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■私には屋久島の森の風景が、美術品に見えるのです。
●先生が屋久島の森を撮り続けていらっしゃることは以前よりおうかがいしていたのですが、いよいよその作品集を発表されるそうですが。

 屋久島は'91年から撮っていますので、もう10年近く撮り続けています。今年は世界遺産会議が屋久島で開催されるのですが、それに合わせて撮りためた作品をまとめて、写真集を出版することになりました。

●先生は以前から「楽園」というテーマを追求されていますが、屋久島の場合、どのようなところに「楽園」を感じられたのですか?

 屋久島の景色というのは、カメラのレンズを向けて構図で切り取ってみると、美術品のように見えてくるんです。まるで屏風絵のように見えたり、京都の庭のように見えてきます。そうした美しい風景に囲まれていると、私にはここが「楽園」のように思えてくるのです。

●景色がですか?

 そうです。屋久島の風景が、まるで屏風絵のように見えたり、京都の庭のように見えてきます。むろん、これは屋久島に限らず、他の場所でも体験できることなのですが、屋久島の場合は人の手が加わっていない、自然のままの原生林なので、特にそのように見えてきます。私たちの身近にも、昔はたくさんの原生林があったのです。もともと庭園美術というのは身近にあった原生林を再現したものですから。ところが今は、屋久島など深い森に行かなければ出会えない風景になってしまいました。

●屋久島の景色が美術品のように見えてくるのは、なぜなのですか?

 あの場所が自然のままの原生林だからなのかもしれません。まったく人の手が加わっていない、ありのままの自然の姿というのは、それ自体が非常に完成され、美しいものですから。
 もちろん屋久島の森がすべて原生林だということではありませんが、深い森の、特に世界遺産になっているような場所には原生林が残っています。屋久島では樹齢が千年以上の杉を「屋久杉」と言い、それ以外を「小杉」と言って区別していますが、千年以上にもなる屋久杉がたくさん残っています。そのような場所は世界でもここでしか見られないものです。杉の木の上にツツジが生えていたり、シャクナゲが咲いていたりと、その植生も珍しく、魅力的なんです。

 私は屋久島の森の中で長いこと撮影していると、仙人にでもなったような気持ちになってしまいます。自分が精神的に高まり、景色が私にとって違った価値を持ったものになってくる。それが面白いのです。
 私たちの身近にも、昔はたくさんの原生林があったはずなのですが、いつの間にかほとんどなくなってしまいました。それだけに、屋久島の美しさがいっそう貴重で素晴らしいものに思えてきます。
龍のようにうねる迫力のある桜。こちらも負けないように、 気持ちを高めて正面から望遠レンズで切りとった。
■カメラ:リンホフマスターテヒニカ4×5 レンズ:400mm 絞り:f22 1/2 シャッタースピード:1秒 フィルム:ベルビア 撮影地:岐阜県宮村の臥龍桜
まさに庭園のような風景が広がる。盆栽のような樹だが、千年を越えている。
■カメラ:リンホフマスターテヒニカ4×5 レンズ:150mm 絞り:f32 シャッタースピード:4秒 フィルム:ベルビア 撮影地:鹿児島県屋久島小花之江河の高層湿原
頭上にはツバキの大きな樹があった。長時間露光で流れる水が雲のように写った。
■カメラ:リンホフマスターテヒニカ4×5 レンズ:210mm 絞り:f32 シャッタースピード:30秒 フィルム:ベルビア 撮影地:鹿児島県屋久島宮之浦上流の散椿
小さなシダに生命感を見た。バックの調子も出るように、陽が雲に隠れた一瞬を狙ってシャッターを切った。
■カメラ:リンホフマスターテヒニカ4×5 レンズ:300mm 絞り:f32 シャッタースピード:8秒 フィルム:ベルビア 撮影地:鹿児島県屋久島白谷雲水峡
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