【花の饗宴】東京都内のソメイヨシノが、日本では一番早く咲いてくれる。都心のビル熱などが、開花に影響しているのであろう。これは、代々木公園のソメイヨシノ。菜の花とのコントラストが美しい。
■カメラ:ペンタックス645 レンズ:SMC ペンタックス645 150-300mm F5.6 絞り:f22 AE +2/3補正 フィルム:RVP100 PLフィルター 三脚使用 撮影地:東京都代々木公園

――昔から日本人と桜は、密接な関係にあったのですね?


 桜にまつわる言葉も数多くあるように、古くから日本人は桜への思いを抱き続けてきました。そのようなことは誰彼に教えられることではなく、日本列島ならではの細やかな自然環境の中で育っていることで、感じ取れるようになるのです。外国にも桜(チェリー)はありますが、このように感情移入するようなことはありません。だから我々の桜に対する感情は、おそらく日本の風土と密接に結びついているのだと思います。
 桜がパッと現れて、パッと花散るのは刺激的なことです。それは時の節目だと思います。新年度を4月としたのも、そのような根拠があるのかも知れません。
 花が咲くことで時が始まり、散ることで再び動き始める。そういうポイントに位置づけられるのではないかと思います。
 ただし全国一斉ではなく、それぞれの地域で、桜は程よい時に咲きます。北海道の桜は5月中旬から下旬に、気候が暖かくなったところで咲いてくれます。また、東北の桜は4月の中旬から5月の上旬にかけて咲きます。その土地に本当の春を告げるメッセンジャーとして桜が存在しているのです。


【新緑と残雪】北国の春は残雪の中にやって来る。新緑の緑との美しいコントラスト。
■カメラ:ミノルタα-9 レンズ:ハイスピードAFアポテレ300mm F2.8G Sモード シャッタースピード:1/125秒 AE +2/3補正 フィルム:RVP100 PLフィルター 三脚使用 撮影地:北海道大雪山山腹

――毎年桜の撮影に出かけられていますが、最初に撮る桜の選定はどのようにされるのですか?

【若葉】芽吹いたばかりの、初々しさが感じられる若葉のクロ−ズアップである。
■カメラ:キヤノンEOS-1N レンズ:EF180mm F3.5 シャッタースピード:1/60秒 AE フィルム:RVP100 PLフィルター 三脚使用 撮影地:山形県大江町
 意外に思われるかもしれませんが、毎年私が最初に撮るのは東京の桜なんです。江戸時代からの伝統があり、都内にはいい桜がたくさんあります。また現在の東京はヒートアイランド現象のため、都心部の桜は他の地域にくらべ、早く満開になります。
 都内では新宿御苑、小石川植物園、それと代々木公園で撮影します。ここで撮る理由は、お花見のゴミがないことと、酔って騒ぐ人がいないことです。私の写真には一切人物を入れません。桜そのものしか撮りません。
 ですから朝の開門と同時に行って撮影して、すぐに引き上げます。東京の桜を撮ってから九州や四国へ出かけます。それで十分間に合います。 
 今年はさらに紀州・和歌山の熊野古道に沿った地域の桜を撮ろうと思っています。

自分で季節感を感じながら写真を撮ることは、とても素晴らしいことです。

――今回から春のフォトコンテストの審査をお願いしますが、応募される方にアドバイスをいただけますか?


 桜の写真には私自身が、かなりのこだわりを持っていますので、厳しく見させていただきます。
 もちろん春の雰囲気をとらえることが最も大事です。「春イコール花」だと考えてはいけません。以前にもお話ししましたが、歳時記をひも解いてみると、春の素材はそこかしこにいっぱい転がっていることがわかります。派手な桜ばかりに気をとられないでください。光の力や水の風景も春の表情になります。アマチュアを含めた写真家にとって、写真を撮っていくことが自分の季節感の認識になります。
 自分で季節感を感じながら写真を撮ることは、とても素晴らしいことです。それがいい写真を産み出すことにつながります。ただし有名な素晴らしい桜を撮っただけでは、いい写真にはなりません。
 富士山などでも同じですが、人はどうしても既存のイメージで桜を見てしまう。そうすると、どこかで見たような写真になってしまうのです。
 そうではなく、自分にとっての桜、自分のための桜、その魅力を写真によって引き出して、他の人に見せるという発想になればいいと思います。
 日本列島に桜は無数にあります。それぞれの桜が春を謳って、春に輝いていろいろなメッセージを放ってくれています。自分の感覚が春の風景に刺激されて、自分の気持ちでその魅力を引き出すことが大事です。
 桜は写真に撮られる時だけが輝いている訳ではなく、一年間そのための準備をしている。自分の視点で桜を見つめたら、桜が何かを答えてくれて、いい写真になるのではないでしょうか。


【スイセン咲く】春の越前海岸はスイセンの花が乱舞して、寒気厳しかった冬の冷気を忘れさせてくれる。
■カメラ:キヤノンEOS-1 レンズ:EF17-35mm F2.8L シャッタースピード:1/30秒 AE フィルム:RVP100 PLフィルター 三脚使用 撮影地:福井県越前海岸

列島縦断!
竹内敏信の『櫻』前線。
写真集「一本櫻百本」
H296×W305mm 上製本
136ページ
定価 8,400円(税込)
出版社:株式会社出版芸術社

竹内敏信写真展「一本櫻」
■期間 2006年3月24日(金)〜3月30日(木)
■会場 新宿パークタワー(東京都新宿区西新宿3-7-1)
■料金 無料
小学館アーカイヴス 名作写真館 3巻
竹内敏信「桜と日本列島」
A4変型 36ページ
創刊記念特別定価 500円(税込)
出版社:株式会社小学館
※5巻以降は、通常価格580円(税込)になります。
 当サイトに掲載されている写真・テキスト等を無断で複製・転載することを禁じます。