特集

■最初は自然風景写真というのは、
私には縁遠い写真のように思っていました。
●先生は写真を撮り、文章も書いていらっしゃいます。また写真による映像短編集や短歌と写真の融合の試みにも、積極的に参加されていらっしゃいます。一方では取材されて、いわゆるルポルタージュも多く出版されています。非常に多彩な活動を展開されているように思うのですが、先生が写真に興味を持たれた、そもそものきっかけからお話しいただけますでしょうか。

 私は長崎出身なのですが、長崎では定時制高校に通いながら、昼間は新聞社で働いていたんです。記者が撮ってきたフィルムを現像してプリントしたりしていました。そのうちに支局長が私に写真を撮ってみないかと言ってくれまして、撮ってみると、これが結構使える写真だったんですね。それから仕事で写真を撮るようになったんです。そのうち原稿も書くようになりまして、それが運の尽き(?)となって今まで写真を撮り、文章を書き続けているわけです。

 定時制高校を卒業してから東京に出てきました。私は民俗学が好きなのですが、民俗学はお年寄りに会ってお話しを聞き、それを書き、写真も撮らなければならない。私は写真も書くことも、人と会って話を聞くことも好きでしたので、民俗学は自分に最適だと思っていましたし、自分にはそれができるという自負もありました。大学は通信制を選びましたが、実際はアルバイトばかりしてました(笑)。

 東京では新宿をテーマに写真を撮ってましたね。西新宿のプットというギャラリーを根城にして小難しい写真を撮っていました(笑)。仲間と一緒に、朝まで写真について話し合ったり、ほとんど不良でしたね(笑)。その当時は自然風景のような美しい写真は、自分にはもっとも縁遠い世界のように思っていましたよ。
対馬海峡の澄んだ空気をフィルムに定着させるために、海面いっぱいの光を取り込んだ。定置網を仕掛ける人のシルエットの形に気配りした。
■カメラ:ニコンF3 レンズ:ニッコール200mm 絞り:f16 シャッタースピード:1/250 フィルム:コダクローム64 撮影地:長崎県対馬海峡
早朝、湿原に鹿を発見した。かれらが、こちらの望む姿になるまで、待った。朝の、すがすがしい空気が写りこむよう、ややオーバー目の露出を選んだ。
■カメラ:ニコンF3 レンズ:ニッコール200mm 絞り:f5.6 シャッタースピード:1/60 フィルム:フジベルビア 撮影地:栃木県奥日光
 
 
■自然に対する怖れが日本人固有の自然観のように、
私には思えます。
●自然風景とは縁遠い写真を撮っていたというお話しなのですが、そうした先生が自然写真にも目を向けるようになったのは、どういう理由からですか?

 直接の理由としては、奥日光に移り住んだのがきっかけでした。
 私は一時、精神的にまいっていた時期がありまして、どこでもいいから女房と二人で都会から離れたところに行きたかった。どこでもよかったのですが、たまたま何となく日光に寄ったときに、いいところなので、ここで暮らせないものかと地元の方に相談してみたんです。すると国立公園内なので住むことはできないが、旅館やホテルの従業員になれば暮らすことができると教えてくれたのです。旅館やホテルの中には家族寮や社員寮のあるところがあるらしい。私はすぐに老舗の旅館に連絡しました。すると雇っていただけるという。それで二人で車に積み込めるだけの荷物を積んで、奥日光へ行きました。結局5年の間、日光に住んでいましたね。
大雨が降った後、ちいさな湿原が水没した。早朝、太陽が出るのを待ってみた。予想通り、ドラマチックな風景が現れた。
■カメラ:ニコンF3 レンズ:ニッコール105mm 
絞り:f8 シャッタースピード:1/60 フィルム:コダクローム64 撮影地:栃木県奥日光小田代原
 
 
 移住した当初は、別に写真を撮ろうとは思っていなかったのですが、旅館というのは昼間は暇なもので、空いた時間に森を歩くようになったのです。森には昼間でも葉や樹が作り出す深い影があり、森独特の気配がある。私は誰もいない森を歩いていて、そうした森の気配にふっと怖さを感じたんです。これは何だろう、なぜ自分は森に怖さを感じるのだろう、私はそのことを考えるようになりました。それで、この森独特の気配を写真にできないだろうかと思ったんです。それから奥日光の写真を毎日撮りはじめました。それが私が自然風景の写真を撮りだした最初です。

 そうして撮りためた奥日光の四季の写真をニコンサロンに持ち込みまして、写真展を開いたのです。そうしたら、あるレンタルカラーの会社が私の写真を預かりたいと言ってきました。それで400点ほどあった写真を預けたのですが、その私の写真を使ったカレンダーの企画が立て続けに3つも決まったんです。それで思いがけない大金をいただきまして、いきなりそんな大金をいただいたんでびっくりしましたよ(笑)。これはいかん、写真は金になりすぎると思いましたね(笑)。
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