カメラのキタムラ
Vol.47 2004 WINTER
 
銀塩画像をデジタル化することで、
銀塩が本来持っている力を余すことなく表現できる。
【穏やかな冬】荒れた海の方が、冬のイメージとして印象深く感じられる。しかし、穏やかな日の海もあるんだ、光も春に近い輝きをしていると実感しながら撮影した。
■カメラ:ペンタックス645N レンズ:FA645 300mm F4 絞り:f16(+1EV補正) フィルム:RVP C-PLフィルター 三脚使用 撮影地:青森県下北半島尻屋崎
【朝日森を抜ける】夜明け前人一人居ない林に入る気分の良さ。新鮮な空気の味、頭に凍みる温度などの体感が私の写真に生かされているような気がする。感じるままに素早く記録していく。
■カメラ:ペンタックス645NII レンズ:FA645 33〜55mmズーム F4.5 絞り:f16(+0.7EV補正) フィルム:RVP C-PLフィルター 三脚使用 撮影地:新潟県松之山町美人林

高性能なデジタルカメラが出る前から、デジタル表現には取り組んでいました。

―――先生は、以前から写真集に音楽のCD-ROMを付けたりと新しい表現手法に取り組まれてきました。また、ご自身の作品のデジタル化にも10年近く力を注がれていますが、その理由はどのようなことなのでしょうか?
 私は決して銀塩写真を見限った訳ではなく、銀塩写真の新たな可能性を探る意味で、新しい表現手法に取り組んできました。よく勘違いされるのですが、私はデジタルカメラで撮ったデジタル画像を加工するのではなく、銀塩カメラで撮った画像をデジタル加工しているのです。デジタル加工とは、暗室で覆い焼きや焼き込みをするのと同じことです。


【冬の音】氷が割れる。その音は写らない。写真の宿命であるが、題名から感じてもらえると思う。私は殆ど現場で題名をつけながら撮影する。その時の想いは写真に残っているものだ。
■カメラ:ペンタックス645N レンズ:FA645 300mm F4 絞り:f22(-0.3EV補正) フィルム:RVP C-PLフィルター 三脚使用 撮影地:茨城県北茨城市水沼ダム
―――何のために、そのような加工を施しているのですか?
 写真を大伸ばしすることが多いのですが、どうしても自分の思った通りの色が出なかったんです。特に暗部の階調がきれいに出ません。
 そこで、フィルムをスキャナーに取り込んで、そのデータをパソコンで調整することで、問題だった暗部もやわらかく、そしてきれいに出せるようになったのです。この加工をおこなうことで、銀塩フィルムが持っている本来の力を余すことなく表現できるようになりました。
 撮影した画像は本来、加工するものではないと考えていますので、画像全般を加工するのではなく、前述のように一部分に手を入れることでより良い画像にするのが目的です。
【静寂】前夜の小動物の動きを感じながら、画面の中にその足跡を斜に取り入れた。日の出がそれを立体的に見せてくれた。レンズのゴーストがでているのは分かっていての撮影。これは写真の宿命だ。
■カメラ:ペンタックス645NII レンズ:FA645 33〜55mmズーム F4.5 絞り:f16(+0.7EV補正) フィルム:RAP C-PLフィルター 三脚使用 撮影地:新潟県津南町
デジタルカメラは、レンズの性能にこだわって欲しい。

―――近年急速に普及してきたデジタルカメラについて、先生がお感じになっていることはどのようなことでしょうか?
 カメラという分野では銀塩カメラと同じ線上にあると思いますが、根本的には異なるもののような気がします。再現力だけで見れば、まだ銀塩の方に分があると思います。
 しかし、ここ数年でその性能はかなりのスピードで進歩しています。すでに私はデジタル加工については10年以上取り組んできたので、現在ではデジタルカメラも使用しています。
 デジタルカメラの優れた性能を引き出すために、レンズの果たす役割というのは非常に重要だと考えます。
 そこで、私はペンタックスのistDのボディーにアダプターを付けて、普段から使っている645、67用レンズを装着して撮影しています。これにより、レンズ性能のいい部分だけを使うことになるので、かなりシャープな表現が可能になります。
 デジタルカメラには、まだまだ様々な可能性が秘められていると思います。今は私なりにデジタルカメラでの新しい表現手法を探っているところです。
―――最後になりますが、カメラのキタムラに対して、希望されることがありましたらお聞かせください。
 私は中学生の頃に撮った写真を写真店の人に褒められたことがありました。このことは、私を写真の世界に進ませたきっかけの一つでした。当時の写真店というのは、モノクロの写真はフィルム現像からプリントまで、その店で行っていましたので、お店の人は写真を見る目を持っていたと思います。だから、お客さんに対しても的確なアドバイスができていました。やはり、写真のことをよく知っている人から褒められると、誰でも嬉しくなるものだと思います。カメラや機材を売ったり、プリントの取り次ぎをするだけでは、お客さんとの信頼関係は生まれないと思います。
 まず、お店の方も自分で写真を撮って楽しむ。そして、写真のことをより理解するようになれば、自然とお客さんとのコミュニケーションが取れるようになると思います。
―――お忙しいところを、ありがとうございました。
デジタルカメラで撮影
【初冬】日影の滝だった。車からは見えないので殆ど撮影されたことのない滝でもある。滝の水量も程良く曲線が綺麗な弧を描いて流れていた。弧の配分に注意して撮影した。
■カメラ:ペンタックス*ist-D レンズ:FA★80〜200mm F2.8 絞り:f22(-1.5EV補正) シャッタースピード:1秒 C-PLフィルター 三脚使用 撮影地:長野県栄村
デジタルカメラで撮影
【造形】野々海高原で初霜に出会った。一枚の笹の葉にだけ美しい霜が刺さっていた。蔦が絡んで何かを連想させてくれるような感じがした。一期一会を確実に記録することから作品は生まれる。
■カメラ:ペンタックス*ist-D レンズ:FAJズーム18mm F4〜35mm F5.6 絞り:f9.5(-0.5EV補正) シャッタースピード:1/60秒 手持ち撮影 撮影地:長野県栄村

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