特集
言葉では伝わりづらいことも、写真なら
伝えることができる。それが写真の力です。

■自分の原点を再び見直し、
次の一歩をより高いところへ届くようにしたいのです。
●先生は中学生の頃から沖縄を撮り続け、これまで様々なかたちで沖縄の作品を発表し続けていらっしゃいます。また、5年前には「楽園の原点沖縄」という写真集も出版されていますが、先生のライフテーマでもある「楽園」を一番最初にイメージされたのが、沖縄だったのですか?

  そうです。そのときには気づいていなかったのですが、後から考えてみると、中学生だった当時の沖縄の旅行から、私の「楽園」探しがはじまっていたのだと思います。

 私の実家は私が小さい頃にバナナ屋を経営していましたから、私はバナナに囲まれて育ちました。それでいつの間にか南の島に憧れを抱くようになったのです。中学2年の時に、復帰した直後の沖縄へ一人で旅行に行ったのですが、そこで出会ったカメラマンから「カメラマンになったら世界中旅行ができる」と言われて、ちょうど写真をはじめたばかりの私は、カメラマンに憧れるようにもなりました。ですから私が写真家という職業につくきっかけになったのも沖縄だったのです。
ヘゴシダの新緑に桜のピンク色が補色になって美しい。絞りでボケ味を調整しながら撮った。■カメラ:ペンタックス645N レンズ:300mm 絞り:f9.5AE+2/3補正 フィルム:フジクロームベルビア 撮影地:沖縄県本島本部町  〈撮影〉三好和義氏
レンズを開放にしたままで撮った。淡い花の色と調子がその時の気持ちにピタリと合った。日本画のような上品な雰囲気を出したかったので、バックは落ちついた土壁の色を選んだ。
■カメラ:ペンタックス645N レンズ:80-160mm ZOOM 絞り:f4.5AE フィルム:フジクロームプロビア100F 1段増感 撮影地:高知県29番札所国分寺  〈撮影〉三好和義氏
 
 
 
ヘゴシダの新芽が動物のシッポのように思えて、質感を出した。
■カメラ:ペンタックス645N レンズ:300mm 絞り:f9.5
AE+1補正 フィルム:フジクロームベルビア 撮影地:沖縄県本島本部町
●いま、再び「ニライカナイ」として沖縄を取り上げる理由を教えてください。

  写真だけではなく、すべての芸術活動というのは過去を振り返って新たな一歩を踏み出す、その繰り返しです。
 今年の5月には「ニライカナイ」の写真集を出版して、7月25日に東京の新宿・伊勢丹で大きな「ニライカナイ」の写真展を開く予定ですが、今回の沖縄をテーマとした一連の活動は、私の原点を再び見直す、私の振り子運動の一つです。次の新しい一歩が、さらに高いところへ届くように、再び原点を見つめ直してみたいのです。
 そうした意味もあって、「ニライカナイ」の写真集には、私が中学生だった当時に撮ったモノクロの沖縄の写真も載せる予定です。現在の私の写真と、中学生の頃の、はじめて写真を撮りはじめた当時の私の写真とを比較できるようにしたいのです。
樹齢が何百年にもなる大きな木。ヤシの木陰から見上げて撮った。
■カメラ:カメラ:ペンタックス645N レンズ:45-85mm 絞り:f19AE フィルム:フジクロームベルビア 撮影地:沖縄県大宜味村押川
 
 
 
●先生にとって沖縄を撮るということは、自分の原点を確かめる意味があるのですね。

 それだけではありません。沖縄には地元の人でさえ知らないような文化や歴史があるのです。そういうものを写真を通して探ってゆき、それを発表することで、皆さんにも知ってもらいたい。これは写真だからこそできることだと思うのです。文章では伝わりづらい情報が、写真なら見れば誰にでもすぐに伝わります。それが写真の力だと思うのです。

 では、ただ写真を撮れば伝わるのかというと、そうではありません。質の高い写真でなければ伝わらないのです。質というのはテクニックだけではありません。撮影者の気持ちの質も高めなければならない。技術と気持ちを高めて撮らないと、写真でもなかなか伝わらないのです。
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