険な目に遭うことはまずありません。それでも最初に行った頃は、アフリカ象の前では急に危険な状況になっても、すぐに逃げられるように、決してエンジンを切ることはなかったです。
 ただ最近では、サファリで野生動物を見に行くには、車という手段が当たり前になってきているので、象も車に慣れているようなんですね。車が自分たちに害を与えないことを、ちゃんと理解しています。だから近頃のドライバーは象の近くでも平気でエンジンを切るようになりました。

―――
先生の作品を拝見すると、動物写真からはじまって、大自然の風景写真への変遷のようなものを感じるのですが?
 自分で意識的に流れやテーマを持っているわけではないんです。
 野生の大型獣を見ていると、やはり広大でダイナミックな景色が似合いますよね。
 最初の頃は動物しか意識になくて、景色を撮影するということはほとんどなかったのですが、大型獣を追いかけていくうちに、彼らが住んでいる環境に注目するようになり、やがて大自然の造形の素晴らしさに目が向いていったということです。
 人間がイメージでつくり出すデザインと、自然がつくり出すデザインというのは全然違いますよね。
 今は動物がいなくても、あらゆるものが被写体に見えます。原野に出かけてみれば、見るべきものはたくさんあるわけです。
 例えば最近ではアメリカへ撮影に行くことが多くなりましたが、国立公園などで、巨木を探したり、水の流れのきれいなところなどいいモチーフを追いかけていくと、さらにそれに付随して様々な被写体が見えてくるようになるんです。

巨大な角を持ったムースの吐息が蒸気となって立ち上り、そこへ朝の光が差し込んで、幻想的な世界を演出してくれた。
■カメラ:ペンタックス645 レンズ:6X7/300mm 絞り:f5.6 シャッタースピード:オート フイルム:RDP 撮影地:アラスカ デナリ国立公園
それぞれ環境と生きている動物が違うから、どこの地でも僕にとっては楽しみがある。

―――
アフリカやアメリカなど活動範囲がとても広い先生ですが、各地の自然環境の違いなどに関しては、どうお感じになられていますか?
 例えばアメリカ大陸でも、ロッキー山脈などは夏がものすごく短いですし、アフリカならキリマンジャロの山頂以外は雪なんか降りません。赤道直下のインドも、これらの地域とは風土・気候が大きく違うわけですよね。
 最初にアフリカへ行って、その後アメリカ、オーストラリアなど様々な場所を巡っていますが、それぞれの環境とそこに生きている動物が違うから、どこの土地であっても僕にとっては楽しみがあるんです。
 もちろんそれぞれ特徴があって、魅力がありますが、やはり日本ほど四季がハッキリしている国はないと思います。
 ただ日本ではアメリカやアフリカなどと違って、雄大な自然風景を撮るのはなかなか難しいものです。
 例えば日本でも、春夏秋冬がハッキリしている八ヶ岳やその周辺にはよく撮影に行きますが、電線や電柱をさけて撮影するとなると、どうしても広い風景というのは撮りにくいですね。

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