路上観察紀行

 藤森照信氏は西洋建築の変遷から、時代や文化の推移を引き出す建築史家として高名ですが、その一方、氏の路上観察の前身とも言える「建築探偵」シリーズのように、建築の専門的な知識を持たない一般の方々でも、楽しく読むことができる、コラムやエッセイも執筆されるなど、多方面にわたって活躍されています。

 建築家としても、壁にタンポポを生やした「タンポポハウス」や、屋根一面に1000株ものニラを植えた「ニラハウス」、チョンマゲのように松を屋根のてっぺんに生やした「一本松ハウス」など、斬新でユニークな発想の作品を発表、話題を集めました。中でも「ニラハウス」では日本芸術大賞を受賞されています。また、建築史の研究では、日本都市計画学会賞や市政調査会藤田賞などを受賞されています。このように、建築の設計と研究の両面で活躍されているユニークな方です。「路上観察学会」には発足当初から参加されている氏に、その常識にとらわれない創造力がいつから芽生えたものなのかをうかがいました。

 子どもの頃から古いものや変なものが好きでした。小学生の頃だったと思いますが、古本屋で江戸時代の本を買ってきて、汚かったので母親に嫌がられたことがあります。鉄でできた何かの部品なんかも好きでしたね。たとえば自転車の部品などが道端に落ちていると、よく拾ってきました(笑)。家内の話では、結婚した当初は机の中に、そうした変なものが入っていたらしいんですね。ですから、大学生になってからも拾っていたようです(笑)。

 建築に興味を持ったのも子供の頃からです。今でもはっきりと覚えているのは小学2年生の頃、父親が実家を建て替えたときのことです。親戚の大工さんが家に泊まり込んで立て替えてくれたんですが、その大工さんは親戚なので、平気で私を手伝わせるんです。そのおかげで家を壊して再び建てるまで、製材の段階から壁塗りまで、全部の行程を見ることができました。その印象が強烈に残ってます。建築を意識的に見るようになったのはそれからだったと思います。
雨に濡れたブロックの二つだけが白い。一つだったら撮らなかったかもしれないし、二つが左右に並んでいたのでは、やはり面白くない。白色にはなぜか正方形がよく似合う。(深川)
下野煉瓦製造所。日本の西洋館に使用された煉瓦の大半はこの製造所で作られたのだが、今では立派なトマソン(無用の長物)だ。(野木)
古くて見事な土蔵造りの民家。私は古い民家や町屋に興味があるので、こうした写真をよく撮る。(古河)
 こうして藤森氏は建築に強い興味をいだき、やがて建築史に進んでいきます。そして東京大学大学院博士課程在学中に『明治の西洋館』という本を出版してデビューすることになりました。この時に、日本の近代建築史は明治初期以降が明らかにされていないことを知り、「東京建築探偵団」を結成、失われた建築史の解明に乗り出します。「当初は東京の街をブラブラ歩きするだけ」という「路上観察学会」発足メンバーの面目躍如たる出発だったようです。この活動はその後に『日本建築総覧―各地に遺る明治大正昭和の建物』として結実することになるのですが、その一方で、『建築探偵の冒険 東京篇』を出版するきっかけにもなりました。
鹿沼で見つけた不思議な石碑。上には日と月があり、その下で二匹の猿が変な格好をしている。どのような信仰なのだろう。(鹿沼)
 
 
 
 
 
 
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