日本の自然風景を大判カメラで撮り続けることが生涯のテーマ。
――お勤めになっている間に日本全国を周られたのですか?また、すべて絵葉書用の撮影だったのですか?


 北海道地区担当でしたが全国各地に行くことができたので、それぞれの自然風景の撮影ポイントを見てまわりました。4年間は非常に忙しかったのですが、とても楽しかったです。
 そして今でも、風景写真の一番の基本は絵葉書のように撮ることだと思っています。オーソドックスな場所でオーソドックスなレンズを使い、実物よりもきれいに撮る。
 そして、誰が見ても“きれいな写真”
“ここへ行ってみたい”と思うような写真こそが、私が追い続けている写真です。

――日本全国を撮影してこられた先生がお感じなる日本の自然風景の魅力とはどのようなことでしょうか?

 よく言われることですが、日本は四季の変化があり、一つひとつの要素が繊細で色彩も多彩です。海外と比べてみても比較にならない魅力があります。
 また、自然風景は刻々と変化し、天候などにより一日違うだけで、まったく異なる表情を見せてくれます。ですから40年以上風景写真を撮り続けて全国各地をまわっていますが、その魅力が尽きることはありません。有名観光スポットはもちろんですが、思わぬところでいい撮影スポットと出会えることも楽しみの一つです。


【夕暮れの海苔ひび】複雑に入り組んだ海岸線と大小の島々が浮かぶ英虞湾。穏やかな入り江には真珠の養殖筏が浮かび、海苔ひびが張り巡らされている。夕日の撮影後、一段と赤みを増した夕焼け空が海面に写り、海苔ひびがシルエットに浮かび上がっていた。
■カメラ:リンホフマスターテヒニカ レンズ:ニッコール300mm 絞り:f22 シャッタースピード:4秒 フィルム:フジクロームベルビア 三脚使用 撮影地:三重県志摩市阿児町

 

【流氷と朝陽】海明けを間近にした3月中旬のオホーツク海。長い間、浜に留まっていた流氷が動き始めた。来たときの白い氷塊とは違い、砂まみれになって汚れている。形も平板だったのが、ぶつかり合い重なり合いして氷山のような形になって帰っていく。
■カメラ:アサヒペンタックス67・ レンズ:SMCペンタックス67 105mm  絞り:f11 シャッタースピード:オート フィルム:フジクロームベルビア  三脚使用 撮影地:北海道網走市 撮影地:北海道網走市

 

――大判サイズへの思いやこだわりについてお聞かせください。

【雪と氷のパターン】冬には全面凍結をする阿寒湖だが、湖の南部に位置するボッケでは湖畔から温泉が湧いているので凍ることがない。足跡を付けないように氷上を遠回りしてボッケに近づくと、凍った湖面にワタスゲの花のような愛らしい結晶が一面に散りばめられていた。
■カメラ:アサヒペンタックス67・ レンズ:SMCペンタックス67 マクロ135mm 絞り:f22 シャッタースピード:オート フィルム:フジクロームベルビア PLフィルター 三脚使用 撮影地:北海道釧路市阿寒町

 4×5カメラ独特の黒い冠布を被って四隅のピントを確認し、じっくり撮る。そのため、初めて訪れたところでは、まずロケハンに時間をかけます。やはり勤め始めた時のことが染みついているようで、今でも“一枚必撮”の気持ちで臨んでいます。
 ですから、最近のアマチュアの方で特にデジタルカメラを使われている方に多く見受けられますが、やたらとシャッターを切って、すぐにモニターで確認をしています。どのように撮れたかを確認し、自分が気に入ったものだけを残すことは悪いことではないと思いますが、少し撮影に対して安易になっているような気がします。
 それに比べると大判サイズのカメラをはじめフィルムカメラの場合は、撮った時に失敗してしまうと、後ではどうにもなりませんので、すごく緊張してシャッターを切ります。自然風景は変化していますので、撮った画像をすぐにモニターで見て撮り直そうとしても、本当にいい一瞬は二度とないので間に合いません。1回のシャッターチャンスに気持ちを集中させることが大事だと思います。その意味からも事前のロケハンなど撮影前の準備が大切になります。
 現在は全てブローニーサイズ以上で撮影しています。やはり写真を撮ったという満足感を得ることができます。また、シャッターを切るまでのいくつかの行程もあり、緊張して撮ることが大判カメラならではの魅力だと思います。実を言いますと、ちゃんと写っているか今でも現像所からフィルムが上がってくるまで心配になります。

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