カメラのキタムラ
Vol.46 2003 AUTUMN
特集 写真家 増田勝正氏  
写真とは「真実」を「写し」伝えていくこと。
そして、写真以外では表現できないものがあります 。
【冬木立】晩秋の山腹の様相である。多くの木々は既に葉を落として、きたるべき冬への準備をしている。やや出遅れた広葉樹が、まだ必死に秋の装いで存在を主張していた。
■カメラ:ブロニカGS-1 レンズ:ゼンザノン 250mm F5.6 絞り:f22 シャッタースピード:1/30 フィルム:RVP PLフィルター・三脚使用 撮影地:福島県館岩村

デジタルカメラで撮影
【秋の山腹】フィルムから、デジタルへと表現媒体は変わるのであろうか。いや、そうではなく、フィルム表現はこれからも存在し、別の映像表現としてデジタルが生まれた。と考えると、心が楽になる。
■カメラ:キヤノンEOS-1Ds レンズ:EF70-200mm F2.8L シャッタースピード:1/60 AE デジタル PLフィルター・ 三脚使用 撮影地:長野県乗鞍高原
―――海外の、しかもアイスランドで撮影した作品が、どのようにこのテーマと結びつくのでしょうか?
 アイスランドの魅力は"何もない“ところです。広さも北海道と九州を合わせたくらいしかない火山島で、人口も28万5000人しかいません。島には火山と溶岩台地と苔、そして氷河しかありません。そこにたたずむと、地球が誕生して海ができ、生命が誕生した時代を思わせます。さらに、『人間とは何か』、『生命とは何か』、そして『日本人とは何か』というようなことを探るには、この場所が原点のような気がしています。

―――その撮影でデジタルカメラを使う意図は、どのようなことなのでしょうか?
 
フィルム撮影による表現は、情緒的なものを引き出すのに優れていますが、アイスランドのようなところを撮影するのには、集められた情報を信号に置き換え、感情を排除して、情緒的なものに流されないデジタルカメラが合うと思います。最先端の技術の粋を集めてつくられたデジタルカメラが、最も原始的な地球の原風景を撮ることに、不思議とマッチすると思います。

【霜柱】かなり大きめ、かなり長い霜柱が朝の光を受けて輝いていた。それをマクロレンズで絞り込んで撮影したもの。
■カメラ:キヤノンEOS-1N レンズ:EF180mm F3.5 マクロ シャッタースピード:1/30 AE +2/3 補正 フィルム:RVP PLフィルター・ 三脚使用 撮影地:長野県乗鞍高原
人間は、生まれ育った地域によって
形成される自然観が異なる。


―――国内では、特にエリアを限定して撮影されることはあるのでしょうか?

 私の場合はエリアを限定することはないんです。何故かというと、私は日本列島全体を一つの撮影エリアとしてとらえているからです。
 ですから現在、私の頭の中にある撮影エリアというのは2ヵ所だけなんです。一つが日本列島で、もう一つは、アイスランドやヨーロッパです。以前は、少し"未来“が見たくてオーストラリアのタスマニアを撮りました。タスマニアには、私の思い描いていた未来の風景とよく似た景観があったからです。
 幸い私たち日本人は、日本列島という、世界で最も細やかな自然を持ち、四季の変化をはっきりと感じることができる、この地に暮らしています。そのような観点から、アイスランド、そしてヨーロッパを観ることができるのは、とてもよいことだと思っています。

【滝の音】小さく細い滝が、深い谷間に落ちていた。この滝を覆い隠すように、鮮やかな紅葉が輝いていた。ややアンダー気味の露出で、この谷間の空気感を引き出そうとした。
■カメラ:キヤノンEOS-1V レンズ:EF70-200mm F2.8L シャッタースピード:1/10 AE フィルム:RVP PLフィルター・ 三脚使用 撮影地:秋田県子安峡
滝と水の姿・風景は、写真家としてきちっと撮るべきテーマ。

―――これからテーマを決めて撮影されるものはありますか?

 3年ほど前から撮りつづけていた『滝』があるのですが、これについては以前に何人かの写真家との共同で、『日本の滝1000』という写真集を出版しました。
 私自身もかなりの数の滝を撮影しましたが、まだまだ撮りに行きたい滝がたくさんあります。現在、日本列島には落差5m以上の滝が環境庁の調査によると、約2500あるといわれています。実際には、それ以外に誰にも発見されていない滝もあると思います。自分が納得できる滝の写真をもっと撮って、写真集を出したいと思っています。
 滝はとても魅力的な被写体です。水のしぶき、流れ落ちる様子、透明感。これは写真以外では表現し それと、日本の滝は透明な水が流れ落ちています。海外で目にするような、濁った水ではなく、清流の水です。だから滝に打たれて身を清めようとする信仰も生まれるのだと思います。
 このように、日本の美しさの象徴の一つでもある滝は、風景写真家として挑むべきテーマだと考えます。

【朱に染まる】望遠の300mmで、枝の紅葉をクローズアップする。超望遠を使うと、高い枝の上の紅葉の様子もクローズアップする事ができて便利である。
■カメラ:キヤノンEOS-1V レンズ:EF300mm F2.8L シャッタースピード:1/60 AE +2/3 補正 フィルム:RVP PLフィルター・ 三脚使用 撮影地:長野県飯田市
【カラマツ燃える】カラマツの紅葉は比較的遅い時期。広葉樹の葉が落ちる頃に、ゆっくりと色合いを増してくる。
■カメラ:ペンタックス645 レンズ:SMCペンタックス645 80-160mm F4.5 絞り:f22 AE フィルム:RVP 三脚使用 撮影地:長野県奈川村
アマチュア写真家のすばらしいところは、自分の好きな写真を撮りつづけ、偽りのない自分の世界をつくれること。

―――竹内先生は、フォトコンテストの審査委員や撮影ツアーなどを通じてアマチュアの方と接する機会が多いと思われますが、アマチュア写真家の方々に対して、写真の楽しみ方や撮影時のアドバイスがありましたらお願いします。

 アマチュアの最大の強みは、誰に頼まれた訳でもなく、自分の好きなところ・得意な分野の写真を撮れるということです。最初の頃はテクニックも備わっていないので、自分の思い描く写真はなかなか撮れないでしょう。しかし、コツコツと撮りためていき、一定のボリュームまで積み上げていけば、自分なりの満足感が得られるでしょう。
 そして、もう一つの楽しみは他人に見てもらう、評価してもらうこと。展覧会やコンテストに出すことは、何かを人に伝えることにつながります。他人に見せることを意識して撮ることは、上達の近道にもなります。

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